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一章 できそこないの魔女と俺様令息
7.考えることと魔女の目を持つ意味-1
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「ソフィアはなぜ自分が隠されていたか考えたことがあるか?」
その日の資料室にはレオルドが来ていた。
ふたりで資料室の奥の机に向かい合って座り、メモリアはレオルドのすぐ後ろに控えるように立っている。
忙しい人のはずなのに、わざわざこんなことに使う時間があるのが不思議だ。
「あの……それは私が『できそこないの魔女』だから、人前に出したくないのかと……」
ソフィア自身には隠されていたという実感はないが、レオルドからもメモリアからも他の聖女はもっと自由があると聞いたので、おそらくそれは本当なのだろう。
「ソフィアが本当に『できそこないの魔女』なら、なぜルーパス殿下はソフィアに呪いを移させている? 他の聖女の祝福だってそんなに頻繁には行われていないのにおかしいだろう」
「……そうなんですか?」
「あぁ」
「それでは、魔女が私だけだから……とか? だから他の魔女の分も働かなければいけなくて、別に隠されていたわけではないとか」
「ソフィアはそう考えるのだな」
「……はい」
メモリアが自分の知っていることを教えてくれるのに対して、レオルドはこうやって考えさせることが多かった。
幼い頃からずっと言われた通りに流されてきて、辛いことを忘れるために考えることをやめてきたのだ。
だから、自分の頭で考えることはとても難しかった。
「俺はソフィアが『できそこないの魔女』とは思わない。むしろ王家はソフィアの力を認めているから、呪いのことがバレないように隠しているのだろう。そしてだからこそソフィアをあいつのか……」
そこまで言ってレオルドが不愉快そうに大きく顔をしかめて黙ってしまった。
理解が悪いせいでレオルドを怒らせてしまったのかと視線を落としてうつむくと、見兼ねたメモリアが横から助けを出してくれる。
「レオルド様。ソフィア様が怯えてらっしゃいます」
「ん? あぁ、すまない」
恐ろしい顔がわずかに緩められたのを確認してから、メモリアが無表情のまま告げる。
「レオルド様は『陰嫁』と口にしようとすると気分が悪くなるだけで、別にソフィア様のせいではありませんよ」
「え?」
そういえば以前ソフィアが陰嫁と口にした時も、レオルドの気分をひどく害してしまったのを思い出す。
「おい、メモリア。俺がまるで腰抜けみたいな物言いをやめろ」
「失礼しました」
「本当に失礼なやつだな、お前は」
そう言いながらもレオルドとメモリアの間の気軽なやり取りからは確かな信頼関係が見てとれて、それを羨ましく思いながらもなぜかほんの少しだけ胸が痛む。
「あの、では、レオルド様の前では言わないように気をつけますね」
するとレオルドが複雑そうな顔をする。
「ソフィアは、なぜ俺がその言葉を嫌うか心当たりはないのか?」
「え? ……それはもしや、私が嫌……とか?」
「違う!! それならばこんなことをするはずないだろう」
大きな声に一瞬身体が強ばるが、レオルドがすぐに口の端をあげて困ったように笑ってくれたので緊張を解く。
「えっと……では、あの……なにか嫌な思い出がおありなのかと……」
「嫌な思い出ならあるが、それだけじゃない。なぜ俺がその言葉を嫌うのか、答えは急がないから考えてみてくれ」
「は、はい」
また考えろと言われてしまった。
レオルドと話していると、いかに自分がこれまで何も考えてこなかったかを思い知らされる。
落ち込んでうつむきそうになったところにレオルドがぐいと身を乗り出して、赤い目で薄紫の目をのぞき込んだ。
「ソフィア、考えろ。頭を使ってもっと考えるんだ。決して考えることをやめてはいけない」
「……はい」
「そして、もっと自分のことを考えろ」
「私のこと……ですか?」
「あぁ、そうだ。ソフィアに魔女のことが教えられていないのも、自由が与えられていないのも、すべてはソフィアにここにしか居場所がないと思わせるためだ」
「でも本当に、私はここ以外に行く場所なんてなくて……」
「そんなことはない。決してそんなことはないんだ、ソフィア」
強く言いきるレオルドの言葉に、ソフィアの心が揺れる。
身寄りのないソフィアが、ここ以外のどこに行けるというのか。
レオルドの言うことをすべてきちんと理解しようとすると、ソフィアにはわからないことが多くて少し難かしかった。
ただふたりからはソフィアに対する嫌悪感を感じることはなく、彼らの大事な時間を使ってもらってると思うと期待に応えたかった。
