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四章 アミル失踪
61.帝都フルフィウス-2
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暗闇の向こうからアミルの声が降ってきた。
「……なんでココにいる」
「だって、だって、あなたが何も言わずに消えちゃうから」
「俺を追って来たのか?」
微かに聞こえるアミルの声は少し戸惑っているようだった。
「あんたがついていながらなんで止めないんだよ」
アミルの言葉はヌイに向けられたようだったが、ヌイは聞こえているのか聞こえていないのか涼しい顔をしている。
「ごめんな。中途半端な状態にケリをつけにきた」
「急にいなくならなくたって良いじゃない……」
「あんたを巻き込みたくなかった」
「私だって狙われてるんだからとっくに当事者だよ」
ルルティアの言葉にアミルの動揺した空気が伝わってきたと思ったら、すぐに怒ったような声を出した。
「そこまで知っているならこんな危険な所に来るな! ヤツに見つかったらどうする!!」
「だって」
「だってじゃない! 絶対その力をヤツに見つかるなよ。ヤツらの一族が蛇の精霊の加護を失ってから、ヤツは他の精霊の力を恐れながらも激しく憎んでいる。ヤツに見つかったらどんな目に遭わされるかわからない」
「わかった」
「俺の知り合いがヤツを狙っている。俺はそれを手伝う」
「アミルは危なくないの?」
「……ヤツに見つかるなよ」
ルルティアの問いかけにアミルの返事はなかった。
ガサ、とアミルが離れて行く気配を感じてルルティアは声を上げた。
「待って! アミル! 何かあったら川に、海に繋がる川に入って! そしたら私が必ず助けに行くから!!」
アミルの遠ざかる気配が止まり、さっきよりわずかに遠くなった声が少しだけ震えていた。
どうやら笑いを堪えているようだった。
「ふ、あんたはいつもそうだな……。あんたを守れってパウさまに頼まれたんだ。少しは大人しく守られていてくれよ」
「いや! 守られてるだけなんて絶対にいや! 私もアミルを守りたい!!」
ほんの少しの間、沈黙が訪れる。
「ん、わかった。幸い街にはたくさんの川が流れているからさ、すべてが終わったら川に入る。そしたら迎えに来てくれるか、ルー?」
「わかった。絶対に行く。必ずだからね。約束よ。待ってるからね!」
頼むよ、とつぶやいてまたアミルの気配が少しだけ離れて行くのを感じた。
「ルー、あんたに伝えたいことがあるんだ。全部終わったらまた俺の話聞いてくれるか?」
遠くの方からアミルのほんの微かな声が聞こえた。
「もちろん」
「ん、待っていて」
「アミル……無事で」
それからアミルの気配はあっという間に遠ざかっていった。
ルルティアの最後の言葉は届かなかったかもしれない。
ルルティアがしばらく川面を見つめていると、ヌイがもう良いかい? と尋ねるようなジェスチャーをしてきたのでうなずいた。
耳を塞いでいた手を外したヌイと共に立ち上がると、護衛の人に声をかけて一緒に宿まで戻った。
*****
ルルティアはそれ以来、暇を見つけては街中にある川に手や足を突っ込んでアミルの気配を探した。
わずかに感じるバズの気配にアミルの無事を確認しては胸をなで下ろした。
そしてとうとう、その日がやって来た。
それは新月の夜だった。
手に持ったわずかな灯りだけが道を照らす。
ヌイと護衛を連れてルルティアはいつもの川縁に座り込む。
ルルティアとヌイを恋人同士だと思っている護衛は二人に気を使って少し離れた所にいるのもいつも通りだ。
今日は大陸統一二十周年記念式典の前夜祭で、アリイは宮中の晩餐会に招待されている。
ルルティアを献上せよ、と命じられるとしたら今日だろうか。
ルルティアがいつものように足を川に浸けると、急にバン! と鮮やかな光景が目の前に飛び込んできた。
それはアミルがウトビアの皇帝メトゥスの首にナイフを押し当てている姿だった。
「アミル!!」
