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Execute.03:ノエル・アジャーニ -Noelle Adjani-
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そんな、ノエルのラブレターお返事巡礼がやっとこさ終わりを告げて、更に数日がたった頃。週末を目前に控えた、金曜日の放課後のことだった。
「この間の約束、今日でどうかな?」
ノエルが、そんな突拍子もないことを――転入初日に二人と交わした、今度三人で遊びに行こうという提案を、改めて零士と小雪にしてきたのは。
特に用事も無かったので、零士はそれを快諾し。小雪もまた「あ、うん。良いよっ」なんて風に承諾すれば、ノエルと零士、それに小雪の三人は揃って学園を後にして行く。
一旦敷地の裏手に回り、停めていたVT250Fのオートバイを回収し。零士はそれを手押しで引きながら、ノエルたちと三人並んで歩いていた。他愛の無い会話を交わしながら、零士は二人の笑顔に、少しだけ頬を緩めて。
「おぉぉーい!! そこのお三方ぁーっ!!」
と、そうして歩き出して間もなくのことだった。時代錯誤なエグゾースト・ノートの爆音を響かせる車が近づいてくるとともに、三人ともが聞き慣れた女の声が聞こえてきたのは。
「しゃ、シャーリィっ!?!?」
声に反応し、車道の方を振り向いたノエルが驚くのも、無理ないことだった。何せすぐ隣を並走するように滑り込んで来たのは古き良きオールド・アメリカンなマッスルカーで。まして、左ハンドル仕様のそれの窓から顔を出すのは、他でもないシャーリィ……シャーロット・グリフィスだったのだから。
「ぶわははは、楽しそうだね若人たち」
シャーリィの笑い声とともに、ハザードランプを炊いて路肩に止まるその大柄なアメリカン・マッスルカー。真っ赤なファストバック・スタイルのそれは、やはり紛れもなく彼女の車だ。
シボレー・シェベルSS。ヘッドライトが丸目四灯の1970年式だ。二ドアのハードトップで、モデルはSS454。確かトランスミッションは四速のフロア式マニュアル仕様だったと零士は記憶している。
燃え盛る炎のような真っ赤なボディと、その鼻先からテールまで突き抜けるのは二本のレーシング・ストライプ。ボンネットの奥に隠す、排気量七・四リッターのV8エンジンが奏でる、骨を揺さぶるみたいに重厚なエグゾースト・ノートは目立ちすぎるほどに目立っていた。それこそ、神北学園では他に無いぐらいに。
勿論、この車はシャーリィの私物で、そして百パーセント彼女の趣味で構成された車だ。乗っているのが元MI6の英国人と思うと似合わなさすぎるが、しかしシャーリィ自身が物凄く妙な性格だからか、変に似合って見えてしまうのが悔しい。主に、零士にとっては。
「うはーっ! グリフィス先生ってば今日もキマってるぅーっ!!」
そんなシェベルSSを見て、ひっくり返りそうなぐらいに驚くノエルとは対照的に、小雪の方はこんな具合で興奮気味だ。この辺りからも、彼女がかなりの好き者であることが窺える。
ちなみに余談だが、シャーリィがこんな派手なマッスルカーに乗っていることを知らないのは、転入生のノエルぐらいなものだ。シャーリィの愛車は学園一、有名と言っても過言ではない。一応彼女も「実用」と言い張ってもう一台、1992年式のZ16A型の三菱・GTOを所有していた筈だが、専ら学園までの通勤に使っているのはシェベルSSのようだ。ちなみにGTOの色も真っ赤。シャーリィはよほど赤色が好きらしい。
「よせやいよせやい、そんなに褒めるなって」
興奮気味な小雪に褒められて、シャーリィもご機嫌だ。何故かまだ白衣こそ羽織っているものの、ニヤニヤとしながら煙草を吹かし、ランドルフのアヴィエーター・サングラスを掛けながらシェベルSSに乗る彼女は、妙に様になって腹が立つ。本当に、腹が立つ。
「ね、ねえレイ……」
と、そんな二人をよそに、まだ困惑した顔のノエルはチョイチョイ、と零士の裾を引っ張ってくる。説明を求めているらしい。
「気にするな、これがシャーリィだ」
だが、零士の回答といえばそんなものだった。というより、そうとしか答えられない。
