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XXXIX 必中の魔神
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「ふム。弾丸の装填というのはなかなか難しいナ…。」
白い熊のような見た目の魔神は慣れない手つきで、奪った狙撃銃に弾丸を装填していた。
「使い方を知っておくべきだっタナ。おかげで奴らの会話中を妨害できなカッタ。」
魔神は弾丸を装填し終えると、再び茂みから狙撃銃を構えて碧射達の方角を見る。
「…ンム?」
魔神はスコープを覗き込み首を傾げる。数メートル先で碧射達のチームが隠れていたはずの場所から、一人の人間がゆっくりと歩き出していた。
「………。」
幽子は隠れていた場所から姿を現し、まっすぐ歩き出していた。不安そうに周りを見渡すが、すぐに前に向き直り小走りで進み出す。
(そろそろ…来るはず!)
幽子は魔法で肉体を半透明な霊体に変化させる。その瞬間、幽子の頭部を弾丸が通過し地面に命中した。
「よし…!」
幽子は魔法を解除し、そのまま歩き続ける。次の弾丸も、かすかに聞こえた発砲音と同時に霊体になることですんでのところで回避する。
「本当に上手くいくかわからんが…。」
碧射は岩陰からスコープを覗き込み、幽子の進む先を見ていた。
「幽子をこのまま素直に狙い続けるかもわからん。はやく狙撃してくるヤツの位置を割り出さないと…。」
幽子は3発目の弾丸も霊体になり回避する。
(さっき軍の人たちを狙って撃った時と同じ、全部頭部狙い…そろそろ歩きを妨害するために足を狙ってくるはず…!)
幽子は歩きをさらに早める。
「何故弾丸が当たらなイ…いや、それよりも……まさかあの人間、私の位置が分かっているノカ?いや、あそこから私が見えるはずはないカ…。足を撃って歩みを止めれば関係はナイ。」
魔神はそう呟くと、4発目を幽子の足に放った。弾丸は幽子の足に命中した。
「確実に当たったナ。………ん?」
4発目の弾丸はすり抜けることはなかったが、金属と金属がぶつかり合うような音が響くだけで幽子が倒れることはなかった。
「ぐ…っ!!」
幽子は足に走った衝撃に一瞬ふらつくが、倒れることなく地面を踏み締め歩みを続ける。
(麟太郎さんから受け取った鱗で弾丸は防げた!でも…痛い…!)
幽子は麟太郎の魔法で作られた鱗を腕や足に纏うことで弾丸を防いでいた。
───────────────────
「…つまり、麟太郎の鱗とお前のゴーストスイッチを使って弾丸を回避、防御しながら進行。俺が魔神の位置を捕捉して狙撃することで無力化もしくは撃退すると。」
「うん。麟太郎さんの鱗なら弾丸も防げるって自負してたし…お願いできるかなって。」
麟太郎は自分の腕に纏った鱗を2枚ほど剥がし、その2枚を重ねた。すると、糊などを使っていないのに鱗同士はくっついた。
「オレの魔法で作られる鱗は、鱗同士ならこうして繋げて武器や鎧のように使うことが可能です。幽子さんの体に縛ってつけておけば確かに弾丸は防げますが…。」
「ああ、流石に幽子ちゃんは狙撃銃の衝撃を受けて歩き続けられるほどのフィジカルはないんじゃないかな?やっぱりそういう役回りはぼくが…。」
博也が幽子の代わりを提案するが、幽子は首を横に振った。
「ボクのゴーストスイッチで弾丸が当たらないようにしないとこの作戦はうまくいかないと思う。だからボクがやらなきゃ…さっきよりは薄くてもこの吹雪の中だから、ボクの体が半分透けるのも向こうからは気づきにくいと思う。」
博也は幽子の目を見てため息をつく。その目には確かに恐怖があったが、それ以上に自分がやらなくてはならないと言う覚悟が秘められていた。
「分かった…っ!年長者として最前線に立てないのは情けない話だが…あの魔神をぶっ飛ばすのはぼくに任せてくれ!」
すると、それまで黙り込んでいた一歩が顔を上げる。
「私もやります!温存なんて言ってられないですし、幽子ちゃんが頑張るなら私だって…!」
「…みんな、覚悟は十分だな。作戦開始だ。」
───────────────────
「3発全て同じ角度からの狙撃…あと1発でも補足できれば位置がわかる…。幽子、そこよりさらに東へ進んでくれ。」
「オッケー、東ね。」
幽子はやや右に進路を変えて進む。
「………。」
次の弾丸を警戒しながら幽子は少しずつ進行していく。その瞬間、遠くから銃声が響いた。それと同時に幽子は霊体化を行うが、弾丸は飛んでこなかった。
(なんだ…威嚇?私の魔法を確かめるためか…?)
幽子は霊体化を解き、再び歩き始める。
「危ない!!」
そう麟太郎が叫ぶと同時に、幽子を庇うように麟太郎が覆い被さる。すると、突如上空から弾丸が麟太郎の背中に向けて撃ち落とされた。
「ぐっ!」
「り、麟太郎さん!?」
麟太郎は背中の皮膚に鱗を纏うことで弾丸を防いでいた。幽子は周りを見渡す。
「な…なんで!?今のはどこから!?弾丸が空から来るなんて…!」
「おそらく、相手の魔法です!原理は分かりませんが相手は弾丸の挙動を操作した…碧射さんの魔法とは違う魔法で…!」
そこにさらに弾丸が放たれ、麟太郎の鱗で弾丸が弾かれる音が響き渡る。麟太郎は痛みに顔をしかめるが、すぐに顔を上げて微笑んだ。
「こんなことじゃへこたれませんよ…!幽子さん、作戦に一部変更を加えます!ここからは僕が先行します!!」
麟太郎は何か幽子に耳打ちして立ち上がり、拳を握りしめて全身に力を入れる。麟太郎の体はみるみるうちに鱗に包まれた。
「さあ、行きますよ!!」
「…う、うん!」
そう叫んだ麟太郎は地面を蹴って走り出す。正面から弾丸が放たれたが、鱗はいとも簡単に弾丸を弾き返し、麟太郎は足を止めずに進み続ける。
「く、ふふふ……痛いですねっ!!」
「なんだあの人間のオスは…なんで弾丸を受けて笑ってイル?」
魔神は麟太郎の姿に気味悪さを感じていた。
(しかしヤツが前進するなラバ、後ろのメスは隙だらけになるということダ…ン?)
魔神はスコープから幽子を捕捉しようとするが、幽子はその場から姿を消していた。足跡は先ほどいた場所から先にもなく、後ろに引き返した痕跡もなかった。
「アイツ、一体どこに…。」
その瞬間、魔神の右肩に激痛が走った。
「……ッ!」
見ると、魔神の右肩を1発の弾丸が貫いていた。魔神が顔を上げると、吹雪の中コチラに銃口を向ける碧射の姿が見えた。
「小僧ォ…!!」
次の銃弾を魔神は木陰に隠れて避けようとするが、弾丸は奇妙な軌道で曲がり、魔神の右腿を貫いた。
(これはまさか…オレとは違ウ軌道操作の魔法…!)
魔神は痛みに顔を歪ませるが、銃からスコープを取り外し木陰から碧射のいる場所を見る。雪で背景が白ばむ中、魔神の視界に映った碧射を見つめる。
「マーク、完了…!」
魔神の視界の中では、凝視した碧射の体に向けてスコープに写り込んでいるような照準を表現するマークが現れる。すると魔神は、碧射の方角に狙撃銃を向けないまま、明後日の方向に銃弾を放った。
「来る…!」
碧射は射撃音を聞いて岩陰に身を隠す。しかし銃弾が岩に当たる音は響くことはなく、一瞬の間が生まれる。
「…?」
碧射は岩陰から少々顔を出す。すると、白ばむ景色の中を大回りでこちらに迫るものを碧射の驚異的視力は捉えた。
(弾丸がこちらに迫ってきてる…!麟太郎の言うとおり軌道操作の魔法か!)
