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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて
第四章:第501機動遊撃飛行隊、その名はイーグレット/04
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――――ミレーヌ・フランクール。
フランス人の少女だ。当然ながら彼女も超能力者で、特筆すべき能力は広域空間把握能力。つまり、ある一定範囲の空間に存在するヒトや物、その数や形、動き方……その全てが手に取るように分かってしまう能力だ。言ってしまえば人間SPYレーダー、可憐な金髪少女の形をしたイージス艦のようなものだ。
彼女のそれは、謂わば千里眼や透視と呼ばれているモノなのだが、しかしミレーヌの場合は能力が限定的かつ強力すぎるが故に、敢えて特別な呼び方になっている。また、それ以外に物理的に干渉できる力などはなく、ある意味で純粋なESP能力者といえよう。
そんな彼女だが、物心付いた時よりフランス北部の片田舎にある孤児院で過ごしていた。本当の両親の顔は知らないし、どんな人物だったのかも知らない。生まれて間もなく孤児院に預けられた彼女は、親の愛情というものを知らずに育ってきたのだ。
身寄りの無い子供として孤児院に預けられていたミレーヌだったが、幼少期にふとした切っ掛けで自身が特別な力を持つ人間、ESP能力者であることを知る。ある日、孤児院の皆と隠れんぼをしていた時に……その場から一歩も動かずして、全員の居場所をピタリと言い当てたのだ。
彼女にとっては極々当たり前のことで、別に不思議でもなかったが。しかし彼女の能力を知った孤児院の大人たちは大喜びし、同時に彼女のことをひどく恐れたという。何度も試し、ミレーヌの能力が本物であることを知ると……間もなく、孤児院のある職員は知人であった地元の新聞記者に彼女のことを告げ口した。ミレーヌを使って一儲け考えようと、そんな良からぬ考えが頭を過ぎったのかも知れない。今となっては、真の意図なぞ知るよしもないが…………。
そうしてミレーヌ・フランクールは、超常の力を神より授けられし神童として、フランス国内外のメディアで話題沸騰となる――――はずだったのだが。しかしここで、やはり統合軍が出張ってきた。
ミレーヌのことを嗅ぎつけた統合軍は、例によって圧力を掛けて封殺し、彼女の存在が公になることを未然に阻止した。その上で彼女を孤児院から半ば強引に引き取り、ESPパイロット候補生としたのだ。
身寄りの無い子供である彼女に、最初から選択肢なんて無かった。自分は望まれて生まれてきた子供じゃあない、誰からも愛されていない……。そんな闇を抱えながら、軍に引き取られたミレーヌはESPパイロット候補生として孤独な日々を過ごしていた。
――――そんな最中のことだった。両親を喪い、統合軍へとスカウトされてきた風見宗悟と彼女が出逢ったのは。
幼少期から既に今のような斜に構えた性格で、皮肉屋の片鱗を見せていた……つまりは捻くれた子供だったから、軍に引き取られた後もミレーヌは孤児院に居た頃と同じように、集団に溶け込めずに孤立しがちだったが。しかしそんな彼女でも、何故だか宗悟だけには素直に接することが出来ていたのだ。
多分……彼がひどく辛そうな顔をしていたからだと、今になってミレーヌは思うことがある。両親を喪った深い哀しみに暮れていた彼は、それこそ何度も自殺未遂を繰り返すほどだったが。きっとミレーヌはそんな彼と自分のことを、心の何処かで重ねて見てしまっていたのだ。望まれない子供だった孤独な自分と、不幸な事故で孤独になってしまった彼とでは、何もかもが違うはずなのに。それなのに……ミレーヌは宗悟と自分とを重ね、そしていつしか惹かれていったのだと今になって思う。
そんな風に、彼女と宗悟とが本格的に関わり始めた切っ掛けはある日のこと。彼が五度目の自殺未遂を試みた時のことだった。
以前より彼のことが気になっていたミレーヌはある時、物陰で蹲っている彼を偶然にも見つけた。彼の手には剃刀が……しかもお手軽なT字じゃあない、床屋が使うように本格的な、折り畳み式の直刃の剃刀が握られていたのだ。
何処からか入手してきたらしいそれの刃を、彼は今まさに自分の首筋に宛がっているところだった。そんな彼を見つけ、振り向いた彼と眼が合ったミレーヌは――――その瞬間、ひどく悲しい顔をしていたと。後に宗悟は彼女本人にそう語っている。
「…………死ぬつもりかい?」
宗悟に対して、ミレーヌは何気なくそう語り掛けた。全てに絶望しきった瞳の色をした彼に対して、眼を細めた哀しそうな表情で。ミレーヌはそう、殆ど無自覚の内に言葉を発していた。
「……放っておいてくれ」
「それは、少しだけ僕が困るな」
「…………おたくには、関係ないだろうが」
