【R18/完結】私のことは忘れてください〜できそこないの魔女は俺様な侯爵令息に溺愛される〜

河津ミネ

文字の大きさ
12 / 111
一章 できそこないの魔女と俺様令息

4.-2

しおりを挟む
 ソフィアが普段利用しているこの食堂は主に王宮の下働きの者たちが来る場所で、貴族出身の多い騎士たちが好んで利用する食堂は別にあった。

「レオルド様はなぜこちらに?」

 なぜこんなところに、という思いを言外に含ませる。
 実のところ魔女であるソフィアがこの食堂を利用するのもおかしいことだった。
 本来なら聖女たちと同じ修道院内に住居が与えられるはずで、そこに食堂もあるからだ。
 しかし王宮内唯一の魔女であり、さらに陰嫁となることを定められているせいで、ソフィアはほかの聖女たちに疎まれていた。
 そのため王宮内の別の場所に自室を与えられており、下働きの者たちと混ざってこの食堂で食事を取っているのだ。

「ソフィアの姿が見えたので追いかけてきた。俺も夕食がまだだったのでちょうどいい」

 レオルドはまた厨房に向かって大きな声を出した。

「俺の分は二人前で頼む!」

「はい、わかりましたー」

 厨房の奥から小気味良い返事が返ってくる。
 強引に事を進めるレオルドにとまどってしまうが、食事をもらえるのは助かった。
 仕方なくそのままその場で待ち、出てきた食事を持って食堂の端のイスに座ると、なぜかレオルドもすぐ隣に座った。
 昼間のこともあり気まずかったが、ソフィアの分の食事も頼んでくれたことを思うと断りづらい。
 レオルドは赤い目でソフィアにしっかりと狙いを定めながら口の端を上げて笑った。

「それでソフィアは俺のものになる気になったか?」

「なりません。……あの、レオルド様。もう私には構わないでください」

 こんな風にレオルドと一緒にいるところを見られたら、またルーパスに何か言われてしまう。
 ルーパスに嫌がらせをするのが目的ならばもう達成できたのだから、もうこれ以上巻き込まないで欲しかった。

「その傷はどうした!」

「え?」

 レオルドが険しい顔をしながら指先で自分のあごをトンと叩く。
 どうやら先ほど剣の柄で殴られたところが痕になっていたらしい。

「あ……少しぶつけただけです」

「俺といると余計に怒らせるかとあの場から離れたが、すこし煽りすぎたか。すまない」

「いえ……」

 とっさにごまかしたが、レオルドには誰にやられたかお見通しのようだった。

「今度はもっと上手にやろう」

「え……」

 もう構わないで欲しいと伝えたことを無視して、レオルドは食事を始めた。
 レオルドの皿にはソフィアの倍の量の食事が乗せられていたはずが、目の前の皿があっという間に空になっていく。
 その勢いにソフィアは思わず目を丸くした。

「なんだ? 食わないのか?」

「あ、いえ……」

 言われてあわてて目の前の食事に手をつける。
 レオルドが食べ終わってもソフィアの皿にはまだ食事が残っていたけれど、なんだかレオルドの勢いに押されていつもよりたくさん食べてしまった。
 そろそろ食事を終えようかという頃に、レオルドが尋ねた。

「ソフィアはあいつにできそこないと呼ばれているのか?」

「あ……」

 と言いながらレオルドが目線を食堂の壁の方にやる。
 そこには歴代の王族の肖像画が飾られていて、一番新しいルーパスの肖像画はひときわ色鮮やかだった。
 先ほどできそこないと呼ばれていたのを、レオルドに聞かれてしまったのだろうか。

「……ルーパス殿下のことをそんな風におっしゃらないでください」

「ソフィアの口からあいつをかばうような言葉を聞くと腹だたしいな」

 レオルドは口の端に皮肉な笑みを浮かべながら、わずかに顔を歪めて不愉快さを示す。
 ソフィアは大きくため息をつくと持っていたフォークを置いた。

「レオルド様。あなたはルーパス殿下に目をつけられても平気なのかもしれませんが、私はそうはいかないのです。身寄りのない私にはここしか居場所がありません。どうかわかっていただけませんか?」

 ソフィアを王宮に売った遠縁の男は、慣れぬ大金を手に入れ身を持ち崩し、既に亡くなったと聞く。
 身寄りもなくできそこないの魔女なんて、この王宮以外に居場所などない。
 ルーパスの不興をこれ以上買うことないように気をつけながら、このまま陰嫁になるしかもう道はないのだ。
 レオルドは口の端の笑みを消して、真面目な顔で強い眼差しを向けてきた。

「それでは言い直そう。ソフィアはルーパス殿下にできそこないと呼ばれているのか?」

 レオルドのどこまでも力強くまっすぐな眼差しは、あまりにも自分とは違いすぎて胸が痛くなる。
 ソフィアはレオルドの眼差しから逃れるように皿に目を落とした。

「ルーパス殿下がおっしゃる通り、私は……できそこないですから」

「なぜ?」

「聖女が祝福を与え魔女が呪いを与える……それなのに、私はろくに呪いを与えることができません。そんな『できそこないの魔女』である私が陰嫁になることが殿下は許せないのでしょう」

「できそこない……陰嫁……」

 そのつぶやきに不穏な響きを感じて顔を上げると、レオルドの目には激しい怒りが浮かび上がっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...