「君といい、シャーリィといい……。なんていうか、凄いところに来ちゃった感じだよ」
「というか、俺をあんな風にした原因はアイツだよ」
「……それ、本当なの?」
「マジもマジ、大マジだ。なんなら百ドル賭けてもいい」
呆れ気味で零士が言えば、その隣でノエルが「あはは……」と苦笑いを浮かべる。とりあえず、何となく色々と察してくれたらしい。
「なんだなんだ、今日の零士は両手に花でウィークエンドと洒落込もうってワケかい。全く元気なことだねえ、君たち」
シェベルSSの運転席から身を乗り出してきたシャーリィが、またもニヤニヤとしながら茶化してくる。
「良いだろ別に、遊びに行くだけだ」
「私は悪いなんて言ってないよ、零士。……というかそれ、私以外の教師に見つかってくれるなよ?」
「ん?」
シャーリィの視線が、零士が押す漆黒のVT250Fへと注がれている。それを不思議に思った零士が首を傾げていれば、シャーリィは「あのねえ……」と溜息をつき、
「一応、っていうか全力で校則違反だからねそれ。君が捕まるのは勝手だけれど、捕まったら捕まったで、私がフォロー入れるのも一苦労なんだから。ホントに、見つかってくれるんじゃないよ」
「分かってるよ、俺はそんな下手は打たない」
「ま、君ならそう言うと思ったけれどね」
当然のような顔をして言う零士に、シャーリィはニヤリとした笑みを返すと。「それじゃあ三人とも、気を付けて帰りなよ」と言えば、シェベルSSのギアを入れた。
「それじゃあ若者たちよ、また来週逢おう! はっはっはっはー!!」
そうすれば、回転数を跳ね上げたV8エンジンが骨を揺さぶるような低い唸り声を上げて。シャーリィはシェベルSSの空転させた後輪でギャァッとホイールスピンをカマせば、凄まじい勢いで零士たちの元を離れていった。
「うほーっ! 凄い凄いっ!! さーっすがはグリフィス先生だぁ、イカしてるぅっ!!」
「……なんて言うか、シャーリィらしいよね」
「否定はしない」
後に残るのは、空転したタイヤの起こした白煙と、仄かに漂うガソリン臭。そして、路面に色濃く残ったタイヤのブラックマークだけ。
そんなのを残し、遠ざかっていく真っ赤なシェベルSSのテールランプを眺めながら。興奮一色に染まる小雪をよそに、ノエルと零士はそんな風に微妙な表情を交わし合っていた。
「この間の約束、今日でどうかな?」
ノエルが、そんな突拍子もないことを――転入初日に二人と交わした、今度三人で遊びに行こうという提案を、改めて零士と小雪にしてきたのは。
特に用事も無かったので、零士はそれを快諾し。小雪もまた「あ、うん。良いよっ」なんて風に承諾すれば、ノエルと零士、それに小雪の三人は揃って学園を後にして行く。
一旦敷地の裏手に回り、停めていたVT250Fのオートバイを回収し。零士はそれを手押しで引きながら、ノエルたちと三人並んで歩いていた。他愛の無い会話を交わしながら、零士は二人の笑顔に、少しだけ頬を緩めて。
「おぉぉーい!! そこのお三方ぁーっ!!」
と、そうして歩き出して間もなくのことだった。時代錯誤なエグゾースト・ノートの爆音を響かせる車が近づいてくるとともに、三人ともが聞き慣れた女の声が聞こえてきたのは。
「しゃ、シャーリィっ!?!?」
声に反応し、車道の方を振り向いたノエルが驚くのも、無理ないことだった。何せすぐ隣を並走するように滑り込んで来たのは古き良きオールド・アメリカンなマッスルカーで。まして、左ハンドル仕様のそれの窓から顔を出すのは、他でもないシャーリィ……シャーロット・グリフィスだったのだから。
「ぶわははは、楽しそうだね若人たち」
シャーリィの笑い声とともに、ハザードランプを炊いて路肩に止まるその大柄なアメリカン・マッスルカー。真っ赤なファストバック・スタイルのそれは、やはり紛れもなく彼女の車だ。
シボレー・シェベルSS。ヘッドライトが丸目四灯の1970年式だ。二ドアのハードトップで、モデルはSS454。確かトランスミッションは四速のフロア式マニュアル仕様だったと零士は記憶している。
燃え盛る炎のような真っ赤なボディと、その鼻先からテールまで突き抜けるのは二本のレーシング・ストライプ。ボンネットの奥に隠す、排気量七・四リッターのV8エンジンが奏でる、骨を揺さぶるみたいに重厚なエグゾースト・ノートは目立ちすぎるほどに目立っていた。それこそ、神北学園では他に無いぐらいに。
勿論、この車はシャーリィの私物で、そして百パーセント彼女の趣味で構成された車だ。乗っているのが元MI6の英国人と思うと似合わなさすぎるが、しかしシャーリィ自身が物凄く妙な性格だからか、変に似合って見えてしまうのが悔しい。主に、零士にとっては。
「うはーっ! グリフィス先生ってば今日もキマってるぅーっ!!」
そんなシェベルSSを見て、ひっくり返りそうなぐらいに驚くノエルとは対照的に、小雪の方はこんな具合で興奮気味だ。この辺りからも、彼女がかなりの好き者であることが窺える。
ちなみに余談だが、シャーリィがこんな派手なマッスルカーに乗っていることを知らないのは、転入生のノエルぐらいなものだ。シャーリィの愛車は学園一、有名と言っても過言ではない。一応彼女も「実用」と言い張ってもう一台、1992年式のZ16A型の三菱・GTOを所有していた筈だが、専ら学園までの通勤に使っているのはシェベルSSのようだ。ちなみにGTOの色も真っ赤。シャーリィはよほど赤色が好きらしい。
「よせやいよせやい、そんなに褒めるなって」
興奮気味な小雪に褒められて、シャーリィもご機嫌だ。何故かまだ白衣こそ羽織っているものの、ニヤニヤとしながら煙草を吹かし、ランドルフのアヴィエーター・サングラスを掛けながらシェベルSSに乗る彼女は、妙に様になって腹が立つ。本当に、腹が立つ。
「ね、ねえレイ……」
と、そんな二人をよそに、まだ困惑した顔のノエルはチョイチョイ、と零士の裾を引っ張ってくる。説明を求めているらしい。
「気にするな、これがシャーリィだ」
だが、零士の回答といえばそんなものだった。というより、そうとしか答えられない。
「君といい、シャーリィといい……。なんていうか、凄いところに来ちゃった感じだよ」
「というか、俺をあんな風にした原因はアイツだよ」
「……それ、本当なの?」
「マジもマジ、大マジだ。なんなら百ドル賭けてもいい」
呆れ気味で零士が言えば、その隣でノエルが「あはは……」と苦笑いを浮かべる。とりあえず、何となく色々と察してくれたらしい。
「なんだなんだ、今日の零士は両手に花でウィークエンドと洒落込もうってワケかい。全く元気なことだねえ、君たち」
シェベルSSの運転席から身を乗り出してきたシャーリィが、またもニヤニヤとしながら茶化してくる。
「良いだろ別に、遊びに行くだけだ」
「私は悪いなんて言ってないよ、零士。……というかそれ、私以外の教師に見つかってくれるなよ?」
「ん?」
シャーリィの視線が、零士が押す漆黒のVT250Fへと注がれている。それを不思議に思った零士が首を傾げていれば、シャーリィは「あのねえ……」と溜息をつき、
「一応、っていうか全力で校則違反だからねそれ。君が捕まるのは勝手だけれど、捕まったら捕まったで、私がフォロー入れるのも一苦労なんだから。ホントに、見つかってくれるんじゃないよ」
「分かってるよ、俺はそんな下手は打たない」
「ま、君ならそう言うと思ったけれどね」
当然のような顔をして言う零士に、シャーリィはニヤリとした笑みを返すと。「それじゃあ三人とも、気を付けて帰りなよ」と言えば、シェベルSSのギアを入れた。
「それじゃあ若者たちよ、また来週逢おう! はっはっはっはー!!」
そうすれば、回転数を跳ね上げたV8エンジンが骨を揺さぶるような低い唸り声を上げて。シャーリィはシェベルSSの空転させた後輪でギャァッとホイールスピンをカマせば、凄まじい勢いで零士たちの元を離れていった。
「うほーっ! 凄い凄いっ!! さーっすがはグリフィス先生だぁ、イカしてるぅっ!!」
「……なんて言うか、シャーリィらしいよね」
「否定はしない」
後に残るのは、空転したタイヤの起こした白煙と、仄かに漂うガソリン臭。そして、路面に色濃く残ったタイヤのブラックマークだけ。
そんなのを残し、遠ざかっていく真っ赤なシェベルSSのテールランプを眺めながら。興奮一色に染まる小雪をよそに、ノエルと零士はそんな風に微妙な表情を交わし合っていた。
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