【R18/完結】私のことは忘れてください〜できそこないの魔女は俺様な侯爵令息に溺愛される〜

河津ミネ

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一章 できそこないの魔女と俺様令息

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 レオルドは陰嫁になにか深い恨みでもあるのだろうか。
 そのあまりに苛烈な様子が恐ろしくて、じりじりとレオルドから離れようとしたが、すぐに背中が食堂の石壁にぶつかってしまった。
 ソフィアの怯えた様子に気がついたのか、レオルドはすぐにひとつまばたきをして目の中の怒りをおさめた。
 その代わり不機嫌な表情をしたまま口を開く。

「ソフィアはできそこないなんかじゃない。俺はソフィアの秘密を知っている」

「え?」

「ソフィアは確かに呪いをかけられないかもしれない。だが呪いの身代わりになることができる。そうだろう?」

 その言葉にソフィアはサッと顔色を変え、先ほどとは別の意味で怯えてしまう。
 レオルドは手を伸ばして黒い長手袋にとんと触れた。

「これがその証だ」

 手袋越しに伝わるレオルドの手は相変わらず熱かったが、それとは裏腹に手先からはどんどん熱が失われていく。
 何のことだかわからない――そう否定したかったが口の中が乾いて言葉が出てこない。

 表向きソフィアの扱いは「ほとんど呪いをかけられない魔女」であって、呪いをその身に移すことができる能力は公にされていない。
 王家の者が呪われているなど噂になっては困ると、ルーパスの呪いをその身に移していることはくれぐれも口外するなと厳命されている。

 レオルドが知っているという事は、どこかからそれが漏れたのだろうか。
 王家の秘密を漏らしたと疑われ、ソフィアが咎められるのではないか。

 ソフィアの顔色は今や真っ青になり、さっきから震えが止まらない。
 するとレオルドが口を開き穏やかな声色で話しかけてきた。

「そう怯えるな」

 レオルドが困ったような顔をしながら、なだめるように手袋の上から手の甲をとんとんと叩く。

「ソフィアを怖がらせたいわけじゃない。あぁ、女性の相手はなかなかに難しいな」

 先ほどまで恐ろしい顔をしていた人が、ソフィアを見て眉を下げて困っている。
 普段あんなに女性に囲まれているのに……とか、ソフィアを女性扱いしてくれるのか……とか、色々なことが頭に浮かんだけれど、レオルドの顔を見ているうちにふっと身体の力が抜けた。

「私が人付き合いにあまり慣れていないのが悪いのです。気を使わせて申し訳ありません」

「では俺で慣れるといい。俺に慣れれば他の誰でも平気になるだろうよ」

「そんな……」

 レオルドはソフィアの手の上に自分の手を重ねた。
 手のひらの熱が冷えた手をじんわりとあたためる。

「このことは誰かに聞いたわけでもないし、誰かに話したりもしていない。安心しろ」

  本当だろうかと目を上げると、レオルドの赤い目がソフィアを捉える。
 ほんの少しだけ見つめ合ってから、そのまま顔が近づき耳元でささやく。

「代わりに俺の秘密を教えてやる。俺は『魔女の目』を持っている」

「魔女の目?」

「知らないのか?」

 小さくうなずくと、レオルドが大きく目を開いた。

「そうか。魔女の目を持つ者は呪いや祝福をその目で見極めることができる。だから俺はソフィアの力に気づいたのだが……」

 レオルドは片手を口元にあてて考え込んでしまう。
 魔女の目など初めて聞いたので、いったいどんなものなのかと赤い目をのぞきこんでしまってから、それに気づいたレオルドが赤い目をわずかに緩めて見つめ返してくる。
 見つめ返されたのが恥ずかしくて、ソフィアはあわてて目を逸らした。

「ソフィアは魔女のことをどれくらい知っている?」

「学園で習ったことくらいしか知りません」

「なんだと!」

 すぐにレオルドが大きく眉をひそめた。
 目の前でくるくる変わる表情に、つい目を奪われてしまう。
 それにしても、あまりにも物を知らなすぎて怒らせてしまったのだろうかとおろおろしていると、レオルドはさらに顔を近づけて声を落とした。

「あいつがあんなに偉そうにしていられるのは、ソフィアがあいつにかけられている『いにしえの魔女の呪い』の身代わりになっているからのはずだ」

「古の魔女……?」

 それがルーパスに呪いをかけた魔女なのだろうか。
 レオルドはソフィアが何も知らないことに困惑しているようだった。

「あの……レオルド様は何をご存知なのですか?」

 レオルドはソフィアの手をギュッとにぎりしめた。
 こんな人前で手を握ってはいけない、早くこの手を引いて離れなければと思うのに、手袋越しに伝わるレオルドの手が熱くて、向けられる目が思いのほか優しくて、ソフィアはレオルドを見つめたまま動けないでいた。

「ソフィア。俺が知っていることをすべて教えてやる。そしてソフィアはできそこないなんかじゃないと俺が証明してやろう」

 ソフィアの薄紫の目が揺れるのを、レオルドの赤い目が捉えて放さない。
 あんなにこの目が恐ろしかったはずなのに、なんだか今は吸い込まれてしまいそうだ。

「真実を知りたくないか? 俺と来い、ソフィア」

 よほどレオルドの方が魔法使いのようで、気づいたら小さくうなずいていた。
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