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XXX 茨の女帝
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「うがぁぁぁっ!!」
一華が目の前に倒れていた電柱を力一杯持ち上げる。力を込めたため体にできた傷から血が吹き出すが、支障はない。魔人たちはその姿に怯えているのか驚いているのか、しどろもどろと動き回る。
「お………っらぁぁぁ!!」
電柱を横方向に勢いよく魔人たちに放り投げる。電柱に押し潰された魔人たちが悲鳴を上げながら潰れ絶命していった。
「はぁ…はぁ…クソクソクソッ!しつけえんだよテメェら!!」
一華は魔人に怒りを物理的にぶつけながら偽神に向けて進行していた。
「あぶらぁぁっ」
「やかましいっ!」
飛びかかってきた魔人の顔面を握りつぶし、力なく項垂れた体を振り回して周りの魔人を薙ぎ倒す。
「はぁ……はぁ……」
一華がポケットに入っていた何かの装置のスイッチを起動する。すると、背中に背負っていたバッグの中からコードのようなものが伸びる。
「クッソ…頭くらくらしてやりにく…っ。」
一華は右手首につけた腕輪のようなものにそのコードを乱暴に繋ぐ。すると、腕輪の内側で一華の腕に注射針が打ち込まれ、コードから輸血用の血液が流れ込んだ。
「シャァァァッ!!」
一華は飛びかかってきた魔人を左手で殴りつけた。
「やかましい!ちったあ待ってやがれ……!」
輸血がある程度終わると、腕輪の内側で針が抜かれ小さい絆創膏が貼り付けられる。さすがは財閥特製の緊急輸血装置といったところだが、正直この装置を使う機会があるのは一華か凛泉くらいのものだろう。一華と同じ血液型の人への緊急治療くらいなら使えるだろうが、あいにく人の血液型をいちいち覚えていられるほど一華も記憶力が良いわけではなかった。一華は手首を回しながら魔人を睨みつける。
「他のみんながどんな状況かはわからないけど、可能な限りここで食い止めておかなくちゃね…!」
───────────────────
あれからどのくらい時間が過ぎたのだろうか。息吹は今にも嘔吐しそうになりながらも、タバコの煙を吸い込んでは吐き出して禍々しい荊の鞭を弾き返す。
「げっほ……イイ加減諦めたらどうなんだい?」
「ふん。そんな今にも死にそうな顔で私に指図する気かしら。傲慢な女ね?」
「指図じゃなくて、お願いみたいなもんだよ。」
息吹は胸ポケットからタバコの箱を取り出し中を見る。箱は最後の一つで、中には2本だけタバコが残っていた。
「あら、そろそろあなたのタバコ芸も終わり?」
「冗談言うねぇ、まだまだこれからだよ。」
息吹はライターを取り出して一本のタバコに火をつける。
「残念ね……私、貴方みたいな大人の女性を痛ぶるのも嫌いじゃないのだけれど…」
QUEENは鞭を振るい、自身の周りの瓦礫を薙ぎ払いながら歩み寄ってくる。
「どちらかというと、若くて顔の整った美少年を虐めに虐めて壊す方が好きなのよ、ごめんなさいね」
「そりゃ残念、私も来世はタバコを吸わないような超健康体の美少年になりたいもんだよ。」
「あら、もう死ぬ前提?」
二人は小さく微笑みながら、至近距離まで近づいた。
「ジョークだよ、女王様。まだ死ぬ気はサラサラないんでね…。」
お互いの吐息が顔にかかるほどまでに近づいた二人は、互いに見つめ…否、睨み合う。
「私、つまらないジョークを言う人嫌いなのよ。」
「そいつは残念、私はジョークが好きなんだけどね。」
二人は小さく微笑むと、互いに地面を蹴って後ろに飛んだ。QUEENの振るう鞭を吐き出した煙の壁で防ぎ、地面を蹴って横に飛び出す。煙を勢いよく吸い込んでから吐き出し、煙の槍を飛ばした。
「小賢しい!」
QUEENは器用に鞭を操作して槍を弾き飛ばす。そのまま鞭で息吹を拘束しようとするが、息吹は煙を足場にして高く飛び上がる。
(ここで無力化する!)
