蒼空のイーグレット

黒陽 光

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Sortie-02:騎士たちは西欧より来たりて

第八章:This moment, we own it./06

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「へえ、こんなのもあるのか」
「座ってのんびり眺められるって感じね。……って、ちょっと翔一」
「ん?」
「アレって……」
「ああ……こんなところに居たのか、あの二人」
 そのまま翔一がアリサと二人で奥へ――――というほどの距離は歩いていない。さっき立ち止まっていた水槽の前から本当にごく近い距離、同じ北館の二階フロアの中で、一際目立つ巨大な水槽の前にあるちょっとした広場に二人は行き着いていた。
 この場所、どうやら水中観覧席というらしい。凄まじく巨大な水槽が目の前に広がっていて、そんな水槽の前には結構広いスペースがある。そこには映画館のように数本の通り道があって……それ以外は絨毯敷きみたいな感じのふわふわした床だ。様子を見る限り、此処に座ってゆったりと水槽を眺められるといった感じの場所らしい。
 そんな水中観覧席の前にある水槽は、どうやら三階にあるメインプールのもののようだ。イルカショーなんかをやる、水族館では定番中の定番な屋外水槽。アレを水中の視点から眺められる場所が、この水中観覧席のようだ。
 場所が場所だけに、きっとショーの時間帯には此処も上の屋外観覧席と同じく賑わっているのだろう。しかし今はショーの時間ではない為か、割と空いている感じだった。座る場所だって、わざわざ探すまでもなく見つけられる。
 で、そんな水中観覧席の奥。割に水槽に近い場所の、最前列近辺に――――さっきから見失っていたあの二人の姿があったのだ。
 此処からだと二人の交わす言葉までは聞き取れないが、しかし横並びになって……ごく近い距離に隣り合って座る宗悟とミレーヌの二人は、遠目に見ているだけでも結構良い雰囲気だ。
 宗悟の方はまあ、いつものお気楽な調子でにししと笑っている。ミレーヌの方はさっき見かけた時と同じく、妙に気恥ずかしそうに頬を赤らめつつも……しかし今は翔一たちの目がないと思っているからか、見える横顔はさっきよりも穏やかで。普段より幾分か素直に宗悟と接している風だった。
 交わす言葉は、本当に欠片も聞こえてこない。しかし二人とも表情が穏やかで、そして――――宗悟が何気なく床についた手の甲に、ミレーヌが自分の手のひらをそっと重ねている辺り、ミレーヌが何を思っているかは色々とお察しだ。
「……邪魔は、しないであげましょうか」
「そうしようか。野暮をして馬に蹴られたくはないからね、僕も」
 そんな二人があまりに良い雰囲気なものだから、翔一たちも彼らの邪魔をするべきではないと思い。ミレーヌたちから少し離れた場所の……観覧席でも比較的後方の隅に行き、そこにアリサと二人で腰を落とした。例によって、こちらも近い距離での横並びだ。
 翔一が左側、アリサが彼の右側という位置関係。隣の彼女の方が背丈が高いせいか、それとも原因は別にあるのか。とにかく距離が近いこともあって、こうして二人で何をするでもなく隣同士に座っているだけでも……不思議と、安心感を覚えてしまう。
「思ってたより広いのね、この水族館。ホントに全部回りきれるのかしら……?」
「時間はまだまだたっぷりある。そう急ぐことはないよ」
「ま、そうかもね」
 自分の分の小さなパンフレットを開き、そこに記されている水族館の略地図に視線を落としながら呟く、アリサの何気ない独り言。それに翔一が薄く笑いかけながら言ってやると、アリサの方も微かに表情を綻ばせ、チラリと横目の視線を何気なく彼の方に投げ掛ける。
「…………っ!」
 ――――翔一の視線と、アリサの金色の瞳からの視線とがそっと重なり合う。
 そうすれば、彼女は何故か頬に僅かな朱色を差して、そのままぷいっと彼からそっぽを向いてしまった。そんな彼女の反応が不思議で、翔一は「アリサ、どうかしたのか?」と首を傾げながら問いかける。
「べっ……別に、何でもないわよ」
