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ep8『酔いどれ本音の素面を見せて』中編
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後日。目が覚めると彼がいた。
「どうして! 何故またあなたがいるのですか!」
「ひまりさんから電話が来たので」
「だからどうして……っ! 私ちゃんと、昨日は飲みたいって思ったから番号消したはずなのに」
あとで小夏に教えてもらえばいいと、飲み始める前に直己の番号を消したのだ。
「履歴の方から電話くれたみたいですね。かかってきたときに『当たった~合ってた~』って嬉しそうに言ってくれましたから」
「どうして断ってくれなかったんですか」
「僕もお酒好きですし。僕が誰と飲もうが、そこは自由にさせてくれてもいいんじゃないですか」
「こちらは被害を訴えています」
「被害ならこちらの方が大きいと思いますけど」
「私はもはや病気なんです! 申し訳ないとは思いますけど断ってください!」
「勝手な人ですね」
「そうです! だから関わらないでください!」
「それを相手に要求するのは卑怯だと思いませんか」
「思っていますが、どうしようもないんです!」
「僕に電話しなきゃいいじゃないですか」
「それが何故だか出来ないんです! 小夏も止めてくれないし」
「そりゃあ、あれだけ楽しそうなひまりさんを見たら止めたくないんでしょうね」
「楽しいのはその時だけなんです! あとは自己嫌悪に落ちていくばかり」
「まるでドラッグですね」
「そう、ドラッグです!」
「僕はドラッグですか?」
「……いえ、ドラッグは悪くないんです。悪いのはそれを使う人間です」
「そうですね」
「私が、私がやめなければ……。あなたが断ってくれない以上、もうお酒を止めるしか……。あぁあ、でも」
「別に僕は構いませんよ。飲みたいし」
「私が構うんです! もう絶対電話かけません!」
「直己くん、来てくれたの?」
「ええ、小夏さんから電話もらって。ひまりさんが携帯捨てたとか言ってたから大丈夫かなって」
「違う違う、捨てたんじゃなくてね。ロッカーに入れてきたの。駅のところの。これで電話しないぞって思って」
「そうだったんですか」
「うん。私って勇気あるでしょー」
「そうですね。頑張りましたね」
「んふふ~。でも来てくれて嬉しい。会えてよかった」
「僕もです。会いたかったので」
「ほんと? 嬉しいー。もう会えないかと思っちゃってね、不安だったの」
「大丈夫ですよ。そもそも家知ってるし」
「そっかぁ、そうだよね。いざとなれば家に来ちゃえばいいんだ」
「そうですよ。だから安心してください」
「うん。えへへ」
抱き着くひまり。抱きとめる直己。それを眺める土田と小夏。
「良かったでしょ、ひまり。これでもう泣かないでね」
「うん、ありがとう、小夏。大好き」
「ひまりさん、泣いちゃったんですか?」
「そう。飲み始めて『直己くんよべな~い』とか言って騒ぎだしたからうるさくて電話した」
「そうだったんですね」
一時間後。
「ホントひまりさんって変わり過ぎですよね」
「ホントにね。ひまりって普段から自分を抑えてるし、頑固だから」
「ですよね。普段からもっと素直になってくれれば、こんなふうに酔ったときに押し込めた感情が爆発しないで済むのに」
「そういう性格なんだろ」
リビングで丸まって眠っていたひまりの傍らで、いつもの三人が飲んでいた。
「直己くーん」
「あ、起きました? はいはい、なんですかー」
「えへへへへ」
ひまりのふにゃふにゃの笑い声に、釣られて三人も笑ってしまった。
翌朝。
「おはようございます」
頭を巡らし、考える。何故ここに彼がいるのかと。
「朝イチで駅前のロッカー行くんですよね? 一緒に行きますよ」
「……なんで知ってんの」
「呼んでくれたのは小夏さんですけど、教えてくれたのはひまりさんです」
「……どうしているの」
「誘われたんで」
「誰に」
「小夏さんに」
憎らしいほど爽やかな笑顔の直己を前に、気付けば敬語が消えていた。
「もう来ないで」
「小夏さんと飲んでただけですよ」
「小夏には土田さんがいるんだから手を出しちゃダメです」
「土田さんも一緒だったんでご安心を。あなたにも手は出してませんから安心してください」
「ならどうして私のベッドにいるの」
「誘われたんで」
「誰に」
「ひまりさんに」
「なんて」
「ベッドに連れてって、って。笑顔で可愛くおねだりされちゃ僕だって断れませんよ」
「断ってくださいってば」
「イヤですよ。そのあとベッドで話すのが楽しいのに」
「すぐ寝ちゃうって言ってたじゃん」
「ええ、でも数分くらいは話せることありますよ」
「どんな話するの」
「んー、そうですねえ」
意味ありげな沈黙の後、彼はいたずらっ子のような笑みを口許に浮かべた。
「今度動画でも撮っておきましょうか」
「脅す気!?」
「やだなあ、そんなんじゃありませんよ。知りたいかなーって思っただけです」
「そりゃ……」
「今度撮っておきますね」
