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8.本当と嘘
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あれからビビアンは何度もザカリーとの大人のキスを思い出しては一人赤面していた。
(次の時はもう少し進めるのかな……。あれってやっぱりそういうことだよね!? ザックは私とそういうことしたいって思ってくれてるんだよね!?)
ザカリーの所に向かう途中で立ち止まり、頬を赤らめてニマニマと笑いを浮かべながら、ビビアンはそっと自分の唇に触れた。
「おい、なんだ、ビビアン。お前なんだか色っぽくなったな」
すると道の向こうから大地主の息子パトリックが、ご自慢の金髪をファサとなびかせながら近づいてきた。
ビビアンは内心、げ、と思いながらも何でもない顔をする。
「そうかしら?」
パトリックはビビアンのすぐそばに立ち止まると、ふーん、とビビアンを上から下まで舐めるように見ながらニヤリと笑った。
「なぁ、お前はお子ちゃまなところが俺の好みとは違ったが、なんだか良い感じじゃないか」
パトリックがビビアンの腕を掴んだ。
「おい、何してるんだよ」
ビビアンとパトリックの声が聞こえたのか、外まで出てきたザカリーがパトリックに声をかけた。
「お前には関係ないだろ、ザカリー」
パトリックがザカリーをチラリと一瞥すると、ビビアンの腕をグイと引いて胸に抱き込んだ。
ザカリーではない温もりに、ビビアンは嫌悪感でゾワゾワと鳥肌が立った。
ビビアンはパトリックの胸を押して身体を離そうとした。
「嫌! やめて! あんたのことなんて『大好き』よ!」
ビビアンを助けようと近づいて来ていたザカリーがピタリと動きを止めた。
「ビビ……?」
「違う! 違う! 私が『嫌い』なのはザックで……」
「はぁ!?」
ザカリーが間抜けな声を上げる。
(えっと、えっと、『好き』が『嫌い』で『嫌い』が『好き』だから……)
「私が嫌いなのはザックで、パトリックは大好きだから!」
自分の口から出た言葉に驚き、ビビアンは青褪めながら両手で口を塞いだ。
ビビアンに向けて伸ばしていた手をザカリーがゆっくり下ろした。
(なんで!? 薬の効果が切れた……!?)
よりにもよってなんでこのタイミングで、とビビアンが混乱しているとパトリックがねっとりとした笑顔を浮かべてビビアンの肩を抱いた。
「そんなに熱烈に告白されちゃ仕方ないな。俺の三番目の彼女にしてやるよ」
「やだ! やめて!!」
「照れるなよ、ビビアン」
パトリックはグイとさらに抱きついて腰を押しつけてくる。
「今日は外せない予定があるから、明日の夜、お前と遊んでやるよ」
パトリックはぶちゅとビビアンの頬にキスをして、涎をべっとりと付けた。
それじゃあ明日な、とパトリックは帰っていき、ビビアンは急いで頬をゴシゴシと拭いた。
「ビビ……。どういう事?」
青褪めた顔をしたザカリーがビビアンを見つめる。
「その態度……。ビビはあいつを、パトリックを好きには見えないけど」
「あの……シャナの薬を飲んで……『あべこべ薬』って言って……」
ビビアンはしどろもどろになりながらも、ザカリーに『あべこべ薬』のことを説明した。
黙って聞いていたザカリーはどんどん眉間の皺を深くしていった。
「……つまり俺に好きって言ってたのは、本当は嫌いって言いたかったわけか」
ザカリーは顔を背けると吐き捨てるように言った。
ビビアンは両手をギュッと握って、勢いよく首を横に振った。
「違う」
「それも嘘?」
ザカリーが暗い目をしてビビアンを睨みつける。
「……違う」
「それも薬のせいなんじゃないの?」
「違う! 違う!!」
「ビビの言うことはもう何も信じられない」
ザカリーは静かにそれだけ告げると、ビビアンに背を向けた。
ザカリーは二、三歩歩いて立ち止まった。
「……俺の話を好きって言ってたのも嘘?」
ビビアンは違う、違うと口の中でくり返しつぶやくが、ザカリーはそのままふり返ることなく行ってしまった。
ビビアンは涙を流しながらその場で立ちすくんだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ビビアンの謝罪の言葉はザカリーには届かなかった。
(次の時はもう少し進めるのかな……。あれってやっぱりそういうことだよね!? ザックは私とそういうことしたいって思ってくれてるんだよね!?)
