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48.グラオーザの妄執-1
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(う……うぅ……)
クラリスは暗闇に一人佇んでいた。
(ここ……は……?)
暗くて見えないはずなのに、鈍色の手のようなものがいくつもクラリスの身体にまとわりついているのがわかる。
どこからか現れたミルトとヴェルディがクラリスに駆け寄り手を伸ばす。
(来ないで……)
(こっちに来ないで……)
(来ちゃダメ……)
(私を助けなくていいから……)
クラリスの声は暗闇に溶けて消えてしまい二人には届かない。
ミルトとヴェルディの伸ばした手に鈍色の手が巻きつき、二人が苦しそうに顔を歪める。
(やめて……!)
(もう誰も巻き込みたくないの!)
ジークベルトを巻き込んでしまった後悔がクラリスを襲う。
二人の姿はいつしかジークベルトの姿に代わり、クラリスにまとわりついていた鈍色の手がジークベルトの身体中に巻きついてその太い首や手足を締め上げていく。
ジークベルトの顔が苦しそうに歪み、鈍色の手からなんとか逃れようともがいている。
(嫌っ! ダメッ!!)
「やめてっ!!」
ハッと、クラリスは自分が叫ぶ声で目を覚ました。
胸がバクバクと激しい鼓動を刻んでいる。
ツーッと額から流れる汗の感触で、クラリスは自分が目を覚ましたことに気づく。
(今のは夢……?)
二、三度瞬きをして視線を動かしてみれば、目に入ってくるのは見覚えのない天井だった。
どうやら掃除が行き届いていない様子で、しばらくここには誰も住んでいなかったのではないだろうか。
(ここは、どこ……?)
「あ、起きた」
すぐそばで知らない男の声がして、クラリスはビクリと身体をこわばらせながら声のした方に首を回した。
そこには長い鈍色の髪を無造作に束ねた痩せぎすの男がいた。
(グラオーザ!!)
その顔は手配書でしか見たことないはずなのに、クラリスの心も身体もこの男を全身で警戒している。
覚えていない。
けれど知っている。
(前に私を誘拐したのもこの男だ)
例え覚えていなくても、クラリスの全身が硬く緊張してこの男は危険だと伝えてきている。
ドッと全身に嫌な汗をかいて震えが襲う。
調べた資料によればグラオーザは今37歳で、クラリスより15歳歳上のはずだ。
十年前の27歳の頃に、当時12歳のクラリスに乱暴を働こうとした男だ。
そして今もこんな魔法をクラリスにかけるような男なので、何をしでかすかわからない。
(慎重にいかないと)
ここがどこかはわからないけれど、時間さえ稼げばヴェルディやミルトが助けに来てくれるに違いない。
それにエンデ討伐から戻ればジークベルトだって来てくれるはずだ。
怒らせてしまったからって仕事に私情を挟むような人では決してない。
ジークベルトの顔を思い浮かべて勇気をもらい、クラリスはゆっくり息を吐いた。
先ほどまでの気持ち悪さはまだ残っているが、なんとか声を出す。
「あなたは……」
「おはよう」
「え?」
「おはよう」
グラオーザは子どものように無邪気な笑顔を向けてくる。
この場にそぐわないその雰囲気に、クラリスの背筋がぞくりと震える。
「シックザールの娘は挨拶もできないの?」
目をぱちぱちさせながら、グラオーザが首を傾げる。
「ダメだよ? あいさつはきちんとしないと」
(こんな時にあいさつ?)
しかしここでこの男の機嫌を損ねるわけにはいかないので、慎重に口を開く。
「お、おはようございます」
「うん、おはよう」
「あなたはグラオーザ……ですか?」
「そうだよ。久しぶり、シックザールの娘」
グラオーザが目を細めて笑いかけてくる。
シュトラール殿下の心の奥底まで見透かされるような目とはまた違い、その視線はクラリスを舐めまわすようにじっとりと見てくる。
(気持ち……悪い……)
しかし嫌悪感を顔に出して怒らせるわけにはいかないので、クラリスは必死に平静を装う。
「僕はね、シックザールの生まれ変わりなんだ」
「え?」
「だから君は僕の娘みたいなものだ。だからちゃんと僕の言うことを聞いてね。親には逆らわないようにきちんと敎育しないとね」
グラオーザはキラキラと子どものような目をして語る。
いったいこの人は何を言っているのだろうか。
クラリスが産まれる直前に亡くなったシックザールの生まれ変わりが、クラリスより歳上のわけがないだろう。
この男が産まれた時にはまだシックザールは生きていたはずだ。
「あの……」
少しでも何か情報を手に入れるため話しかけようとしたら、グラオーザは微妙に焦点の合っていない目をぐるりと回し、寝ているクラリスにかかっている毛布を一気にはいだ。
「え!?」
肌にひやりと空気が触れる妙な感覚に視線を下げれば、クラリスは何ひとつ身につけていない裸の姿だった。
「きゃあ!」
クラリスは腕で裸を隠し、グラオーザに背中を向けようと身体を捻ったが肩をつかまれてぐるりとグラオーザの方に向かされる。
「抵抗しないでくれる? 君のことはまだ殺したくないから」
グラオーザは口元に笑みを浮かべながら、目を細めてじっとりとクラリスを見つめる。
クラリスは暗闇に一人佇んでいた。
(ここ……は……?)
暗くて見えないはずなのに、鈍色の手のようなものがいくつもクラリスの身体にまとわりついているのがわかる。
どこからか現れたミルトとヴェルディがクラリスに駆け寄り手を伸ばす。
(来ないで……)
(こっちに来ないで……)
(来ちゃダメ……)
(私を助けなくていいから……)
クラリスの声は暗闇に溶けて消えてしまい二人には届かない。
ミルトとヴェルディの伸ばした手に鈍色の手が巻きつき、二人が苦しそうに顔を歪める。
(やめて……!)
(もう誰も巻き込みたくないの!)
ジークベルトを巻き込んでしまった後悔がクラリスを襲う。
二人の姿はいつしかジークベルトの姿に代わり、クラリスにまとわりついていた鈍色の手がジークベルトの身体中に巻きついてその太い首や手足を締め上げていく。
ジークベルトの顔が苦しそうに歪み、鈍色の手からなんとか逃れようともがいている。
(嫌っ! ダメッ!!)
「やめてっ!!」
ハッと、クラリスは自分が叫ぶ声で目を覚ました。
胸がバクバクと激しい鼓動を刻んでいる。
ツーッと額から流れる汗の感触で、クラリスは自分が目を覚ましたことに気づく。
(今のは夢……?)
二、三度瞬きをして視線を動かしてみれば、目に入ってくるのは見覚えのない天井だった。
どうやら掃除が行き届いていない様子で、しばらくここには誰も住んでいなかったのではないだろうか。
(ここは、どこ……?)
「あ、起きた」
すぐそばで知らない男の声がして、クラリスはビクリと身体をこわばらせながら声のした方に首を回した。
そこには長い鈍色の髪を無造作に束ねた痩せぎすの男がいた。
(グラオーザ!!)
その顔は手配書でしか見たことないはずなのに、クラリスの心も身体もこの男を全身で警戒している。
覚えていない。
けれど知っている。
(前に私を誘拐したのもこの男だ)
例え覚えていなくても、クラリスの全身が硬く緊張してこの男は危険だと伝えてきている。
ドッと全身に嫌な汗をかいて震えが襲う。
調べた資料によればグラオーザは今37歳で、クラリスより15歳歳上のはずだ。
十年前の27歳の頃に、当時12歳のクラリスに乱暴を働こうとした男だ。
そして今もこんな魔法をクラリスにかけるような男なので、何をしでかすかわからない。
(慎重にいかないと)
ここがどこかはわからないけれど、時間さえ稼げばヴェルディやミルトが助けに来てくれるに違いない。
それにエンデ討伐から戻ればジークベルトだって来てくれるはずだ。
怒らせてしまったからって仕事に私情を挟むような人では決してない。
ジークベルトの顔を思い浮かべて勇気をもらい、クラリスはゆっくり息を吐いた。
先ほどまでの気持ち悪さはまだ残っているが、なんとか声を出す。
「あなたは……」
「おはよう」
「え?」
「おはよう」
グラオーザは子どものように無邪気な笑顔を向けてくる。
この場にそぐわないその雰囲気に、クラリスの背筋がぞくりと震える。
「シックザールの娘は挨拶もできないの?」
目をぱちぱちさせながら、グラオーザが首を傾げる。
「ダメだよ? あいさつはきちんとしないと」
(こんな時にあいさつ?)
しかしここでこの男の機嫌を損ねるわけにはいかないので、慎重に口を開く。
「お、おはようございます」
「うん、おはよう」
「あなたはグラオーザ……ですか?」
「そうだよ。久しぶり、シックザールの娘」
グラオーザが目を細めて笑いかけてくる。
シュトラール殿下の心の奥底まで見透かされるような目とはまた違い、その視線はクラリスを舐めまわすようにじっとりと見てくる。
(気持ち……悪い……)
しかし嫌悪感を顔に出して怒らせるわけにはいかないので、クラリスは必死に平静を装う。
「僕はね、シックザールの生まれ変わりなんだ」
「え?」
「だから君は僕の娘みたいなものだ。だからちゃんと僕の言うことを聞いてね。親には逆らわないようにきちんと敎育しないとね」
グラオーザはキラキラと子どものような目をして語る。
いったいこの人は何を言っているのだろうか。
クラリスが産まれる直前に亡くなったシックザールの生まれ変わりが、クラリスより歳上のわけがないだろう。
この男が産まれた時にはまだシックザールは生きていたはずだ。
「あの……」
少しでも何か情報を手に入れるため話しかけようとしたら、グラオーザは微妙に焦点の合っていない目をぐるりと回し、寝ているクラリスにかかっている毛布を一気にはいだ。
「え!?」
肌にひやりと空気が触れる妙な感覚に視線を下げれば、クラリスは何ひとつ身につけていない裸の姿だった。
「きゃあ!」
クラリスは腕で裸を隠し、グラオーザに背中を向けようと身体を捻ったが肩をつかまれてぐるりとグラオーザの方に向かされる。
「抵抗しないでくれる? 君のことはまだ殺したくないから」
グラオーザは口元に笑みを浮かべながら、目を細めてじっとりとクラリスを見つめる。
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