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一章 できそこないの魔女と俺様令息
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ソフィアが普段利用しているこの食堂は主に王宮の下働きの者たちが来る場所で、貴族出身の多い騎士たちが好んで利用する食堂は別にあった。
「レオルド様はなぜこちらに?」
なぜこんなところに、という思いを言外に含ませる。
実のところ魔女であるソフィアがこの食堂を利用するのもおかしいことだった。
本来なら聖女たちと同じ修道院内に住居が与えられるはずで、そこに食堂もあるからだ。
しかし王宮内唯一の魔女であり、さらに陰嫁となることを定められているせいで、ソフィアはほかの聖女たちに疎まれていた。
そのため王宮内の別の場所に自室を与えられており、下働きの者たちと混ざってこの食堂で食事を取っているのだ。
「ソフィアの姿が見えたので追いかけてきた。俺も夕食がまだだったのでちょうどいい」
レオルドはまた厨房に向かって大きな声を出した。
「俺の分は二人前で頼む!」
「はい、わかりましたー」
厨房の奥から小気味良い返事が返ってくる。
強引に事を進めるレオルドにとまどってしまうが、食事をもらえるのは助かった。
仕方なくそのままその場で待ち、出てきた食事を持って食堂の端のイスに座ると、なぜかレオルドもすぐ隣に座った。
昼間のこともあり気まずかったが、ソフィアの分の食事も頼んでくれたことを思うと断りづらい。
レオルドは赤い目でソフィアにしっかりと狙いを定めながら口の端を上げて笑った。
「それでソフィアは俺のものになる気になったか?」
「なりません。……あの、レオルド様。もう私には構わないでください」
こんな風にレオルドと一緒にいるところを見られたら、またルーパスに何か言われてしまう。
ルーパスに嫌がらせをするのが目的ならばもう達成できたのだから、もうこれ以上巻き込まないで欲しかった。
「その傷はどうした!」
「え?」
レオルドが険しい顔をしながら指先で自分のあごをトンと叩く。
どうやら先ほど剣の柄で殴られたところが痕になっていたらしい。
「あ……少しぶつけただけです」
「俺といると余計に怒らせるかとあの場から離れたが、すこし煽りすぎたか。すまない」
「いえ……」
とっさにごまかしたが、レオルドには誰にやられたかお見通しのようだった。
「今度はもっと上手にやろう」
「え……」
もう構わないで欲しいと伝えたことを無視して、レオルドは食事を始めた。
レオルドの皿にはソフィアの倍の量の食事が乗せられていたはずが、目の前の皿があっという間に空になっていく。
その勢いにソフィアは思わず目を丸くした。
「なんだ? 食わないのか?」
「あ、いえ……」
言われてあわてて目の前の食事に手をつける。
レオルドが食べ終わってもソフィアの皿にはまだ食事が残っていたけれど、なんだかレオルドの勢いに押されていつもよりたくさん食べてしまった。
そろそろ食事を終えようかという頃に、レオルドが尋ねた。
「ソフィアはあいつにできそこないと呼ばれているのか?」
「あ……」
あいつと言いながらレオルドが目線を食堂の壁の方にやる。
そこには歴代の王族の肖像画が飾られていて、一番新しいルーパスの肖像画はひときわ色鮮やかだった。
先ほどできそこないと呼ばれていたのを、レオルドに聞かれてしまったのだろうか。
「……ルーパス殿下のことをそんな風におっしゃらないでください」
「ソフィアの口からあいつをかばうような言葉を聞くと腹だたしいな」
レオルドは口の端に皮肉な笑みを浮かべながら、わずかに顔を歪めて不愉快さを示す。
ソフィアは大きくため息をつくと持っていたフォークを置いた。
「レオルド様。あなたはルーパス殿下に目をつけられても平気なのかもしれませんが、私はそうはいかないのです。身寄りのない私にはここしか居場所がありません。どうかわかっていただけませんか?」
ソフィアを王宮に売った遠縁の男は、慣れぬ大金を手に入れ身を持ち崩し、既に亡くなったと聞く。
身寄りもなくできそこないの魔女なんて、この王宮以外に居場所などない。
ルーパスの不興をこれ以上買うことないように気をつけながら、このまま陰嫁になるしかもう道はないのだ。
レオルドは口の端の笑みを消して、真面目な顔で強い眼差しを向けてきた。
「それでは言い直そう。ソフィアはルーパス殿下にできそこないと呼ばれているのか?」
レオルドのどこまでも力強くまっすぐな眼差しは、あまりにも自分とは違いすぎて胸が痛くなる。
ソフィアはレオルドの眼差しから逃れるように皿に目を落とした。
「ルーパス殿下がおっしゃる通り、私は……できそこないですから」
「なぜ?」
「聖女が祝福を与え魔女が呪いを与える……それなのに、私はろくに呪いを与えることができません。そんな『できそこないの魔女』である私が陰嫁になることが殿下は許せないのでしょう」
