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第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』
Int.25:幕間、黄金の月夜③
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「ふぅ……」
さぁっ、と仄かな湯気を伴いシャワー・ヘッドから流れ落ちる湯を浴びながら、瀬那は浴室で独り小さく息をついていた。
頭上から流れ落ちる水滴が肌を伝い、雫となって床へと流れ落ちる。解いた藍色の髪は腰まで届き、水気を含み少しばかり重たいそれを微かに揺らしながら、瀬那はシャワーを止める。
傍らの浴槽に足を付け、満たされた湯の中へそのままゆっくりと身体を沈めていった。肩まで暖かい湯に浸かり、安堵感に身体が満たされ力が抜けていくと、自然と瀬那は「ふぅ」と今一度の息をついてしまう。
「…………」
呟く独り言さえ見つからないまま、瀬那は口先辺りまで湯に沈みながら顔を伏せる。湯に浸かっているお陰か表情は随分とリラックスしていたが、しかし内心はほんの少しばかり憂いを孕んでいる。
「……少し、取り乱しすぎたやもしれぬな」
先程の一真との一件を思い返しながら、瀬那は誰に向けるでもなくぽつりとひとりごちた。
「彼奴は何もしておらぬではないか……。であるのに、私は。
…………しかし、一真には悪いことをした」
――――先刻の一件に関して、一真は何もしていないどころか、寧ろ完全な被害者だ。完全に自分が早とちりというか行き過ぎた考えを巡らせてしまったというか、とにかく悪いのはこちらであって、一真に何ら非は無い。
「全く、一真と居ると調子が狂って仕方ない……っ!」
うーっ、と困ったように唸りながら、もう少し顔を浴槽に沈める瀬那。金色の瞳は落ち着き無く小刻みに震え、瞼は自然と細まってしまう。
普段の自分なら、あんな取り乱し方はしないのに。それが何故、一真が相手となるとああも冷静でいられなくなってしまうのか。
考えてみる。考えてみるが、分からない。ただ、一真を思い返すと胸の奥がチリッと痛む……ような気がする。
とにかく、彼を前にすると瀬那は普段通りでいられなくなってしまう。最初はそうでも無かったはずなのに……成り行き上で彼とここで共に過ごす内、いつしか瀬那はそんな風になってしまっていた。
それがいつからなのか、詳しい時期は覚えていない。理由だって、分からない。そしてきっと、理由も根拠も分かりはしないのだろうと、何故かそう思ってしまう。
「…………」
過ごす時間は、誰よりも長いはずなのに。彼との距離は、誰よりも近いはずなのに。なのに瀬那は、何故だか急に一真が遠く、手の届かない位置に居るような錯覚を覚えてしまった。
錯覚だというのは分かっている。しかしそんな気持ちに伴って、何故かひどく罪悪感を覚えてしまっていた。
「あまり考えすぎるのも、よくない」
と、瀬那は独り言を呟く。まるで己に言い聞かせるように、一度気持ちをリセットしろと言い聞かせるみたいに。
そうして瀬那は立ち上がり、浴槽から出た。彼女の肌や髪を滑り落ちる大量の水滴が床に落ち、水音を奏でる。
(ともかく、あの者には一度詫びよう)
――――でなければ、申し訳が立たぬ。
そんなことを胸の内で思いながら、瀬那は閉じていた浴室の戸を開けた。石鹸の匂いと共に浴室から湯気が漏れ出す。小さく息をつく瀬那の表情は、少しだけ憑きものが取れたようにも見えていた。
さぁっ、と仄かな湯気を伴いシャワー・ヘッドから流れ落ちる湯を浴びながら、瀬那は浴室で独り小さく息をついていた。
頭上から流れ落ちる水滴が肌を伝い、雫となって床へと流れ落ちる。解いた藍色の髪は腰まで届き、水気を含み少しばかり重たいそれを微かに揺らしながら、瀬那はシャワーを止める。
傍らの浴槽に足を付け、満たされた湯の中へそのままゆっくりと身体を沈めていった。肩まで暖かい湯に浸かり、安堵感に身体が満たされ力が抜けていくと、自然と瀬那は「ふぅ」と今一度の息をついてしまう。
「…………」
呟く独り言さえ見つからないまま、瀬那は口先辺りまで湯に沈みながら顔を伏せる。湯に浸かっているお陰か表情は随分とリラックスしていたが、しかし内心はほんの少しばかり憂いを孕んでいる。
「……少し、取り乱しすぎたやもしれぬな」
先程の一真との一件を思い返しながら、瀬那は誰に向けるでもなくぽつりとひとりごちた。
「彼奴は何もしておらぬではないか……。であるのに、私は。
…………しかし、一真には悪いことをした」
――――先刻の一件に関して、一真は何もしていないどころか、寧ろ完全な被害者だ。完全に自分が早とちりというか行き過ぎた考えを巡らせてしまったというか、とにかく悪いのはこちらであって、一真に何ら非は無い。
「全く、一真と居ると調子が狂って仕方ない……っ!」
うーっ、と困ったように唸りながら、もう少し顔を浴槽に沈める瀬那。金色の瞳は落ち着き無く小刻みに震え、瞼は自然と細まってしまう。
普段の自分なら、あんな取り乱し方はしないのに。それが何故、一真が相手となるとああも冷静でいられなくなってしまうのか。
考えてみる。考えてみるが、分からない。ただ、一真を思い返すと胸の奥がチリッと痛む……ような気がする。
とにかく、彼を前にすると瀬那は普段通りでいられなくなってしまう。最初はそうでも無かったはずなのに……成り行き上で彼とここで共に過ごす内、いつしか瀬那はそんな風になってしまっていた。
それがいつからなのか、詳しい時期は覚えていない。理由だって、分からない。そしてきっと、理由も根拠も分かりはしないのだろうと、何故かそう思ってしまう。
「…………」
過ごす時間は、誰よりも長いはずなのに。彼との距離は、誰よりも近いはずなのに。なのに瀬那は、何故だか急に一真が遠く、手の届かない位置に居るような錯覚を覚えてしまった。
錯覚だというのは分かっている。しかしそんな気持ちに伴って、何故かひどく罪悪感を覚えてしまっていた。
「あまり考えすぎるのも、よくない」
と、瀬那は独り言を呟く。まるで己に言い聞かせるように、一度気持ちをリセットしろと言い聞かせるみたいに。
そうして瀬那は立ち上がり、浴槽から出た。彼女の肌や髪を滑り落ちる大量の水滴が床に落ち、水音を奏でる。
(ともかく、あの者には一度詫びよう)
――――でなければ、申し訳が立たぬ。
そんなことを胸の内で思いながら、瀬那は閉じていた浴室の戸を開けた。石鹸の匂いと共に浴室から湯気が漏れ出す。小さく息をつく瀬那の表情は、少しだけ憑きものが取れたようにも見えていた。
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