40 / 89
三章 幸運の猫
40.別れ-1
しおりを挟む
その日は朝から雨が降っていた。
しとしとと柔らかい雨が大地を濡らす。
誰かがアクアさまが悲しんでらっしゃるのだと言った。
偉大な先代の巫女を喪って国中が悲しみに包まれていた。
*****
ヌイからパウさまの容態が危ないと聞いたルルティアはすぐにパウさまのところに駆けつけた。
ルルティアは泳いで少しでも早く行きたかったが、ルルティア一人が先に行っても邪魔になるだけだとアリイに止められた。
結局、ヌイと一緒に船でパウさまのいるコモハナ島までわたった。
ルルティアが着いた時、パウさまは薬で深く眠らされていた。
パウさまが苦しまないようにそうしているのだとお付きの人が言っていた。
最期の挨拶にとルルティアが側まで呼ばれた。
「耳は最期まで聞こえるらしい」
ヌイがルルティアの肩を優しく抱きながら、パウさまのベッドサイドの椅子に座らせる。
アクアさまは淡く水色に光りながらパウさまの上を何度も何度も身をくねらせて泳いでいた。
「パウさま。アミルがパウさまに会えて良かったって」
ルルティアはパウさまの手を取りパウさまの耳元に話しかける。
ルルティアはパウさまから教わったことや、パウさまに怒られたことや褒められたこと、そんな思い出話をたくさんして、そしてパウさまと一緒に過ごして楽しかったと感謝の言葉を伝えた。
ルルティアは一晩中パウさまに話しかけ続けた。
パウさまは朝になっても目を覚ますことなく、そのまま静かに息を引き取った。
*****
パウさまの葬儀は雨の中しめやかに行われた。
アイラナのそれぞれの島で鎮魂の祈りが捧げられ、本島のマラマ島では花に囲まれた立派な祭壇が作られた。
余所者であるアミルは祭壇の近くまでは行けなくて、遠くまで見通せる大きな木に登りルルティアを探した。
ルルティアとは家の前で別れたきり会えないままだ。
祭壇の前では鎮魂の舞の準備がされている。
アミルの目にオレンジ色の髪がようやく目に入った。
ルルティアは濃い青の衣装を身につけていた。
静かな音楽が奏でられると、ルルティアがゆっくりと動きだす。
シャラン、シャランと鈴の音が響く。
祭で舞ったものとは違い、鎮魂の舞は静かで緩やかな動きでパウさまの穏やかな眠りを祈っていた。
アクアさまが会場全体を大きく円を描くようにただようと、優しい雨が人々の上に降り注ぐ。
音楽が終わりルルティアが静かに動きを止めると、雨が舞台の上を濡らしていた。
パウさまは明日、小舟に乗せられて海へと還っていくという。
ルルティアは最後まで泣くことなく巫女として気丈にふるまっていた。
*****
夜、雨が止んで雲が晴れると、月が湿った大地を照らしていた。
ルルティアは一人家を抜け出して海に向かっていた。
海に入ろうと足を水につけたところで呼び止められた。
「どこに行くんだ?」
アミルが砂浜に座ってルルティアを見つめていた。
「カプ島の祠は巫女がアクアさまに舞を捧げる場所なの。パウさまは足を悪くされてから祠で舞えなくなったのを悲しんでらしたから、海に還る前にパウさまなら必ずそこに寄ると思って」
アミルが立ち上がりルルティアの腕をつかんだ。
「いくらアクアさまの加護があるからってそんな状態で夜の海に一人で入るなよ」
「でもパウさまは明日には海の彼方に還ってしまう」
ルルティアは声を震わせながらアミルの手をふり払おうとした。
「俺が一緒に行く」
アミルはルルティアの手を引くと一隻の小舟に乗せた。
「ほら、行くぞ」
「一人で行ける」
「いいから。舞うなら音楽もいるだろ」
小舟にはアミルのリュートも乗っていて、アミルはギィと小舟を海に浮かべた。
二人を乗せた小舟が夜の海を進んでいく。
アミルの銀色の髪が月の光を受けてキラキラと輝いているのに気づき、ルルティアが夜空を見上げた。
月がだいぶ丸くなってきていた。
(満月が近づいてきているんだ……)
ルルティアは空を見ながらそんなことをぼんやり考えていた。
