【R18/完結】猫は魚を食べちゃいたい(※性的な意味で)〜愛され巫女の運命の番は美形で意地悪な吟遊詩人〜

河津ミネ

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四章 アミル失踪

63.新月の夜-2

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 怒りで白目まで真っ赤に充血させたメトゥスはアミルを睨みつけたまま手を伸ばす。

「ノウス! その剣を貸せ!!」

「はい、叔父上」

 ノウスはそのままメトゥスの背中に向かって一気に剣を振り下ろした。

「は……なに……が……」

「父の仇ですよ。叔父上」

 ボタボタとメトゥスの血がアミルの身体の上に降り注ぐ。
 腰まである長い墨色の髪をきっちりと結いあげたノウスは、返り血を浴びたまま琥珀色の目でメトゥスを冷たく見下ろした。

「そしてこれがナビーラたちの分」

 そう言ってさらにメトゥスの身体に剣を浴びせる。
 メトゥスの身体はグラリと揺れて、そのままアミルに覆い被さるように倒れこんだ。

 皇帝メトゥスを叔父と呼べる人はこの世に一人しかいない。
 それはかつてメトゥス自らが手にかけた蛇の愛し子であった兄の息子ノウスただ一人だ。
 ノウスはメトゥスが蛇の愛し子であった父を殺し、父の友人であり猫の愛し子であったラムール国王を殺した時からずっと、いつか必ず復讐することを胸に誓ってその牙を隠したまま時が来るのを待っていたのだった。
 駆けつけた衛兵たちも半数以上がすでにノウスの手の者で、それ以外の者たちはノウスの部下に捕まり抑え込まれている。

「アリイさま。お怪我はありませんか?」

「あぁ、大丈夫だ」

 エクウスの仲間である護衛にしっかりと守られたアリイも傷ひとつ無かった。
 今頃メトゥスの側近たちも、エクウスらノウスの部下たちに身柄を押さえられているはずだ。

「アミル、良い働きだった」

 ノウスがアミルに手を伸ばしメトゥスの亡骸の下から引きずりだす。
 通常のメトゥスであれば帯剣したノウスを背後になど近づかせはしない。
 しかしメトゥスは憎き精霊の愛し子を前にして我を忘れた。
 宮中で騒ぎを起こしてそれに乗じてメトゥスを襲撃する予定だったノウスらにとって、アミルが猫の愛し子であることを明かして協力を願い出てくれたおかげで被害が大幅に抑えられた。

「素手で首をへし折られなくて良かったです」

 アミルは血まみれの顔を拭いながら口の端をわずかに歪ませた。
 アミルとノウスが目を合わせ、互いにフッと息を吐いた瞬間、部屋の陰から突如ヌルリと大蛇が現れノウスに向かって大きく口を開けて飛びかかった。

「危ない!!」

 アミルが素早くノウスを突き飛ばし大蛇の前に身体を入れると、大蛇はアミルの腕に咬みついた。

「うぁっ!!」

「アミル!!」

 ノウスは剣を握りなおし大蛇の首を一気に叩き落とした。
 首を落とされた大蛇は血を流しながら床の上をのたうち回ったが、すぐにゴロリとその身体は動かなくなった。

「アミル! 平気か!?」

 ノウスがアミルにかけ寄るとアミルの腕から大蛇の首がボトリと落ちた。
 同時に咬み傷からはボタボタと大量の血が流れ落ちて床を赤く染めていく。
 アミルはよろけながら床に膝をついた。

「う……うぅ……」

 咬まれた腕が燃えるように熱く、身体中を激しい痛みが駆けめぐる。

(こんな……こんなところで俺は死ぬのか……!?)

 痛みのあまり意識がどんどん遠のいていく。

「誰か、医者を呼べ!」

 遠くの方でノウスが叫んでいるのが聞こえる。
 ふとアミルはルルティアの言葉を思い出した。

『アミル、川に入って。私が必ず迎えに行くから』

「ルー……」

 アミルはヨロリと立ち上がると、ノウスが止める声も無視してそのまま天井の窓まで跳び上がった。
アミルは朦朧とした意識のまま一番近い川まで走り抜けると、川面に向かってそのままフラリと身を投げだした。
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