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33.ずっと……-2
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「おい、どうした!」
「あ、すみませ……」
涙を止めないとと思うのに、次から次へと涙があふれて止まらない。
ジークベルトはクラリスの涙をぬぐおうと手を伸ばして、触れられなくてその手を止める。
「クソッ、厄介な魔法だな。おまえを慰めることもできないなんて」
「そんな……」
「ヨシ、動くなよ」
ジークベルトは制服の上着を脱ぐとバサリとクラリスの頭の上からかけた。
そして肌に直接触れないように注意を払いながら、クラリスをふわりと抱きしめた。
上着越しにジークベルトの熱が微かに伝わってくる。
「信じてもらえないかもしれないが、おまえの魔力が封じられていることや『反魅了』の魔法がかけられていることは知らなかった。ただ知らなかったとはいえ、俺の身内が申し訳なかった」
「いえ、団長のせいじゃないです」
ジークベルトの上着に包まれながら柔らかく抱きしめられていると、頭がくらくらしてきて酔ってしまいそうだ。
ジークベルトは上着越しに大きな手をクラリスの背中に置くと、落ち着くまでゆっくりとなでた。
ようやく涙が落ち着いた頃にジークベルトの声が優しく降ってくる。
「おまえを狙うヤツがいるんだ。俺のそばにいるのが一番安全だ」
「でも」
「俺が誰だか知っているだろう?」
「え?」
「俺は誰だ? どこで何をしている? 言ってみろ」
「えっと、第三騎士団のジークベルト=グロウス団長……です」
「そうだ。王都に住む者の安全は俺がすべて守る。王都で起きた事件は俺がすべて解決する。必ずな。それが俺の仕事だ」
「でも」
「おまえも俺が守るべき者の一人だよ、クラリス」
頭の上に軽く重みを感じる。
ジークベルトがクラリスの頭の上に自分の額を重ねて置いたようだ。
「ここにいてくれ」
ジークベルトの祈るような静かな声が耳から染み込んできて、おもりを飲みこんだように重く苦しかったクラリスの胸の内が軽くなっていく。
こうしてジークベルトの香りに全身包まれていると、息をするたびに胸の奥までジークベルトでいっぱいになっていくようだ。
「この上着、団長の匂いがしますね」
「む、臭いか。すまん」
「いいえ、いい匂い。……こんな風に男の人に抱きしめてもらったの初めて」
「そうか」
上着越しにクラリスを抱きしめているジークベルトの手にわずがに力が入る。
「……おじいさまは私に魔法をかけてたから『反魅了』は効かなかったけど、おばあさまはいつも我慢しながら私を抱きしめてくれてたのかな」
「おまえが大事に育てられてきたのはおまえを見ていればわかる。おまえのおじいさまもおばあさまも、ただおまえのことが大切だったんだろう」
「ん、ありがとうございます」
シュトラール殿下の話を聞いていたら誰も、何も、自分さえも信じられないような心地がしていたけれど、そんなことはなかった。
ジークベルトがクラリスのことをちゃんと見てくれたから、クラリスは自分の形を思い出すことができた。
ジークベルトに抱きしめられてふとミルトが抱きしめてくれた時のことが頭をよぎる。
そういえばミルトにはクラリスの『反魅了』があまり効かなかった。
「あ、そうか。『反魅了』はヴェルディの魔法だから。たしかミルトにはヴェルディの魔法があんまり効かないはず」
兄妹だからかヴェルディとミルトは互いの魔法が効きにくいと前に言っていたのを聞いたことがある。
クラリスがそうつぶやくと、ジークベルトの腕に力が入った。
「団長?」
「おまえの口からアイツの名前を聞きたくない」
「アイツってヴェルディ? どうしてですか?」
すると急に抱き寄せられて、クラリスは顔をジークベルトの厚い胸板に押しつけるように強く抱きしめられた。
上着を脱いでシャツ一枚しか遮るもののないジークベルトの胸板からは熱と胸の鼓動が伝わってくる。
いつもはジークベルトを慰める時くらいしかこんなに近づかないからか、触れ合って魔法が発動したわけではないはずなのにクラリスの身体の芯がカッと熱くなる。
「あ、あの」
「おまえのことはずっと見ていた」
なんだかジークベルトの胸が激しい鼓動を刻んでいる気がする。
ただクラリスの胸も激しく高鳴っているので、それがどちらのものかもうよくわからない。
「ずっとおまえのことをかわいいと思っていた」
「え? あの、えっと、え? かわいい?」
「あぁ。小さな体で何事にも一生懸命で、どうにかして俺が力になってやれないかと」
「あの、それって、私が小さくて子どもみたいな半人前だからってことですか?」
「違う」
ジークベルトの腕に力が入りゴクリと喉が鳴る。
「俺はおまえを預かっている団長の立場だ。こんなことを伝えても困らせるだけだと思ってずっと言えなかった」
ジークベルトが大きく深呼吸をしてからゆっくりと言葉を吐き出す。