しとしとと柔らかい雨が大地を濡らす。
誰かがアクアさまが悲しんでらっしゃるのだと言った。
偉大な先代の巫女を喪って国中が悲しみに包まれていた。
*****
ヌイからパウさまの容態が危ないと聞いたルルティアはすぐにパウさまのところに駆けつけた。
ルルティアは泳いで少しでも早く行きたかったが、ルルティア一人が先に行っても邪魔になるだけだとアリイに止められた。
結局、ヌイと一緒に船でパウさまのいるコモハナ島までわたった。
ルルティアが着いた時、パウさまは薬で深く眠らされていた。
パウさまが苦しまないようにそうしているのだとお付きの人が言っていた。
最期の挨拶にとルルティアが側まで呼ばれた。
「耳は最期まで聞こえるらしい」
ヌイがルルティアの肩を優しく抱きながら、パウさまのベッドサイドの椅子に座らせる。
アクアさまは淡く水色に光りながらパウさまの上を何度も何度も身をくねらせて泳いでいた。
「パウさま。アミルがパウさまに会えて良かったって」
ルルティアはパウさまの手を取りパウさまの耳元に話しかける。
ルルティアはパウさまから教わったことや、パウさまに怒られたことや褒められたこと、そんな思い出話をたくさんして、そしてパウさまと一緒に過ごして楽しかったと感謝の言葉を伝えた。
ルルティアは一晩中パウさまに話しかけ続けた。
パウさまは朝になっても目を覚ますことなく、そのまま静かに息を引き取った。
*****
パウさまの葬儀は雨の中しめやかに行われた。
アイラナのそれぞれの島で鎮魂の祈りが捧げられ、本島のマラマ島では花に囲まれた立派な祭壇が作られた。
余所者であるアミルは祭壇の近くまでは行けなくて、遠くまで見通せる大きな木に登りルルティアを探した。
ルルティアとは家の前で別れたきり会えないままだ。
祭壇の前では鎮魂の舞の準備がされている。
アミルの目にオレンジ色の髪がようやく目に入った。
ルルティアは濃い青の衣装を身につけていた。
静かな音楽が奏でられると、ルルティアがゆっくりと動きだす。
シャラン、シャランと鈴の音が響く。
祭で舞ったものとは違い、鎮魂の舞は静かで緩やかな動きでパウさまの穏やかな眠りを祈っていた。
アクアさまが会場全体を大きく円を描くようにただようと、優しい雨が人々の上に降り注ぐ。
音楽が終わりルルティアが静かに動きを止めると、雨が舞台の上を濡らしていた。
パウさまは明日、小舟に乗せられて海へと還っていくという。
ルルティアは最後まで泣くことなく巫女として気丈にふるまっていた。
*****
夜、雨が止んで雲が晴れると、月が湿った大地を照らしていた。
ルルティアは一人家を抜け出して海に向かっていた。
海に入ろうと足を水につけたところで呼び止められた。
「どこに行くんだ?」
アミルが砂浜に座ってルルティアを見つめていた。
「カプ島の祠は巫女がアクアさまに舞を捧げる場所なの。パウさまは足を悪くされてから祠で舞えなくなったのを悲しんでらしたから、海に還る前にパウさまなら必ずそこに寄ると思って」
アミルが立ち上がりルルティアの腕をつかんだ。
「いくらアクアさまの加護があるからってそんな状態で夜の海に一人で入るなよ」
「でもパウさまは明日には海の彼方に還ってしまう」
ルルティアは声を震わせながらアミルの手をふり払おうとした。
「俺が一緒に行く」
アミルはルルティアの手を引くと一隻の小舟に乗せた。
「ほら、行くぞ」
「一人で行ける」
「いいから。舞うなら音楽もいるだろ」
小舟にはアミルのリュートも乗っていて、アミルはギィと小舟を海に浮かべた。
二人を乗せた小舟が夜の海を進んでいく。
アミルの銀色の髪が月の光を受けてキラキラと輝いているのに気づき、ルルティアが夜空を見上げた。
月がだいぶ丸くなってきていた。
(満月が近づいてきているんだ……)
ルルティアは空を見ながらそんなことをぼんやり考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる