【R18/完結】強面騎士団長の慰め係〜こんなに絶倫なんて聞いてません!!〜

河津ミネ

文字の大きさ
29 / 70

29.シュトラール殿下と手紙-2

しおりを挟む
 ミルトやヴェルディは、二人の母親からクラリスの母親が父親のわからない子を産んですぐに亡くなったと聞かされているはずだ。
 クラリスももし誰かに聞かれたらそう答えるように言われており、本当の父親のことは決して誰にも言ってはいけないと祖父母から強く言い聞かせられている。
 ミルトは助けを求めるように顔を上げて、向かいに座るヴェルディが驚く様子を見せていないことに気づく。

「ヴェルディは知っていたの?」
「……あぁ。クラリスが王城に来ることになった時に教えられた」
「なんでヴェルディだけ?」
「それはヴェルディがニコラウスの代わりにクラリスに『反魅了』をかける必要があったからだ」
「おじいさまの代わりに」

 ヴェルディの言葉を遮ったシュトラール殿下の言葉にクラリスは衝撃を受ける。

「私の『反魅了』はおじいさまがかけたんですか? いつから? なんのために?」

 そうだ。
 そもそもこれはクラリスの『反魅了』の話のはずだった。
 それなのにどうしてシュトラール殿下はここでシックザールの話なんてしているのか。
 そもそもシュトラール殿下はなぜクラリスがシックザールの娘だと知っているのか。
 それにニコラウスとヴェルディがクラリスに『反魅了』の魔法をかけていたことを、なぜ知っているのか。
 どうしてシュトラール殿下がそれを説明しているのか。

 何も、何もわからない。

 シュトラール殿下への疑問がぐるぐると頭の中にうずまいていく。
 みなにシックザールの娘だと知られてしまった事実は、まるでおもりを飲みこんでしまったようにクラリスの胸を暗く沈めていく。

 苦しい。
 息が詰まりそう。

(シュトラール殿下がずっと私がシックザールの娘だと知っていたなら、どうして私はここにいるの?)

 クラリスが王城で働くことになったのはニコラウスにそうするように言われたからだ。
 そうでなければクラリスは、学校を卒業した後、家に戻ってこれまで通り祖父母と三人で山奥での生活を続けるつもりだった。
 しかしヴェルディやミルトもいるから安心だと言われ、広い世界を学んで来るようにと祖父母に送り出された。

(でもそれは嘘で、王城にいるヴェルディに『反魅了』をかけさせるためだったの?)

 これまでクラリスが自分で選んできたと思った道は勝手に誘導されてきたもので、生まれつき与えられたものだからとあきらめて折り合いをつけてきたことが他人から無理矢理に与えられたものだった。
 クラリスはもう何を信じればいいのかわからなくなってしまう。
 自分を形作るものがすべてあやふやになってきて、足元から崩れてそのまま溶けて沈んでしまいそうだった。

「クラリス」

 すぐそばでジークベルトに名前を呼ばれ、ハッと顔を上げるとジークベルトはいつのまにかクラリスのすぐ横に立っていた。
 ジークベルトの黒い目がクラリスを捉え、その目にクラリスの姿を映す。
 クラリスはようやく少しだけ自分の形が元に戻った気がした。
 しっかりと足で床を踏みしめてシュトラール殿下に顔を向ける。

(ちゃんと最後まで話を聞かないと)

 シュトラール殿下はみなを見回してもう一度ニコラウスからの手紙を掲げた。

「これはクラリスもとっくに成人したので、すべて説明してやって欲しいとのニコラウスからの訴えだ」
「シュトラール殿下。我々が納得のいく説明をしてください」

 それはクラリスの話のはずなのに、どこか遠いところで別の誰かの話をしているようだった。
 ジークベルトの言葉に合わせて皆の視線が自分に集まるのを確かめてから、シュトラール殿下は満足そうにひとつだけ優雅にうなずき、それからゆっくりと口を開いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...