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29.シュトラール殿下と手紙-2
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ミルトやヴェルディは、二人の母親からクラリスの母親が父親のわからない子を産んですぐに亡くなったと聞かされているはずだ。
クラリスももし誰かに聞かれたらそう答えるように言われており、本当の父親のことは決して誰にも言ってはいけないと祖父母から強く言い聞かせられている。
ミルトは助けを求めるように顔を上げて、向かいに座るヴェルディが驚く様子を見せていないことに気づく。
「ヴェルディは知っていたの?」
「……あぁ。クラリスが王城に来ることになった時に教えられた」
「なんでヴェルディだけ?」
「それはヴェルディがニコラウスの代わりにクラリスに『反魅了』をかける必要があったからだ」
「おじいさまの代わりに」
ヴェルディの言葉を遮ったシュトラール殿下の言葉にクラリスは衝撃を受ける。
「私の『反魅了』はおじいさまがかけたんですか? いつから? なんのために?」
そうだ。
そもそもこれはクラリスの『反魅了』の話のはずだった。
それなのにどうしてシュトラール殿下はここでシックザールの話なんてしているのか。
そもそもシュトラール殿下はなぜクラリスがシックザールの娘だと知っているのか。
それにニコラウスとヴェルディがクラリスに『反魅了』の魔法をかけていたことを、なぜ知っているのか。
どうしてシュトラール殿下がそれを説明しているのか。
何も、何もわからない。
シュトラール殿下への疑問がぐるぐると頭の中にうずまいていく。
みなにシックザールの娘だと知られてしまった事実は、まるでおもりを飲みこんでしまったようにクラリスの胸を暗く沈めていく。
苦しい。
息が詰まりそう。
(シュトラール殿下がずっと私がシックザールの娘だと知っていたなら、どうして私はここにいるの?)
クラリスが王城で働くことになったのはニコラウスにそうするように言われたからだ。
そうでなければクラリスは、学校を卒業した後、家に戻ってこれまで通り祖父母と三人で山奥での生活を続けるつもりだった。
しかしヴェルディやミルトもいるから安心だと言われ、広い世界を学んで来るようにと祖父母に送り出された。
(でもそれは嘘で、王城にいるヴェルディに『反魅了』をかけさせるためだったの?)
これまでクラリスが自分で選んできたと思った道は勝手に誘導されてきたもので、生まれつき与えられたものだからとあきらめて折り合いをつけてきたことが他人から無理矢理に与えられたものだった。
クラリスはもう何を信じればいいのかわからなくなってしまう。
自分を形作るものがすべてあやふやになってきて、足元から崩れてそのまま溶けて沈んでしまいそうだった。
「クラリス」
すぐそばでジークベルトに名前を呼ばれ、ハッと顔を上げるとジークベルトはいつのまにかクラリスのすぐ横に立っていた。
ジークベルトの黒い目がクラリスを捉え、その目にクラリスの姿を映す。
クラリスはようやく少しだけ自分の形が元に戻った気がした。
しっかりと足で床を踏みしめてシュトラール殿下に顔を向ける。
(ちゃんと最後まで話を聞かないと)
シュトラール殿下はみなを見回してもう一度ニコラウスからの手紙を掲げた。
「これはクラリスもとっくに成人したので、すべて説明してやって欲しいとのニコラウスからの訴えだ」
「シュトラール殿下。我々が納得のいく説明をしてください」
それはクラリスの話のはずなのに、どこか遠いところで別の誰かの話をしているようだった。
ジークベルトの言葉に合わせて皆の視線が自分に集まるのを確かめてから、シュトラール殿下は満足そうにひとつだけ優雅にうなずき、それからゆっくりと口を開いた。
クラリスももし誰かに聞かれたらそう答えるように言われており、本当の父親のことは決して誰にも言ってはいけないと祖父母から強く言い聞かせられている。
ミルトは助けを求めるように顔を上げて、向かいに座るヴェルディが驚く様子を見せていないことに気づく。
「ヴェルディは知っていたの?」
「……あぁ。クラリスが王城に来ることになった時に教えられた」
「なんでヴェルディだけ?」
「それはヴェルディがニコラウスの代わりにクラリスに『反魅了』をかける必要があったからだ」
「おじいさまの代わりに」
ヴェルディの言葉を遮ったシュトラール殿下の言葉にクラリスは衝撃を受ける。
「私の『反魅了』はおじいさまがかけたんですか? いつから? なんのために?」
そうだ。
そもそもこれはクラリスの『反魅了』の話のはずだった。
それなのにどうしてシュトラール殿下はここでシックザールの話なんてしているのか。
そもそもシュトラール殿下はなぜクラリスがシックザールの娘だと知っているのか。
それにニコラウスとヴェルディがクラリスに『反魅了』の魔法をかけていたことを、なぜ知っているのか。
どうしてシュトラール殿下がそれを説明しているのか。
何も、何もわからない。
シュトラール殿下への疑問がぐるぐると頭の中にうずまいていく。
みなにシックザールの娘だと知られてしまった事実は、まるでおもりを飲みこんでしまったようにクラリスの胸を暗く沈めていく。
苦しい。
息が詰まりそう。
(シュトラール殿下がずっと私がシックザールの娘だと知っていたなら、どうして私はここにいるの?)
クラリスが王城で働くことになったのはニコラウスにそうするように言われたからだ。
そうでなければクラリスは、学校を卒業した後、家に戻ってこれまで通り祖父母と三人で山奥での生活を続けるつもりだった。
しかしヴェルディやミルトもいるから安心だと言われ、広い世界を学んで来るようにと祖父母に送り出された。
(でもそれは嘘で、王城にいるヴェルディに『反魅了』をかけさせるためだったの?)
これまでクラリスが自分で選んできたと思った道は勝手に誘導されてきたもので、生まれつき与えられたものだからとあきらめて折り合いをつけてきたことが他人から無理矢理に与えられたものだった。
クラリスはもう何を信じればいいのかわからなくなってしまう。
自分を形作るものがすべてあやふやになってきて、足元から崩れてそのまま溶けて沈んでしまいそうだった。
「クラリス」
すぐそばでジークベルトに名前を呼ばれ、ハッと顔を上げるとジークベルトはいつのまにかクラリスのすぐ横に立っていた。
ジークベルトの黒い目がクラリスを捉え、その目にクラリスの姿を映す。
クラリスはようやく少しだけ自分の形が元に戻った気がした。
しっかりと足で床を踏みしめてシュトラール殿下に顔を向ける。
(ちゃんと最後まで話を聞かないと)
シュトラール殿下はみなを見回してもう一度ニコラウスからの手紙を掲げた。
「これはクラリスもとっくに成人したので、すべて説明してやって欲しいとのニコラウスからの訴えだ」
「シュトラール殿下。我々が納得のいく説明をしてください」
それはクラリスの話のはずなのに、どこか遠いところで別の誰かの話をしているようだった。
ジークベルトの言葉に合わせて皆の視線が自分に集まるのを確かめてから、シュトラール殿下は満足そうにひとつだけ優雅にうなずき、それからゆっくりと口を開いた。
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