 が、アリサの反応はこんな具合で。うーと唸りながら、開いたパンフレットで顔を隠す彼女が何故、こうして頬を紅くしているのか。なんでそんな風に誤魔化すようなことを言ったのかが分からず……翔一はただただ「んん……?」と頭の上に疑問符を浮かべることしか出来ないでいた。これでも鈍感ではないと自分では思っているのだが、いやはや……女心というものは複雑怪奇。まして当事者の立場とあれば、彼がアリサの気持ちを察せなくても決して無理ないことだった。
「それにしても――――」
 と、そんな彼女の反応が気になりつつも……それはひとまず隅に置いておいて。翔一は後ろに両手を突きながら軽く背筋を反らし気味に伸ばすと、深呼吸なんかしながら。隣の彼女に、こんなことを呟いていた。
「皆で賑やか、ってのも悪くないけれど……僕はやっぱり、君と二人だけの方が落ち着くかな」
「……そ、そう?」
「自然体で居られる、って言ったら良いのかな。……アリサと居るときは、不思議なぐらいに落ち着くんだ」
「アタシと一緒に……か」
 顔を隠していたパンフレットから顔を上げ、ポツリと小さくひとりごち。そしてまた小さく翔一の方に横目を向けたアリサは、彼に「それって、今もなの?」と訊いてみた。
 そんな彼女の問いかけに、翔一は「ああ」と肯定の意を以て頷き返す。
「率直な気持ちを言ってしまうと、もうこのまま、あの二人とは離れて……ずっと、君と二人だけで見て回りたいと思ってる自分が居る。この先の時間を、僕らだけで過ごしてしまいたい、なんて思ってしまっている。…………それぐらい、今が落ち着くんだ」
「……そんなに?」
「ああ、そんなにだ」薄く笑んで、翔一が肯定する。「だけど……どうやら、そうもいかなさそうかな」
「えっ?」
 続く彼の言葉が意味するところが理解出来ず、アリサがきょとんとしていると。すると翔一は「ほら、あっち」と視線で彼女に示す。
 そんな風に彼が示した方に、アリサが視線を向けてみると――――。
「おう、ンなとこに居たのかお二人さんよ。遠くじゃあアレだろ? ホラ、さっさとこっち来いって」
「…………」
「ん、どしたよミレーヌ?」
「……なんでもない! 馬鹿、宗悟は本当に馬鹿だよ…………」
「あえ……? 何か知らんけど俺ってば怒られてるゥ……?」
 どうやら二人に気付かれてしまっていたようで、翔一が視線で示した先では――――宗悟とミレーヌがこっちに振り向いていた。
 翔一たちの姿を見つけた宗悟は、いつものように気さくな調子でこっち来いと手招きをしている。そして、ミレーヌはというと……そんな彼の横でぷくーっと頬を膨らませていて、明らかに不満げな様子だ。それは翔一たちに二人っきりの時間を邪魔されたことへの不満というよりも、宗悟がそれを何も気にしていなくて、まして翔一たちを自分から招いていることに対する不満だろう。折角二人っきりだったのに、それを自分から終わらせてしまうような真似が……ミレーヌからしてみれば、あまり面白くないのかもしれない。
「…………あー、そうみたいね」
 手招きをする宗悟と、頬を膨らませながら宗悟にブツブツと不満を呟くミレーヌ。そんな二人の姿を目の当たりにして、アリサは翔一の言っていた言葉の意味を悟ると……どうにも微妙な顔で隣の彼に呟き返す。
「まあ、見つかっちゃった以上は仕方ないさ。別にアリサとの時間はこれっきりじゃないんだ、焦る必要はない」
「……ふふっ、分かったわよ。アンタとサシで回るのは、また次の機会ってことにしておきましょうか」
「ああ、その時を楽しみにしているよ」
 二人でそんな言葉を交わし合い、頷き合うと。翔一とアリサはその場からよっこいしょと立ち上がり、手招きをする宗悟の方に歩み寄っていく。
 ここからはミレーヌたちと再合流して、当初の予定通りに四人で色々と見て回ることになりそうだ。翔一としては、個人的に言うと……アリサと二人きりの方が色々と嬉しいのだが。でも、賑やかなのも悪くない。今日は折角ミレーヌたちも一緒なのだから、これはこれで楽しめるはずだ。あの二人と一緒だと、色んな意味で飽きないのだから。
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