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Execute.03:ノエル・アジャーニ -Noelle Adjani-
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――――ノエル・アジャーニ。
転入生として二年A組の教室に、そして椿零士の前に現れたのは、確かにパリで別れた彼女だった。神北学園の制服を当然のように着こなし、零士ただひとりに向かって微笑みと言葉を向けてくる彼女は、紛れもなくあのミラージュだった。
「ふふっ……♪」
また零士だけに柔らかな微笑みを向けて、ノエルは担任教師に指定された席……即ち、零士の真後ろに新しく追加された、現・窓際最後尾の席へと歩み寄ってくる。
「レイ、これからよろしくね……?」
そして、零士の隣で一瞬だけ立ち止まり。瑞々しい唇を零士の耳元にまでサッと寄せれば、彼の耳元でそんなことを囁きかけてきた。
「零士と……知り合い……?」
そんな、一連の零士に対するノエルの言動を受けて小雪が困惑しきった顔でうわごとみたくひとりごちるが、それは彼女だけでなく、零士以外のクラスメイト全てが感じ、疑問符を浮かべ、困惑し動揺していることだった。
当然だ、彼女らはパリでの一件を知らないし、知るはずもない。突然現れたヨーロッパ人の……言い方は変かも知れないが、人間離れしているようにも思えるような、そんな可憐にして凛とした容姿の彼女。そんなノエルが、彼女らの目から見たらただのクラスメイトである零士と知り合いかもしれないだなんて、まさか予想なんて出来やしないのだ。
本音を言えば、零士とて彼女に色々と訊きたいところだった。パリで別れたはずの彼女とこんなところ、学園で転入生としてすぐに再開するだなんて、零士だってまさかまさか思っていたはずがない。もし予測していたとしたら、松田優作ばりに珈琲を霧吹きめいて吹き出したりなんぞしない。
だから、今すぐにでも詰め寄りたいのが零士の本音だった。本音だったのだが、無情なことにノエルが零士の後ろの席にスッと腰掛ければ、通常通りの朝のホームルームが始まってしまう。こうなってしまえば、幾ら前後の席という関係の超・至近距離に彼女が居るとしても、おいそれと話すことなんか出来やしない。
「どういうことなんだ、ワケが分からん……」
そういうワケで、零士に出来ることといえばそう、囁くぐらいの小声で独り呟き、胸中を巡り巡る困惑を言葉という形にして、少しでも吐き出すことだけだった。何をどうするにしても、彼女から何を訊き出すにしても。今は、ホームルームが続く今はあまりに状況が悪すぎる。
「これから、楽しみだな。それに、レイの後ろだしね……ふふっ♪」
ノエルが微かにひとりごちる声が、零士の耳朶を小さく打つ。彼女が楽しげな微笑みを浮かべていることは、小声ながらもご機嫌そうな声音からでも容易に察せられる。
ただひとつ、零士にとって救いだったのは。真後ろの席に陣取られていたとしても、彼女――ノエル・アジャーニならば背中を撃つような真似だけはしないこと。絶対にしないと確信を抱けていることだけが、今の状況に置かれた零士にとっての、唯一の救いだった。
「勘弁してくれよ、何なんだ……?」
シャーリィの差し金であることは、まず間違いない。というか、こんな馬鹿な真似をしでかすのはあの女以外には絶対に有り得ない。
どちらにせよ、これから先の学園生活。変わり映えはしないものの、退屈極まるものの。ある意味で平穏そのものだった椿零士のこれからの学園生活が、波乱に見舞われることだけは間違いなかった。学園生活に生じたイレギュラー、転入生ノエル・アジャーニの存在で何もかもが変わっていくことだろうことは、確実なことだった。それは、良い意味でも悪い意味でも……。
「ホントよ、泣かせるぜ……」
これから待ち受けるであろう波乱を予測すれば、零士はただただ頭を抱えるほかになかった。
「……ふふっ♪」
