【R18/完結】すみません、家の前に美少年が落ちているのですが。

河津ミネ

文字の大きさ
1 / 16

12月30日 出会い①

しおりを挟む
 ~ 12月30日 PM10:00 ~

 ふらふらになりながら舞衣歌まいかが仕事から帰ってくると、家の前に美少年が落ちていた。
 ふわふわの髪に真っ白な肌の天使みたいな美少年がそこにいた。

(あれ? 今日はクリスマスだったかな……?)

 連日の残業続きで疲れている舞衣歌にサンタさんが美少年をプレゼントしてくれたのかしら? なんて馬鹿な考えが頭をよぎるがそんなはずはない。

(クリスマスはもうとっくに終わったしね……って、いやいや、そうじゃなくて)

 よく見ると、美少年は舞衣歌の部屋の205の扉の前ではなく隣の204と205の間の壁に寄りかかって座っていた。
 黒い大きなリュックを前に抱えて座りながら目をつぶっている。
 カーキ色のモッズコートから黒く細長いパンツをはいた脚が伸びている。
 舞衣歌の部屋は角部屋で廊下の突き当たりにあるので、美少年の長い脚をまたがないと部屋に入れない。

「ねぇ、君。こんなところで寝てると風邪ひくよ」

 舞衣歌が声をかけると、ふわふわの薄茶色の柔らかそうな髪とすべすべの白い肌の美少年は、人形のような長い睫毛をふるりと震わせて目を開いた。
 色素の薄い黒目(いや茶色目?)が大きくて、吸い込まれてしまいそうで思わず見惚れる。
 美少年は舞衣歌に気づくとあわてて立ち上がった。

「あ、すみません」

 少年は165cmある舞衣歌より少し背が高いくらいで、身体の細さからして高校生か大学生になったばかりぐらいか。
 美少年は204の扉と舞衣歌の顔を交互にながめて困った顔をした。

「ここの部屋の人に用があるの?」

「あ、はい。えーと、俺、ここの部屋の、あの広畑開ひろはたかいの弟なんですけど、鍵を落として家に入れなくなっちゃって。親が旅行中なんで、戻ってくるまで兄さんのとこに泊めてもらおうと思って来たんですけど……」

「ちゃんとお兄さんと連絡取った?」

「あー、いや、スマホの充電切れちゃって……」

 連絡先もスマホの中にあってわからないから直接来た、と言う。

「うーん、親御さんはいつ家に帰ってくるの?」

「えっと、1月3日です」

「あー、そっか、帰省かぁ。遠いの?」

「えっと、名古屋です」

 ちなみにここは都内だけれど埼玉にほど近いあたりだ。
 スマホで連絡も取れない状態で名古屋まで行くのはたしかにあまり現実的ではない。

「あのさ、私、隣の205に住んでるんだけど、カイさん今日から旅行に行ってるはずなんだよね」

「え! マジで? どこですか?」

「ハワイ」

「マジか~。ヤバイ。どうしよう」

 美少年は膝に手をついてがくりと頭を下げた。
 舞衣歌は疲れているのでさっさと家に入りたかったが、さすがにこのまま美少年を見捨てるのは心が痛む。

「ねぇ、君。カイさんと兄弟だって証拠ある?」

「え、証拠? あ、写真! 前に家族で撮った写真があります」

「見せてもらえる?」

「あ……スマホの中です」

 美少年が眉を下げて肩を落とす。
 こんな顔しても整った顔をしていて、なんだかカワイイ子犬をいじめているみたいで気がひける。

「うーん、まいっか。君を信用しよう。君、名前は?」

広畑進ひろはたしんです。あ! そうだ、これ、学生証です!」

 美少年がポケットから定期入れを取り出し、中に入っている学生証を見せてくれた。
 美少年は広畑進という名前で、千葉県の高校三年生らしい。
 さすがに学生証は偽造していないだろう。

「ねぇ、シン君。ウチに入れてあげるからさ、とりあえずスマホを充電して親御さんに連絡取りなさい。カイさんは多分、今、飛行機に乗ってるはずだから」

 カイさんは19:00発の飛行機に乗ると言っていたのでまだ空の上のはずだ。
 本当は警察にでもお願いした方が良いのかもしれないが、舞衣歌は一刻も早く家に入って眠りたかった。
 連日の残業続きに加えて、明日の大晦日も明後日のお正月も朝から夜まで仕事だ。
 かと言って、ここで美少年を見捨てるのは気が引ける。
 ガチャガチャと205の鍵を開けて、舞衣歌は美少年を手招きすると部屋の中に招き入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...