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二章 ここにいる証

27.ジェーンの酒場-1

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 真子が連れてこられたのは王都の繁華街の片隅にある小さなバーのようなお店だった。
 バーのような、と言っても真子は元の世界でもバーなど行ったことなかったので想像だが。
 薄暗い店内に慣れた様子で入るジェーンに連れられて、二人は奥の席に並んで座った。

「ここ、私のお店なのよ」

「ジェーンさんのお店? ここでも働いているの?」

「さすがに働いてはいないけど、私がオーナーで人を雇っているの。お金を出す代わりに私の好きなお酒が揃っているのよ」

 ジェーンが店員に何やら注文して、しばらくすると料理と一緒に琥珀色の液体の入ったグラスと淡いピンクの液体の入ったグラスが運ばれてきた。

「はい、どうぞ!」

 ジェーンがピンクの液体の入ったグラスを真子の前に置く。
 淡いピンクの液体はシュワシュワと小さな泡が立ち上っていた。

「これは弱いやつだから大丈夫よ~。でもお酒はお酒だから一杯だけね」

 一緒に乾杯をして、真子はお酒を口にした。
 甘い飲みやすいお酒で、グラスが空になる頃には真子は今日あったことをジェーンにペラペラと喋っていた。

「……私とキスまでしたのに、私がどうしたいかだって言うんだもん。勝手にしろってこと!?」

「マコはあんまりお酒強くなさそうね」

「私が誰と何しても気にならないってこと? 口づけって言って、あ、あんなとこにもキスしたのに!」

「その話、ものすご~く詳しく聞きたいけど、後で団長に殺されそうだからその辺にしときましょうね~」

 お酒のグラスを取り上げるジェーンの腕を捕まえて、真子はジェーンに詰めよった。

「ジェーンさん! ちゃんと聞いている?」

「はい、はい、聞いているわよ。はい、お水を飲みましょうね」

 ジェーンが真子に水の入ったグラスをわたす。
 真子はもらったお水を一気に飲みほすと、少しだけ気持ちが落ち着いた。

「はぁ、おいしい……」

「ね、じゃあ、私とキスしてみる?」

「……え? なんでそうなるの!?」

「他の人とキスしてみてドキドキしなければ、ドキドキする相手は特別ってわかるじゃない?」

「え、いや、でも」

「私、上手いわよ? 私としたら他の人が物足りなくなっちゃうかも」

「え」

 ジェーンは妖艶な笑みを浮かべると、真子のあごに手を添えて顔をゆっくりと近づけてきた。
 真子は近づいてきたジェーンの口を両手で押さえながら顔を背けた。

「や、ダメ! やっぱり、無理!」

「ふふ、身体の方が正直じゃない。マコの気持ちはとうに決まっているみたいよ?」

 口に当てられた真子の手を両手で掴み、その手のひらにチュッとキスをしてジェーンはからかうように笑った。

(アレクサンドラさんにはキスをされても嫌じゃなかった。……それが私の気持ち?)

「それともマリーベルが相手ならキスできる?」

 真子は想像してみて、ふるふると首を小さく横にふった。

「私、アレクサンドラさんに止めてもらえなかったのがイヤだったんだと思う」

「団長に嫉妬して欲しかった?」

 真子は顔を真っ赤にして下を向くと両手で顔を覆った。

「恥ずかしい」

「ふふ、悪いことじゃないわよ~」

 ジェーンはポンポンと真子の肩を叩いた。


 *****


 食事を終えて真子とジェーンはお店の二階に上がった。

「お店の上に住んでいるのよ」

 ジェーンの部屋の中に入ると、あまり広くはないが細々とした小物が飾られていた。
 変わったお香の匂いもしていて、なんだか不思議と居心地が良かった。
 二人分の寝床を用意しながらジェーンはウインクをする。

「ふたつの月に誓わされちゃったからね。残念ながら手は出さないわ」

「さっきキスしようとしたのに?」

「キスはあいさつよ~。それに手は出さないって言ったけど、口は出さないって言ってないもの」

 ジェーンはケラケラと笑った。
 真子にベッドを譲って、ジェーンはソファに寝転がりながら教えてくれた。

「ふたつの月に誓うのは魔術士にとって最上級の誓いなのよ。魔術士の自分も本来の自分も合わせた、自分の全てをかけて誓うって意味。それを破ると月の加護を失って魔術士の力を失うって言われているの。ま、本当に失うのかはわからないけれど」

「うん」

「だから滅多な事じゃ誓わないのよ?」

 ちゃんと大切に思われているのだから安心しなさい――そう言ってジェーンは笑った。

「灯りを消すわね」

「おやすみなさい」

 部屋の灯りが消され、真子はアレクサンドラの事を想ってゆっくりと目をつぶった。
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