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三章 幸運の猫

37.幸運の猫-1

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 漁師たちに見送られながら港を離れ、ルルティアの隣でアミルはクックッと喉を鳴らしてとても楽しそうだった。

「なかなか面白かったな」

「もう! みんなが調子に乗ってごめんね」

「あんた、みんなに愛されてんだな」

「まぁ巫女だし、長の娘だしね」

「それだけじゃないさ。みんなあんたのことが好きなんだよ」

「そうかな?」

「あんたのことを知って好きにならないやつなんていない」

 さらりと好きなんて言葉を口にするアミルにルルティアは困惑する。

「……なんか今日のアミルおかしくない?」

「なんだよそれ」

 うさん臭げに見上げてくるルルティアを見て、アミルはさらにハハッと声をあげて笑う。

「やっぱりなんか変……」

 いつもみたいに変なことを言わないし、それにさっきの漁師たちとのやりとりもなんだかとても自然体だった。
 もちろん今までだって愛想は良かったけれど、もう少し壁があったような気がする。
 アミルは立ち止まって考え込んでいるルルティアの正面に向き直った。
 アミルの夜空色の目がルルティアを真っ直ぐに見つめる。

「パウさまと話せて少し吹っ切れたかな。ルー、パウさまに会わせてくれてありがとう」

「それなら良かったけどパウさまと一体どんなお話をしたの? あ、言いたくなければ言わなくて良いよ」

 ルルティアが顔の前で手を横にふると、その手をアミルが取り両手で包みこむように握った。

「いいや。あんたには聞いて欲しい。少しだけ俺の話を聞いてくれるか?」

 リュートを弾くアミルの指先は硬いし、その手は男の人らしく骨張っているのに、あまりにも柔らかく包み込まれてルルティアは胸が激しく高鳴った。
 ルルティアは頬を染めながらアミルの目の中の夜空をながめて小さくうなずいた。


 *****


 誰にも聞かれたくないと言うので、二人は小舟でカプ島にわたった。
 滝の下の泉のほとりに並んで座る。
 誰に見られることもないのでバズとアクアさまも姿を現している。

「何から話そうか……。俺はさ、すごく運が良いんだよ。崖から落ちてもルーに助けてもらえたみたいに」

 アミルが少しおどけたように笑う。
 そもそも運が良ければ崖から落ちないのでは、と言う言葉をルルティアは飲み込んだ。
 多分アミルもそんなことわかっているのだろう。

 アミルがバズの方に顔を向けるのにつられてルルティアもそちらを見る。
 祠の上で休んでいるアクアさまがヒレをゆらゆら揺らしていて、下で休んでいるバズがそれにちょいちょいと手を伸ばして遊んでいた。

「俺の幸運はすべてバズのおかげだ」

 フゥーと息を吐いてから、アミルはゆっくりとルルティアの方に顔を向けた。
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