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三章 幸運の猫
39.幸運の猫-3
しおりを挟む「俺の前の猫の愛し子は俺が産まれてすぐの頃に死んだって言っただろう? 俺が猫の愛し子になったせいで、俺の父親はバズの加護を失ってそのせいで助からなかったんじゃないかってずっと思っていた。姉さんも俺と一緒にいなければきっともっと幸せになれたのに。なんで俺が猫の愛し子になったんだって、俺が猫の愛し子にならなければって。バズがいなかったらなんて考えられないし考えたくもないのに」
あんたならわかるだろ? とアミルがわずかに声を震わせる。
たしかにルルティアだって、産まれた時から一緒のアクアさまがいないなんて考えられないし考えたくもない。
「でもそこに意味なんてなくて『そう』だから『そう』なんだってパウさまに言ってもらえて、悩んでも仕方ないんだって思えた」
フゥと肩を落として下を向いているアミルはなんだかいつもより小さく見えた。
それが幼いアミルの姿に重なって見えて、必死に助けを求めているようだった。
カプ島の祠の周りに再び沈黙が訪れる。赤かった空も徐々に紫色に染まり夜の気配が濃くなっていく。
「あの、あのね……」
言われた言葉を頭の中で受け止めるだけでいっぱいいっぱいだったけれど、それでもこれだけは伝えなければいけないとルルティアは必死に言葉を紡いだ。
「巫女が代替わりしても巫女の力は無くならないよ。パウさまだってお身体が大丈夫だったら今でも私より上手にアクアさまの力を使えるから! だから、だから、アミルのお父さまもバズの力は使えたはず」
「そう……なのか」
アミルはそんなことは初めて聞いたようで顔を上げて大きく目を見開いた。
ルルティアはそうだと伝わるように、ぶんぶんと頭を上下に振る。
「は……そっか」
アミルは膝の上でギュッと握っていた手を解くと両手で顔をおおった。
「アミルのせいじゃないよ」
ルルティアが声をかけるがアミルは顔をおおったまま下を向いて動かない。
ルルティアはうつむくアミルの背中に手を回して柔らかく抱きしめた。
「アミルのせいじゃない」
「ん……」
ルルティアの腕の中でアミルはわずかに震えていた。
しばらくそのままでいたら、アミルがほんの小さな声でつぶやいた。
「ありがとう、ルー」
*****
日が沈みきる前に二人はカプ島からマラマ島に戻った。
すると緊急連絡用の鳥が暗くなりかけの空を飛んでいくのが見えた。
鳥はルルティアの家の方に向かって飛んでいく。
「あれは……、うちの方に?」
何かあったのだろうか。ルルティアが不安げな顔をして空を見上げていると、アミルがルルティアの足を抱えて持ち上げた。
「よっと」
「え? アミル!?」
「しっかりつかまっていろよ、ルー」
そう言うやいなや、アミルはルルティアを抱えたままピョンとジャンプして壁の上に飛び上がる。
そのまま木の上や家の屋根を伝ってすごい速さでルルティアの家に向かって走り出した。
「キャッ!」
ルルティアはふり落とされないようにアミルの首にギュウとしがみついた。
バズの加護で身軽なんだとは知っていたけれど、こんなに早く動けるのかとルルティアは目を回しそうになりながら驚いた。
アミルがピョンと地面に飛び降りて着地すると、そこはもうルルティアの家の前だった。
家の前ではちょうど鳥からの手紙を受け取ったアリイとヌイがいた。
ヌイが青い顔をしてルルティアの方を見る。
「ルル!」
「ヌイ。どうしたの?」
「ルル、落ち着いて聞いてくれ。パウさまが……!」
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