16 / 16
それから③
しおりを挟む
シン君と部屋に二人きりで残されて、恥ずかしくて気まずくてモジモジしてしまう。
「えーと……、とりあえず大学合格おめでとう」
「ありがとうございます。あの、大学受かったの、本当に舞衣歌さんのおかげなんです」
シン君は顔を上げて、舞衣歌をまっすぐに見つめた。
「うち、病院なんですよ。兄は薬剤師になって跡を継がないって言うし、俺はなんとなく医学部を目指してたんですけど、急に何のために勉強してるんだろって思っちゃって。でも医者になれなかったら俺には価値がないんじゃないかって思ったら、変に焦ってどんどん勉強も手につかなくなって」
「シン君……」
「でも舞衣歌さんにありがとうって言ってもらえて、そうじゃないって気づけたんです」
シン君が真剣な顔をしてジッと舞衣歌を見ている。
「それに舞衣歌さんが『患者さまが困っちゃう』って言ってるのを聞いて、俺もちゃんと医者になるってどういうことかを考えるようになって、そして改めて俺は医者になりたいって思えたんです。だから俺が頑張れたのは舞衣歌さんのおかげです。ありがとうございました」
シン君はきちんと正座に座り直して、手をついて舞衣歌に頭を下げた。
「私は何もしてないよ。シン君の実力だよ」
舞衣歌の答えを聞いて、シン君は顔を上げると嬉しそうに目を細めた。
「あと舞衣歌さんにもう一度会うためって思ったら、何でもできました」
シン君は舞衣歌ににじり寄ると、手を握って顔をグッと近づけた。
「舞衣歌さん、キスして良いですか?」
舞衣歌の潤んだ目に拒絶の色が無いのを感じ取って、シン君は舞衣歌の唇にそっとキスをした。
キスが深くなりそうな気配を感じて舞衣歌はあわてて顔を逸らす。
「待って、シンくん、これ以上はダメだよ……」
まだ色々と話さなくてはいけない事があるはずだ。
「俺、この間のコンドームの残り持ってます。もう一回舞衣歌さんとしたくて受験のお守りにしてました」
「なにそれ」
「ポケットに入れて受験会場にも持って行っちゃった」
そう言ってシン君はズボンのポケットからコンドームの袋を取り出した。
「頑張った俺にご褒美くれませんか?」
コンドームの袋を口に当てて小首をかしげて上目遣いに見てくる。
ずいぶんと卑猥な表情の天使だ。
「合格祝い?」
「はい」
「……あとでね」
舞衣歌が小さな声でつぶやくと、シン君は口の端を大きく上げて満足そうに笑った。
「あ、そうだ。忘れてた」
「ん?」
「舞衣歌さん、好きです」
「私も。私もシン君が好き」
二人でギュッと抱きあうと、舞衣歌の口からは、ふふ、と笑い声が漏れてしまった。
「? なんですか?」
「いや、サンタさんが彼氏をプレゼントしてくれたのかな~って」
「ほんと、それ、なんなんですか」
シン君が少し困った顔をしながら笑った。
「俺、舞衣歌さんにありがとうって言われるのが好きなんです。一生ありがとうって言ってもらえるようにがんばりますね」
そう言ってシン君はポフッと頭を舞衣歌の肩に乗せた。
一生かぁ……と考えて、年齢とか状況とか、まぁ多分これから大変なことは色々あるんだろうな、と思いつつ、まぁいいか、と舞衣歌は今の幸せな時を楽しむことにした。
今を楽しんで、そして二人で楽しい日々を続けていった先に、気づいたらずっと一緒にいた……なんて未来があると良いな、と舞衣歌はそんな願いを込めてシン君の柔らかい薄茶色の髪の上にそっとキスを落とした。
「えーと……、とりあえず大学合格おめでとう」
「ありがとうございます。あの、大学受かったの、本当に舞衣歌さんのおかげなんです」
シン君は顔を上げて、舞衣歌をまっすぐに見つめた。
「うち、病院なんですよ。兄は薬剤師になって跡を継がないって言うし、俺はなんとなく医学部を目指してたんですけど、急に何のために勉強してるんだろって思っちゃって。でも医者になれなかったら俺には価値がないんじゃないかって思ったら、変に焦ってどんどん勉強も手につかなくなって」
「シン君……」
「でも舞衣歌さんにありがとうって言ってもらえて、そうじゃないって気づけたんです」
シン君が真剣な顔をしてジッと舞衣歌を見ている。
「それに舞衣歌さんが『患者さまが困っちゃう』って言ってるのを聞いて、俺もちゃんと医者になるってどういうことかを考えるようになって、そして改めて俺は医者になりたいって思えたんです。だから俺が頑張れたのは舞衣歌さんのおかげです。ありがとうございました」
シン君はきちんと正座に座り直して、手をついて舞衣歌に頭を下げた。
「私は何もしてないよ。シン君の実力だよ」
舞衣歌の答えを聞いて、シン君は顔を上げると嬉しそうに目を細めた。
「あと舞衣歌さんにもう一度会うためって思ったら、何でもできました」
シン君は舞衣歌ににじり寄ると、手を握って顔をグッと近づけた。
「舞衣歌さん、キスして良いですか?」
舞衣歌の潤んだ目に拒絶の色が無いのを感じ取って、シン君は舞衣歌の唇にそっとキスをした。
キスが深くなりそうな気配を感じて舞衣歌はあわてて顔を逸らす。
「待って、シンくん、これ以上はダメだよ……」
まだ色々と話さなくてはいけない事があるはずだ。
「俺、この間のコンドームの残り持ってます。もう一回舞衣歌さんとしたくて受験のお守りにしてました」
「なにそれ」
「ポケットに入れて受験会場にも持って行っちゃった」
そう言ってシン君はズボンのポケットからコンドームの袋を取り出した。
「頑張った俺にご褒美くれませんか?」
コンドームの袋を口に当てて小首をかしげて上目遣いに見てくる。
ずいぶんと卑猥な表情の天使だ。
「合格祝い?」
「はい」
「……あとでね」
舞衣歌が小さな声でつぶやくと、シン君は口の端を大きく上げて満足そうに笑った。
「あ、そうだ。忘れてた」
「ん?」
「舞衣歌さん、好きです」
「私も。私もシン君が好き」
二人でギュッと抱きあうと、舞衣歌の口からは、ふふ、と笑い声が漏れてしまった。
「? なんですか?」
「いや、サンタさんが彼氏をプレゼントしてくれたのかな~って」
「ほんと、それ、なんなんですか」
シン君が少し困った顔をしながら笑った。
「俺、舞衣歌さんにありがとうって言われるのが好きなんです。一生ありがとうって言ってもらえるようにがんばりますね」
そう言ってシン君はポフッと頭を舞衣歌の肩に乗せた。
一生かぁ……と考えて、年齢とか状況とか、まぁ多分これから大変なことは色々あるんだろうな、と思いつつ、まぁいいか、と舞衣歌は今の幸せな時を楽しむことにした。
今を楽しんで、そして二人で楽しい日々を続けていった先に、気づいたらずっと一緒にいた……なんて未来があると良いな、と舞衣歌はそんな願いを込めてシン君の柔らかい薄茶色の髪の上にそっとキスを落とした。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる