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三章 呪いと祝福
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リベルは自分がとある貴族の庶子だと言う。
当主が秘密裏に囲っていた聖女に手をつけて妊娠させたが、産まれた子が魔女の目を持つ男だったので聖官へと預けられたらしい。
「オレが女で聖女の力を持っていればこっそりそこで飼われてたんでしょうけど、あいにく見るだけしかできないんで捨てられたんですよね」
「なんてひどい……」
「いやいや、そんなヤツらに飼われているくらいなら今の方がよっぽどイイよ。それに聖女の祝福を失って、その家はあっという間に没落して今じゃ見る陰もないからね」
リベルはあっけらかんと笑っているが、きっと想像もつかないような苦労もあっただろう。
連れられるままに流されてきたソフィアにとって、リベルの前向きな強さはとてもまぶしく見えた。
「リベルさんはすごいですね」
「はは、ソフィア様……褒めてくれるのはとーっても嬉しいんですけど、その猛獣の上に乗ったままはやめてもらえませんかね?」
リベルが顔をひきつらせながらジリジリとソフィアから距離を取る。
チラリと目をやるとレオルドの手が傍に置かれた剣の上に乗せられ、カチリと刃を抜こうとしていた。
「レオルド様、おやめください」
「ふん、リベルなんぞ褒めなくていい」
「団長、ひどい!」
リベルとレオルドがいつものようにじゃれあっていると、考え込んでいたオーブリーが口を開いた。
「レオルド様、少しよろしいでしょうか?」
「なんだ、オーブリー」
「先ほどリベルが言っていたように、祝福を与える聖女がいなくなれば祝福はいつか必ず消えます」
「ああ、そうだな」
「それなら魔女の目持ち以外にもソフィア様の呪いを移してみてはいかがでしょうか」
そうすればソフィアの呪いがもっと早く浄化できるのではないか、と提案する。
すかさずメモリアがずいと身を前に乗り出す。
「では、私にお試しください。私も日頃から変な輩に寄って来られて鬱陶しく思っておりますし」
メモリアがチラリとリベルに視線をやり、リベルは自分の顔を指さして驚いた顔をしていた。
「あの、でも、それって、魔女の血筋じゃなくても大丈夫なんですか?」
もし仮にメモリアに呪いを移せたとして、そのままメモリアがずっと呪われてしまうのでは困る。
「うーんと、浄化はできなくても基本的に呪いも祝福も放っておけばそのうち消えてなくなるんだよね。もちろん魔女の血筋の方が呪いに耐性があるから、呪いの効果は出にくいし消えるまでの時間も早い。ただ一度かけられた呪いがずっと続くってことはまず無いよ」
「でも忘却の呪いは消えていませんよね?」
もし呪いが自然に消えるのなら、なぜ忘却の呪いは今なおこんなに強い力があるまま残っているのだろうか。
「それは古の魔女の力と想いがそれだけ強かったからだろうな。こんなこと普通ではあり得ないが、魔女の想いをこの世に繋ぎ止めている依代のせいで、それが王家に常に呪いをかけ続けているようなものだ。だからこそそれを壊せれば、忘却の呪いは消える」
「そうなんですね。でもメモリアさんに呪いを移すのは怖いです。メモリアさんに何かあったら……」
普通の呪いとは違うという忘却の呪いをメモリアに移して、もしメモリアが傷つくようなことがあったら耐えられない。
「その様子じゃ、メモリアちゃんに呪いを移せそうにないかな」
「……ごめんなさい」
「謝るな、ソフィア。その優しさがソフィアの良さだ」
レオルドが震えるソフィアの肩を優しく抱きしめる。
「では、人に限らず他のもので試してみてはどうでしょうか? 例えば動物とか」
「動物って……」
「森で鹿や兎を狩って仕留める前に呪いを移して、それから仕留めれば」
「オーブリー、やめろ!!」
血が流れる様子を想像してしまったソフィアが顔を真っ青にしていることに気づいて、レオルドがオーブリーを止める。
「失礼しました」
「いえ。でも必要なら試してみないと」
震える手を胸の前で組むソフィアの手をレオルドが上から包む。
「無理はするな。そのやり方はソフィアに向いていない」
「でも」
「呪いを減らせてもソフィアが辛くなるなら意味がない」
「……はい」
きっぱりと言い切ってもらえて少しだけ心は軽くなる。
しかしそれでも、せっかく色々提案してもらったのにできないことばかりの自分が情けなかった。
当主が秘密裏に囲っていた聖女に手をつけて妊娠させたが、産まれた子が魔女の目を持つ男だったので聖官へと預けられたらしい。
「オレが女で聖女の力を持っていればこっそりそこで飼われてたんでしょうけど、あいにく見るだけしかできないんで捨てられたんですよね」
「なんてひどい……」
「いやいや、そんなヤツらに飼われているくらいなら今の方がよっぽどイイよ。それに聖女の祝福を失って、その家はあっという間に没落して今じゃ見る陰もないからね」
リベルはあっけらかんと笑っているが、きっと想像もつかないような苦労もあっただろう。
連れられるままに流されてきたソフィアにとって、リベルの前向きな強さはとてもまぶしく見えた。
「リベルさんはすごいですね」
「はは、ソフィア様……褒めてくれるのはとーっても嬉しいんですけど、その猛獣の上に乗ったままはやめてもらえませんかね?」
リベルが顔をひきつらせながらジリジリとソフィアから距離を取る。
チラリと目をやるとレオルドの手が傍に置かれた剣の上に乗せられ、カチリと刃を抜こうとしていた。
「レオルド様、おやめください」
「ふん、リベルなんぞ褒めなくていい」
「団長、ひどい!」
リベルとレオルドがいつものようにじゃれあっていると、考え込んでいたオーブリーが口を開いた。
「レオルド様、少しよろしいでしょうか?」
「なんだ、オーブリー」
「先ほどリベルが言っていたように、祝福を与える聖女がいなくなれば祝福はいつか必ず消えます」
「ああ、そうだな」
「それなら魔女の目持ち以外にもソフィア様の呪いを移してみてはいかがでしょうか」
そうすればソフィアの呪いがもっと早く浄化できるのではないか、と提案する。
すかさずメモリアがずいと身を前に乗り出す。
「では、私にお試しください。私も日頃から変な輩に寄って来られて鬱陶しく思っておりますし」
メモリアがチラリとリベルに視線をやり、リベルは自分の顔を指さして驚いた顔をしていた。
「あの、でも、それって、魔女の血筋じゃなくても大丈夫なんですか?」
もし仮にメモリアに呪いを移せたとして、そのままメモリアがずっと呪われてしまうのでは困る。
「うーんと、浄化はできなくても基本的に呪いも祝福も放っておけばそのうち消えてなくなるんだよね。もちろん魔女の血筋の方が呪いに耐性があるから、呪いの効果は出にくいし消えるまでの時間も早い。ただ一度かけられた呪いがずっと続くってことはまず無いよ」
「でも忘却の呪いは消えていませんよね?」
もし呪いが自然に消えるのなら、なぜ忘却の呪いは今なおこんなに強い力があるまま残っているのだろうか。
「それは古の魔女の力と想いがそれだけ強かったからだろうな。こんなこと普通ではあり得ないが、魔女の想いをこの世に繋ぎ止めている依代のせいで、それが王家に常に呪いをかけ続けているようなものだ。だからこそそれを壊せれば、忘却の呪いは消える」
「そうなんですね。でもメモリアさんに呪いを移すのは怖いです。メモリアさんに何かあったら……」
普通の呪いとは違うという忘却の呪いをメモリアに移して、もしメモリアが傷つくようなことがあったら耐えられない。
「その様子じゃ、メモリアちゃんに呪いを移せそうにないかな」
「……ごめんなさい」
「謝るな、ソフィア。その優しさがソフィアの良さだ」
レオルドが震えるソフィアの肩を優しく抱きしめる。
「では、人に限らず他のもので試してみてはどうでしょうか? 例えば動物とか」
「動物って……」
「森で鹿や兎を狩って仕留める前に呪いを移して、それから仕留めれば」
「オーブリー、やめろ!!」
血が流れる様子を想像してしまったソフィアが顔を真っ青にしていることに気づいて、レオルドがオーブリーを止める。
「失礼しました」
「いえ。でも必要なら試してみないと」
震える手を胸の前で組むソフィアの手をレオルドが上から包む。
「無理はするな。そのやり方はソフィアに向いていない」
「でも」
「呪いを減らせてもソフィアが辛くなるなら意味がない」
「……はい」
きっぱりと言い切ってもらえて少しだけ心は軽くなる。
しかしそれでも、せっかく色々提案してもらったのにできないことばかりの自分が情けなかった。
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