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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第一章:デブリーフィング
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第一章:デブリーフィング
――――衛星軌道上に開いた超空間ゲートより出現したレギオン中規模集団、それに対するスクランブル出撃。
いつも通りの迎撃任務だ。昼下がりの気怠い時間に起こったその突発的な任務を終え、無事に基地の……H‐Rアイランド、蓬莱島の滑走路に帰還したアリサと翔一、そしてファルコンクロウ隊の面々は緊急出撃の疲れを癒やす間もなく、パイロット・スーツ姿のままで基地の地下区画にあるブリーフィング・ルームに集まっていた。
「まずは皆、よくやってくれた」
電灯の半分近くが落とされ、薄明るい程度の明るさしかないブリーフィング・ルームの中。この場に集った疲れ顔の十数人を前に、壇上に立つ蓬莱島の基地司令――――要隆一郎特務大佐が、まずはそんな前置きを置いてからデブリーフィング(事後報告)の口火を切った。
「突発的な超空間ゲートの出現、現れた敵は中規模の集団。いずれもモスキート・タイプばかりだったが……予報されていた時期から、かなり前倒しであったことは事実だ。予想外の襲撃に対し、本当によくやってくれた」
つい先刻の状況がどういうものであったか、そのおさらいじみたことを皆に話しつつ……要がチラリと横に目配せをすると。すると部屋の隅に控えていた小柄な銀髪サイドテールの少女、レーア・エーデルシュタインはコクリと頷き。感情の起伏を一切感じさせない無表情のまま手元のノートPCを操作し、部屋の電灯も全て明かりを消してしまう。
そうすると、部屋の中で明かりらしい明かりといえば、要が背にした大きなスクリーンに映し出されるスライドの淡い光だけになる。薄明るいというより薄暗くなったブリーフィング・ルームの中、要はそのスライドを使いつつ、デブリーフィングを進めていく。
「敵集団は本隊と別働隊に分かれ、二方面からの地球侵攻を開始。それに対し、本隊には君らクロウ隊、及びアリサくんと翔一くんの……我らH‐Rアイランドの飛行隊が。南半球方面へ侵攻した別働隊に関しては、南極基地の第666空間飛行隊が対処。それぞれ迎撃に当たり、双方とも無事に殲滅を完了。今回も地球への侵攻を水際で食い止めることが出来た。
…………モスキート・タイプのみで構成された敵集団、およそ四〇機の本隊に対し、こちらの損害はゼロ。ファルコンクロウ隊の十二機と、アリサくんたちのゴースト。十三機全てが無事に帰還している。改めて言わせて貰うが、皆本当によくやってくれた。次もこの調子で、上手くやってくれることを期待している」
――――さて、ここから先はこれからの話だ。
こほんと咳払いをした後に要はそう言うと、更に皆に対しての言葉を続けて行く。
「現状、次元振動の観測情報から判断されている襲来予報では、次の超空間ゲート出現と敵の来襲は、今日より数えておよそ十日後となっている。
…………ただし、これはあくまで予想でしかない。まさに今日がそうであったように、この予報の通りに敵がやって来てくれるとは限らんのだ。今回みたく予報より大幅に前倒しで来る可能性もあるし、逆にもっと遅いこともある。だから……今更、俺の口から言わずとも心得ているとは思うが。アラート待機に当たる者もそうでない者も、くれぐれも気を引き締めておいてくれ。敵はいつやって来るか分からん」
その通りだ、とブリーフィング・ルームの中、アリサと共に横並びになって席に着いていた翔一は内心で要の言葉に頷いていた。
襲来予報。今まさに要が口にしていた通り、地球周辺の微かな次元の振動などを観測し……それを元に、レギオンが襲撃に用いる超空間ゲートがいつ頃開くかを予測するというものだ。
凄く乱暴な喩え方をすれば、大変に物騒な天気予報といったところか。尤も、空から降ってくるのは雨や雪などではなく、確実な敵意と悪意を持っているであろう異星起源の敵性体なのだが。
とにもかくにも、現在ではそういう形で、敵の襲撃の時期はある程度予測することが出来るのだ。五年前のファースト・コンタクト……オホーツク事変の際にはこんな技術はまだ確立されていなかったらしいが、いやはや科学の進歩というものは恐ろしい。表世界に決して出ることのない、表の世界から数百年単位で進んだ科学ならば尚更のことだ。
だが、先程例に挙げた天気予報が外れることもあるように、レギオンの襲来予報もまた絶対のものではないのだ。
それこそ、今日がその典型例だ。予報の通りならば、本来この襲撃は四日後に起こるはずだった。
しかし、そうではなかった。予報より大幅に早く超空間ゲートが衛星軌道上に開き、敵が襲撃を仕掛けて来て。そしてアラート待機に就いていたファルコンクロウ隊がスクランブル出撃をし、その後にアリサと翔一も空に上がり……そして、いつものように迎撃した。
