蒼空のイーグレット

黒陽 光

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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第六章:騎士決闘/07

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「こなくそ……っ!!」
 ――――エアロキネシス能力。
 風見宗悟の有する、真なる意味で唯一無二の力。世界でたった一人、彼にだけ許された風を司る能力。宗悟にだけ与えられた、特別な力。
 彼の取った奇怪な回避機動を見た瞬間、自機の真上――――斜め下方を向いている今の状況で、それを真上というのも些か変なように思えるが……とにかく真上だ。そこをふわりと、風に吹かれて舞い上がった木の葉のように、ゆらりゆらりと通り過ぎていく彼の機影を目の当たりにした瞬間。アリサが即座に対応出来たのは、ひとえに彼女が宗悟の能力のことを知っていて。そして、すぐさまその可能性に思い当たったからだ。
 だからアリサは、背後に付いた宗悟機がレールガトリング機関砲を掃射するより一瞬早くエンジンを吹かし、その火線より逃れることが出来ていた。本当に破れかぶれの、イチかバチかの賭けだったが……どうやら、幸運の女神とやらはまだこちら側に付いてくれているらしい。全くありがたい話だ。もし宗悟の指がトリガーを引くのがあと一瞬でも早かったら、もう今頃アリサは蜂の巣にされて撃墜判定を喰らっていたところだろう。
「よし……!」
『へえ、やるじゃん!!』
 彼女がそうして避けてみせると、宗悟は素直に感心したような声を漏らす。彼が追撃を仕掛けてこない内に距離を離し、また仕切り直そうとアリサは更に加速。宗悟機のガンレンジの外へと逃れてみせる。
「危なかったわ……本当に」
「どうにかこうにか、って感じだな……今のは肝が冷えたよ、アリサ」
「ホッとするわよ、本当に。……エアロキネシス、厄介極まりないわね」
「『風の妖精』か、まさにその名の通りだ」
「相手にする側からしてみれば、妖精っていうよりも死神だけれどもね。……翔一、この後の策は?」
「あの動きじゃあ、ミサイルを当てるのも難しいだろうな……上手くやれば当たってくれるかもだけれど、可能性としては低い」
「だったら、是が非でもガンで叩き落とすしかないってワケね。やれやれだわ、全く」
「その前にミサイルを撃たせた方がいい。向こうは既に一発外しているから、残りは短射程のAAM‐01が一発だけのはずだ。それを撃たせてしまえば……」
「二発フルで残っているアタシたちの方が、アイツらより優位に立てるってことね。……良いわ、やったろうじゃない」
「問題は、あの二人が都合良く撃ってくれるかどうかだが」
 宗悟機から距離を取った≪グレイ・ゴースト≫のコクピットで、アリサと翔一がそんな言葉を交わしている中。彼女らを追撃するゴーストの前席パイロット……宗悟からこんな通信が飛んでくる。
『なあアリサちゃんよ。どうせだ、真正面から正々堂々と行こうぜ!』
「……アンタ、正気なの?」
『このままケツの取り合いってのも芸がねえだろ? ここはお互いエースらしく、真正面からの決闘と洒落込もうや』
「へえ、アンタって意外とロマンティストなのかしら? ……翔一、どう思う」
 宗悟の提案に対し、それを皮肉った言葉で返しつつ。一旦彼らとの通信回線を切ったアリサが真後ろの翔一に囁きかける。
「罠……にしては芸が無いな。誘われているのは間違いないけれど」
「正面切っての決闘だなんて、まるで騎士ナイト気取りよ。……それで? アンタの判断はどっちよ。乗るべきか、乗らないべきか」
「それは君が判断してくれ、アリサ」
 翔一はあくまでそう言うが、しかしアリサは「駄目よ」と頑なな様子で首を横に振る。
