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一章 白い光に包まれて

2.白い光に包まれて-2

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 ひっくひっくとしゃくりあげながら真子が泣いていると、赤髪の美女は大きな手のひらで真子の頭を優しく撫でた。

「団長! 危ないですよ」

「そうかしら? それよりマリーベル、周辺に異常がないか調べてきてくれる?」

「……わかりました」

 マリーベルと呼ばれた茶髪の美女が、茶色の馬と共にその場から離れていった。

 二十歳にもなってこんな小さな子どもみたいに大きな声をあげて泣くのは恥ずかしいと思うのに、空から落ちた恐怖や何が起きているかわからない不安などがごちゃまぜになってなかなか泣き止むことができなかった。

 赤髪の美女はそのまま真子の涙が止まるまでゆっくりと頭を撫で続けてくれた。
 それは大きくてとてもあたたかい手をしていた。

 手のひらの温かさに少しずつ真子が心を落ち着けた頃、マリーベルの馬が戻ってきた。

「周辺に異常は無さそうです。でもアイツに逃げられちゃいましたね」

「そうね」

 真子がようやく泣き止んで顔を上げた。
 赤髪の美女は真子の顔を覗き込みながら、少し眉を下げて困った顔をした。

「悪いけど、少しだけ調べさせてもらうわね。カイラ、お願い」

「はぁい」

 カイラと呼ばれた黒髪の美女が馬から降りて真子の前に立った。
 カイラは艶々の真っ直ぐな黒髪を耳の下で切りそろえており、その鋭い赤い目で真子を見下ろした。
 真子は恐ろしくてブルリと身体を震わせた。
 カイラは真子の方に手を差し出すと、その上に向けた手のひらから黒い光の玉を出した。
 黒い光の玉からはゆらりと黒い煙が噴き出してきて、真子の身体を取り囲むように巻きついた。

「ヒッ!」

 真子が怯んで身体を強張らせると、赤髪の美女が真子の背中に手を置いてポンポンとなだめてくれた。

「大丈夫よ、怖いことはしないから。ちょっと質問に答えて欲しいだけ」

 カイラはそんな二人の様子を見下ろしながら、ふんと鼻を鳴らした。

「じゃあ始めるわよ。あなたの名前は?」

「新城……真子」

(え、口が勝手に動いて答えている……!?)

「どこから来たの?」

「東京」

「トウキョウ?」

 カイラと赤髪の美女が顔を見合わせて首を傾げる。

「トウキョウは国?」

「国は日本」

「ニホン?」

 マリーベルと金髪の美女も目を合わせて、首を横に振っている。

「ここで何をしているの?」

「家の階段から落ちて、気づいたらここにいた」

「カイラ、ディアナを知っているか聞いて」

 赤髪の美女が口を挟む。

「ディアナを知っている?」

「知らない」

「どう?」

「嘘はついてないみたいね」

 カイラは赤髪の美女の方を見て肩をすくめた。

 その後もいくつか質問をされた。
 そしてどうやら、真子にも何が起きてどうしてここにいるのかわからない、という事が彼女らにも伝わったようだった。

「これ以上は私ではわからないわね。一度フェリシア様に見てもらった方が良さそう」

 カイラが手を下すと、真子の身体に巻きついていた黒い煙がフッと消えた。

「そうね。じゃあまずは王都に戻りましょう。シルヴィオ、王宮まで伝令を飛ばしてちょうだい」

「わかりました」

 シルヴィオと呼ばれたのは腰まであるサラサラの銀髪の大変美しい人だった。
 美女集団だと思っていたが、シルヴィオは男の人のように見えた。
 シルヴィオが手から銀色の光の玉を出すと、すぐに光の玉から羽が生えて鳥の形になり、銀の鳥はバサバサと二、三度羽ばたいてから空の向こうへと飛んでいった。

(さっきの黒い煙も今の銀の鳥も、これは……魔法?)

 魔法のような不思議な現象に外国のような風景、真子はここがどうやら日本ではないということをうっすらと感じていた。

(あのトラックに轢かれてなるやつ? なんだっけ、異世界転生? あれ、転移? どっちだっけ? 私、階段から落ちた時にやっぱり死んだってこと?)

 真子が地面に手をついてグルグル考えていると、赤髪の美女が真子の手を取って立ち上がらせてギュッと抱きついた。

「え? え?」

「ふふ、黒髪に黒眼って昔ウチで飼っていた猫ちゃんにそっくり~。ナゴナゴ鳴くからナーゴって名前だったのよ。マコとナーゴ、名前までちょっと似ているじゃない!」

 赤髪の美女は真子の頭のてっぺんにグリグリと頬を押しつける。

「もう、カワイイわね~! マコ、今日からあなたはマーコね!」

「え、えぇっ!?」

「団長……」

 動揺する真子を横目に、美女たちは皆あきれたように赤髪の美女を見て肩をすくめるのだった。
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