「君が死ぬのは君の勝手だし、それが君の選択だというのなら、僕が口出しをする権利はない。ただ……前から僕は、君のことが少しだけ気になっていたんだ」
「俺を……?」
虚無に満ちた瞳でミレーヌを見ながら、ボソリとうわ言のような声を発する彼に対し、ミレーヌは「そう、君のことが」と頷き返し。そして彼の方にゆっくりと歩み寄りながら、宗悟にこう囁きかけていた。
「君がどうして、そんなに哀しそうな眼をしているのか。君がどうして、毎日辛そうな顔をしているのか。その理由を、僕は知りたい」
「…………」
「出来れば、僕に聞かせてくれないかな。死ぬのは……きっと、それからでも遅くない」
そう言って、ミレーヌは宗悟のすぐ傍にしゃがみ込み。彼を抱き抱えるようにしながら……そっと、彼の手から剃刀を取り上げた。
「僕は孤児院の出身なんだ。本当の両親がどんな人間だったのかも、僕は知らない。周りの大人も……酷い人間ばかりで。正直、僕はずっと孤独だった。独りぼっちで……辛かったんだ。
…………だからといって、君の辛さが分かるとは言わないよ。ただ……聞かせて欲しい、君のことを。僕は生まれてからずっと独りぼっちで、ヒトと関わるということ、ヒトを愛するというのがどういうことかも分からないし、誰かと痛みを分かち合うってことも知らない。孤独の埋め方なんて分からない。そんなもの、寧ろ僕が教えて欲しいぐらいだ。
だから、君の孤独を僕が埋めてあげるとは言わない。ただ……聞かせて欲しいんだ、君のことを」
「俺、は…………」
「――――君も、寂しいのかい?」
ミレーヌに耳元でそう囁かれた瞬間、自分のことを孤独だと言っている割には、ヒトとの関わり方を知らないと言う割には――――愛を知らないという割には、彼女の囁き声はあまりに慈愛と優しさに満ち溢れたもので。だからか宗悟はその瞬間、知らず知らずの内に目元から大粒の涙を流してしまっていた。
泣き出したそんな彼を、ミレーヌはただ黙って抱き締める。彼女に抱かれながら、宗悟は静かに頷いていた。
「……そうか。うん、僕も同じだよ。僕も寂しいんだ、とってもね…………」
彼を抱き締めたまま、ミレーヌは細い声で呟く。そして胸の中の彼に問うた。「教えてくれないかな、君の名前を」と。
「…………風見、宗悟」
「……宗悟、か。良い名前だ」
ミレーヌはフッと柔に微笑み、そして彼にこう囁きかける。ゆっくりと、ひとつひとつを大切に告げるかのように。
「僕はミレーヌ、ミレーヌ・フランクール。……宗悟、僕に話してくれないかな。君のことを、君という男の子のことを」
――――――それが、風見宗悟とミレーヌ・フランクールの出逢いだった。
フランス人の少女だ。当然ながら彼女も超能力者で、特筆すべき能力は広域空間把握能力。つまり、ある一定範囲の空間に存在するヒトや物、その数や形、動き方……その全てが手に取るように分かってしまう能力だ。言ってしまえば人間SPYレーダー、可憐な金髪少女の形をしたイージス艦のようなものだ。
彼女のそれは、謂わば千里眼や透視と呼ばれているモノなのだが、しかしミレーヌの場合は能力が限定的かつ強力すぎるが故に、敢えて特別な呼び方になっている。また、それ以外に物理的に干渉できる力などはなく、ある意味で純粋なESP能力者といえよう。
そんな彼女だが、物心付いた時よりフランス北部の片田舎にある孤児院で過ごしていた。本当の両親の顔は知らないし、どんな人物だったのかも知らない。生まれて間もなく孤児院に預けられた彼女は、親の愛情というものを知らずに育ってきたのだ。
身寄りの無い子供として孤児院に預けられていたミレーヌだったが、幼少期にふとした切っ掛けで自身が特別な力を持つ人間、ESP能力者であることを知る。ある日、孤児院の皆と隠れんぼをしていた時に……その場から一歩も動かずして、全員の居場所をピタリと言い当てたのだ。
彼女にとっては極々当たり前のことで、別に不思議でもなかったが。しかし彼女の能力を知った孤児院の大人たちは大喜びし、同時に彼女のことをひどく恐れたという。何度も試し、ミレーヌの能力が本物であることを知ると……間もなく、孤児院のある職員は知人であった地元の新聞記者に彼女のことを告げ口した。ミレーヌを使って一儲け考えようと、そんな良からぬ考えが頭を過ぎったのかも知れない。今となっては、真の意図なぞ知るよしもないが…………。
そうしてミレーヌ・フランクールは、超常の力を神より授けられし神童として、フランス国内外のメディアで話題沸騰となる――――はずだったのだが。しかしここで、やはり統合軍が出張ってきた。
ミレーヌのことを嗅ぎつけた統合軍は、例によって圧力を掛けて封殺し、彼女の存在が公になることを未然に阻止した。その上で彼女を孤児院から半ば強引に引き取り、ESPパイロット候補生としたのだ。