予報が外れるのはいつものことだ。だから皆慣れている。他ならぬ翔一でさえも。
慣れている。だが慣れているからといって、気を抜いて良い理由にはならない。だからこそ翔一は要の言葉をその通りだと思い、改めて気を引き締めようと……そう、内心で思っていたのだ。
「ああそうだ、ついでにもうひとつ言っておかねばならないことがある。といっても、主にアリサくんと翔一くんに対してだが」
翔一がそう思っている最中、壇上の要がふと思い出したようにそんなことを口走る。
「アタシたちに……?」
「言っておかないといけないこと、ですか?」
揃って首を傾げるアリサと翔一に、要は朗らかな笑顔で「ああ」と頷く。
「何、別に暗い話題ではないさ。近々、この基地に新たなESPパイロットと≪グレイ・ゴースト≫が着任することになった。そのことを、同じESPである二人には話しておかねばならないと前々から思ってはいたんだ。ま、もののついでにこの場で話させて貰うワケだよ」
「ESP……ですか」
「でも司令、なんでまた急に? アタシたちみたいな……ESPパイロットなんて、早々配置換えするモンじゃないでしょうに」
怪訝そうに首を傾げる翔一の横で、アリサもやはり頭の上に疑問符を浮かべながら問いかけると。すると要は「まあ、色々と事情がな」と言ってから、その理由を簡潔に話してくれた。
「実は現在、統合軍内部ではある再編計画が進んでいるんだ」
「再編計画……?」
「ああ」と要がアリサに頷き返す。「その一環として、まずはゴースト一機とESPパイロットが一組、この基地に着任することになった。まあ、詳しいことまで話し始めると長くなるから、追々……そうだな、本人たちが着任してから改めて話すことにする。だから、ひとまずこの場は解散にするとしよう。言ってしまえば何だが、クロウ隊の皆にはあまり関係のないことでもあるからな」
はっはっは、といつも通りの高笑いを爽やかに上げる要が言うと、今回の緊急出撃と迎撃任務に関するデブリーフィングは終了。解散の流れとなった。
各々談笑を交わしながら、クロウ隊の面々が続々とブリーフィング・ルームを後にしていく。要や、デブリーフィングの助手役だったレーアも同様にだ。
(再編計画……か)
要の言っていたその言葉に、少しばかり疑念は残るものの。しかし、今考えたところで仕方のないことだ。
そう思いながら、翔一は凝り固まった身体を解すみたく、うんと伸びをし。その傍で席を立ち「ほら、行くわよ翔一」と手招きをしてくるアリサに「ああ、分かってる」と頷き返せば、同じように席を立って。他の面子と同様、少しの疲れを顔に滲ませながら……彼女とともに、このブリーフィング・ルームを後にしていった。
(第一章『デブリーフィング』了)
――――衛星軌道上に開いた超空間ゲートより出現したレギオン中規模集団、それに対するスクランブル出撃。
いつも通りの迎撃任務だ。昼下がりの気怠い時間に起こったその突発的な任務を終え、無事に基地の……H‐Rアイランド、蓬莱島の滑走路に帰還したアリサと翔一、そしてファルコンクロウ隊の面々は緊急出撃の疲れを癒やす間もなく、パイロット・スーツ姿のままで基地の地下区画にあるブリーフィング・ルームに集まっていた。
「まずは皆、よくやってくれた」
電灯の半分近くが落とされ、薄明るい程度の明るさしかないブリーフィング・ルームの中。この場に集った疲れ顔の十数人を前に、壇上に立つ蓬莱島の基地司令――――要隆一郎特務大佐が、まずはそんな前置きを置いてからデブリーフィング(事後報告)の口火を切った。
「突発的な超空間ゲートの出現、現れた敵は中規模の集団。いずれもモスキート・タイプばかりだったが……予報されていた時期から、かなり前倒しであったことは事実だ。予想外の襲撃に対し、本当によくやってくれた」
つい先刻の状況がどういうものであったか、そのおさらいじみたことを皆に話しつつ……要がチラリと横に目配せをすると。すると部屋の隅に控えていた小柄な銀髪サイドテールの少女、レーア・エーデルシュタインはコクリと頷き。感情の起伏を一切感じさせない無表情のまま手元のノートPCを操作し、部屋の電灯も全て明かりを消してしまう。
そうすると、部屋の中で明かりらしい明かりといえば、要が背にした大きなスクリーンに映し出されるスライドの淡い光だけになる。薄明るいというより薄暗くなったブリーフィング・ルームの中、要はそのスライドを使いつつ、デブリーフィングを進めていく。
「敵集団は本隊と別働隊に分かれ、二方面からの地球侵攻を開始。それに対し、本隊には君らクロウ隊、及びアリサくんと翔一くんの……我らH‐Rアイランドの飛行隊が。南半球方面へ侵攻した別働隊に関しては、南極基地の第666空間飛行隊が対処。それぞれ迎撃に当たり、双方とも無事に殲滅を完了。今回も地球への侵攻を水際で食い止めることが出来た。
…………モスキート・タイプのみで構成された敵集団、およそ四〇機の本隊に対し、こちらの損害はゼロ。ファルコンクロウ隊の十二機と、アリサくんたちのゴースト。十三機全てが無事に帰還している。改めて言わせて貰うが、皆本当によくやってくれた。次もこの調子で、上手くやってくれることを期待している」
