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ep8『酔いどれ本音の素面を見せて』上編
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すっかり酔いの回ったひまりはふらりと立ち上がると、向かいに座っていた直己の背後に回ってしなだれかかった。
「 直己くん、部屋まで運んで~」
「いいですよー」
「このままおぶって運んでくれる?」
「わかりましたー」
「やっぱお姫様だっこがいいかなー。直己くんできる?」
「できますよ」
「ありがとー。直己くんだいすきー」
「僕もひまりさん好きですよー」
えへへとだらしなく笑ったひまりは、後ろからぎゅっと抱き着いた。
「直己くん、意外と肩幅あるね。もうちょっと華奢だと思ってた」
「まあ僕も男ですからね。男からしたら華奢かもしれませんが」
「そーお?」
両端からパンパンと肩を挟むようにして叩くと、ひまりは笑いながら首を傾げる。
「やっぱよくわかんなーい」
「そうですかー」
首に腕を絡ませてくるひまりを、直己は相槌を打ちながら好きなようにさせておく。
「ねえ直己くん直己くん、こっち向いてー」
「なんですかー」
「ふふ、なんでもなーい」
けらけらと笑う彼女に直己もつられる。ほろ酔い気分の彼女の対応は慣れたものだ。
「お前らもうベッド行けよ」
見慣れた光景に 土田が口を出す。じゃないといつまでも終わらないのを知っているからだ。
「だそうですよ。どうします?」
「えー。直己くん、ベッドまで運んでくれるの?」
「いいですよ」
「お姫様だっこ?」
「だっこでもおんぶでも」
「えへへー。ほんとー?」
「はい」
「じゃあおやすみのキスは?」
「いいですよー」
「やだー、もう直己くん大好きー」
「さっさと行けっつの」
土田のツッコミに 小夏はただ微笑ましそうに笑っている。
「じゃあベッド行きましょうか」
立ち上がった直己は、ひまりのひざ裏と背中に手を入れて持ち上げた。
「きゃあ、お姫さまだっこー。小夏見てー」
「見てるわよー、良かったわねえ」
「うん。おやすみぃー」
奥の部屋へ行く二人に、小夏は手を振り、土田は呆れた様子で見送った
「うふふふっ」
「ご機嫌ですねぇ」
彼女のベッドに並んで横になりながら、直己は彼女の髪をなでている。ひまりの瞼がとろんとしてくる。
「眠くなりました?」
「うーん、ちょっとだけ」
「寝ていいですよ」
「うーん……うん……ん」
ひまりはあっという間に夢の中へと旅立った。
「おやすみなさい」
直己はそっと優しく呟いて、暫し寝顔を眺めていた。
目が覚めたひまりは、場所と服装を確認し、声のするリビングへと向かった。
そこには昨日一緒に飲んだ三人がいた。小夏はキッチンに寄り掛かってコーヒーを飲み、土田と直己はソファで向かい合っている。
「おはようございます、ひまりさん」
「んー」
直己の挨拶にもまともに答えられず、ぼーっとする頭で壁によりかかったまま突っ立っていると、小夏に邪魔だと言われて洗面所へと誘導される。
洗顔と歯磨きのおかげでなんとか目は覚めてきたが、頭と身体はまだゆらゆらしている。
リビングに戻ってコーヒーを飲みながらソファに座ると、いつものように直己に聞いた。
「昨日、私どんなでした?」
「いつも通りですよ。酔って寝ちゃって、そのままです」
予想と違わぬ返答にひまりはがっくりと肩を落とした。小夏が続ける。
「そう。それで私達はそのあと三人でもう少し飲んだの」
「んで、俺は小夏の部屋で寝た」
「僕はこのソファで寝ました。ひまりさんを部屋に運んだあとで」
三人からの追い打ちに更に撃沈。
「飲んでる時はいつも通りひまりは直己君に甘えてくっついて、部屋に運んでーって言ってたわ」
「んでいつまでもイチャイチャしてっから、俺がさっさと部屋に行けっつって」
「僕がひまりさんのベッドまで運びました。お姫様だっこで」
ひまりは両手で顔を覆った。
「ごめんなさい」
「気にしないでください。僕も楽しかったですし。ひまりさんをベッドに下ろした時も可愛い笑顔で喜んでくれて僕も満足です。でも今度は素面の時に一緒にベッドに行きましょうね」
笑顔でそんな冗談を言ってのける彼に、ひまりは何も言えなかった。
小夏とひまりが二人でルームシェアしている家に彼らを呼び、男女四人で一緒に飲むのはすでに週末の恒例行事となりつつあった。最初は無邪気に楽しんでいたひまりだが、最近は危機感を覚えていた。
「もう私と飲むのやめてくれませんか」
「誘ってくるのはそっちじゃないですか」
