37 / 89
三章 幸運の猫
37.幸運の猫-1
しおりを挟む
漁師たちに見送られながら港を離れ、ルルティアの隣でアミルはクックッと喉を鳴らしてとても楽しそうだった。
「なかなか面白かったな」
「もう! みんなが調子に乗ってごめんね」
「あんた、みんなに愛されてんだな」
「まぁ巫女だし、長の娘だしね」
「それだけじゃないさ。みんなあんたのことが好きなんだよ」
「そうかな?」
「あんたのことを知って好きにならないやつなんていない」
さらりと好きなんて言葉を口にするアミルにルルティアは困惑する。
「……なんか今日のアミルおかしくない?」
「なんだよそれ」
うさん臭げに見上げてくるルルティアを見て、アミルはさらにハハッと声をあげて笑う。
「やっぱりなんか変……」
いつもみたいに変なことを言わないし、それにさっきの漁師たちとのやりとりもなんだかとても自然体だった。
もちろん今までだって愛想は良かったけれど、もう少し壁があったような気がする。
アミルは立ち止まって考え込んでいるルルティアの正面に向き直った。
アミルの夜空色の目がルルティアを真っ直ぐに見つめる。
「パウさまと話せて少し吹っ切れたかな。ルー、パウさまに会わせてくれてありがとう」
「それなら良かったけどパウさまと一体どんなお話をしたの? あ、言いたくなければ言わなくて良いよ」
ルルティアが顔の前で手を横にふると、その手をアミルが取り両手で包みこむように握った。
「いいや。あんたには聞いて欲しい。少しだけ俺の話を聞いてくれるか?」
リュートを弾くアミルの指先は硬いし、その手は男の人らしく骨張っているのに、あまりにも柔らかく包み込まれてルルティアは胸が激しく高鳴った。
ルルティアは頬を染めながらアミルの目の中の夜空をながめて小さくうなずいた。
*****
誰にも聞かれたくないと言うので、二人は小舟でカプ島にわたった。
滝の下の泉のほとりに並んで座る。
誰に見られることもないのでバズとアクアさまも姿を現している。
「何から話そうか……。俺はさ、すごく運が良いんだよ。崖から落ちてもルーに助けてもらえたみたいに」
アミルが少しおどけたように笑う。
そもそも運が良ければ崖から落ちないのでは、と言う言葉をルルティアは飲み込んだ。
多分アミルもそんなことわかっているのだろう。
アミルがバズの方に顔を向けるのにつられてルルティアもそちらを見る。
祠の上で休んでいるアクアさまがヒレをゆらゆら揺らしていて、下で休んでいるバズがそれにちょいちょいと手を伸ばして遊んでいた。
「俺の幸運はすべてバズのおかげだ」
フゥーと息を吐いてから、アミルはゆっくりとルルティアの方に顔を向けた。
「なかなか面白かったな」
「もう! みんなが調子に乗ってごめんね」
「あんた、みんなに愛されてんだな」
「まぁ巫女だし、長の娘だしね」
「それだけじゃないさ。みんなあんたのことが好きなんだよ」
「そうかな?」
「あんたのことを知って好きにならないやつなんていない」
さらりと好きなんて言葉を口にするアミルにルルティアは困惑する。
「……なんか今日のアミルおかしくない?」
「なんだよそれ」
うさん臭げに見上げてくるルルティアを見て、アミルはさらにハハッと声をあげて笑う。
「やっぱりなんか変……」
いつもみたいに変なことを言わないし、それにさっきの漁師たちとのやりとりもなんだかとても自然体だった。
もちろん今までだって愛想は良かったけれど、もう少し壁があったような気がする。
アミルは立ち止まって考え込んでいるルルティアの正面に向き直った。
アミルの夜空色の目がルルティアを真っ直ぐに見つめる。
「パウさまと話せて少し吹っ切れたかな。ルー、パウさまに会わせてくれてありがとう」
「それなら良かったけどパウさまと一体どんなお話をしたの? あ、言いたくなければ言わなくて良いよ」
ルルティアが顔の前で手を横にふると、その手をアミルが取り両手で包みこむように握った。
「いいや。あんたには聞いて欲しい。少しだけ俺の話を聞いてくれるか?」
リュートを弾くアミルの指先は硬いし、その手は男の人らしく骨張っているのに、あまりにも柔らかく包み込まれてルルティアは胸が激しく高鳴った。
ルルティアは頬を染めながらアミルの目の中の夜空をながめて小さくうなずいた。
*****
誰にも聞かれたくないと言うので、二人は小舟でカプ島にわたった。
滝の下の泉のほとりに並んで座る。
誰に見られることもないのでバズとアクアさまも姿を現している。
「何から話そうか……。俺はさ、すごく運が良いんだよ。崖から落ちてもルーに助けてもらえたみたいに」
アミルが少しおどけたように笑う。
そもそも運が良ければ崖から落ちないのでは、と言う言葉をルルティアは飲み込んだ。
多分アミルもそんなことわかっているのだろう。
アミルがバズの方に顔を向けるのにつられてルルティアもそちらを見る。
祠の上で休んでいるアクアさまがヒレをゆらゆら揺らしていて、下で休んでいるバズがそれにちょいちょいと手を伸ばして遊んでいた。
「俺の幸運はすべてバズのおかげだ」
フゥーと息を吐いてから、アミルはゆっくりとルルティアの方に顔を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる