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三章 幸運の猫

36.島の案内-2

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「企む?」

 アミルが首をかしげると漁師たちが調子に乗って口々にアミルに文句を付けだす。

「そのキレイな顔でルルティアさまをたぶらかしてどうするつもりだ?」

「たぶら……って、みんな何言ってるの!!」

「あんた、俺にたぶらかされてんの?」

「たぶらかされてない!!」

「なんだ、残念」

「……!!」

 アミルが楽しそうにクスリと微笑み、その美しさに見ていたルルティアを含め漁師たちもドキッと見惚れてしまう。

「いやいや、俺は騙されないぞ! そんな顔してもダメだ。ルルティアさまにはヌイ先生がいるんだからな」

「そうだそうだ! おまえなんかヌイ先生には敵わないぞ!」

「もう、ヌイとはそういうのじゃないってば!」

 鍛え抜かれたガタイの良い漁師たちに囲まれながら、ルルティアはあわてて否定する。

「どうしたらヌイ先生に勝てるかな?」

「アミル!?」

「お、やる気か!? ヌイ先生に勝てるわけねーだろ」

「やってみなきゃわからねーだろ?」

「良い覚悟じゃねーか」

「アミルも何言ってんの!?」

 漁師たちの挑発にアミルが乗り、ルルティアを置いて勝手に話がどんどん盛り上がっていく。

「よし、じゃああの岬まで舟で往復できるか試してやる!!」

「島の男ならみなできるぞ」

「アミルは島の男じゃないでしょ! 急には無理だよ」

 それは島の男が立派な大人になったことを示すために行う成人の儀式だった。
 岬までの海は途中に川からの水が流れ込んでいたりと流れが複雑で、小さな舟を操って行くのは難しかった。
 島の男は成人するその日のために、子どもの頃から少しずつ訓練を重ねて試練を行う。
 それをアミルにいきなりやれというのは無茶ぶりがひどかった。
 アミルはルルティアを手で止めた。

「それができたら島の男っておっさんたちは認めてくれるんだろ?」

「あぁ。ルルティアさまに近づくのはそれからだな」

「よし、やる!」

「アミルってば!!」

「まぁ、見てなって、ルー」

 アミルがルルティアの方に向いて楽しそうにウインクする。
 こんな風に肩の力が抜けて楽しそうにしているアミルを見るのは初めてで、ルルティアは止められなくなってしまった。

「もう。危なかったら私が助けに行くからね」

「はは、それなら安心だ。なんかあったら頼むな」

 むぅ、とふくれるルルティアの背中をポンと叩いてアミルが海に向かった。
 漁師のうちの一人が先導してくれて、その後に続いてアミルが舟で岬に行くことになった。
 操作や道のりを簡単に教えてもらい、いざ海に乗り出す。
 先導する漁師も手を抜かず全力で岬へと進むが、アミルも負けじとついていく。
 慣れない波に取られて苦戦しているようだが、持ち前の身軽さでバランスを取って持ちこたえている。

「あの兄ちゃんなかなかやるじゃねーか」

「あ、危ない!!」

 大きな横波に揺られて転覆しそうになるところをアミルがトッとジャンプして宙をくるりと回り、華麗に波を避けて舟の上に着地する。

「おー!!」

 漁師たちも思わず感嘆の声を上げる。
 アミルはその後の危機も華麗にかわして、無事に舟で岬まで往復して戻ってきた。

「スゴイ! スゴイ! あんな上手に舟を動かせるなんてアミルは漁師になれるんじゃない?」

「バズのおかげかな?」

 駆け寄ってきたルルティアを受け止めて、アミルがニカっと笑う。

「兄ちゃん、顔だけじゃなくなかなかやるじゃねーか」

「お前も漁師にならねーか?」

 漁師たちもアミルを囲んでバシバシと肩や背中を叩いて勇姿を称えた。

「いてーよ! おっさんたち、店に来てくれたら一杯サービスするよ。俺は毎晩あそこで歌っているからさ」

 アミルが働いているお店の名前を教えると、漁師たちもあそこか、よしいこう! と盛り上がる。

「次は飲み比べで勝負か?」

「勘弁してよ。おっさんたち相手じゃ身体がいくつあっても足りないよ」

 ルルティアとアミルを囲んで港ではにぎやかな笑い声が響いていた。
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