「今日はもう帰ってください」
「一緒にロッカー行きますよ」
「一人で行きます!」
「どうして! 何故またあなたがいるのですか!」
「ひまりさんから電話が来たので」
「だからどうして……っ! 私ちゃんと、昨日は飲みたいって思ったから番号消したはずなのに」
あとで小夏に教えてもらえばいいと、飲み始める前に直己の番号を消したのだ。
「履歴の方から電話くれたみたいですね。かかってきたときに『当たった~合ってた~』って嬉しそうに言ってくれましたから」
「どうして断ってくれなかったんですか」
「僕もお酒好きですし。僕が誰と飲もうが、そこは自由にさせてくれてもいいんじゃないですか」
「こちらは被害を訴えています」
「被害ならこちらの方が大きいと思いますけど」
「私はもはや病気なんです! 申し訳ないとは思いますけど断ってください!」
「勝手な人ですね」
「そうです! だから関わらないでください!」
「それを相手に要求するのは卑怯だと思いませんか」
「思っていますが、どうしようもないんです!」
「僕に電話しなきゃいいじゃないですか」
「それが何故だか出来ないんです! 小夏も止めてくれないし」
「そりゃあ、あれだけ楽しそうなひまりさんを見たら止めたくないんでしょうね」
「楽しいのはその時だけなんです! あとは自己嫌悪に落ちていくばかり」
「まるでドラッグですね」
「そう、ドラッグです!」
「僕はドラッグですか?」
「……いえ、ドラッグは悪くないんです。悪いのはそれを使う人間です」
「そうですね」
「私が、私がやめなければ……。あなたが断ってくれない以上、もうお酒を止めるしか……。あぁあ、でも」
「別に僕は構いませんよ。飲みたいし」
「私が構うんです! もう絶対電話かけません!」
「直己くん、来てくれたの?」
「ええ、小夏さんから電話もらって。ひまりさんが携帯捨てたとか言ってたから大丈夫かなって」
「違う違う、捨てたんじゃなくてね。ロッカーに入れてきたの。駅のところの。これで電話しないぞって思って」
「そうだったんですか」
「うん。私って勇気あるでしょー」
「そうですね。頑張りましたね」
「んふふ~。でも来てくれて嬉しい。会えてよかった」
「僕もです。会いたかったので」
「ほんと? 嬉しいー。もう会えないかと思っちゃってね、不安だったの」
「大丈夫ですよ。そもそも家知ってるし」
「そっかぁ、そうだよね。いざとなれば家に来ちゃえばいいんだ」
「そうですよ。だから安心してください」
「うん。えへへ」
抱き着くひまり。抱きとめる直己。それを眺める土田と小夏。
「良かったでしょ、ひまり。これでもう泣かないでね」
「うん、ありがとう、小夏。大好き」
「ひまりさん、泣いちゃったんですか?」
「そう。飲み始めて『直己くんよべな~い』とか言って騒ぎだしたからうるさくて電話した」
「そうだったんですね」
一時間後。
「ホントひまりさんって変わり過ぎですよね」
「ホントにね。ひまりって普段から自分を抑えてるし、頑固だから」
「ですよね。普段からもっと素直になってくれれば、こんなふうに酔ったときに押し込めた感情が爆発しないで済むのに」
「そういう性格なんだろ」
リビングで丸まって眠っていたひまりの傍らで、いつもの三人が飲んでいた。
「直己くーん」
「あ、起きました? はいはい、なんですかー」
「えへへへへ」
ひまりのふにゃふにゃの笑い声に、釣られて三人も笑ってしまった。
翌朝。
「おはようございます」
頭を巡らし、考える。何故ここに彼がいるのかと。
「朝イチで駅前のロッカー行くんですよね? 一緒に行きますよ」
「……なんで知ってんの」
「呼んでくれたのは小夏さんですけど、教えてくれたのはひまりさんです」
「……どうしているの」
「誘われたんで」
「誰に」
「小夏さんに」
憎らしいほど爽やかな笑顔の直己を前に、気付けば敬語が消えていた。
「もう来ないで」
「小夏さんと飲んでただけですよ」
「小夏には土田さんがいるんだから手を出しちゃダメです」
「土田さんも一緒だったんでご安心を。あなたにも手は出してませんから安心してください」
「ならどうして私のベッドにいるの」
「誘われたんで」
「誰に」
「ひまりさんに」
「なんて」
「ベッドに連れてって、って。笑顔で可愛くおねだりされちゃ僕だって断れませんよ」
「断ってくださいってば」
「イヤですよ。そのあとベッドで話すのが楽しいのに」
「すぐ寝ちゃうって言ってたじゃん」
「ええ、でも数分くらいは話せることありますよ」
「どんな話するの」
「んー、そうですねえ」
意味ありげな沈黙の後、彼はいたずらっ子のような笑みを口許に浮かべた。
「今度動画でも撮っておきましょうか」
「脅す気!?」
「やだなあ、そんなんじゃありませんよ。知りたいかなーって思っただけです」
「そりゃ……」
「今度撮っておきますね」
「今日はもう帰ってください」
「一緒にロッカー行きますよ」
「一人で行きます!」
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