「できそこない……陰嫁……」
そのつぶやきに不穏な響きを感じて顔を上げると、レオルドの目には激しい怒りが浮かび上がっていた。
「レオルド様はなぜこちらに?」
なぜこんなところに、という思いを言外に含ませる。
実のところ魔女であるソフィアがこの食堂を利用するのもおかしいことだった。
本来なら聖女たちと同じ修道院内に住居が与えられるはずで、そこに食堂もあるからだ。
しかし王宮内唯一の魔女であり、さらに陰嫁となることを定められているせいで、ソフィアはほかの聖女たちに疎まれていた。
そのため王宮内の別の場所に自室を与えられており、下働きの者たちと混ざってこの食堂で食事を取っているのだ。
「ソフィアの姿が見えたので追いかけてきた。俺も夕食がまだだったのでちょうどいい」
レオルドはまた厨房に向かって大きな声を出した。
「俺の分は二人前で頼む!」
「はい、わかりましたー」
厨房の奥から小気味良い返事が返ってくる。
強引に事を進めるレオルドにとまどってしまうが、食事をもらえるのは助かった。
仕方なくそのままその場で待ち、出てきた食事を持って食堂の端のイスに座ると、なぜかレオルドもすぐ隣に座った。
昼間のこともあり気まずかったが、ソフィアの分の食事も頼んでくれたことを思うと断りづらい。
レオルドは赤い目でソフィアにしっかりと狙いを定めながら口の端を上げて笑った。
「それでソフィアは俺のものになる気になったか?」
「なりません。……あの、レオルド様。もう私には構わないでください」
こんな風にレオルドと一緒にいるところを見られたら、またルーパスに何か言われてしまう。
ルーパスに嫌がらせをするのが目的ならばもう達成できたのだから、もうこれ以上巻き込まないで欲しかった。
「その傷はどうした!」
「え?」
レオルドが険しい顔をしながら指先で自分のあごをトンと叩く。
どうやら先ほど剣の柄で殴られたところが痕になっていたらしい。
「あ……少しぶつけただけです」
「俺といると余計に怒らせるかとあの場から離れたが、すこし煽りすぎたか。すまない」
「いえ……」
とっさにごまかしたが、レオルドには誰にやられたかお見通しのようだった。
「今度はもっと上手にやろう」
「え……」
もう構わないで欲しいと伝えたことを無視して、レオルドは食事を始めた。
レオルドの皿にはソフィアの倍の量の食事が乗せられていたはずが、目の前の皿があっという間に空になっていく。
その勢いにソフィアは思わず目を丸くした。
「なんだ? 食わないのか?」
「あ、いえ……」
言われてあわてて目の前の食事に手をつける。
レオルドが食べ終わってもソフィアの皿にはまだ食事が残っていたけれど、なんだかレオルドの勢いに押されていつもよりたくさん食べてしまった。
そろそろ食事を終えようかという頃に、レオルドが尋ねた。
「ソフィアはあいつにできそこないと呼ばれているのか?」
「あ……」
あいつと言いながらレオルドが目線を食堂の壁の方にやる。
そこには歴代の王族の肖像画が飾られていて、一番新しいルーパスの肖像画はひときわ色鮮やかだった。
先ほどできそこないと呼ばれていたのを、レオルドに聞かれてしまったのだろうか。
「……ルーパス殿下のことをそんな風におっしゃらないでください」
「ソフィアの口からあいつをかばうような言葉を聞くと腹だたしいな」
レオルドは口の端に皮肉な笑みを浮かべながら、わずかに顔を歪めて不愉快さを示す。
ソフィアは大きくため息をつくと持っていたフォークを置いた。
「レオルド様。あなたはルーパス殿下に目をつけられても平気なのかもしれませんが、私はそうはいかないのです。身寄りのない私にはここしか居場所がありません。どうかわかっていただけませんか?」
ソフィアを王宮に売った遠縁の男は、慣れぬ大金を手に入れ身を持ち崩し、既に亡くなったと聞く。
身寄りもなくできそこないの魔女なんて、この王宮以外に居場所などない。
ルーパスの不興をこれ以上買うことないように気をつけながら、このまま陰嫁になるしかもう道はないのだ。
レオルドは口の端の笑みを消して、真面目な顔で強い眼差しを向けてきた。
「それでは言い直そう。ソフィアはルーパス殿下にできそこないと呼ばれているのか?」
レオルドのどこまでも力強くまっすぐな眼差しは、あまりにも自分とは違いすぎて胸が痛くなる。
ソフィアはレオルドの眼差しから逃れるように皿に目を落とした。
「ルーパス殿下がおっしゃる通り、私は……できそこないですから」
「なぜ?」
「聖女が祝福を与え魔女が呪いを与える……それなのに、私はろくに呪いを与えることができません。そんな『できそこないの魔女』である私が陰嫁になることが殿下は許せないのでしょう」
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