QUEENの眼前まで息吹が迫る。その瞬間息吹は息を吐き出して煙で拘束しようとした。
「……ごはっ。」
しかしそれは叶わず、息吹の口から吐き出されたのは煙ではなく血だった。
「ふふふ、ごめんなさいね、接近戦の備えはこれしか持ってなかったものだから。」
今の一瞬で、QUEENは持っていた鞭の柄に搭載されたスイッチを入れた。スイッチに反応して柄頭の金具が展開され、そこから刃渡りが柄と同じ約25cmのナイフが飛び出し、息吹の左脇腹を貫いたのだった。
「うが……がぁ…っ!」
「あははははっ!!久々に使ったけれど中々どうして使い心地のいいナイフねぇ!!さすがは私のリーダー!!」
QUEENは高笑いをしながら息吹の腹部のナイフをより一層奥に捩じ込む。息吹がどうにか引き抜こうと足掻く。
「あらあら、まるで銛で突かれてピチピチと暴れるお魚のようね?」
QUEENはその細腕からは意外としか言いようがない力強さで息吹を持ち上げていた。柄が息吹の血液でじっとりと濡れ、QUEENはその血を見て恍惚とした目をしていた。
「綺麗な色ね、うふふ。」
QUEENは笑い声を上げながら息吹の体を掴み地面に投げ飛ばす。ナイフが勢いよく引き抜かれ、そこからさらに大量の血が吹き出す。息吹の左脇腹を中心に、血が円状に広がって流れていく。
「ぐ……あ……っ。」
「あら、まだ死んじゃぁダメよ?貴方を痛めつけるのも飽きたわけじゃないんだから。」
そう言ってQUEENは不気味な笑顔でナイフを息吹の右の太ももにまっすぐに突き刺す。
「がぁぁぁっ!!」
息吹は痛みに顔を歪めて身悶える。その姿を見てQUEENは笑い声をあげ、まるで鍋をかき混ぜるかのようにナイフを傷口で回し始める。ズボンに血と肉片がこびりつき、地面を赤く染める。
「あ~楽しいわぁ。あんなにクールぶってたくせにこんなに情けない悲鳴あげちゃって…。可愛いわねぇホント。」
QUEENは息吹の足からナイフを引き抜き立ち上がる。すると、傷口から吹き出した血液がQUEENの服にかかった。
「ちょっと。」
QUEENはヒールを履いた足をあげ、息吹の胸を踏みつける。ヒールが鳩尾にめり込み、息吹は空気が吸えなくなる。
「か…ぁ…っ!」
「貴方の血で私の服を汚していいなんて私、言ったかしら。わざとなのかしら?わざとなら…もっとお仕置きが必要よねぇ?」
QUEENは不気味な笑みを浮かべながらナイフを振り上げた。
「…あら?」
QUEENは振り上げた腕を見た。空中に漂う煙の一部が彼女の腕を包み、空中に固定していた。
「なるほど、残留した煙もある程度なら操作時可能なのね…。」
しかしQUEENはそんなことは気にも止めず、息吹の腹部を蹴り上げた。血と吐瀉物が混ざった物質を吐き出し、息吹は咳を繰り返す。
「いった…痛いなぁ…血は止まんないしゲロ吐いちまうし…最悪だよ本当…。」
QUEENは煙から解放された手首を捻りながらナイフをじっと見つめる。
「SHADOW!貴方の方は終わったの!?」
煙の中でQUEENは大声で叫んだ。しかし煙の中で返答は返ってこなかった。
「ちっ、あのガキ…仕事が遅いのよ。」
「そりゃ…アンタも同じじゃないのかい?」
「…。」
息吹は傷口を手で押さえながらQUEENを見つめる。
「何よその目。」
QUEENは息吹の目を見つめる。痛みに苦しみ泣き出しそうな目でもなく、自身に助けを求める情けない目でもない。ただひたすらにその目にあるのは、QUEENを小馬鹿にしたような態度だけだった。体の肉を抉られ、腹部を蹴られ、吐瀉物を吐き出し情けない姿を晒しているというのにも関わらず、その目にあるのは「余裕」だった。
「気に食わないのよ、その目が。」
QUEENは息吹に向かってゆっくり歩み寄りながら、鞭の柄から現れているナイフのスイッチとは別にある小さなスイッチを押した。
「…え~なにそれ、ずるくね?」
そのスイッチを押した瞬間、ナイフの刃部分が中心で薄く展開された。そこからまるで羽を広げた鳥のように現れたのは、鋭利な返しが現れた。
「ちょっとそれは洒落にならないって…。」
「そう言ってるくせにアンタのその目は何?この状況でもまだ余裕ぶってるわけ?…気に食わない。」
息吹の前に立ったQUEENはナイフを振り上げる。
「その顔面をぐちゃぐちゃに掻き回して財閥に送り返してやるわよ!!」
………
「…は?」
息吹にナイフが突き刺さる寸前、ナイフを振り下ろしたQUEENの前腕を一本の矢が貫いた。
「…間に合ってよかったわ、息吹さん!」
蘭が弓を構えて遠くからこちらを狙撃したのだ。QUEENは遅れてやってきた痛みに顔を歪める。
「ぐぁ…っ!SHADOW!貴方足止めは…!」
息吹のタバコから大量に放たれた煙がだんだんと晴れて行っていたので、QUEENはSHADOWを探して見渡す。すると、蘭の近くで倒れているのが見つかった。
「彼、人を襲い慣れてないんじゃない?攻撃に躊躇が見えたわよ。」
「…クソガキ!!」
QUEENは苛立ちをぶつけるように鞭を振るう。しかし、煙でぼやけている視界の中でも、蘭の矢は的確に鞭を弾き、無意味に地面を叩かせた。
「残念ね、私はこんな状況下…いえ、環境下であってもあなたを射抜けるのよ!」
「━殺す。貴方達全員今すぐココで━!」
すると、どこからか声が響く。
「だめだよーくいーん?そろそろ撤退だよ。そうメールが来たもん。彼もサボってるし。」
QUEENはその言葉を聞き、ふと我に帰る。SHADOWは確かに戦闘に不慣れではあるが、魔神と協力していればたった1人に苦戦することなどないはずだ。だというのに、魔神は瓦礫の上に座ってただこちらを見つめているだけだった。
「なんのつもり!?」
「私の力を見せろと言われたが…冷静に考えれば、私を仲間にしようとしている君たちの力を私が理解していないと思ってね。君たちの実力を知る為に、あえて手を出すのを辞めさせてもらった。」
「自分勝手な…!!」
「君に言われたくはないな、その言葉は。」
すると、息吹たちとQUEENたちの間に割り込むように、上空から何者かが降り立った。普通の人間であれば足の骨が砕けそうな勢いで着地し、地面にに大きくひびを入れる。
「…!?」
「JOKER。撤退命令とはリーダーからかしら?」
「もちろんだよー。魔神さんも、「確かにこちらの手を見せずに引き入れるのは傲慢だった。私たちは貴方を認める…ではなく、貴方に認めてもらう為に迎え入れます」ってさ。」
「ふっ、物は言いようということか。良いだろう、君たちのリーダーに合わせてもらおうか。」
「待ちなさい!今ここで貴方たちを逃すわけにはいかない!」
蘭は弓を引き絞り、JOKERと呼ばれた少女に矢を構える。
「っ!!蘭!」
息吹が蘭に向かって叫んだ。その瞬間SLASHが背後から現れ、蘭の右足に打撃を与えた。蘭は膝から崩れ落ち、地面にへたり込む。
「あ…っぐぅ……っ!!」
感覚が麻痺して動かない右足を震わせながら、蘭は顔を上げる。長刀を持ったままこちらを見下ろすSLASHは、すぐに目を逸らして仲間たちに歩み寄った。
「起きろ、撤退するぞ。」
「う…は、はい…。」
蹴り起こされたSHADOWは苦しそうに咳き込みながら起き上がる。すると、JOKERの持つ携帯から通知がなり、それを見てJOKERは不敵に微笑んだ。
「はーい、りょーかいリーダー!じゃ、みんな帰る準備しといてね~!」
「ち…っ!」
QUEENが手を差し出し、SLASHがその腕を握る。反対の手をSHADOWが躊躇いながらも握りしめ、魔神にさらに反対の手を差し出す。魔神は首を傾げながら手を握った。
「じゃ、私がぶっ飛ばしたら帰ってね!」
「な、なにを…っ!」
息吹が地面に落ち、火が消えかけているタバコを拾おうと手を伸ばす。火がついているなら、まだ煙を出す力はあると思ったからである。
「いってきまーす!」
そう叫んだJOKERが地面を蹴って高く飛んだ。そこからさらに砕きながら壁を蹴って高く飛び、先ほどからずっと魔人を生み出しながら進行していた偽神の眼前に迫った。
「ヲァッ!?」
「──じゃあね!」
空中で一回転したJOKERが拳を握り締め、偽神の赤く丸い鼻に拳を叩き込んだ。
「────ッ!!」
もはや偽神は、叫び声を上げることもなく地面に叩きつけられた。
たった1人の人間の拳で、
その巨大な怪物は地面に叩きつけられたのだ。
一華が目の前に倒れていた電柱を力一杯持ち上げる。力を込めたため体にできた傷から血が吹き出すが、支障はない。魔人たちはその姿に怯えているのか驚いているのか、しどろもどろと動き回る。
「お………っらぁぁぁ!!」
電柱を横方向に勢いよく魔人たちに放り投げる。電柱に押し潰された魔人たちが悲鳴を上げながら潰れ絶命していった。
「はぁ…はぁ…クソクソクソッ!しつけえんだよテメェら!!」
一華は魔人に怒りを物理的にぶつけながら偽神に向けて進行していた。
「あぶらぁぁっ」
「やかましいっ!」
飛びかかってきた魔人の顔面を握りつぶし、力なく項垂れた体を振り回して周りの魔人を薙ぎ倒す。
「はぁ……はぁ……」
一華がポケットに入っていた何かの装置のスイッチを起動する。すると、背中に背負っていたバッグの中からコードのようなものが伸びる。
「クッソ…頭くらくらしてやりにく…っ。」
一華は右手首につけた腕輪のようなものにそのコードを乱暴に繋ぐ。すると、腕輪の内側で一華の腕に注射針が打ち込まれ、コードから輸血用の血液が流れ込んだ。
「シャァァァッ!!」
一華は飛びかかってきた魔人を左手で殴りつけた。
「やかましい!ちったあ待ってやがれ……!」
輸血がある程度終わると、腕輪の内側で針が抜かれ小さい絆創膏が貼り付けられる。さすがは財閥特製の緊急輸血装置といったところだが、正直この装置を使う機会があるのは一華か凛泉くらいのものだろう。一華と同じ血液型の人への緊急治療くらいなら使えるだろうが、あいにく人の血液型をいちいち覚えていられるほど一華も記憶力が良いわけではなかった。一華は手首を回しながら魔人を睨みつける。
「他のみんながどんな状況かはわからないけど、可能な限りここで食い止めておかなくちゃね…!」
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あれからどのくらい時間が過ぎたのだろうか。息吹は今にも嘔吐しそうになりながらも、タバコの煙を吸い込んでは吐き出して禍々しい荊の鞭を弾き返す。
「げっほ……イイ加減諦めたらどうなんだい?」
「ふん。そんな今にも死にそうな顔で私に指図する気かしら。傲慢な女ね?」
「指図じゃなくて、お願いみたいなもんだよ。」
息吹は胸ポケットからタバコの箱を取り出し中を見る。箱は最後の一つで、中には2本だけタバコが残っていた。
「あら、そろそろあなたのタバコ芸も終わり?」
「冗談言うねぇ、まだまだこれからだよ。」
息吹はライターを取り出して一本のタバコに火をつける。
「残念ね……私、貴方みたいな大人の女性を痛ぶるのも嫌いじゃないのだけれど…」
QUEENは鞭を振るい、自身の周りの瓦礫を薙ぎ払いながら歩み寄ってくる。
「どちらかというと、若くて顔の整った美少年を虐めに虐めて壊す方が好きなのよ、ごめんなさいね」
「そりゃ残念、私も来世はタバコを吸わないような超健康体の美少年になりたいもんだよ。」
「あら、もう死ぬ前提?」
二人は小さく微笑みながら、至近距離まで近づいた。
「ジョークだよ、女王様。まだ死ぬ気はサラサラないんでね…。」
お互いの吐息が顔にかかるほどまでに近づいた二人は、互いに見つめ…否、睨み合う。
「私、つまらないジョークを言う人嫌いなのよ。」
「そいつは残念、私はジョークが好きなんだけどね。」
二人は小さく微笑むと、互いに地面を蹴って後ろに飛んだ。QUEENの振るう鞭を吐き出した煙の壁で防ぎ、地面を蹴って横に飛び出す。煙を勢いよく吸い込んでから吐き出し、煙の槍を飛ばした。
「小賢しい!」
QUEENは器用に鞭を操作して槍を弾き飛ばす。そのまま鞭で息吹を拘束しようとするが、息吹は煙を足場にして高く飛び上がる。
(ここで無力化する!)
QUEENの眼前まで息吹が迫る。その瞬間息吹は息を吐き出して煙で拘束しようとした。
「……ごはっ。」
しかしそれは叶わず、息吹の口から吐き出されたのは煙ではなく血だった。
「ふふふ、ごめんなさいね、接近戦の備えはこれしか持ってなかったものだから。」
今の一瞬で、QUEENは持っていた鞭の柄に搭載されたスイッチを入れた。スイッチに反応して柄頭の金具が展開され、そこから刃渡りが柄と同じ約25cmのナイフが飛び出し、息吹の左脇腹を貫いたのだった。
「うが……がぁ…っ!」
「あははははっ!!久々に使ったけれど中々どうして使い心地のいいナイフねぇ!!さすがは私のリーダー!!」
QUEENは高笑いをしながら息吹の腹部のナイフをより一層奥に捩じ込む。息吹がどうにか引き抜こうと足掻く。
「あらあら、まるで銛で突かれてピチピチと暴れるお魚のようね?」
QUEENはその細腕からは意外としか言いようがない力強さで息吹を持ち上げていた。柄が息吹の血液でじっとりと濡れ、QUEENはその血を見て恍惚とした目をしていた。
「綺麗な色ね、うふふ。」
QUEENは笑い声を上げながら息吹の体を掴み地面に投げ飛ばす。ナイフが勢いよく引き抜かれ、そこからさらに大量の血が吹き出す。息吹の左脇腹を中心に、血が円状に広がって流れていく。
「ぐ……あ……っ。」
「あら、まだ死んじゃぁダメよ?貴方を痛めつけるのも飽きたわけじゃないんだから。」
そう言ってQUEENは不気味な笑顔でナイフを息吹の右の太ももにまっすぐに突き刺す。
「がぁぁぁっ!!」
息吹は痛みに顔を歪めて身悶える。その姿を見てQUEENは笑い声をあげ、まるで鍋をかき混ぜるかのようにナイフを傷口で回し始める。ズボンに血と肉片がこびりつき、地面を赤く染める。
「あ~楽しいわぁ。あんなにクールぶってたくせにこんなに情けない悲鳴あげちゃって…。可愛いわねぇホント。」
QUEENは息吹の足からナイフを引き抜き立ち上がる。すると、傷口から吹き出した血液がQUEENの服にかかった。
「ちょっと。」
QUEENはヒールを履いた足をあげ、息吹の胸を踏みつける。ヒールが鳩尾にめり込み、息吹は空気が吸えなくなる。
「か…ぁ…っ!」
「貴方の血で私の服を汚していいなんて私、言ったかしら。わざとなのかしら?わざとなら…もっとお仕置きが必要よねぇ?」
QUEENは不気味な笑みを浮かべながらナイフを振り上げた。
「…あら?」
QUEENは振り上げた腕を見た。空中に漂う煙の一部が彼女の腕を包み、空中に固定していた。
「なるほど、残留した煙もある程度なら操作時可能なのね…。」
しかしQUEENはそんなことは気にも止めず、息吹の腹部を蹴り上げた。血と吐瀉物が混ざった物質を吐き出し、息吹は咳を繰り返す。
「いった…痛いなぁ…血は止まんないしゲロ吐いちまうし…最悪だよ本当…。」
QUEENは煙から解放された手首を捻りながらナイフをじっと見つめる。
「SHADOW!貴方の方は終わったの!?」
煙の中でQUEENは大声で叫んだ。しかし煙の中で返答は返ってこなかった。
「ちっ、あのガキ…仕事が遅いのよ。」
「そりゃ…アンタも同じじゃないのかい?」
「…。」
息吹は傷口を手で押さえながらQUEENを見つめる。
「何よその目。」
QUEENは息吹の目を見つめる。痛みに苦しみ泣き出しそうな目でもなく、自身に助けを求める情けない目でもない。ただひたすらにその目にあるのは、QUEENを小馬鹿にしたような態度だけだった。体の肉を抉られ、腹部を蹴られ、吐瀉物を吐き出し情けない姿を晒しているというのにも関わらず、その目にあるのは「余裕」だった。
「気に食わないのよ、その目が。」
QUEENは息吹に向かってゆっくり歩み寄りながら、鞭の柄から現れているナイフのスイッチとは別にある小さなスイッチを押した。
「…え~なにそれ、ずるくね?」
そのスイッチを押した瞬間、ナイフの刃部分が中心で薄く展開された。そこからまるで羽を広げた鳥のように現れたのは、鋭利な返しが現れた。
「ちょっとそれは洒落にならないって…。」