身寄りの無い子供である彼女に、最初から選択肢なんて無かった。自分は望まれて生まれてきた子供じゃあない、誰からも愛されていない……。そんな闇を抱えながら、軍に引き取られたミレーヌはESPパイロット候補生として孤独な日々を過ごしていた。
――――そんな最中のことだった。両親を喪い、統合軍へとスカウトされてきた風見宗悟と彼女が出逢ったのは。
幼少期から既に今のような斜に構えた性格で、皮肉屋の片鱗を見せていた……つまりは捻くれた子供だったから、軍に引き取られた後もミレーヌは孤児院に居た頃と同じように、集団に溶け込めずに孤立しがちだったが。しかしそんな彼女でも、何故だか宗悟だけには素直に接することが出来ていたのだ。
多分……彼がひどく辛そうな顔をしていたからだと、今になってミレーヌは思うことがある。両親を喪った深い哀しみに暮れていた彼は、それこそ何度も自殺未遂を繰り返すほどだったが。きっとミレーヌはそんな彼と自分のことを、心の何処かで重ねて見てしまっていたのだ。望まれない子供だった孤独な自分と、不幸な事故で孤独になってしまった彼とでは、何もかもが違うはずなのに。それなのに……ミレーヌは宗悟と自分とを重ね、そしていつしか惹かれていったのだと今になって思う。
そんな風に、彼女と宗悟とが本格的に関わり始めた切っ掛けはある日のこと。彼が五度目の自殺未遂を試みた時のことだった。
以前より彼のことが気になっていたミレーヌはある時、物陰で蹲っている彼を偶然にも見つけた。彼の手には剃刀が……しかもお手軽なT字じゃあない、床屋が使うように本格的な、折り畳み式の直刃の剃刀が握られていたのだ。
何処からか入手してきたらしいそれの刃を、彼は今まさに自分の首筋に宛がっているところだった。そんな彼を見つけ、振り向いた彼と眼が合ったミレーヌは――――その瞬間、ひどく悲しい顔をしていたと。後に宗悟は彼女本人にそう語っている。
「…………死ぬつもりかい?」
宗悟に対して、ミレーヌは何気なくそう語り掛けた。全てに絶望しきった瞳の色をした彼に対して、眼を細めた哀しそうな表情で。ミレーヌはそう、殆ど無自覚の内に言葉を発していた。
「……放っておいてくれ」
「それは、少しだけ僕が困るな」
「…………おたくには、関係ないだろうが」
「君が死ぬのは君の勝手だし、それが君の選択だというのなら、僕が口出しをする権利はない。ただ……前から僕は、君のことが少しだけ気になっていたんだ」
「俺を……?」
虚無に満ちた瞳でミレーヌを見ながら、ボソリとうわ言のような声を発する彼に対し、ミレーヌは「そう、君のことが」と頷き返し。そして彼の方にゆっくりと歩み寄りながら、宗悟にこう囁きかけていた。
「君がどうして、そんなに哀しそうな眼をしているのか。君がどうして、毎日辛そうな顔をしているのか。その理由を、僕は知りたい」
「…………」
「出来れば、僕に聞かせてくれないかな。死ぬのは……きっと、それからでも遅くない」
そう言って、ミレーヌは宗悟のすぐ傍にしゃがみ込み。彼を抱き抱えるようにしながら……そっと、彼の手から剃刀を取り上げた。
「僕は孤児院の出身なんだ。本当の両親がどんな人間だったのかも、僕は知らない。周りの大人も……酷い人間ばかりで。正直、僕はずっと孤独だった。独りぼっちで……辛かったんだ。
…………だからといって、君の辛さが分かるとは言わないよ。ただ……聞かせて欲しい、君のことを。僕は生まれてからずっと独りぼっちで、ヒトと関わるということ、ヒトを愛するというのがどういうことかも分からないし、誰かと痛みを分かち合うってことも知らない。孤独の埋め方なんて分からない。そんなもの、寧ろ僕が教えて欲しいぐらいだ。
だから、君の孤独を僕が埋めてあげるとは言わない。ただ……聞かせて欲しいんだ、君のことを」
「俺、は…………」
「――――君も、寂しいのかい?」
ミレーヌに耳元でそう囁かれた瞬間、自分のことを孤独だと言っている割には、ヒトとの関わり方を知らないと言う割には――――愛を知らないという割には、彼女の囁き声はあまりに慈愛と優しさに満ち溢れたもので。だからか宗悟はその瞬間、知らず知らずの内に目元から大粒の涙を流してしまっていた。
泣き出したそんな彼を、ミレーヌはただ黙って抱き締める。彼女に抱かれながら、宗悟は静かに頷いていた。
「……そうか。うん、僕も同じだよ。僕も寂しいんだ、とってもね…………」
彼を抱き締めたまま、ミレーヌは細い声で呟く。そして胸の中の彼に問うた。「教えてくれないかな、君の名前を」と。
「…………風見、宗悟」
「……宗悟、か。良い名前だ」
ミレーヌはフッと柔に微笑み、そして彼にこう囁きかける。ゆっくりと、ひとつひとつを大切に告げるかのように。
「僕はミレーヌ、ミレーヌ・フランクール。……宗悟、僕に話してくれないかな。君のことを、君という男の子のことを」
――――――それが、風見宗悟とミレーヌ・フランクールの出逢いだった。
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