碧射は先ほどの麟太郎の考察を無線越しに聞いていた。腰のホルダーからハンドガンを取り出して3発放ち、すかさず起動操作で銃弾に命中させる。しかし銃弾は軌道がズレることもなく碧射に迫ってきた。
「軌道が変化しない…!」
碧射は咄嗟に岩陰に隠れるが、銃弾は碧射の右腕を貫き地面に着弾した。碧射の腕から血が吹き出す。
「碧射くん!」
「ぐ…っ!明確に防げなきゃ弾丸は止まらないか…!」
碧射はポーチからタオルを取り出すとナイフで引き裂いて博也に渡す。博也は渡されたタオルで傷口を強めに縛り止血する。
「一歩…今使えば何が出る!」
「わかりません…今の状況を打破できるかどうかも…でも!やってみます!!」
一歩は右手を前に突き出して目を閉じる。すると、一歩の手のひらに桃色の光が現れ、何か数字をランダムで表示し始めた。それが数秒続くと、最後に数字が2桁表示された。
「…『15』!!」
一歩の手のひらの光が15の数字を表示した瞬間、光は圧縮され一歩の手のひらには一つの注射器が置かれていた。
「これは…碧射さん!」
一歩が注射器を碧射に見せる。碧射はそれを見て小さくうなづいた。
「よし…麟太郎につなぐぞ。」
麟太郎は弾丸の攻撃を凌ぎながら、無線で連絡を受ける。
「…了解しましたっ!!こちらの作戦も上手く行きそうですから、ねっ!!」
麟太郎は皮膚に現れた鱗の一部を引き剥がし、盾のようにして雪の中を突き進む。
「うーン、マズいな。あの小僧一人に構っていては他の連中を相手取れナイ。さっさと仕留めるカ作戦の変更ヲ…。」
すると、魔神の背後から雪を踏み締める音が聞こえる。魔神は銃を構えて振り向くが、そこには誰の気配もしなかった。
「……?」
魔神は麟太郎の方を警戒しながら周辺を見渡す。耳を動かし、鼻で周りの匂いを探る。
(匂い、音…何もなイ。生き物の気配はどこにもいなイ…では、先ほどの音はなンダ?)
すると、先ほど魔神の隠れていた木の横から再び足音が聞こえてくる。魔神は即座に振り向き音のした場所に銃を放つが、雪を撒き上げただけでそこには誰もいなかった。
「なんダ…!?一体何ガいる!?」
「ここだよ!」
背後からの声に反応して魔神が振り向く。振り向いてソレを視認する時には、魔神の右目にハンドガンが突きつけられていた。
「ぐああああああああああああああああああアアアアアアアッ!」
岩から魔神の顔に飛びついた幽子は、即座に構えていたハンドガンを魔神の右目に撃ち込んだ。浮いていたのもあって反動で後ろに吹っ飛んだ幽子は雪の上に倒れ込んだ。魔神は潰れた右目を押さえて唸り声を響かせる。
『ゆ…幽子さん、よく聞いてください。』
幽子は先ほど、自分を庇った際に麟太郎に伝えられた言葉を思い返す。
『あなたの魔法で霊体化しているところを見て気づいたんですが…霊体の状態であればあなたは、 雪を貫通して地面を歩くことができていました。つまり…足跡が残ることもなく、足音を立てることもなく接近できるってことです。オレが奴の木を引きますから、君はソレを最大限利用して接近してください。』
『で、でもボクじゃ魔神を傷つけることも…。』
麟太郎は幽子と目を合わせて、自分の瞳を指差した。
『オレの鱗は目に纏えないので、目は防げないんですよね。』
『へ?』
麟太郎が立ち上がると、たちまち鱗が皮膚を覆っていった。
『さあ、行きますよ!』
『えっちょ…う、うん!』
───────────────────
「この…クソガキがあああああああ!!」
魔神は腕を振り上げ幽子に向けて爪を振り下ろす。
「あっぶな!」
幽子は一瞬霊体になり、転がりながら爪を回避する。
(確実に抉り取ったと思ったのニ…当たらなかッタ!?)
幽子は起き上がってすぐに魔法を解除し、ハンドガンを放つ。魔神の皮膚を貫くことはなく銃弾は皮膚で止まって地面に落ちた。
「やっぱり弾丸は効かない…!」
魔神は立て続けに爪で幽子を攻撃するが、幽子は霊体化と実体化を繰り返して回避していく。
(ボクの魔法の性質がバレないうちにどうにかしないと…!)
幽子は実体化し、銃を構える。その瞬間、魔神はを見開いて口を大きく開いた。その瞬間、魔神は顔を上げて空気を振るわせるほどの咆哮を響かせた。
「あ…!」
幽子は咆哮に怯んで耳を塞ぐ。その一瞬の隙を見逃さず、魔神は幽子の体を右腕で掴み上げた。幽子は持ち上げられた拍子に銃を落としてしまう。
「しまった…!」
「いやはや、ちょっと君みたいな人間のメスを舐めていたみたいダヨ…すっかり油断してイタ。」
魔神は腕の力を強める。幽子の骨が今にも砕けそうに軋み始める。
「うが…!」
「すぐにお仲間も殺しテ…!」
すると、魔神の腕に三枚、飛ばされてきた鱗が刺さる。ソレは、魔神の薄皮に傷をつけただけで地面に落ちた。
「ゆ、幽子…ちゃん!」
「失セロ。」
魔神は空いた左腕で麟太郎を殴り飛ばした。鱗でダメージを抑えることはできたが、その力に抗えず麟太郎は後方に飛ばされた。
「全員このまま生きて帰らセンゾ!!」
「いやぁ、全員無事に帰るよ。」
魔神は、自身の下から聞こえる声に気付き下を見た。そこには博也が拳を構えて立っていた。
「コイツ…!!」
「後輩をこんなに傷つけられて、ぼくも黙っちゃいられないよ。」
魔神が爪を振り下ろすよりも、博也の拳は圧倒的に速かった。
その拳は魔神の硬く強靭な皮膚を貫通し、魔神の内臓に直接大打撃を与えた。
「か……はっ!!」
「みんなキメてるんだし、先輩もカッコよくキメなきゃね。」
中国拳法・浸透勁。鎧などの上から相手の内部に頸力を送り込みダメージを与える、武術の一つである。
白い熊のような見た目の魔神は慣れない手つきで、奪った狙撃銃に弾丸を装填していた。
「使い方を知っておくべきだっタナ。おかげで奴らの会話中を妨害できなカッタ。」
魔神は弾丸を装填し終えると、再び茂みから狙撃銃を構えて碧射達の方角を見る。
「…ンム?」
魔神はスコープを覗き込み首を傾げる。数メートル先で碧射達のチームが隠れていたはずの場所から、一人の人間がゆっくりと歩き出していた。
「………。」
幽子は隠れていた場所から姿を現し、まっすぐ歩き出していた。不安そうに周りを見渡すが、すぐに前に向き直り小走りで進み出す。
(そろそろ…来るはず!)
幽子は魔法で肉体を半透明な霊体に変化させる。その瞬間、幽子の頭部を弾丸が通過し地面に命中した。
「よし…!」
幽子は魔法を解除し、そのまま歩き続ける。次の弾丸も、かすかに聞こえた発砲音と同時に霊体になることですんでのところで回避する。
「本当に上手くいくかわからんが…。」
碧射は岩陰からスコープを覗き込み、幽子の進む先を見ていた。
「幽子をこのまま素直に狙い続けるかもわからん。はやく狙撃してくるヤツの位置を割り出さないと…。」
幽子は3発目の弾丸も霊体になり回避する。
(さっき軍の人たちを狙って撃った時と同じ、全部頭部狙い…そろそろ歩きを妨害するために足を狙ってくるはず…!)
幽子は歩きをさらに早める。
「何故弾丸が当たらなイ…いや、それよりも……まさかあの人間、私の位置が分かっているノカ?いや、あそこから私が見えるはずはないカ…。足を撃って歩みを止めれば関係はナイ。」
魔神はそう呟くと、4発目を幽子の足に放った。弾丸は幽子の足に命中した。
「確実に当たったナ。………ん?」
4発目の弾丸はすり抜けることはなかったが、金属と金属がぶつかり合うような音が響くだけで幽子が倒れることはなかった。
「ぐ…っ!!」
幽子は足に走った衝撃に一瞬ふらつくが、倒れることなく地面を踏み締め歩みを続ける。
(麟太郎さんから受け取った鱗で弾丸は防げた!でも…痛い…!)
幽子は麟太郎の魔法で作られた鱗を腕や足に纏うことで弾丸を防いでいた。
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「…つまり、麟太郎の鱗とお前のゴーストスイッチを使って弾丸を回避、防御しながら進行。俺が魔神の位置を捕捉して狙撃することで無力化もしくは撃退すると。」
「うん。麟太郎さんの鱗なら弾丸も防げるって自負してたし…お願いできるかなって。」
麟太郎は自分の腕に纏った鱗を2枚ほど剥がし、その2枚を重ねた。すると、糊などを使っていないのに鱗同士はくっついた。
「オレの魔法で作られる鱗は、鱗同士ならこうして繋げて武器や鎧のように使うことが可能です。幽子さんの体に縛ってつけておけば確かに弾丸は防げますが…。」
「ああ、流石に幽子ちゃんは狙撃銃の衝撃を受けて歩き続けられるほどのフィジカルはないんじゃないかな?やっぱりそういう役回りはぼくが…。」
博也が幽子の代わりを提案するが、幽子は首を横に振った。
「ボクのゴーストスイッチで弾丸が当たらないようにしないとこの作戦はうまくいかないと思う。だからボクがやらなきゃ…さっきよりは薄くてもこの吹雪の中だから、ボクの体が半分透けるのも向こうからは気づきにくいと思う。」
博也は幽子の目を見てため息をつく。その目には確かに恐怖があったが、それ以上に自分がやらなくてはならないと言う覚悟が秘められていた。
「分かった…っ!年長者として最前線に立てないのは情けない話だが…あの魔神をぶっ飛ばすのはぼくに任せてくれ!」
すると、それまで黙り込んでいた一歩が顔を上げる。
「私もやります!温存なんて言ってられないですし、幽子ちゃんが頑張るなら私だって…!」
「…みんな、覚悟は十分だな。作戦開始だ。」
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「3発全て同じ角度からの狙撃…あと1発でも補足できれば位置がわかる…。幽子、そこよりさらに東へ進んでくれ。」
「オッケー、東ね。」
幽子はやや右に進路を変えて進む。
「………。」
次の弾丸を警戒しながら幽子は少しずつ進行していく。その瞬間、遠くから銃声が響いた。それと同時に幽子は霊体化を行うが、弾丸は飛んでこなかった。
(なんだ…威嚇?私の魔法を確かめるためか…?)
幽子は霊体化を解き、再び歩き始める。
「危ない!!」
そう麟太郎が叫ぶと同時に、幽子を庇うように麟太郎が覆い被さる。すると、突如上空から弾丸が麟太郎の背中に向けて撃ち落とされた。
「ぐっ!」
「り、麟太郎さん!?」
麟太郎は背中の皮膚に鱗を纏うことで弾丸を防いでいた。幽子は周りを見渡す。
「な…なんで!?今のはどこから!?弾丸が空から来るなんて…!」
「おそらく、相手の魔法です!原理は分かりませんが相手は弾丸の挙動を操作した…碧射さんの魔法とは違う魔法で…!」
そこにさらに弾丸が放たれ、麟太郎の鱗で弾丸が弾かれる音が響き渡る。麟太郎は痛みに顔をしかめるが、すぐに顔を上げて微笑んだ。
「こんなことじゃへこたれませんよ…!幽子さん、作戦に一部変更を加えます!ここからは僕が先行します!!」
麟太郎は何か幽子に耳打ちして立ち上がり、拳を握りしめて全身に力を入れる。麟太郎の体はみるみるうちに鱗に包まれた。
「さあ、行きますよ!!」
「…う、うん!」
そう叫んだ麟太郎は地面を蹴って走り出す。正面から弾丸が放たれたが、鱗はいとも簡単に弾丸を弾き返し、麟太郎は足を止めずに進み続ける。
「く、ふふふ……痛いですねっ!!」
「なんだあの人間のオスは…なんで弾丸を受けて笑ってイル?」
魔神は麟太郎の姿に気味悪さを感じていた。
(しかしヤツが前進するなラバ、後ろのメスは隙だらけになるということダ…ン?)
魔神はスコープから幽子を捕捉しようとするが、幽子はその場から姿を消していた。足跡は先ほどいた場所から先にもなく、後ろに引き返した痕跡もなかった。
「アイツ、一体どこに…。」
その瞬間、魔神の右肩に激痛が走った。
「……ッ!」
見ると、魔神の右肩を1発の弾丸が貫いていた。魔神が顔を上げると、吹雪の中コチラに銃口を向ける碧射の姿が見えた。
「小僧ォ…!!」
次の銃弾を魔神は木陰に隠れて避けようとするが、弾丸は奇妙な軌道で曲がり、魔神の右腿を貫いた。
(これはまさか…オレとは違ウ軌道操作の魔法…!)
魔神は痛みに顔を歪ませるが、銃からスコープを取り外し木陰から碧射のいる場所を見る。雪で背景が白ばむ中、魔神の視界に映った碧射を見つめる。
「マーク、完了…!」
魔神の視界の中では、凝視した碧射の体に向けてスコープに写り込んでいるような照準を表現するマークが現れる。すると魔神は、碧射の方角に狙撃銃を向けないまま、明後日の方向に銃弾を放った。
「来る…!」
碧射は射撃音を聞いて岩陰に身を隠す。しかし銃弾が岩に当たる音は響くことはなく、一瞬の間が生まれる。
「…?」
碧射は岩陰から少々顔を出す。すると、白ばむ景色の中を大回りでこちらに迫るものを碧射の驚異的視力は捉えた。
(弾丸がこちらに迫ってきてる…!麟太郎の言うとおり軌道操作の魔法か!)
碧射は先ほどの麟太郎の考察を無線越しに聞いていた。腰のホルダーからハンドガンを取り出して3発放ち、すかさず起動操作で銃弾に命中させる。しかし銃弾は軌道がズレることもなく碧射に迫ってきた。
「軌道が変化しない…!」
碧射は咄嗟に岩陰に隠れるが、銃弾は碧射の右腕を貫き地面に着弾した。碧射の腕から血が吹き出す。
「碧射くん!」
「ぐ…っ!明確に防げなきゃ弾丸は止まらないか…!」
碧射はポーチからタオルを取り出すとナイフで引き裂いて博也に渡す。博也は渡されたタオルで傷口を強めに縛り止血する。
「一歩…今使えば何が出る!」
「わかりません…今の状況を打破できるかどうかも…でも!やってみます!!」
一歩は右手を前に突き出して目を閉じる。すると、一歩の手のひらに桃色の光が現れ、何か数字をランダムで表示し始めた。それが数秒続くと、最後に数字が2桁表示された。
「…『15』!!」
一歩の手のひらの光が15の数字を表示した瞬間、光は圧縮され一歩の手のひらには一つの注射器が置かれていた。
「これは…碧射さん!」
一歩が注射器を碧射に見せる。碧射はそれを見て小さくうなづいた。
「よし…麟太郎につなぐぞ。」
麟太郎は弾丸の攻撃を凌ぎながら、無線で連絡を受ける。
「…了解しましたっ!!こちらの作戦も上手く行きそうですから、ねっ!!」
麟太郎は皮膚に現れた鱗の一部を引き剥がし、盾のようにして雪の中を突き進む。
「うーン、マズいな。あの小僧一人に構っていては他の連中を相手取れナイ。さっさと仕留めるカ作戦の変更ヲ…。」
すると、魔神の背後から雪を踏み締める音が聞こえる。魔神は銃を構えて振り向くが、そこには誰の気配もしなかった。
「……?」
魔神は麟太郎の方を警戒しながら周辺を見渡す。耳を動かし、鼻で周りの匂いを探る。
(匂い、音…何もなイ。生き物の気配はどこにもいなイ…では、先ほどの音はなンダ?)
すると、先ほど魔神の隠れていた木の横から再び足音が聞こえてくる。魔神は即座に振り向き音のした場所に銃を放つが、雪を撒き上げただけでそこには誰もいなかった。
「なんダ…!?一体何ガいる!?」
「ここだよ!」
背後からの声に反応して魔神が振り向く。振り向いてソレを視認する時には、魔神の右目にハンドガンが突きつけられていた。
「ぐああああああああああああああああああアアアアアアアッ!」
岩から魔神の顔に飛びついた幽子は、即座に構えていたハンドガンを魔神の右目に撃ち込んだ。浮いていたのもあって反動で後ろに吹っ飛んだ幽子は雪の上に倒れ込んだ。魔神は潰れた右目を押さえて唸り声を響かせる。
『ゆ…幽子さん、よく聞いてください。』
幽子は先ほど、自分を庇った際に麟太郎に伝えられた言葉を思い返す。
『あなたの魔法で霊体化しているところを見て気づいたんですが…霊体の状態であればあなたは、 雪を貫通して地面を歩くことができていました。つまり…足跡が残ることもなく、足音を立てることもなく接近できるってことです。オレが奴の木を引きますから、君はソレを最大限利用して接近してください。』
『で、でもボクじゃ魔神を傷つけることも…。』
麟太郎は幽子と目を合わせて、自分の瞳を指差した。
『オレの鱗は目に纏えないので、目は防げないんですよね。』
『へ?』
麟太郎が立ち上がると、たちまち鱗が皮膚を覆っていった。
『さあ、行きますよ!』
『えっちょ…う、うん!』
───────────────────
「この…クソガキがあああああああ!!」
魔神は腕を振り上げ幽子に向けて爪を振り下ろす。
「あっぶな!」
幽子は一瞬霊体になり、転がりながら爪を回避する。
(確実に抉り取ったと思ったのニ…当たらなかッタ!?)
幽子は起き上がってすぐに魔法を解除し、ハンドガンを放つ。魔神の皮膚を貫くことはなく銃弾は皮膚で止まって地面に落ちた。
「やっぱり弾丸は効かない…!」
魔神は立て続けに爪で幽子を攻撃するが、幽子は霊体化と実体化を繰り返して回避していく。
(ボクの魔法の性質がバレないうちにどうにかしないと…!)
幽子は実体化し、銃を構える。その瞬間、魔神はを見開いて口を大きく開いた。その瞬間、魔神は顔を上げて空気を振るわせるほどの咆哮を響かせた。
「あ…!」
幽子は咆哮に怯んで耳を塞ぐ。その一瞬の隙を見逃さず、魔神は幽子の体を右腕で掴み上げた。幽子は持ち上げられた拍子に銃を落としてしまう。
「しまった…!」
「いやはや、ちょっと君みたいな人間のメスを舐めていたみたいダヨ…すっかり油断してイタ。」
魔神は腕の力を強める。幽子の骨が今にも砕けそうに軋み始める。
「うが…!」
「すぐにお仲間も殺しテ…!」
すると、魔神の腕に三枚、飛ばされてきた鱗が刺さる。ソレは、魔神の薄皮に傷をつけただけで地面に落ちた。
「ゆ、幽子…ちゃん!」
「失セロ。」
魔神は空いた左腕で麟太郎を殴り飛ばした。鱗でダメージを抑えることはできたが、その力に抗えず麟太郎は後方に飛ばされた。
「全員このまま生きて帰らセンゾ!!」
「いやぁ、全員無事に帰るよ。」
魔神は、自身の下から聞こえる声に気付き下を見た。そこには博也が拳を構えて立っていた。
「コイツ…!!」
「後輩をこんなに傷つけられて、ぼくも黙っちゃいられないよ。」
魔神が爪を振り下ろすよりも、博也の拳は圧倒的に速かった。
その拳は魔神の硬く強靭な皮膚を貫通し、魔神の内臓に直接大打撃を与えた。
「か……はっ!!」
「みんなキメてるんだし、先輩もカッコよくキメなきゃね。」
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
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