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二章 ここにいる証

19.やりたいこと-1

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 銀夜祭の夜、真子はテントで泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしく、起きると家のベッドの上だった。
 アレクセイはもうアレクサンドラの姿に戻っていた。

 一度キスをしたからか、それ以来アレクサンドラは隙あらば真子にキスをするようになった。
 唇にはしなかったけれど、額に、鼻に、頬に、耳に、髪に、首筋に、指先に。
 真子はキスされるたびに真っ赤になって抗議をするが、アレクセイは気にせずにキスをしてくる。

「口づけは許可をもらったもの」

 アレクサンドラは歌うように軽やかに笑った。
 真子が本気で嫌がったらきっと止めてくれるのだろうが、アレクサンドラに触れられるのはなんだかくすぐったくて、でもとても心地良かった。
 アレクサンドラに一つキスを落とされるたびに、真子は心の中の空っぽの部分にあたたかいものが少しずつ注がれるような気がした。

 銀夜祭の夜に色々と話したせいか気持ちもなんだか前向きになって、真子はとりあえず目の前のことを全力でやってみることに決めた。
 夜に家で食事を取っている時に、真子は思い切って聞いてみる。

「ねぇ、私もご飯を作ったりできないかな?」

「できないことはないと思うけど、急にどうしたの?」

 家での食事はマルタが作って差し入れしてくれる時もあるが、その日は時間に余裕があったのでアレクサンドラが作っていた。

「だって、私にかかるお金って全部アレクサンドラさんが出しているんだよね?」

「まぁ、そうねぇ」

 ミラーシアに来てから今まで真子は周りに流されるままに過ごしてきた。
 与えられる物を当たり前に受け取って、それに対してまったく無頓着だった。
 食べる物も着る物も全部アレクサンドラが用意してくれているのを知っていたのに、そのお金について考えてこなかったことにもやっと気がついた。

「でも、たいしたことないわよ?」

「あの、私にも何かできることないかな? 自分のことはちゃんと自分でできるようになりたい」

「マーコはアタシにかわいがられて世話をされていてくれたらそれで良いんだけど、それじゃダメ……よねぇ?」

「うん、ダメ」

「そうよねぇ」

 真子が不満げに口を尖らせると、アレクサンドラが少し困ったように笑った。

「せっかくマーコが自分のやりたいことを言ってくれたんだから、叶えてあげないとね。今度から一緒に作りましょうか。お金に関しては、騎士団の仕事の手伝いをしてもらえると助かるわ」

「わかった。よろしくお願いします」

「えぇ、よろしくね」

 喜ぶ真子に、アレクサンドラは手を伸ばして頭を撫でた。



 *****


 真子は勉強の合間に魔術騎士団の手伝いとして、細々とした雑用を請け負うようになった。一番下っ端だったマリーベルは手伝いが増えて嬉しいと喜んでくれた。

「マコちゃん、これを魔術士団の待機所に持って行ってもらえる?」

「は~い」

 よくお使いに行かされる騎士団や魔術士団には何人か顔見知りができでおり、魔術士団の待機所に行くと顔見知りの一人に尋ねられた。

「ねぇ、君は魔術士じゃないの?」

「違います」

「ふーん、魔力を感じるのにおかしいな」

 戻ってからそのことを伝えると、カイラが高い背を丸めて真子の顔を覗き込んだ。

「そうなのよね。なんか変な感じはするけど、たしかに魔力を感じるのよね。ねぇ、もう一度調べてみない?」

 ちょうどこの後、魔術士団との合同訓練の時間だったので皆で訓練場に向かった。
 皆が訓練をしている横でジェーンが真子の測定結果をながめる。

「やっぱりゼロのままよねぇ……ってこれ、針が微妙に振れてない? もしかして魔力がゼロなんじゃなくて測定不能なんじゃない?」

 ジェーンの言葉に魔術騎士団の皆が訓練の手を止めて、魔力測定機を覗き込む。
 アレクサンドラとカイラが目を合わせて頷きあった。

「もう少し調べてみましょう。マリーベルお願い」

「はい」

「マコちゃん手を貸して」

「魔力の扱いならマリーベルが一番だから」

 アレクサンドラが真子を安心させるように笑いかける。訓練場の端でマリーベルと真子は向かい合って手を握った。

「多少の差はあっても基本は誰にでも魔力があるんだよね。……うーん、よくわからないな。ちょっと試しに私の魔力を流してみるね」

 マリーベルが目をつぶると身体がぼんやりと茶色く輝いて、その光が徐々に手のひらに集まってきた。

(なんだろう、繋いだところが熱い)

 真子がそう思った瞬間、真子の身体からブワッと白い光が広がって訓練場全体が真っ白な光に包まれた。
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