――――さて、ここから先はこれからの話だ。
こほんと咳払いをした後に要はそう言うと、更に皆に対しての言葉を続けて行く。
「現状、次元振動の観測情報から判断されている襲来予報では、次の超空間ゲート出現と敵の来襲は、今日より数えておよそ十日後となっている。
…………ただし、これはあくまで予想でしかない。まさに今日がそうであったように、この予報の通りに敵がやって来てくれるとは限らんのだ。今回みたく予報より大幅に前倒しで来る可能性もあるし、逆にもっと遅いこともある。だから……今更、俺の口から言わずとも心得ているとは思うが。アラート待機に当たる者もそうでない者も、くれぐれも気を引き締めておいてくれ。敵はいつやって来るか分からん」
その通りだ、とブリーフィング・ルームの中、アリサと共に横並びになって席に着いていた翔一は内心で要の言葉に頷いていた。
襲来予報。今まさに要が口にしていた通り、地球周辺の微かな次元の振動などを観測し……それを元に、レギオンが襲撃に用いる超空間ゲートがいつ頃開くかを予測するというものだ。
凄く乱暴な喩え方をすれば、大変に物騒な天気予報といったところか。尤も、空から降ってくるのは雨や雪などではなく、確実な敵意と悪意を持っているであろう異星起源の敵性体なのだが。
とにもかくにも、現在ではそういう形で、敵の襲撃の時期はある程度予測することが出来るのだ。五年前のファースト・コンタクト……オホーツク事変の際にはこんな技術はまだ確立されていなかったらしいが、いやはや科学の進歩というものは恐ろしい。表世界に決して出ることのない、表の世界から数百年単位で進んだ科学ならば尚更のことだ。
だが、先程例に挙げた天気予報が外れることもあるように、レギオンの襲来予報もまた絶対のものではないのだ。
それこそ、今日がその典型例だ。予報の通りならば、本来この襲撃は四日後に起こるはずだった。
しかし、そうではなかった。予報より大幅に早く超空間ゲートが衛星軌道上に開き、敵が襲撃を仕掛けて来て。そしてアラート待機に就いていたファルコンクロウ隊がスクランブル出撃をし、その後にアリサと翔一も空に上がり……そして、いつものように迎撃した。
予報が外れるのはいつものことだ。だから皆慣れている。他ならぬ翔一でさえも。
慣れている。だが慣れているからといって、気を抜いて良い理由にはならない。だからこそ翔一は要の言葉をその通りだと思い、改めて気を引き締めようと……そう、内心で思っていたのだ。
「ああそうだ、ついでにもうひとつ言っておかねばならないことがある。といっても、主にアリサくんと翔一くんに対してだが」
翔一がそう思っている最中、壇上の要がふと思い出したようにそんなことを口走る。
「アタシたちに……?」
「言っておかないといけないこと、ですか?」
揃って首を傾げるアリサと翔一に、要は朗らかな笑顔で「ああ」と頷く。
「何、別に暗い話題ではないさ。近々、この基地に新たなESPパイロットと≪グレイ・ゴースト≫が着任することになった。そのことを、同じESPである二人には話しておかねばならないと前々から思ってはいたんだ。ま、もののついでにこの場で話させて貰うワケだよ」
「ESP……ですか」
「でも司令、なんでまた急に? アタシたちみたいな……ESPパイロットなんて、早々配置換えするモンじゃないでしょうに」
怪訝そうに首を傾げる翔一の横で、アリサもやはり頭の上に疑問符を浮かべながら問いかけると。すると要は「まあ、色々と事情がな」と言ってから、その理由を簡潔に話してくれた。
「実は現在、統合軍内部ではある再編計画が進んでいるんだ」
「再編計画……?」
「ああ」と要がアリサに頷き返す。「その一環として、まずはゴースト一機とESPパイロットが一組、この基地に着任することになった。まあ、詳しいことまで話し始めると長くなるから、追々……そうだな、本人たちが着任してから改めて話すことにする。だから、ひとまずこの場は解散にするとしよう。言ってしまえば何だが、クロウ隊の皆にはあまり関係のないことでもあるからな」
はっはっは、といつも通りの高笑いを爽やかに上げる要が言うと、今回の緊急出撃と迎撃任務に関するデブリーフィングは終了。解散の流れとなった。
各々談笑を交わしながら、クロウ隊の面々が続々とブリーフィング・ルームを後にしていく。要や、デブリーフィングの助手役だったレーアも同様にだ。
(再編計画……か)
要の言っていたその言葉に、少しばかり疑念は残るものの。しかし、今考えたところで仕方のないことだ。
そう思いながら、翔一は凝り固まった身体を解すみたく、うんと伸びをし。その傍で席を立ち「ほら、行くわよ翔一」と手招きをしてくるアリサに「ああ、分かってる」と頷き返せば、同じように席を立って。他の面子と同様、少しの疲れを顔に滲ませながら……彼女とともに、このブリーフィング・ルームを後にしていった。
(第一章『デブリーフィング』了)
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