24 / 430
第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』
Int.24:幕間、黄金の月夜②
しおりを挟む
「痛ててて……」
独り座布団を枕に床へ横たわりながら、頭に出来た新品のたんこぶをさする一真。ズキズキと鈍痛を訴えてくるソイツが、鍛え上げられた玉鋼の刀身のせいだというのは言うまでもない。
「ぶつことねーだろ、ぶつことさぁ……」
ぶつくさと呟きながら、一真は頭に出来たたんこぶをさすり続ける。
――――今にして思えば完全に錯乱していた瀬那が振り下ろしてきた刀を、実は一真は一度受け止めた。いわゆる真剣白刃取りって奴で、我ながらよく出来たと一真は思う。とはいえその後で手から刀身がすっぽ抜け、結局このザマなのだが。
「こりゃひょっとして、峰打ちの方がキッツいかもなあ」
刀の峰を喰らった頭から響く鈍痛に、一真は苦笑いをした。
峰打ちというと慈悲深い不殺の一撃に聞こえるかもしれないが、例え刃が付けられていなくても刀の刀身って奴は超高密度の鋼鉄の塊であることには変わりない。つまりは峰打ちであろうと鈍器であるわけで、鉄パイプよりも断然重いものが降ってくるのと同義なのだ。当然、当たれば痛い。
だがまあ、不意の事故といえ自分がああしてしまったことには変わりなく、瀬那がアレだけ取り乱すのも無理は無いのかもしれない。
「しっかし、アレってやっぱ……ぱん――」
頭の上に降ってきた謎の布の正体を思い出そうとした一真だったが、
「うっ」
そのことを考えた途端、たんこぶに重い鈍痛が走った。また視界の中で星が瞬きそうな錯覚に襲われてしまいそうだから、一真は激しく頭を左右に振って鈍痛ごとその思考を頭の外へ追い出した。
「しゃーない、テレビでも見るか」
特に何もすることが無く手持ち無沙汰だったので、一真は手近にある背の低いテーブルの上からテレビのリモコンを手繰り寄せ、部屋の隅にちょこんと置かれたテレビの電源を付けた。
前に瀬那が見ていたままなのか、チャンネルは民放でなく国営放送に合わさっていた。時間帯が時間帯だからか、丁度今は報道番組が流れている。特にすることも無く風呂が空くのを待っているだけの一真は、仕方ないのでその報道番組に耳を傾けた。
『本日午前九時頃、防衛省は昨夜未明頃に国防軍・九州方面軍が大分の全域奪還に成功したと発表しました。これで九州全土の奪還は一年と九ヶ月振りとなり――――』
「へえ、大分取り戻せたんだ」
誰に向けるでもなく、ただ独り言を呟く一真。大分は四国から九州方面へ攻め込む幻魔たちの橋頭堡になっていた地域だから、あそこを取り戻せたとなれば良いニュースだ。
――――日本は現在、その本土の一部を幻魔に奪われている。それもこれも、四十数年前に地球外より落着した六つの幻基巣、その内一つ――国際コード・G06と呼称されるものが四国中央部に落着したことに端を発した。
それから四十数年の間、日本は四国を取り戻せてはいない。それどころか九州、中国地方南部、近畿の一部を奪い合っているような様相だ。一応瀬戸内海沿いには"瀬戸内絶対防衛線"という防衛ラインを敷いてはいるが、それもいつ喰い破られてしまうか分かったものではない。
日本国防軍が最終目標とするのは、G06四国幻基巣の破壊と四国全域の奪還にある。しかし幻魔の数に任せた熾烈な猛攻に世界各国の軍同様、防戦一方にならざるを得ない国防軍は戦力だけをジリジリと浪費することしか出来ず、そしていつしか四十年以上の刻が経ってしまっていた。
寒さに弱く、冬期になると休眠期に入るという幻魔の謎めいた習性が無ければ、とっくに日本は全土を奴らに蹂躙されていたことだろう。在日米軍や国連軍の助けはあるものの、それだっていつ手を引かれるか分かったものじゃない。アメリカだって、至近のメキシコに幻基巣を抱えているのだ……。
「…………俺たちの代で、終わるのかな」
ふと、自分でも気付かぬ内に一真はそんなことを口走っていた。
この戦いが、己の世代を最後に終わってくれればいい――――。
それは、この終わりなき絶滅戦争に身を投じる戦士たちの誰もが想い夢見ることだ。あんな訳の分からない連中との不毛な戦いなど、後の世代に引き継がせたくはないと誰もが思う。
しかし、それは儚すぎる理想だ。現に敵は健在で、落着した六つの幻基巣の内二つは人類の死力を尽くした攻勢が功を奏し、既に破壊されている。だが現実としてまだ四つの幻基巣が健在で、前線基地めいた小規模な幻基巣もどきが支配地域の各所に増えているという。
「…………」
そんなことを思い出してしまい、なんだか気分が暗くなってしまった。一真は「あー、やめやめ!」とひとりごちて頭を振ると、よっこいしょと起き上がり胡坐をかく。
「ま、考えても仕方ないよなあ」
……そうだ、考えたところで仕方ない。自分たちに出来ることは、戦うことだけなのだから。いつかこの戦いが終わる日を信じて、その日まで戦い続けるだけだ……。
そうした頃に、遠くで浴室の扉が開く音が微かに聞こえてきた。仄かな湯気と共に漂ってくる石鹸の匂いに釣られ、一真はスッと立ち上がる。
独り座布団を枕に床へ横たわりながら、頭に出来た新品のたんこぶをさする一真。ズキズキと鈍痛を訴えてくるソイツが、鍛え上げられた玉鋼の刀身のせいだというのは言うまでもない。
「ぶつことねーだろ、ぶつことさぁ……」
ぶつくさと呟きながら、一真は頭に出来たたんこぶをさすり続ける。
――――今にして思えば完全に錯乱していた瀬那が振り下ろしてきた刀を、実は一真は一度受け止めた。いわゆる真剣白刃取りって奴で、我ながらよく出来たと一真は思う。とはいえその後で手から刀身がすっぽ抜け、結局このザマなのだが。
「こりゃひょっとして、峰打ちの方がキッツいかもなあ」
刀の峰を喰らった頭から響く鈍痛に、一真は苦笑いをした。
峰打ちというと慈悲深い不殺の一撃に聞こえるかもしれないが、例え刃が付けられていなくても刀の刀身って奴は超高密度の鋼鉄の塊であることには変わりない。つまりは峰打ちであろうと鈍器であるわけで、鉄パイプよりも断然重いものが降ってくるのと同義なのだ。当然、当たれば痛い。
だがまあ、不意の事故といえ自分がああしてしまったことには変わりなく、瀬那がアレだけ取り乱すのも無理は無いのかもしれない。
「しっかし、アレってやっぱ……ぱん――」
頭の上に降ってきた謎の布の正体を思い出そうとした一真だったが、
「うっ」
そのことを考えた途端、たんこぶに重い鈍痛が走った。また視界の中で星が瞬きそうな錯覚に襲われてしまいそうだから、一真は激しく頭を左右に振って鈍痛ごとその思考を頭の外へ追い出した。
「しゃーない、テレビでも見るか」
特に何もすることが無く手持ち無沙汰だったので、一真は手近にある背の低いテーブルの上からテレビのリモコンを手繰り寄せ、部屋の隅にちょこんと置かれたテレビの電源を付けた。
前に瀬那が見ていたままなのか、チャンネルは民放でなく国営放送に合わさっていた。時間帯が時間帯だからか、丁度今は報道番組が流れている。特にすることも無く風呂が空くのを待っているだけの一真は、仕方ないのでその報道番組に耳を傾けた。
『本日午前九時頃、防衛省は昨夜未明頃に国防軍・九州方面軍が大分の全域奪還に成功したと発表しました。これで九州全土の奪還は一年と九ヶ月振りとなり――――』
「へえ、大分取り戻せたんだ」
誰に向けるでもなく、ただ独り言を呟く一真。大分は四国から九州方面へ攻め込む幻魔たちの橋頭堡になっていた地域だから、あそこを取り戻せたとなれば良いニュースだ。
――――日本は現在、その本土の一部を幻魔に奪われている。それもこれも、四十数年前に地球外より落着した六つの幻基巣、その内一つ――国際コード・G06と呼称されるものが四国中央部に落着したことに端を発した。
それから四十数年の間、日本は四国を取り戻せてはいない。それどころか九州、中国地方南部、近畿の一部を奪い合っているような様相だ。一応瀬戸内海沿いには"瀬戸内絶対防衛線"という防衛ラインを敷いてはいるが、それもいつ喰い破られてしまうか分かったものではない。
日本国防軍が最終目標とするのは、G06四国幻基巣の破壊と四国全域の奪還にある。しかし幻魔の数に任せた熾烈な猛攻に世界各国の軍同様、防戦一方にならざるを得ない国防軍は戦力だけをジリジリと浪費することしか出来ず、そしていつしか四十年以上の刻が経ってしまっていた。
寒さに弱く、冬期になると休眠期に入るという幻魔の謎めいた習性が無ければ、とっくに日本は全土を奴らに蹂躙されていたことだろう。在日米軍や国連軍の助けはあるものの、それだっていつ手を引かれるか分かったものじゃない。アメリカだって、至近のメキシコに幻基巣を抱えているのだ……。
「…………俺たちの代で、終わるのかな」
ふと、自分でも気付かぬ内に一真はそんなことを口走っていた。
この戦いが、己の世代を最後に終わってくれればいい――――。
それは、この終わりなき絶滅戦争に身を投じる戦士たちの誰もが想い夢見ることだ。あんな訳の分からない連中との不毛な戦いなど、後の世代に引き継がせたくはないと誰もが思う。
しかし、それは儚すぎる理想だ。現に敵は健在で、落着した六つの幻基巣の内二つは人類の死力を尽くした攻勢が功を奏し、既に破壊されている。だが現実としてまだ四つの幻基巣が健在で、前線基地めいた小規模な幻基巣もどきが支配地域の各所に増えているという。
「…………」
そんなことを思い出してしまい、なんだか気分が暗くなってしまった。一真は「あー、やめやめ!」とひとりごちて頭を振ると、よっこいしょと起き上がり胡坐をかく。
「ま、考えても仕方ないよなあ」
……そうだ、考えたところで仕方ない。自分たちに出来ることは、戦うことだけなのだから。いつかこの戦いが終わる日を信じて、その日まで戦い続けるだけだ……。
そうした頃に、遠くで浴室の扉が開く音が微かに聞こえてきた。仄かな湯気と共に漂ってくる石鹸の匂いに釣られ、一真はスッと立ち上がる。
0
あなたにおすすめの小説
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
世にも奇妙な世界 弥勒の世
蔵屋
キャラ文芸
私は、日本神道の家に生まれ、長年、神さまの教えに触れ、神さまとともに生きてきました。するとどうでしょう。神さまのことがよくわかるようになりました。また、私の家は、真言密教を信仰する家でもありました。しかし、私は日月神示の教えに出会い、私の日本神道と仏教についての考え方は一変しました。何故なら、日月神示の教えこそが、私達人類が暮らしている大宇宙の真理であると隠ししたからです。そして、出口なおという人物の『お筆先』、出口王仁三郎の『霊界物語』、岡田茂吉の『御神書(六冊)』、『旧約聖書』、『新訳聖書』、『イエス・キリストの福音書(四冊)』、『法華経』などを学問として、研究し早いもので、もう26年になります。だからこそ、この『奇妙な世界 弥勒の世』という小説を執筆中することが出来るのです。
私が執筆した小説は、思想と言論の自由に基づいています。また、特定の人物、団体、機関を否定し、批判し、攻撃するものではありません。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる