主役はだあれ?

流音あい

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4、決めるのは誰?

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「おじいさん、僕の話はまだなのかい?」
「ああ、もう少し待ってくれ」
 話し合いが終わってから一週間。カエル君は毎日のようにおじいさんの家に行き、自分が主役の話を早く書いてくれとせがんでいました。
「早く書いてくれよ。じゃないと僕が主役になれないじゃないか」
「君はちゃんと主役だよ」
「他のみんなもだって言うんだろ」
「もちろんさ」
「それじゃあ意味がないんだよ。僕はそんなのぜったいイヤだ」
 おじいさんはウサギさんのお話を書いている手を止めて、カエル君と向き合いました。
「それなら自分で書いてみてはどうかな」
「自分で書くだって?」
「そうだとも。わしがカエル君の話を書くのは構わないが、仕上がるのには時間がかかる。待っている時間を有効に使いたいなら、いっそのこと自分で書いてしまえばいい。お話は誰が書いてもいいんだからね」
 カエル君は驚きました。
「そうか。自分で書いていいんだ。そうしたら、もっと早く僕が主役になれるのか」
「そうだよ。自分の好きなように書いたらいい」
「わかったよ。ありがとう、お話を書くおじいさん。僕自分で書いてみるよ」
 カエル君はぴょんぴょん跳ねて、自分の家に帰りました。それからはおじいさんの家に行くのはやめて、自分でお話を書き始めました。そうして仕上がると、キリンさんとカバさんに見せにいきました。
「どうだい? この本は僕が書いた、僕が主役の本さ。おじいさんに言われて、自分でも書いてみたんだ」
 キリンさんとカバさんは驚きましたが、とても名案だと思いました。
「なるほどね。自分で書いてしまえばいいのね」
「確かにそうだな。おじいさんに書いてもらわなくても、自分で書けばよかったのか」
「だろう。二人も書いてみればいいよ。どっちにしたってこの本の主役は僕なんだから」
 カエル君は満足して帰りました。



 一週間後、他の動物たちに自分の本を配ったあと、カエル君は二人に聞きに行きました。
「本の方は進んでいるかい?」
「あら、私は本なんて書いてないわよ」
「え、どうして? 書かないと自分が主役になれないじゃないか」
「書けば主役だというのなら、書かなくても主役でしょう」
 カエル君は意味がわかりませんでした。けれどカバさんは頷いています。
「主役にこだわる必要はないということだ。どっちにしたって主役になれるんだからな」
「どうしてだよ。じゃああの僕たちが出ている本の主役は僕だってことだろう」
「あれは主役が決まっていないということになったでしょう」
「だからあれの主役はいないのさ」
「なら自分が主役の本は欲しいだろう? どうして書かないんだよ」
「証明する必要がないってだけさ」
「そういうことよ」
 カバさんの言葉に、キリンさんも頷いています。
「どういうことだよ。僕には全然意味がわからない」
「別にいいんじゃないかしら。カエル君はカエル君で。別にカエル君が主役の本を否定しているわけではないのよ」
「ああ、そうだとも。カエル君の本はカエル君が主役で、それでいいと思うぞ」
 なんだか納得がいかないカエル君でしたが、自分の本は他の動物たちに配り続けました。すると読んだ動物たちは、感動して自分で本を書き始める者も現れました。カエル君は、やっぱりそれが正しい反応だと嬉しく思いましたが、キリンさんやカバさんと同じように、書く必要がないという動物たちもいました。カエル君は、それが理解できませんでした。



 おじいさんの本は、相変わらず好評でした。おじいさんはいろんな動物を題材にした本を書き続けています。
 本を読んだ動物たちは、カエル君と同じように主役は自分だと言ったり、主役は自分だという者同士で議論したり、自分も主役になろうとして自分で書くようになったりと、様々でした。そして気にしない者もいました。
 おじいさんは、書いた本の主役が誰かと問われても、誰かひとりの名を上げることはありませんでした。主役ではないかと聞かれたすべての存在に、おじいさんはイエスと答え続け、そのせいで口論が絶えない本もありました。
 けれどおじいさんは、それでいいと思いました。おじいさんにとっては全員が主役。けれど主役を誰とするかは、読んでいる者それぞれが好きに決めればいい。その自由な楽しみ方の醍醐味を、おじいさんは知っているからです。
 おじいさんは、これからもいろんな動物たちのお話を書き続けるでしょう。そして主役は誰かと問われる度に、すべてであると答えるでしょう。それがおじいさんの書くお話の、主役の在り方なのです。
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