76 / 111
三章 呪いと祝福
8.刻んだ名前と呪いの依代-1
しおりを挟む
オーブリーとリベルがレオルドに剣を向けている。
(まさか、あの二人が刺客だったの!?)
一瞬驚いたが、すぐにふたりの困惑したような表情に気づく。
目を凝らせばふたりの身体に黒いもやがまとわりついていているのがわかった。
先ほどのソフィアのように、きっと何もかも忘れて混乱しているのだろう。
剣と剣の激しくぶつかり合う音が洞窟内に響き、恐ろしくて身体がすくむ。
オーブリーが大きく振り下ろした剣をレオルドが自らの剣で受けて動きを止めたところに、すかさずリベルが横腹を貫こうと突進する。
「危ないっ!!」
レオルドはすぐにオーブリーの剣を跳ね上げて身体ごと弾き飛ばすと、そのままくるりと身体を反転してリベルの剣をかわしながら強烈な蹴りを食らわせた。
「ぐはっ!!」
リベルの身体が飛んでオーブリーにぶつかり、そのままふたりはもつれ合いながら地面に倒れ込んだ。
わずかに呻き声をあげながら、ふたりはすぐに動かなくなる。
レオルドが警戒しながらふたりに近づき、意識を失っているのを確認してから腕を軽く拘束して地面に転がした。
「ソフィア!! 無事だったか」
「レオルド様こそ……」
レオルドがソフィアにかけ寄ってきて強く抱きしめる。
「ソフィアのおかげで俺に呪いはかからなかったが、アイツらが我を忘れて俺に襲いかかってきた。ソフィアの近くで剣を抜くわけにもいかずあの場から離れたが、ひとりにしてすまなかった」
「いいえ。レオルド様が無事で良かった……」
レオルドの熱い身体に包まれて、やっと無事だと思え、安心して涙がこぼれてしまう。
レオルドがソフィアの涙を拭いながら顔をのぞき込んだ。
「少し顔色が悪いな。ソフィアに呪いの影響は無いのか? さっき俺の分まで呪いにかかっていたように見えたが、今はかかってないように見えるのは俺の気のせいか?」
「はい。呪いは何とか引き剥がせました」
「そうか。だが手の呪いの方はどうだ?」
「手の呪いはまだ」
呪いの依代であるネックレスからあふれた呪いは引き剥がしたが、ルーパスから移した呪いはまだそのままだ。
「呪いを剥がすだけではダメで、やはり依代からあふれる呪いをどうにかしなければ……ん……」
そこまで説明していたら、なんだか急に身体が重くなった。
それは身体の中で何かが狂ってしまったような気だるさで、ソフィアが初めて感じるものだった。
(ん……これは、呪いを無理矢理引き剥がしたせい?)
めまいを抑えるように手の甲を額に押し付けたら、レオルドがすぐにその手を取った。
「ソフィア!! どうした、これは!」
「え? あ……」
ソフィアの黒く染まった手のひらは真っ赤な血にまみれていた。
先ほど尖った石を突き立てた手のひらからにじみ出た血が手首まで伝っている。
「見せてみろ!」
「あ、いたっ」
レオルドが傷の手当てをしようとソフィアの手を強引に開くと、血だらけのそこには引っかいたような文字で『レオルド』と刻まれていた。
「これは……」
「えっと、あの、レオルド様を忘れないように……と」
もう二度レオルドのことを忘れたくなくて、ソフィアは尖った石の先で手のひらにレオルドの名前を刻んでいたのだった。
「こんなことを」
レオルドはハンカチを取り出して傷にあてると、その手を優しく握りしめた。
そして眉間にシワを寄せながら、口を閉ざす。
(手のひらに名前を刻むなんてやり過ぎだったかしら……でも……)
レオルドに怒られたり呆れられたりしないかと焦っていると、レオルドが、ふ、と困ったように笑いながらほんの少しだけ身体を揺らした。
「考えることは同じだな」
「え?」
レオルドはグイと騎士服の袖をめくり自分の手首を見せた。
革手袋の裾からのぞいた肌には、なにか彫られている。
よく見ればそれは見覚えのある模様で、練り香水の蓋に彫られていた飾り文字と同じものだった。
そこには『ソフィア』と彫られていた。
(まさか、あの二人が刺客だったの!?)