「アタシはアンタの判断を全面的に信頼する。……冷静なアンタだから、相棒だから言ってるのよ。分かるでしょう?」
「…………」
 言われて、翔一は暫く黙りこくった後。瞼を閉じ、ほんの数秒の間を思い悩んでからカッと眼を見開くと、彼女に対して「分かった」と頷いてからこう告げた。
「……乗ろう、この決闘。仮に罠だとして、まんまと誘い込まれたとして……このままだと、或いは僕らの方がジリ貧に追い込まれるかもしれない」
「アタシたちの方が、か」
「ミレーヌの能力、アリサは覚えているか?」
「……確か、広域空間把握能力」
 ボソリと呟いたアリサに「そうだ」と翔一は頷いて肯定し、
「さっきの奇襲も、恐らくその能力で見破られていたんだろう。でないと、あんなに素早く対応は出来ない。アレを直に喰らったことのある僕だから、余計に分かるんだ」
「そうね……アイツは確かに驚いていたけれど、でもびっくりしたっていうよりも、寧ろ予想的中で逆に驚いたって感じだったわ」
「ミレーヌに掛かってしまえば、例え雲の中でホワイトアウトしていようが関係ないんだ。目隠しされている状態でも全てが見えている……多分、彼女の能力はそんな感じなんだろう」
「だったら、逆にこっちが一歩ずつ追い詰められかねない背中の取り合いよりも、寧ろ正々堂々と正面からやり合った方がまだ勝機はある……そういうことかしら、翔一?」
 アリサの確認じみた言葉に、翔一は「ああ」と力強い肯定の意で返した。
「オーケィ、だったら乗ってやろうじゃあないの……!」
『……お二人さん、そろそろ話は纏まったかい?』
 それからアリサがニッと不敵に笑み、右手で操縦桿を強く握り締めていると。どうやら待ってくれていたらしい宗悟から確認の通信が飛んでくるから、アリサの方も回線を開き直して「ええ」と言葉を返す。
「良いわ、面白い。乗ってやろうじゃないの、その勝負」
『ヘヘッ……! そうこなくっちゃあな!』
『宗悟、良いのかい? このまま追い詰めれば僕らの方が優位に立てたのに』
『構わねえよ、ミレーヌ。別に今は切った張ったの鉄火場じゃあねえんだ。単にケツを取り合うだけじゃあ面白くねえ。たまにはこういう趣向も凝らしてナンボだろ?』
『……君のそういう、遊び心というのかい? そういうところは、毎度のことながら僕はどうかと思うよ』
『騎士道精神と言ってくれよ、ミレーヌ』
『はいはい……とにかく、油断は禁物だ。相手は仮にも薔薇のエース、天下に名高い焔の姫君なんだ。さっきのを回避された時点で確信したけれど、彼女は間違いなく凄腕だよ。あの『マルセイユの女神』にだって負けていない』
『上等じゃねえか。だったら余計に燃えるってもんだぜ』
『気持ちは分からなくもないよ、宗悟。……確かに此処で乗ってこないようなら、それはもうエースじゃない。間違いないよ、彼女は本物だ』
『それを今から確かめるんだ、俺たちでな』
 どうやら、こういう風に変な趣向に走るというか、遊び始めるのは宗悟の悪い癖のようだ。溜息をつくミレーヌの様子からも、その辺りが察せられる。
 まあ、確かに宗悟の言うことにも一理ある。これは命懸けの実戦じゃあない、あくまでも訓練なのだ。面白い面白くないは別にしても……たまにはこういう状況を体験しておくのも悪くない。考えようによっては、ヘッドオン時の対処を学ぶ良い機会でもある。
 何にせよ、正面切っての勝負……上等だ。仮にも騎士を名乗るのであれば、相応の実力であることを見せて貰わねば。
「勝つわよ翔一、アタシとアンタ……二人でね」
 かなり距離を取った二機の≪グレイ・ゴースト≫が大きく旋回し、それぞれの機首を真正面から突き付け合う。まるで……騎士と騎士が、構えた剣同士の切っ先を僅かに触れ合わせるかのように。
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