【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

文字の大きさ
39 / 89
三章 幸運の猫

39.幸運の猫-3

しおりを挟む

「俺の前の猫の愛し子は俺が産まれてすぐの頃に死んだって言っただろう? 俺が猫の愛し子になったせいで、俺の父親はバズの加護を失ってそのせいで助からなかったんじゃないかってずっと思っていた。姉さんも俺と一緒にいなければきっともっと幸せになれたのに。なんで俺が猫の愛し子になったんだって、俺が猫の愛し子にならなければって。バズがいなかったらなんて考えられないし考えたくもないのに」

 あんたならわかるだろ? とアミルがわずかに声を震わせる。
 たしかにルルティアだって、産まれた時から一緒のアクアさまがいないなんて考えられないし考えたくもない。

「でもそこに意味なんてなくて『そう』だから『そう』なんだってパウさまに言ってもらえて、悩んでも仕方ないんだって思えた」

 フゥと肩を落として下を向いているアミルはなんだかいつもより小さく見えた。
 それが幼いアミルの姿に重なって見えて、必死に助けを求めているようだった。

 カプ島の祠の周りに再び沈黙が訪れる。赤かった空も徐々に紫色に染まり夜の気配が濃くなっていく。

「あの、あのね……」

 言われた言葉を頭の中で受け止めるだけでいっぱいいっぱいだったけれど、それでもこれだけは伝えなければいけないとルルティアは必死に言葉を紡いだ。

「巫女が代替わりしても巫女の力は無くならないよ。パウさまだってお身体が大丈夫だったら今でも私より上手にアクアさまの力を使えるから! だから、だから、アミルのお父さまもバズの力は使えたはず」

「そう……なのか」

 アミルはそんなことは初めて聞いたようで顔を上げて大きく目を見開いた。
 ルルティアはそうだと伝わるように、ぶんぶんと頭を上下に振る。

「は……そっか」

 アミルは膝の上でギュッと握っていた手を解くと両手で顔をおおった。

「アミルのせいじゃないよ」

 ルルティアが声をかけるがアミルは顔をおおったまま下を向いて動かない。
 ルルティアはうつむくアミルの背中に手を回して柔らかく抱きしめた。

「アミルのせいじゃない」

「ん……」

 ルルティアの腕の中でアミルはわずかに震えていた。
 しばらくそのままでいたら、アミルがほんの小さな声でつぶやいた。

「ありがとう、ルー」


 *****


 日が沈みきる前に二人はカプ島からマラマ島に戻った。
 すると緊急連絡用の鳥が暗くなりかけの空を飛んでいくのが見えた。
 鳥はルルティアの家の方に向かって飛んでいく。

「あれは……、うちの方に?」

 何かあったのだろうか。ルルティアが不安げな顔をして空を見上げていると、アミルがルルティアの足を抱えて持ち上げた。

「よっと」

「え? アミル!?」

「しっかりつかまっていろよ、ルー」

 そう言うやいなや、アミルはルルティアを抱えたままピョンとジャンプして壁の上に飛び上がる。
 そのまま木の上や家の屋根を伝ってすごい速さでルルティアの家に向かって走り出した。

「キャッ!」

 ルルティアはふり落とされないようにアミルの首にギュウとしがみついた。
 バズの加護で身軽なんだとは知っていたけれど、こんなに早く動けるのかとルルティアは目を回しそうになりながら驚いた。
 アミルがピョンと地面に飛び降りて着地すると、そこはもうルルティアの家の前だった。
 家の前ではちょうど鳥からの手紙を受け取ったアリイとヌイがいた。
 ヌイが青い顔をしてルルティアの方を見る。

「ルル!」

「ヌイ。どうしたの?」

「ルル、落ち着いて聞いてくれ。パウさまが……!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...