「ずっとおまえのことが好きだったよ、クラリス」
「あ、すみませ……」
涙を止めないとと思うのに、次から次へと涙があふれて止まらない。
ジークベルトはクラリスの涙をぬぐおうと手を伸ばして、触れられなくてその手を止める。
「クソッ、厄介な魔法だな。おまえを慰めることもできないなんて」
「そんな……」
「ヨシ、動くなよ」
ジークベルトは制服の上着を脱ぐとバサリとクラリスの頭の上からかけた。
そして肌に直接触れないように注意を払いながら、クラリスをふわりと抱きしめた。
上着越しにジークベルトの熱が微かに伝わってくる。
「信じてもらえないかもしれないが、おまえの魔力が封じられていることや『反魅了』の魔法がかけられていることは知らなかった。ただ知らなかったとはいえ、俺の身内が申し訳なかった」
「いえ、団長のせいじゃないです」
ジークベルトの上着に包まれながら柔らかく抱きしめられていると、頭がくらくらしてきて酔ってしまいそうだ。
ジークベルトは上着越しに大きな手をクラリスの背中に置くと、落ち着くまでゆっくりとなでた。
ようやく涙が落ち着いた頃にジークベルトの声が優しく降ってくる。
「おまえを狙うヤツがいるんだ。俺のそばにいるのが一番安全だ」
「でも」
「俺が誰だか知っているだろう?」
「え?」
「俺は誰だ? どこで何をしている? 言ってみろ」
「えっと、第三騎士団のジークベルト=グロウス団長……です」
「そうだ。王都に住む者の安全は俺がすべて守る。王都で起きた事件は俺がすべて解決する。必ずな。それが俺の仕事だ」
「でも」
「おまえも俺が守るべき者の一人だよ、クラリス」
頭の上に軽く重みを感じる。
ジークベルトがクラリスの頭の上に自分の額を重ねて置いたようだ。
「ここにいてくれ」
ジークベルトの祈るような静かな声が耳から染み込んできて、おもりを飲みこんだように重く苦しかったクラリスの胸の内が軽くなっていく。
こうしてジークベルトの香りに全身包まれていると、息をするたびに胸の奥までジークベルトでいっぱいになっていくようだ。
「この上着、団長の匂いがしますね」
「む、臭いか。すまん」
「いいえ、いい匂い。……こんな風に男の人に抱きしめてもらったの初めて」
「そうか」
上着越しにクラリスを抱きしめているジークベルトの手にわずがに力が入る。
「……おじいさまは私に魔法をかけてたから『反魅了』は効かなかったけど、おばあさまはいつも我慢しながら私を抱きしめてくれてたのかな」
「おまえが大事に育てられてきたのはおまえを見ていればわかる。おまえのおじいさまもおばあさまも、ただおまえのことが大切だったんだろう」
「ん、ありがとうございます」
シュトラール殿下の話を聞いていたら誰も、何も、自分さえも信じられないような心地がしていたけれど、そんなことはなかった。
ジークベルトがクラリスのことをちゃんと見てくれたから、クラリスは自分の形を思い出すことができた。
ジークベルトに抱きしめられてふとミルトが抱きしめてくれた時のことが頭をよぎる。
そういえばミルトにはクラリスの『反魅了』があまり効かなかった。
「あ、そうか。『反魅了』はヴェルディの魔法だから。たしかミルトにはヴェルディの魔法があんまり効かないはず」
兄妹だからかヴェルディとミルトは互いの魔法が効きにくいと前に言っていたのを聞いたことがある。
クラリスがそうつぶやくと、ジークベルトの腕に力が入った。
「団長?」
「おまえの口からアイツの名前を聞きたくない」
「アイツってヴェルディ? どうしてですか?」
すると急に抱き寄せられて、クラリスは顔をジークベルトの厚い胸板に押しつけるように強く抱きしめられた。
上着を脱いでシャツ一枚しか遮るもののないジークベルトの胸板からは熱と胸の鼓動が伝わってくる。
いつもはジークベルトを慰める時くらいしかこんなに近づかないからか、触れ合って魔法が発動したわけではないはずなのにクラリスの身体の芯がカッと熱くなる。
「あ、あの」
「おまえのことはずっと見ていた」
なんだかジークベルトの胸が激しい鼓動を刻んでいる気がする。
ただクラリスの胸も激しく高鳴っているので、それがどちらのものかもうよくわからない。
「ずっとおまえのことをかわいいと思っていた」
「え? あの、えっと、え? かわいい?」
「あぁ。小さな体で何事にも一生懸命で、どうにかして俺が力になってやれないかと」
「あの、それって、私が小さくて子どもみたいな半人前だからってことですか?」
「違う」
ジークベルトの腕に力が入りゴクリと喉が鳴る。
「俺はおまえを預かっている団長の立場だ。こんなことを伝えても困らせるだけだと思ってずっと言えなかった」
ジークベルトが大きく深呼吸をしてからゆっくりと言葉を吐き出す。
「ずっとおまえのことが好きだったよ、クラリス」
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