【R18/完結】嘘つきビビアンとあべこべ薬〜好きが嫌いで、嫌いが好きで〜

6.ザックの気持ち

「行くあての無い俺を置いてくれて、ご飯も仕事も世話してもらって、ビビんちには感謝してる」

　ザカリーの家は医者の家系で、ザカリーの二人の兄も医者になって親の手伝いをしている。
　ザカリーは小さな頃から本を読むのが好きで、文章を書くのが好きで、それをいつもビビアンに一番に読ませてくれて。
　ビビアンは読んだ本のことを楽しそうに話す姿や、真剣な顔をして素敵なお話を書く姿を見ているうちに気づくとザカリーの事が好きになっていた。
　ザカリーの親とは進学する際に医者にならず作家になると啖呵を切って喧嘩になり、絶縁を言い渡されている。
　そんな事情を知って、ザカリーの才能に惚れ込んでいたビビアンが親に頼んで印刷工場の二階に居候させた。
　ビビアンがザカリーの新作が出るたびにこっそりザカリーの母親に渡し、そのたびにザカリーの様子を教えているのはザカリーには内緒だ。

「でもそれはザックの書くお話が素敵だから……」

　ザカリーは灰色の頭をガシガシ掻いてから顔を上げてビビアンの目を見つめた。

「ビビはさ。俺のこと嫌いなんじゃなかったの？」

「！！　えっと、アレは、恥ずかしくて……」

（えーっと『好き』が『嫌い』で『嫌い』が『好き』になるんだから……）

「ザ、ザックの事が『す、好き』」

　ザックはもう一度ガシガシと灰色の頭を掻くと、下を向いて小さな声でつぶやいた。

「俺も本当は昔からビビの事が……」

「ザック……」

　ビビアンの呼びかけにザカリーが顔を上げると、ぶ厚いメガネの向こうの目の端が赤く染まっている。
　しばらくそのまま二人が見つめ合っていると、ゆっくりとザカリーの顔が近づいてきた。

「え……」

　ビビアンはギュッと目をつぶった。
　ビビアンの唇にザカリーの唇がゆっくりと重なった。
　それから触れ合った時と同じようにゆっくりと唇が離れていった。

　ビビアンは顔を真っ赤にしてプルプルと小さく震えた。

「ビビ、可愛い……」

　思わずと言った風にザカリーの言葉がこぼれ落ちた。
　可愛いなんて言われたのは初めてで、ビビアンはさらに顔を赤くさせて下を向いた。
　ザカリーはビビアンを優しく包み込むと、ふ、と笑った。

「こんな、嘘みたいだ……」

　ザカリーの嬉しそうな声を聞いて、ビビアンは『あべこべ薬』のことを話す事ができなくなってしまった。