ルルティアは口を押さえて叫び出すのを必死にガマンしながら目の前に映るアミルの姿に目を凝らした。
「……なんでココにいる」
「だって、だって、あなたが何も言わずに消えちゃうから」
「俺を追って来たのか?」
微かに聞こえるアミルの声は少し戸惑っているようだった。
「あんたがついていながらなんで止めないんだよ」
アミルの言葉はヌイに向けられたようだったが、ヌイは聞こえているのか聞こえていないのか涼しい顔をしている。
「ごめんな。中途半端な状態にケリをつけにきた」
「急にいなくならなくたって良いじゃない……」
「あんたを巻き込みたくなかった」
「私だって狙われてるんだからとっくに当事者だよ」
ルルティアの言葉にアミルの動揺した空気が伝わってきたと思ったら、すぐに怒ったような声を出した。
「そこまで知っているならこんな危険な所に来るな! ヤツに見つかったらどうする!!」
「だって」
「だってじゃない! 絶対その力をヤツに見つかるなよ。ヤツらの一族が蛇の精霊の加護を失ってから、ヤツは他の精霊の力を恐れながらも激しく憎んでいる。ヤツに見つかったらどんな目に遭わされるかわからない」
「わかった」
「俺の知り合いがヤツを狙っている。俺はそれを手伝う」
「アミルは危なくないの?」
「……ヤツに見つかるなよ」
ルルティアの問いかけにアミルの返事はなかった。
ガサ、とアミルが離れて行く気配を感じてルルティアは声を上げた。
「待って! アミル! 何かあったら川に、海に繋がる川に入って! そしたら私が必ず助けに行くから!!」
アミルの遠ざかる気配が止まり、さっきよりわずかに遠くなった声が少しだけ震えていた。
どうやら笑いを堪えているようだった。
「ふ、あんたはいつもそうだな……。あんたを守れってパウさまに頼まれたんだ。少しは大人しく守られていてくれよ」
「いや! 守られてるだけなんて絶対にいや! 私もアミルを守りたい!!」
ほんの少しの間、沈黙が訪れる。
「ん、わかった。幸い街にはたくさんの川が流れているからさ、すべてが終わったら川に入る。そしたら迎えに来てくれるか、ルー?」
「わかった。絶対に行く。必ずだからね。約束よ。待ってるからね!」
頼むよ、とつぶやいてまたアミルの気配が少しだけ離れて行くのを感じた。
「ルー、あんたに伝えたいことがあるんだ。全部終わったらまた俺の話聞いてくれるか?」
遠くの方からアミルのほんの微かな声が聞こえた。
「もちろん」
「ん、待っていて」
「アミル……無事で」
それからアミルの気配はあっという間に遠ざかっていった。
ルルティアの最後の言葉は届かなかったかもしれない。
ルルティアがしばらく川面を見つめていると、ヌイがもう良いかい? と尋ねるようなジェスチャーをしてきたのでうなずいた。
耳を塞いでいた手を外したヌイと共に立ち上がると、護衛の人に声をかけて一緒に宿まで戻った。
*****
ルルティアはそれ以来、暇を見つけては街中にある川に手や足を突っ込んでアミルの気配を探した。
わずかに感じるバズの気配にアミルの無事を確認しては胸をなで下ろした。
そしてとうとう、その日がやって来た。
それは新月の夜だった。
手に持ったわずかな灯りだけが道を照らす。
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ルルティアとヌイを恋人同士だと思っている護衛は二人に気を使って少し離れた所にいるのもいつも通りだ。
今日は大陸統一二十周年記念式典の前夜祭で、アリイは宮中の晩餐会に招待されている。
ルルティアを献上せよ、と命じられるとしたら今日だろうか。
ルルティアがいつものように足を川に浸けると、急にバン! と鮮やかな光景が目の前に飛び込んできた。
それはアミルがウトビアの皇帝メトゥスの首にナイフを押し当てている姿だった。
「アミル!!」
ルルティアは口を押さえて叫び出すのを必死にガマンしながら目の前に映るアミルの姿に目を凝らした。
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