一瞬驚いたが、すぐにふたりの困惑したような表情に気づく。
目を凝らせばふたりの身体に黒いもやがまとわりついていているのがわかった。
先ほどのソフィアのように、きっと何もかも忘れて混乱しているのだろう。
剣と剣の激しくぶつかり合う音が洞窟内に響き、恐ろしくて身体がすくむ。
オーブリーが大きく振り下ろした剣をレオルドが自らの剣で受けて動きを止めたところに、すかさずリベルが横腹を貫こうと突進する。
「危ないっ!!」
レオルドはすぐにオーブリーの剣を跳ね上げて身体ごと弾き飛ばすと、そのままくるりと身体を反転してリベルの剣をかわしながら強烈な蹴りを食らわせた。
「ぐはっ!!」
リベルの身体が飛んでオーブリーにぶつかり、そのままふたりはもつれ合いながら地面に倒れ込んだ。
わずかに呻き声をあげながら、ふたりはすぐに動かなくなる。
レオルドが警戒しながらふたりに近づき、意識を失っているのを確認してから腕を軽く拘束して地面に転がした。
「ソフィア!! 無事だったか」
「レオルド様こそ……」
レオルドがソフィアにかけ寄ってきて強く抱きしめる。
「ソフィアのおかげで俺に呪いはかからなかったが、アイツらが我を忘れて俺に襲いかかってきた。ソフィアの近くで剣を抜くわけにもいかずあの場から離れたが、ひとりにしてすまなかった」
「いいえ。レオルド様が無事で良かった……」
レオルドの熱い身体に包まれて、やっと無事だと思え、安心して涙がこぼれてしまう。
レオルドがソフィアの涙を拭いながら顔をのぞき込んだ。
「少し顔色が悪いな。ソフィアに呪いの影響は無いのか? さっき俺の分まで呪いにかかっていたように見えたが、今はかかってないように見えるのは俺の気のせいか?」
「はい。呪いは何とか引き剥がせました」
「そうか。だが手の呪いの方はどうだ?」
「手の呪いはまだ」
呪いの依代であるネックレスからあふれた呪いは引き剥がしたが、ルーパスから移した呪いはまだそのままだ。
「呪いを剥がすだけではダメで、やはり依代からあふれる呪いをどうにかしなければ……ん……」
そこまで説明していたら、なんだか急に身体が重くなった。
それは身体の中で何かが狂ってしまったような気だるさで、ソフィアが初めて感じるものだった。
(ん……これは、呪いを無理矢理引き剥がしたせい?)
めまいを抑えるように手の甲を額に押し付けたら、レオルドがすぐにその手を取った。
「ソフィア!! どうした、これは!」
「え? あ……」
ソフィアの黒く染まった手のひらは真っ赤な血にまみれていた。
先ほど尖った石を突き立てた手のひらからにじみ出た血が手首まで伝っている。
「見せてみろ!」
「あ、いたっ」
レオルドが傷の手当てをしようとソフィアの手を強引に開くと、血だらけのそこには引っかいたような文字で『レオルド』と刻まれていた。
「これは……」
「えっと、あの、レオルド様を忘れないように……と」
もう二度レオルドのことを忘れたくなくて、ソフィアは尖った石の先で手のひらにレオルドの名前を刻んでいたのだった。
「こんなことを」
レオルドはハンカチを取り出して傷にあてると、その手を優しく握りしめた。
そして眉間にシワを寄せながら、口を閉ざす。
(手のひらに名前を刻むなんてやり過ぎだったかしら……でも……)
レオルドに怒られたり呆れられたりしないかと焦っていると、レオルドが、ふ、と困ったように笑いながらほんの少しだけ身体を揺らした。
「考えることは同じだな」
「え?」
レオルドはグイと騎士服の袖をめくり自分の手首を見せた。
革手袋の裾からのぞいた肌には、なにか彫られている。
よく見ればそれは見覚えのある模様で、練り香水の蓋に彫られていた飾り文字と同じものだった。
そこには『ソフィア』と彫られていた。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】
日下奈緒
恋愛
「地味な令嬢は妃に相応しくない」──そう言い放ち、セレナとの婚約を一方的に破棄した子爵令息ユリウス。彼が次に選んだのは、派手な伯爵令嬢エヴァだった。貴族たちの笑いものとなる中、手を差し伸べてくれたのは、幼馴染の第2皇子・カイル。「俺と婚約すれば、見返してやれるだろう?」ただの復讐のはずだった。けれど──これは、彼の一途な溺愛の始まり。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる