SIX RULES

黒陽 光

文字の大きさ
57 / 108
第四条:深追いはしない。

/18

しおりを挟む
「っ!?」
「オオッ!?」
 ハリーがベネリM4の銃口から強烈なスラッグ弾をブッ放すのと、同じく強力な.44マグナム弾をウォードッグがトーラス・レイジングブルから撃ち放つのは、一瞬も違わぬ完璧な同じタイミングだった。
 放たれた12ゲージ径のスラッグ弾と.44マグナム弾頭とが空中で軌跡を交錯させ合い、そして互いの標的に向けて超音速で空気を切り裂き飛翔する。
 銃声に驚いた鳩が慌ただしく飛び回る中――――二人の撃ち放った弾丸はそれぞれ、互いの獲物を破壊していた。
「くっ……!?」
 ハリーの方は、ウォードッグの撃ち放った.44マグナム弾に斜めから機関部を抉られ、そのまま貫通し弾頭は吹き飛んだベネリM4ごと彼方へと吹き飛んでいく。
「畜生……!」
 そして、ウォードッグのほうもまた同様で。奴の場合は銃身を横方向から12ゲージのスラッグ弾に撃ち抜かれ、使いものにならなくなったレイジングブルがハリーのベネリM4と同じく、そのまま手の中を滑り彼方へと吹き飛んでいく。
「ヘッ――――!」
 だが、獲物を失ったリカバリーに動くのは、ウォードッグの方がハリーより圧倒的に素早かった。
 ウォードッグは自分のレイジングブルが彼方へと吹き飛ばされていくと、衝撃で右手が痺れるのにも構わず、すぐに後ろ腰へと手を伸ばす。そこから引っ張り出してきたのは、拳銃としてはあまりにも大柄な、そして実戦に使うにはあまりにも酔狂すぎる代物だった。
 トンプソン・アンコール――――。
 正確に言うならば、トンプソン/センター社製。同社のコンテンダーの強化バージョンで、ライフル型などがある中のピストル・モデルだ。古式めいた上下二連式ショットガンのように銃身が根元から折れる中折れ式で、装填出来る弾は薬室にたった一発だけ……。
 あまりにも、酔狂が過ぎる代物だ。しかしそれを、ウォードッグは此処まで温存した上で満を持して取り出してきた。この意味が示すところを、ハリーはトンプソン・アンコールを一目見るなり察してしまう。
(アレが、奴のリーサル・ウェポンってことか……!)
 それを察すれば、ハリーは腰のUSPコンパクトを抜く間も無く全力疾走でその場を逃げ出した。
「――――喰らいなァッ!!」
 瞬間、雄叫びと物凄い爆音と共にトンプソン・アンコールが火を噴く。右腕一本で構えていたウォードッグの強靱な腕が、しかし強烈な反動に耐えきれず大きく上方に跳ね上がる。
 撃ち出されたのは、.30-06スプリングフィールド弾。先程インプレッサの防弾装甲を貫通した7.62mm×51NATOの原型となった弾で、アレよりも大柄で威力、貫通力ともに桁違いな代物だ。
 ウォードッグのトンプソン・アンコールから撃ち放たれた.30-06スプリングフィールド弾は凄まじい速度で飛翔し、一瞬前までハリーが隠れていたベンチを砕き、そして文字通りに吹き飛ばしてしまった。バラバラの破片と鳴ってベンチが派手に吹っ飛び、そして床を跳ねる。
「やべえ、やべえぜ流石に……!」
 駆け出したハリーは焦燥に駆られながら、咄嗟の遮蔽物が祭壇しかないと察し、その上を転がるようにして仕方なく向こう側に飛び込む。
「きゃっ!?」
 ともすれば、後ろに隠れていた和葉が突然転がり込んできたハリーに驚き、小さな悲鳴を上げる。
「ちょっ、大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃない!」
 肩で息をしながら、右腰のUSPコンパクトを抜くハリー。あの超威力なトンプソン・アンコールを前にしては、こんなものは豆鉄砲にしか見えず、今だけはひどく頼りなく思えてしまう。
「野郎、『ハード・ターゲット』に出てきたみてえな獲物使ってやがる」
「ヴァン=ダムの?」
「ああそうだ」と、焦りながらハリーが頷く。
「君に分かりやすく言えば、『ハード・ボイルド』の病院地下で隻眼が使ってたアレだ」
「……うん、それで大体分かった」
「だろ?」
 口先でこそそんな冗談を言い合う二人だが、和葉はともかくハリーの方は既に余裕なんて一切持ち合わせてはいなかった。
「ハリー、勝てるの?」
「分からん」不安げな瞳で見上げてくる和葉に、しかしハリーは正直に答えてやる。
「が、何とかしてみせる」
 と、ハリーが続けてそう言った瞬間だった――――。祭壇の傍にある聖母マリア像が、ウォードッグの撃ち放った.30-06ライフル弾の直撃を喰らい、爆発するように砕け散ったのは。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
