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第六章『黒の衝撃/ライトニング・ブレイズ』
Int.50:Fの鼓動/起動、マーク・アルファ改
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「カズマちゃん、しっかり頼むわよぉ!」
頭上から聞こえてくるクリスの激励とともに、純白の装甲で覆われたコクピットの乗降ハッチが閉じられる。その純白をした機体――JS-17F改-01≪閃電≫・タイプF改/試作一号機のコクピット・シートに収まる一真は閉じていた瞼をスッと開くと、淀みない手つきで機体の起動作業を開始した。
既に灯っていた補助灯や計器類の微かな灯りに網膜を刺激されつつ、そこにヘッド・ギアから直接投影される各種情報を参照しながら起動を開始する。真正面にあるコントロール・パネルの液晶モニタに触れ、幾らかのトグル・スウィッチを弾けば、一真の周りをぐるりと囲んでいた半天周型のシームレス・モニタに光が宿った。真っ白にホワイト・アウトしたモニタが、薄暗かったコクピット・ブロックの中を蛍光灯めいて明るく照らす。
やがて白一色に染まるのモニタ中央部分に現れるのは、"SENDEN-TYPE F KAI"という文字だ。それが、機体の製造元である綾崎重工のメーカー・ロゴ、そして国防軍・技術研究本部のエンブレムと一緒になって表示された。
その一連の文字とロゴが消えると、一気にシームレス・モニタの中は様変わりし、白一色の殺風景だった画面がすぐさま賑やかになる。くるりと一真の周囲を囲む、継ぎ目の無い半球状のモニタに映し出されるのは、機体のカメラが捉えた外界の景色だ。燦々と降り注ぐ晩夏の刺すような日差しを浴びる、切り拓かれた山の中に在る景色が一真の視界へと飛び込んでくる。
陸軍の嵐山演習場だ。数台の73式TAMS前線輸送トレーラーで二機のタイプF改が運び込まれたこの演習場で、今日は市街地フィールドを使った稼働テスト、及び模擬団を用いた性能評価試験が行われる手筈になっていた。機体を改修してから初めての起動テストより今日まで、あれから早くも数日が経過している。
「UHF/VHF帯通常無線、動作チェック……オーケー、問題なし。燃料電池、及び電装系のコンディションもオールグリーン。各部人工筋肉パッケージ、及びサーボ・モーターも正常動作中。HTDLC起動、戦術モードをテストモードへ設定。各機とデータリンクを開始。固有識別コールサイン、ヴァイパー02……」
目の前のタッチ・パネルや各部のスウィッチを弾きながらの起動作業を、一真は自己確認の意味も込めて独り言のように口に出して呟き、反芻しながら作業を続けて行く。アップデートされた関係で、改修前とOSの操作感覚がかなり違うから最初こそ手間取ったものの、今となっては一真も新しい機体制御OSにかなり慣れてきていた。
「起動手順、フェイズ60まで全て完了。セルフ・チェック・プログラムを起動、チェック開始……問題なし。
――――ヴァイパー02、コンディション・オールグリーン。今のところは問題無さそうだ」
六十もの起動手順を全て完了し、最後に走らせた自己診断プログラムも異常なしを告げれば、一真はHTDLC(高度戦術データリンク制御システム)の通信システムから、トレーラーに横倒しで固定されている機体へ直に有線接続されている通信回線へとそう告げる。
『はいはい、了解よん。背中のターボ・スラスタの方はどうかしら? 異常ないわよね?』
すると、機外に居るのであろうクリスからそんな返信が返ってきた。それに一真は「今のところは、特に異常も出てない」と告げ返す。
『はいはぁい、ならオッケーよ。どうかしら、いい加減マーク・アルファ改にも慣れてきた感じぃ?』
「起動手順だけなら、何とかな。後は実際動かしてみて、どう出るかが問題だよ」
『その辺は抜かりなし、少なくともアタシたちは完璧な仕事をしたって思ってるわ。後は……動かしてみて、ホントにどんな問題が洗い出てくるかよね。カズマちゃんには面倒掛けちゃうけれど』
「気にしないでくれよ」と、一真は苦笑い気味にクリスに言う。「とりあえずはテスト・パイロットみたいなモンなんだ。機体の欠点を洗い出すのは、俺たちの役割さ」
『あら、嬉しいこと言ってくれるのねぇ♪ ホントにカズマちゃんってば可愛いんだからぁ。ねね、今度アタシとデートでもどうかしらぁ?』
「……謹んで遠慮させて貰うよ」
『んもうっ、カズマちゃんのイケずぅ!』
冗談っぽく言葉を交わし合った後で、クリスは『それじゃあ、有線接続は切っちゃうわ』と、いい加減に話を真面目な本題の方向へと軌道修正する。
『すぐにデッキ起こすから、待ってて頂戴ね? アームの固定解除タイミングは、カズマちゃんに一任するわぁ♪』
「了解だ」
そうすれば、機外からの有線通信回線が切断される。間もなく一真と≪閃電≫・タイプF改が寝かされていた73式トレーラーの荷台が油圧仕掛けで独りでに起き上がると、横たわっていた荷台は暫くもしない内に八十度ぐらいまでの角度に起き上がった。そうすれば感覚も視界も直立姿勢と変わらないぐらいになり、嵐山演習場の豊かな緑と、そしてそれを背景として彩る真っ青な蒼穹がシームレス・モニタに映し出される。
「アーム固定解除、ヴァイパー02、降りるぜ」
機体を荷台に縛り付けていた固定アームをこちら側から解除し、トレーラーから降りた純白の脚が嵐山演習場の大地を再び力強く踏み締めた。以前とは違う、生まれ変わった姿で。
「さてと、上手い具合に仕上がってることを祈るか」
一真の何気ない言葉に呼応するかのように、頭部の真っ赤な双眼式カメラ・アイが赤く光り、低く唸り声を上げる。隣では瀬那の乗る藍色の試作二号機も起き上がっていて、あちらもあちらで睨み付けるようなカメラ・アイの赤い双眸を瞬かせていた。
純白の試作一号機、そして藍色の試作二号機。生まれ変わった二機のタイプFが、再びその脚で大地に立つ。
頭上から聞こえてくるクリスの激励とともに、純白の装甲で覆われたコクピットの乗降ハッチが閉じられる。その純白をした機体――JS-17F改-01≪閃電≫・タイプF改/試作一号機のコクピット・シートに収まる一真は閉じていた瞼をスッと開くと、淀みない手つきで機体の起動作業を開始した。
既に灯っていた補助灯や計器類の微かな灯りに網膜を刺激されつつ、そこにヘッド・ギアから直接投影される各種情報を参照しながら起動を開始する。真正面にあるコントロール・パネルの液晶モニタに触れ、幾らかのトグル・スウィッチを弾けば、一真の周りをぐるりと囲んでいた半天周型のシームレス・モニタに光が宿った。真っ白にホワイト・アウトしたモニタが、薄暗かったコクピット・ブロックの中を蛍光灯めいて明るく照らす。
やがて白一色に染まるのモニタ中央部分に現れるのは、"SENDEN-TYPE F KAI"という文字だ。それが、機体の製造元である綾崎重工のメーカー・ロゴ、そして国防軍・技術研究本部のエンブレムと一緒になって表示された。
その一連の文字とロゴが消えると、一気にシームレス・モニタの中は様変わりし、白一色の殺風景だった画面がすぐさま賑やかになる。くるりと一真の周囲を囲む、継ぎ目の無い半球状のモニタに映し出されるのは、機体のカメラが捉えた外界の景色だ。燦々と降り注ぐ晩夏の刺すような日差しを浴びる、切り拓かれた山の中に在る景色が一真の視界へと飛び込んでくる。
陸軍の嵐山演習場だ。数台の73式TAMS前線輸送トレーラーで二機のタイプF改が運び込まれたこの演習場で、今日は市街地フィールドを使った稼働テスト、及び模擬団を用いた性能評価試験が行われる手筈になっていた。機体を改修してから初めての起動テストより今日まで、あれから早くも数日が経過している。