ザカリーの所に向かう途中で立ち止まり、頬を赤らめてニマニマと笑いを浮かべながら、ビビアンはそっと自分の唇に触れた。
「おい、なんだ、ビビアン。お前なんだか色っぽくなったな」
すると道の向こうから大地主の息子パトリックが、ご自慢の金髪をファサとなびかせながら近づいてきた。
ビビアンは内心、げ、と思いながらも何でもない顔をする。
「そうかしら?」
パトリックはビビアンのすぐそばに立ち止まると、ふーん、とビビアンを上から下まで舐めるように見ながらニヤリと笑った。
「なぁ、お前はお子ちゃまなところが俺の好みとは違ったが、なんだか良い感じじゃないか」
パトリックがビビアンの腕を掴んだ。
「おい、何してるんだよ」
ビビアンとパトリックの声が聞こえたのか、外まで出てきたザカリーがパトリックに声をかけた。
「お前には関係ないだろ、ザカリー」
パトリックがザカリーをチラリと一瞥すると、ビビアンの腕をグイと引いて胸に抱き込んだ。
ザカリーではない温もりに、ビビアンは嫌悪感でゾワゾワと鳥肌が立った。
ビビアンはパトリックの胸を押して身体を離そうとした。
「嫌! やめて! あんたのことなんて『大好き』よ!」
ビビアンを助けようと近づいて来ていたザカリーがピタリと動きを止めた。
「ビビ……?」
「違う! 違う! 私が『嫌い』なのはザックで……」
「はぁ!?」
ザカリーが間抜けな声を上げる。
(えっと、えっと、『好き』が『嫌い』で『嫌い』が『好き』だから……)
「私が嫌いなのはザックで、パトリックは大好きだから!」
自分の口から出た言葉に驚き、ビビアンは青褪めながら両手で口を塞いだ。
ビビアンに向けて伸ばしていた手をザカリーがゆっくり下ろした。
(なんで!? 薬の効果が切れた……!?)
よりにもよってなんでこのタイミングで、とビビアンが混乱しているとパトリックがねっとりとした笑顔を浮かべてビビアンの肩を抱いた。
「そんなに熱烈に告白されちゃ仕方ないな。俺の三番目の彼女にしてやるよ」
「やだ! やめて!!」
「照れるなよ、ビビアン」
パトリックはグイとさらに抱きついて腰を押しつけてくる。
「今日は外せない予定があるから、明日の夜、お前と遊んでやるよ」
パトリックはぶちゅとビビアンの頬にキスをして、涎をべっとりと付けた。
それじゃあ明日な、とパトリックは帰っていき、ビビアンは急いで頬をゴシゴシと拭いた。
「ビビ……。どういう事?」
青褪めた顔をしたザカリーがビビアンを見つめる。
「その態度……。ビビはあいつを、パトリックを好きには見えないけど」
「あの……シャナの薬を飲んで……『あべこべ薬』って言って……」
ビビアンはしどろもどろになりながらも、ザカリーに『あべこべ薬』のことを説明した。
黙って聞いていたザカリーはどんどん眉間の皺を深くしていった。
「……つまり俺に好きって言ってたのは、本当は嫌いって言いたかったわけか」
ザカリーは顔を背けると吐き捨てるように言った。
ビビアンは両手をギュッと握って、勢いよく首を横に振った。
「違う」
「それも嘘?」
ザカリーが暗い目をしてビビアンを睨みつける。
「……違う」
「それも薬のせいなんじゃないの?」
「違う! 違う!!」
「ビビの言うことはもう何も信じられない」
ザカリーは静かにそれだけ告げると、ビビアンに背を向けた。
ザカリーは二、三歩歩いて立ち止まった。
「……俺の話を好きって言ってたのも嘘?」
ビビアンは違う、違うと口の中でくり返しつぶやくが、ザカリーはそのままふり返ることなく行ってしまった。
ビビアンは涙を流しながらその場で立ちすくんだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ビビアンの謝罪の言葉はザカリーには届かなかった。
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