 それに驚くハリーと和葉。細かい破片が二人の頭上から降り注ぐ中、遠くから聞こえるのはウォードッグの不敵な笑い声だった。
「へっへっへ……」
 ニコニコと、しかし犬歯剥き出しな獰猛すぎる闘犬みたいな笑みを浮かべながら、ウォードッグは仁王立ちしたままでトンプソン・アンコールの銃身を折り。空薬莢を放り捨てると、左手で指の間に挟みまくった次弾の内一発を薬室に装填。右手のスナップを利かせながら銃身を元に戻すと、撃鉄を起こしまたブッ放した。
「野郎、遊んでやがる……!」
 周りの十字架やら、ステンドグラスやらが.30-06スプリングフィールド弾の直撃を受けて砕けていく中、ハリーは奴が意図的に狙いを外していると悟っていた。恐怖を煽る為に、わざとこんな舌舐めずりするみたいな行為に及んでいると。
「嘗めやがって……!」
 そうして、いい加減わき上がる怒りが限界を迎えそうになったハリーが、奴に応戦しようと飛び出そうとした、その直後だった。バァンと音がして、教会の側面にあった扉が開いたのは。
「な、何事です!?」
 と、現れたのはこの教会の神父だった。修道服に身を包み、首からは十字架を提げる、四十代ぐらいの比較的若い神父が派手な銃撃戦の中、唐突に現れたのだ。
「あァ……?」
 そうすれば、ウォードッグは折角の楽しみに水を差されたような気分になり。トンプソン・アンコールの再装填を終えると、至極不機嫌そうな顔でその銃口を神父に向けた。
「っ!? 逃げろ!」
 ウォードッグの意図に気付いたハリーが咄嗟に大声で叫ぶが、もう何もかもが遅すぎた。
「――――邪魔なんだよ」
 ポツリ、とウォードッグが呟いた、その瞬間――――爆発にも似た凄まじい撃発音と共に、神父の胸が吹き飛んだ。
「っ……!」
 強烈な威力を誇る.30-06スプリングフィールド弾に左胸を撃ち抜かれた神父は、そのまま胸を真っ赤な華を咲かせるみたく肉を吹き飛ばされて。そして左腕までもが肩口から千切れ飛ぶと、そのままバタリと仰向けに倒れて事切れる。
「ひっ……!?」
 それを目の当たりにしてしまい、和葉が怯えた声を漏らす。それにハリーは「見るな……!」と言って目を逸らしてやりながら、しかし己が内で吹き上がる怒りの沸点が限界を迎えたことにも気付いていた。
「チッ、邪魔しやがって……」
 大きく舌打ちしながら、またトンプソン・アンコールを再装填するウォードッグ。その再装填作業が終わった直後、祭壇を飛び越えたハリーが遂に満を持して奴の前に躍り出た。その顔を、怒りの色に染め上げて。
「ウォードッグ、貴様――――ッ!!」
「来たかァ、ハリー・ムラサメェェェッ!!」
 USPコンパクトと、トンプソン・アンコール。二つの銃口が睨み合い、そして二つの銃声同士が重なり合う。
 そんな中――――教会の中では相変わらず、鳩が飛んでいた。白い羽を、ふわりふわりと上から舞い落としながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を

花籠しずく
キャラ文芸
 ――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。  月のものが来るようになってから、琥珀は不思議な夢を見る。誰かに探されている夢。きっと大切な人だったことは分かるのに、目が覚めると朧気で何も思い出せない。婚約者である志貴の言いなりの人形になる生活をし、生家とは会うと脅され、心が疲弊していたある日、家からひとり抜け出すと、妖魔のようなものに出会う。呪術師である志貴に、一時祓ってもらいはしたが、不思議と心が痛む。夢に美しい男が現れ、声に導かれるようにして、ある山のふもとの、廃れた神社の中に入ると、そこには苦しそうに蹲るあの妖魔がいた。琥珀はそれが夢に現れた、蘿月という男だと直感する。全身が黒い靄で包まれた彼の、靄を払う方法を、どうしてか琥珀は知っていた。口づけをし、息を吹き込むように、生きて、と願った。  帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。 「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」  これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。 ※R-15っぽいゆるい性描写があります。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

処理中です...