「UHF/VHF帯通常無線、動作チェック……オーケー、問題なし。燃料電池、及び電装系のコンディションもオールグリーン。各部人工筋肉パッケージ、及びサーボ・モーターも正常動作中。HTDLC起動、戦術モードをテストモードへ設定。各機とデータリンクを開始。固有識別コールサイン、ヴァイパー02……」
目の前のタッチ・パネルや各部のスウィッチを弾きながらの起動作業を、一真は自己確認の意味も込めて独り言のように口に出して呟き、反芻しながら作業を続けて行く。アップデートされた関係で、改修前とOSの操作感覚がかなり違うから最初こそ手間取ったものの、今となっては一真も新しい機体制御OSにかなり慣れてきていた。
「起動手順、フェイズ60まで全て完了。セルフ・チェック・プログラムを起動、チェック開始……問題なし。
――――ヴァイパー02、コンディション・オールグリーン。今のところは問題無さそうだ」
六十もの起動手順を全て完了し、最後に走らせた自己診断プログラムも異常なしを告げれば、一真はHTDLC(高度戦術データリンク制御システム)の通信システムから、トレーラーに横倒しで固定されている機体へ直に有線接続されている通信回線へとそう告げる。
『はいはい、了解よん。背中のターボ・スラスタの方はどうかしら? 異常ないわよね?』
すると、機外に居るのであろうクリスからそんな返信が返ってきた。それに一真は「今のところは、特に異常も出てない」と告げ返す。
『はいはぁい、ならオッケーよ。どうかしら、いい加減マーク・アルファ改にも慣れてきた感じぃ?』
「起動手順だけなら、何とかな。後は実際動かしてみて、どう出るかが問題だよ」
『その辺は抜かりなし、少なくともアタシたちは完璧な仕事をしたって思ってるわ。後は……動かしてみて、ホントにどんな問題が洗い出てくるかよね。カズマちゃんには面倒掛けちゃうけれど』
「気にしないでくれよ」と、一真は苦笑い気味にクリスに言う。「とりあえずはテスト・パイロットみたいなモンなんだ。機体の欠点を洗い出すのは、俺たちの役割さ」
『あら、嬉しいこと言ってくれるのねぇ♪ ホントにカズマちゃんってば可愛いんだからぁ。ねね、今度アタシとデートでもどうかしらぁ?』
「……謹んで遠慮させて貰うよ」
『んもうっ、カズマちゃんのイケずぅ!』
冗談っぽく言葉を交わし合った後で、クリスは『それじゃあ、有線接続は切っちゃうわ』と、いい加減に話を真面目な本題の方向へと軌道修正する。
『すぐにデッキ起こすから、待ってて頂戴ね? アームの固定解除タイミングは、カズマちゃんに一任するわぁ♪』
「了解だ」
そうすれば、機外からの有線通信回線が切断される。間もなく一真と≪閃電≫・タイプF改が寝かされていた73式トレーラーの荷台が油圧仕掛けで独りでに起き上がると、横たわっていた荷台は暫くもしない内に八十度ぐらいまでの角度に起き上がった。そうすれば感覚も視界も直立姿勢と変わらないぐらいになり、嵐山演習場の豊かな緑と、そしてそれを背景として彩る真っ青な蒼穹がシームレス・モニタに映し出される。
「アーム固定解除、ヴァイパー02、降りるぜ」
機体を荷台に縛り付けていた固定アームをこちら側から解除し、トレーラーから降りた純白の脚が嵐山演習場の大地を再び力強く踏み締めた。以前とは違う、生まれ変わった姿で。
「さてと、上手い具合に仕上がってることを祈るか」
一真の何気ない言葉に呼応するかのように、頭部の真っ赤な双眼式カメラ・アイが赤く光り、低く唸り声を上げる。隣では瀬那の乗る藍色の試作二号機も起き上がっていて、あちらもあちらで睨み付けるようなカメラ・アイの赤い双眸を瞬かせていた。
純白の試作一号機、そして藍色の試作二号機。生まれ変わった二機のタイプFが、再びその脚で大地に立つ。
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