そんな憂鬱な背中越しに、二度目の出逢いを果たしてしまった彼女の、小さな雨音に混じって聞こえてくる、ノエルの微笑みを感じながら。
転入生として二年A組の教室に、そして椿零士の前に現れたのは、確かにパリで別れた彼女だった。神北学園の制服を当然のように着こなし、零士ただひとりに向かって微笑みと言葉を向けてくる彼女は、紛れもなくあのミラージュだった。
「ふふっ……♪」
また零士だけに柔らかな微笑みを向けて、ノエルは担任教師に指定された席……即ち、零士の真後ろに新しく追加された、現・窓際最後尾の席へと歩み寄ってくる。
「レイ、これからよろしくね……?」
そして、零士の隣で一瞬だけ立ち止まり。瑞々しい唇を零士の耳元にまでサッと寄せれば、彼の耳元でそんなことを囁きかけてきた。
「零士と……知り合い……?」
そんな、一連の零士に対するノエルの言動を受けて小雪が困惑しきった顔でうわごとみたくひとりごちるが、それは彼女だけでなく、零士以外のクラスメイト全てが感じ、疑問符を浮かべ、困惑し動揺していることだった。
当然だ、彼女らはパリでの一件を知らないし、知るはずもない。突然現れたヨーロッパ人の……言い方は変かも知れないが、人間離れしているようにも思えるような、そんな可憐にして凛とした容姿の彼女。そんなノエルが、彼女らの目から見たらただのクラスメイトである零士と知り合いかもしれないだなんて、まさか予想なんて出来やしないのだ。
本音を言えば、零士とて彼女に色々と訊きたいところだった。パリで別れたはずの彼女とこんなところ、学園で転入生としてすぐに再開するだなんて、零士だってまさかまさか思っていたはずがない。もし予測していたとしたら、松田優作ばりに珈琲を霧吹きめいて吹き出したりなんぞしない。
だから、今すぐにでも詰め寄りたいのが零士の本音だった。本音だったのだが、無情なことにノエルが零士の後ろの席にスッと腰掛ければ、通常通りの朝のホームルームが始まってしまう。こうなってしまえば、幾ら前後の席という関係の超・至近距離に彼女が居るとしても、おいそれと話すことなんか出来やしない。
「どういうことなんだ、ワケが分からん……」
そういうワケで、零士に出来ることといえばそう、囁くぐらいの小声で独り呟き、胸中を巡り巡る困惑を言葉という形にして、少しでも吐き出すことだけだった。何をどうするにしても、彼女から何を訊き出すにしても。今は、ホームルームが続く今はあまりに状況が悪すぎる。
「これから、楽しみだな。それに、レイの後ろだしね……ふふっ♪」
ノエルが微かにひとりごちる声が、零士の耳朶を小さく打つ。彼女が楽しげな微笑みを浮かべていることは、小声ながらもご機嫌そうな声音からでも容易に察せられる。
ただひとつ、零士にとって救いだったのは。真後ろの席に陣取られていたとしても、彼女――ノエル・アジャーニならば背中を撃つような真似だけはしないこと。絶対にしないと確信を抱けていることだけが、今の状況に置かれた零士にとっての、唯一の救いだった。
「勘弁してくれよ、何なんだ……?」
シャーリィの差し金であることは、まず間違いない。というか、こんな馬鹿な真似をしでかすのはあの女以外には絶対に有り得ない。
どちらにせよ、これから先の学園生活。変わり映えはしないものの、退屈極まるものの。ある意味で平穏そのものだった椿零士のこれからの学園生活が、波乱に見舞われることだけは間違いなかった。学園生活に生じたイレギュラー、転入生ノエル・アジャーニの存在で何もかもが変わっていくことだろうことは、確実なことだった。それは、良い意味でも悪い意味でも……。
「ホントよ、泣かせるぜ……」
これから待ち受けるであろう波乱を予測すれば、零士はただただ頭を抱えるほかになかった。
「……ふふっ♪」
そんな憂鬱な背中越しに、二度目の出逢いを果たしてしまった彼女の、小さな雨音に混じって聞こえてくる、ノエルの微笑みを感じながら。
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