「酔ってる時の私を信用しないでください」
「それはわかってますけど」
ひまりは最近まで自分の酒癖の悪さを知らなかった。完全に理性を失うわけではないが、どうにも行動が普段とかけ離れてしまうのは否めない。自らの醜態をさらしたことを覚えているのは、不幸中の幸いなのだろうか。
「ご存じのように私は酔うと冷静さを失います。だから外ではなるべく飲まないようにしてるんです」
「はい。だから僕もひまりさんが危険な目に遭わないよう、一緒にお酒飲むときはお部屋にお邪魔してるんですよ」
彼とはいい友人だと思っていた。土田と同様、直己もひとつ上なので敬語で話しているが、それに合わせてか彼も敬語で話してくれる。付き合い始めた小夏と土田の間では、既に敬語は消えていた。
大学で仲良くなり、四人で部屋で飲むようになったのは数か月前。それまで外では控えめに飲んでいたせいか、己の酒癖に気付かなかった。
初めて室内で飲んだとき、自分の許容量もわからないのと、家だからという油断でどんどんペースが上がり、気付けば記憶がなくなっていた。
記憶が無くなるタイプだと知ったからには、許容量を超えないように飲めばいい。そうして外で飲むときは気を付けているので大事にはなっていないが、部屋で飲むときは油断する。
「飲んでる時に部屋に来ないでください」
「来るように言ったのはひまりさんですよ」
「だから! 何故か私は酔うとあなたに電話をかけてしまうので! そういう時は無視してください!」
自分の酒癖で記憶がなくなる以上にやっかいなことに気付いたのは、あるときリビングで目が覚めて、向かいに彼が眠っていた時。
平然とコーヒーを飲んでいた小夏に事情を聞くと、一人で飲んで自ら彼に電話し、呼び出していたらしい。彼が来てくれた時にはすでにほろ酔い状態だったらしく、二人で楽しく飲んでいたという。小夏も途中で一緒に飲んだというが、それすらもまったく記憶がない自分に真っ青になった。
「えー、いいじゃないですか。僕だってちゃんとわかってるし、だから酔ってる時のあなたにはちゃんと手は出してないですよ?」
「それはとても感謝しております! ですが毎朝いたたまれない気持ちと情けない気持ちと罪悪感で死にそうになるんです」
「気にしすぎですよ」
「いいえ! とにかくもう酔ってるときの私から電話があっても! 無視することをお願いいたします!」
「毎回思いますけど、ひまりさん酔ってる時と人が変わり過ぎですよね」
「自覚はしております。大変申し訳ありません」
「別に謝らなくてもいいんですけどね」
「 直己くん、部屋まで運んで~」
「いいですよー」
「このままおぶって運んでくれる?」
「わかりましたー」
「やっぱお姫様だっこがいいかなー。直己くんできる?」
「できますよ」
「ありがとー。直己くんだいすきー」
「僕もひまりさん好きですよー」
えへへとだらしなく笑ったひまりは、後ろからぎゅっと抱き着いた。
「直己くん、意外と肩幅あるね。もうちょっと華奢だと思ってた」
「まあ僕も男ですからね。男からしたら華奢かもしれませんが」
「そーお?」
両端からパンパンと肩を挟むようにして叩くと、ひまりは笑いながら首を傾げる。
「やっぱよくわかんなーい」
「そうですかー」
首に腕を絡ませてくるひまりを、直己は相槌を打ちながら好きなようにさせておく。
「ねえ直己くん直己くん、こっち向いてー」
「なんですかー」
「ふふ、なんでもなーい」
けらけらと笑う彼女に直己もつられる。ほろ酔い気分の彼女の対応は慣れたものだ。
「お前らもうベッド行けよ」
見慣れた光景に 土田が口を出す。じゃないといつまでも終わらないのを知っているからだ。
「だそうですよ。どうします?」
「えー。直己くん、ベッドまで運んでくれるの?」
「いいですよ」
「お姫様だっこ?」
「だっこでもおんぶでも」
「えへへー。ほんとー?」
「はい」
「じゃあおやすみのキスは?」
「いいですよー」
「やだー、もう直己くん大好きー」
「さっさと行けっつの」
土田のツッコミに 小夏はただ微笑ましそうに笑っている。
「じゃあベッド行きましょうか」
立ち上がった直己は、ひまりのひざ裏と背中に手を入れて持ち上げた。
「きゃあ、お姫さまだっこー。小夏見てー」
「見てるわよー、良かったわねえ」
「うん。おやすみぃー」
奥の部屋へ行く二人に、小夏は手を振り、土田は呆れた様子で見送った
「うふふふっ」
「ご機嫌ですねぇ」
彼女のベッドに並んで横になりながら、直己は彼女の髪をなでている。ひまりの瞼がとろんとしてくる。
「眠くなりました?」
「うーん、ちょっとだけ」
「寝ていいですよ」
「うーん……うん……ん」
ひまりはあっという間に夢の中へと旅立った。
「おやすみなさい」
直己はそっと優しく呟いて、暫し寝顔を眺めていた。
目が覚めたひまりは、場所と服装を確認し、声のするリビングへと向かった。
そこには昨日一緒に飲んだ三人がいた。小夏はキッチンに寄り掛かってコーヒーを飲み、土田と直己はソファで向かい合っている。
「おはようございます、ひまりさん」
「んー」
直己の挨拶にもまともに答えられず、ぼーっとする頭で壁によりかかったまま突っ立っていると、小夏に邪魔だと言われて洗面所へと誘導される。
洗顔と歯磨きのおかげでなんとか目は覚めてきたが、頭と身体はまだゆらゆらしている。
リビングに戻ってコーヒーを飲みながらソファに座ると、いつものように直己に聞いた。
「昨日、私どんなでした?」
「いつも通りですよ。酔って寝ちゃって、そのままです」
予想と違わぬ返答にひまりはがっくりと肩を落とした。小夏が続ける。
「そう。それで私達はそのあと三人でもう少し飲んだの」
「んで、俺は小夏の部屋で寝た」
「僕はこのソファで寝ました。ひまりさんを部屋に運んだあとで」
三人からの追い打ちに更に撃沈。
「飲んでる時はいつも通りひまりは直己君に甘えてくっついて、部屋に運んでーって言ってたわ」
「んでいつまでもイチャイチャしてっから、俺がさっさと部屋に行けっつって」
「僕がひまりさんのベッドまで運びました。お姫様だっこで」
ひまりは両手で顔を覆った。
「ごめんなさい」
「気にしないでください。僕も楽しかったですし。ひまりさんをベッドに下ろした時も可愛い笑顔で喜んでくれて僕も満足です。でも今度は素面の時に一緒にベッドに行きましょうね」
笑顔でそんな冗談を言ってのける彼に、ひまりは何も言えなかった。
小夏とひまりが二人でルームシェアしている家に彼らを呼び、男女四人で一緒に飲むのはすでに週末の恒例行事となりつつあった。最初は無邪気に楽しんでいたひまりだが、最近は危機感を覚えていた。
「もう私と飲むのやめてくれませんか」
「誘ってくるのはそっちじゃないですか」
「酔ってる時の私を信用しないでください」
「それはわかってますけど」
ひまりは最近まで自分の酒癖の悪さを知らなかった。完全に理性を失うわけではないが、どうにも行動が普段とかけ離れてしまうのは否めない。自らの醜態をさらしたことを覚えているのは、不幸中の幸いなのだろうか。
「ご存じのように私は酔うと冷静さを失います。だから外ではなるべく飲まないようにしてるんです」
「はい。だから僕もひまりさんが危険な目に遭わないよう、一緒にお酒飲むときはお部屋にお邪魔してるんですよ」
彼とはいい友人だと思っていた。土田と同様、直己もひとつ上なので敬語で話しているが、それに合わせてか彼も敬語で話してくれる。付き合い始めた小夏と土田の間では、既に敬語は消えていた。
大学で仲良くなり、四人で部屋で飲むようになったのは数か月前。それまで外では控えめに飲んでいたせいか、己の酒癖に気付かなかった。
初めて室内で飲んだとき、自分の許容量もわからないのと、家だからという油断でどんどんペースが上がり、気付けば記憶がなくなっていた。
記憶が無くなるタイプだと知ったからには、許容量を超えないように飲めばいい。そうして外で飲むときは気を付けているので大事にはなっていないが、部屋で飲むときは油断する。
「飲んでる時に部屋に来ないでください」
「来るように言ったのはひまりさんですよ」
「だから! 何故か私は酔うとあなたに電話をかけてしまうので! そういう時は無視してください!」
自分の酒癖で記憶がなくなる以上にやっかいなことに気付いたのは、あるときリビングで目が覚めて、向かいに彼が眠っていた時。
平然とコーヒーを飲んでいた小夏に事情を聞くと、一人で飲んで自ら彼に電話し、呼び出していたらしい。彼が来てくれた時にはすでにほろ酔い状態だったらしく、二人で楽しく飲んでいたという。小夏も途中で一緒に飲んだというが、それすらもまったく記憶がない自分に真っ青になった。
「えー、いいじゃないですか。僕だってちゃんとわかってるし、だから酔ってる時のあなたにはちゃんと手は出してないですよ?」
「それはとても感謝しております! ですが毎朝いたたまれない気持ちと情けない気持ちと罪悪感で死にそうになるんです」
「気にしすぎですよ」
「いいえ! とにかくもう酔ってるときの私から電話があっても! 無視することをお願いいたします!」
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