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7.大人のキス

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 それからのザカリーは今までとは違い、ひどく甘かった。
 ビビアンが差し入れを持って行くと、早々に差し入れを食べ終えたザカリーはベッドの上で原稿を読んでいるビビアンの隣に座ってじっとビビアンを見つめる。

「どうだった?」

 読み終わったビビアンを見つめるその目が甘くて、その声色が優しくて、ビビアンはいつもポーッと見惚れてしまう。

「ザック」

「うん」

 ビビアンがザカリーの服の裾をチョンとつまむと、それを合図にしてザカリーは触れ合うだけのキスをくれた。
 二人はそうやつて少しずつ幼い恋を進めて行った。

 しばらくそんな日を過ごしていると、ある時ザカリーがくれた原稿がいつもと少し違っていた。

「……これ」

 お話の中の二人は深い口づけをしていた。

「今回は、ちょっと、あの、いつもより大人っぽいね」

「たまには良いかなと思って」

 ビビアンが恥ずかしくて言葉を詰まらせているのにザカリーは平然としていて、ビビアンは一気に不安になった。

「……ザックは誰かとしたことあるの?」

「イヤ! 無い! 無いよ!! あるわけないだろ!!」

 ビビアンが上目遣いでザカリーの様子を伺うと、ザカリーは焦ったようにガシガシと頭を掻いてぷいと横を向いた。

「そっか……」

 ビビアンは安心してホッと息を吐いて微笑んだ。
 隣に座っているザカリーがベッドの上に置かれたビビアンの手に指を絡めると、指の先で手の甲をくすぐった。

「……してみる?」

「う、うん……」

 顔を赤くして下を向いたビビアンのアゴに手を当ててゆっくりと持ち上げた。
 チュとついばむようなキスを2~3度くり返してから、ザカリーが囁いた。

「ビビ、口を開けて……」

 おそるおそる口を開けると、ザカリーの舌が入ってきた。
 歯列を舐められ全身にゾワゾワと震えが走る。
 歯の隙間からザカリーの舌がさらに奥へと進んでくるので、ビビアンは口を開けてそれを受け入れた。
 ザカリーの舌がビビアンの舌を見つけて、ぐるりと絡めとるように動く。
 ビビアンが身体を支えていられなくなってザカリーのシャツをキュッと掴むと、肩を抱き込むようにしてグイと抱きしめられた。
 そのままザカリーに身体を預け、口内を動き回る舌に必死に応えていると、ふわりとザカリーの手がビビアンの胸の上に置かれた。

「……!!」

 ビビアンは驚いて、思わずザカリーの身体をつき飛ばしてしまった。
 ビビアンとザカリーは驚いた顔をして互いに見つめ合った。

「ごめん」

 目を逸らして気まずそうな顔をするザカリーに、ビビアンは焦って言い訳をする。

「えっと、あの、ちょっと、びっくりしちゃって」

 ビビアンは精一杯の勇気を出した。

「い……嫌じゃないよ……」

 ビビアンは真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら、ほんの小さな声でつぶやいた。

「うん」

 ビビアンが両手の隙間から盗み見ると、不機嫌そうに横を向いたザカリーの耳も真っ赤になっていた。
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