「そう言ってるくせにアンタのその目は何?この状況でもまだ余裕ぶってるわけ?…気に食わない。」
息吹の前に立ったQUEENはナイフを振り上げる。
「その顔面をぐちゃぐちゃに掻き回して財閥に送り返してやるわよ!!」
………
「…は?」
息吹にナイフが突き刺さる寸前、ナイフを振り下ろしたQUEENの前腕を一本の矢が貫いた。
「…間に合ってよかったわ、息吹さん!」
蘭が弓を構えて遠くからこちらを狙撃したのだ。QUEENは遅れてやってきた痛みに顔を歪める。
「ぐぁ…っ!SHADOW!貴方足止めは…!」
息吹のタバコから大量に放たれた煙がだんだんと晴れて行っていたので、QUEENはSHADOWを探して見渡す。すると、蘭の近くで倒れているのが見つかった。
「彼、人を襲い慣れてないんじゃない?攻撃に躊躇が見えたわよ。」
「…クソガキ!!」
QUEENは苛立ちをぶつけるように鞭を振るう。しかし、煙でぼやけている視界の中でも、蘭の矢は的確に鞭を弾き、無意味に地面を叩かせた。
「残念ね、私はこんな状況下…いえ、環境下であってもあなたを射抜けるのよ!」
「━殺す。貴方達全員今すぐココで━!」
すると、どこからか声が響く。
「だめだよーくいーん?そろそろ撤退だよ。そうメールが来たもん。彼もサボってるし。」
QUEENはその言葉を聞き、ふと我に帰る。SHADOWは確かに戦闘に不慣れではあるが、魔神と協力していればたった1人に苦戦することなどないはずだ。だというのに、魔神は瓦礫の上に座ってただこちらを見つめているだけだった。
「なんのつもり!?」
「私の力を見せろと言われたが…冷静に考えれば、私を仲間にしようとしている君たちの力を私が理解していないと思ってね。君たちの実力を知る為に、あえて手を出すのを辞めさせてもらった。」
「自分勝手な…!!」
「君に言われたくはないな、その言葉は。」
すると、息吹たちとQUEENたちの間に割り込むように、上空から何者かが降り立った。普通の人間であれば足の骨が砕けそうな勢いで着地し、地面にに大きくひびを入れる。
「…!?」
「JOKER。撤退命令とはリーダーからかしら?」
「もちろんだよー。魔神さんも、「確かにこちらの手を見せずに引き入れるのは傲慢だった。私たちは貴方を認める…ではなく、貴方に認めてもらう為に迎え入れます」ってさ。」
「ふっ、物は言いようということか。良いだろう、君たちのリーダーに合わせてもらおうか。」
「待ちなさい!今ここで貴方たちを逃すわけにはいかない!」
蘭は弓を引き絞り、JOKERと呼ばれた少女に矢を構える。
「っ!!蘭!」
息吹が蘭に向かって叫んだ。その瞬間SLASHが背後から現れ、蘭の右足に打撃を与えた。蘭は膝から崩れ落ち、地面にへたり込む。
「あ…っぐぅ……っ!!」
感覚が麻痺して動かない右足を震わせながら、蘭は顔を上げる。長刀を持ったままこちらを見下ろすSLASHは、すぐに目を逸らして仲間たちに歩み寄った。
「起きろ、撤退するぞ。」
「う…は、はい…。」
蹴り起こされたSHADOWは苦しそうに咳き込みながら起き上がる。すると、JOKERの持つ携帯から通知がなり、それを見てJOKERは不敵に微笑んだ。
「はーい、りょーかいリーダー!じゃ、みんな帰る準備しといてね~!」
「ち…っ!」
QUEENが手を差し出し、SLASHがその腕を握る。反対の手をSHADOWが躊躇いながらも握りしめ、魔神にさらに反対の手を差し出す。魔神は首を傾げながら手を握った。
「じゃ、私がぶっ飛ばしたら帰ってね!」
「な、なにを…っ!」
息吹が地面に落ち、火が消えかけているタバコを拾おうと手を伸ばす。火がついているなら、まだ煙を出す力はあると思ったからである。
「いってきまーす!」
そう叫んだJOKERが地面を蹴って高く飛んだ。そこからさらに砕きながら壁を蹴って高く飛び、先ほどからずっと魔人を生み出しながら進行していた偽神の眼前に迫った。
「ヲァッ!?」
「──じゃあね!」
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