【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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一章 精霊の愛し子

8.狙われたアミル-1

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 アミルはこれまでなるべく目立たないように生きてきた。

 大国ウトビアには様々な人種がいたので、アミルの褐色の肌も銀の髪もそう珍しいものではなかった。
 ただその組み合わせが少し珍しかったのと、どうやら人より整っている顔立ちのせいでアミルは人の注目を集めやすかった。

 力のない者が注目を集めてもロクなことがない。
 それは幼い頃から目立ったせいで、しょっちゅう良くないヤツらに絡まれていたアミルが学んだ教訓だった。
 しかしだからといって人と違う力があることを知られれば、もっとロクでもないことが起こるということもアミルは知っていた。
 そのためアミルは普段から仕事の時以外は極力目立たぬように気配を消すことにしていた。

「はぁ、それなのにな」

 アミルはアイラナの長の屋敷でいくつかの歌を披露したあと宴からぬけ出した。
 あまり目立ちたくなかったのにあの場をおさめるためとはいえ、つい派手なことをしてしまった。

 アイラナには昔から一度来てみたいと思っていた。
 ウトビアのとある屋敷で歌を披露していたら、たまたまアイラナとの連絡船で仕事している商人と知り合った。
 運良く気に入られ連絡船に乗せてもらえアイラナまで来ることができたというのに、危うくアイラナの長に目をつけられてしまうところだった。

「長の娘……か」

 アミルは宴でいきなり話しかけてきた少女のことを思い出す。
 おしゃべりで、なんだか生意気で、でも表情がクルクル変わって、なかなかかわいい顔をしていた。

「それにしてもあいつ、何者なんだ?」

 黒猫を見たと言っていたが本当だろうか。

 やけに甘い匂いをさせていて、それは一度嗅いでしまったら頭の芯まで酔ってしまうような、もっと嗅ぎたくなるようなそんな不思議な匂いだった。

 そしてあの目。

 朝焼けの空の色みたいな明るい目を見た瞬間、アミルの身体の奥で抑えきれないほどの欲望の熱が渦巻いた。

 あんな風に我を忘れて女に手を出すなんて初めてだった。
 甘い匂いや不思議な目の色に操られるようにキスをしてから、そんな自分に動揺して少女を思いきりにらんでしまった。

 アミルは片手を上げて自分の唇に触れようとしてからその仕草が気恥ずかしくなって、そのまま手を下ろした。

「自分から誘っておいてつき飛ばすことないだろ。はぁ……あいつ、あんまり怒られてなきゃ良いけど」

 少女は長ににらまれると、下を向いて小さな肩を震わせていた。
 そんな様子にいたたまれなくなって、目立つのも構わずかばうような真似をしてしまった。

 あんな風に男を誘惑するなんて見かけによらずよっぽどの悪女なのだろうかと思う一方で、たかがキスぐらいで動揺して赤くなっていた姿を思い出すと顔がにやけそうになってあわてて顔を引きしめる。
 男を惑わす姿と男なんて知らなそうなウブな姿のどちらが本性なのか……と悩んでから、結局ずっと少女のことを考えている自分に気づきアミルはため息をついた。

「あぁ、くそっ!」

 アミルににらまれておびえていた少女の顔が頭に浮かび、苦い物を飲み込んだような気になってアミルは頭をガシガシとかいた。
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