ようやく自分のことを嫌がらずに見てくれる人に出会えて、ソフィアにとっていつしかこの時間はかけがえのないものになっていた。
その日の資料室にはレオルドが来ていた。
ふたりで資料室の奥の机に向かい合って座り、メモリアはレオルドのすぐ後ろに控えるように立っている。
忙しい人のはずなのに、わざわざこんなことに使う時間があるのが不思議だ。
「あの……それは私が『できそこないの魔女』だから、人前に出したくないのかと……」
ソフィア自身には隠されていたという実感はないが、レオルドからもメモリアからも他の聖女はもっと自由があると聞いたので、おそらくそれは本当なのだろう。
「ソフィアが本当に『できそこないの魔女』なら、なぜルーパス殿下はソフィアに呪いを移させている? 他の聖女の祝福だってそんなに頻繁には行われていないのにおかしいだろう」
「……そうなんですか?」
「あぁ」
「それでは、魔女が私だけだから……とか? だから他の魔女の分も働かなければいけなくて、別に隠されていたわけではないとか」
「ソフィアはそう考えるのだな」
「……はい」
メモリアが自分の知っていることを教えてくれるのに対して、レオルドはこうやって考えさせることが多かった。
幼い頃からずっと言われた通りに流されてきて、辛いことを忘れるために考えることをやめてきたのだ。
だから、自分の頭で考えることはとても難しかった。
「俺はソフィアが『できそこないの魔女』とは思わない。むしろ王家はソフィアの力を認めているから、呪いのことがバレないように隠しているのだろう。そしてだからこそソフィアをあいつのか……」
そこまで言ってレオルドが不愉快そうに大きく顔をしかめて黙ってしまった。
理解が悪いせいでレオルドを怒らせてしまったのかと視線を落としてうつむくと、見兼ねたメモリアが横から助けを出してくれる。
「レオルド様。ソフィア様が怯えてらっしゃいます」
「ん? あぁ、すまない」
恐ろしい顔がわずかに緩められたのを確認してから、メモリアが無表情のまま告げる。
「レオルド様は『陰嫁』と口にしようとすると気分が悪くなるだけで、別にソフィア様のせいではありませんよ」
「え?」
そういえば以前ソフィアが陰嫁と口にした時も、レオルドの気分をひどく害してしまったのを思い出す。
「おい、メモリア。俺がまるで腰抜けみたいな物言いをやめろ」
「失礼しました」
「本当に失礼なやつだな、お前は」
そう言いながらもレオルドとメモリアの間の気軽なやり取りからは確かな信頼関係が見てとれて、それを羨ましく思いながらもなぜかほんの少しだけ胸が痛む。
「あの、では、レオルド様の前では言わないように気をつけますね」
するとレオルドが複雑そうな顔をする。
「ソフィアは、なぜ俺がその言葉を嫌うか心当たりはないのか?」
「え? ……それはもしや、私が嫌……とか?」
「違う!! それならばこんなことをするはずないだろう」
大きな声に一瞬身体が強ばるが、レオルドがすぐに口の端をあげて困ったように笑ってくれたので緊張を解く。
「えっと……では、あの……なにか嫌な思い出がおありなのかと……」
「嫌な思い出ならあるが、それだけじゃない。なぜ俺がその言葉を嫌うのか、答えは急がないから考えてみてくれ」
「は、はい」
また考えろと言われてしまった。
レオルドと話していると、いかに自分がこれまで何も考えてこなかったかを思い知らされる。
落ち込んでうつむきそうになったところにレオルドがぐいと身を乗り出して、赤い目で薄紫の目をのぞき込んだ。
「ソフィア、考えろ。頭を使ってもっと考えるんだ。決して考えることをやめてはいけない」
「……はい」
「そして、もっと自分のことを考えろ」
「私のこと……ですか?」
「あぁ、そうだ。ソフィアに魔女のことが教えられていないのも、自由が与えられていないのも、すべてはソフィアにここにしか居場所がないと思わせるためだ」
「でも本当に、私はここ以外に行く場所なんてなくて……」
「そんなことはない。決してそんなことはないんだ、ソフィア」
強く言いきるレオルドの言葉に、ソフィアの心が揺れる。
身寄りのないソフィアが、ここ以外のどこに行けるというのか。
レオルドの言うことをすべてきちんと理解しようとすると、ソフィアにはわからないことが多くて少し難かしかった。
ただふたりからはソフィアに対する嫌悪感を感じることはなく、彼らの大事な時間を使ってもらってると思うと期待に応えたかった。
ようやく自分のことを嫌がらずに見てくれる人に出会えて、ソフィアにとっていつしかこの時間はかけがえのないものになっていた。
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