実力だけで生きていける世界になってしまった

zinbeityan

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生活安定編

第1話 急に世界が変わったとか言われても困ります

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「なんか、面白い番組ないかな~」

俺は高橋輝たかはしてる、高校一年生だ。
死ぬ気で勉強し、自分の行きたかった高校へと進学できた俺は、完全に勉強への熱意が尽きていた。
入学してから早くも半年が経過している。
学校は楽しいが、家での時間が何故か暇に感じてしまってしょうがない。
親には勉強をすればいいでしょ? と言われるが、先ほども言ったように、今の俺に勉強の熱意などない。
だから、今は部屋でお菓子を食べながら、面白いテレビ番組探しに精を出していた。
友達からゲームに誘われることもあったが、あいにく俺は全くゲームをしない。
ゲーム機なんて俺には、手元にあるだけの光る板なのだ。

「お! これ面白そうじゃん」

特に何も考えずに番組を変えると、ついに面白そうな番組に出会えた。
それは、最近ではよく見る異世界系のアニメだ。
魔法を使って戦ったり、剣と剣を交えたり。
ふ~ん、真昼間でもこんなアニメはしているのか。

話自体は二話目だそうで、一話を見ていない俺には、内容が分からないところもあったが、それでもキャラクターや世界観は大好きだ。
特に、主人公が魔法を使って敵をなぎ倒していくのは、見ているだけで爽快だ。


「夕日がきれいだね」

二話も終わろうとしてきたとき。
主人公の男と、その相棒と思われる女性がいい雰囲気になってきた。
おっ、まさか……?
顔を赤らめながら、主人公と女性が互いに歩み寄る。
そして、夕日に照らされて二人がキスシーンに入ろうとした瞬間!

ザザザザザザ!!!

テレビに黒いノイズが走り、画面が勝手に切り替わった!
そして、テレビには一人の男が映し出される。

「おい!誰だよこのおっさん!」

いや、別におっさんというわけではない……むしろかなり若かったが、怒りに任せておっさんと叫んだ。
テレビに映ったおっさん改めお兄さんは、にやりと口角を上げる。

「私はこの世界を管理するもの……お前たちの言葉で言えば、”神”だ」

……ん?
何言ってんのこのおっさ……お兄さんは。

「この世界は変わった。実力ある者のみが世界を動かし、この世界で生きることを許される。弱者は淘汰とうたされ、生きることさえ叶わない」

はぁ……?
あほくさ!
そう思い、番組を変えるためにリモコンのボタンを押す。

「あ、あれ?」

しかし、ボタンが反応しない。
何度ボタンを押しても、番組が切り替わらないのだ!
それどころか、テレビの電源すらも切れない。
こんな時は……

「おりゃ」

テレビの裏側に行き、コンセントを引き抜く。
あ、真似しちゃだめだよ?

しかし、コンセントを抜いても、テレビからは男が聞こえてきた。
見ると、テレビはまだ元気に男を映し出している。
何これ!? 心霊現象!?

怖くなった俺は、部屋から飛び出て階段を駆け下り、下のリビングへと降りる。
下には父さんと母さんがいるのだ。
階段を降り、リビングへと続く廊下を走り抜けると、そこにはテレビへ視線を向ける両親の姿があった。

「ま、まさか……」

テレビの方を見ると、先ほど俺のテレビに映っていた男がいた。
俺だけじゃないのかよ!?
え、じゃあ何? 今全世界でこれが放送されてるの?
あ、でも言語が通じないから日本だけか?
いや、自称神ならそのくらいどうとでもなるか。

「これから、今使われている通貨はすべて廃止する。これからは、全世界共通でこの”ルディ”を通貨とする!」

そう言って、一枚のコインを取り出す。
直径二センチほどの赤い円に、よくわからない模様が彫られている。

「このルディは、後から話すダンジョン、私が定期的に開催する武闘大会、そしてランキング順位に応じてのみ入手が可能だ」

ははは……そんなわけ
そう思い、財布の中を見ると、きれいさっぱりお金が消えていた!
硬貨も、紙幣もきれいさっぱりだ!

「いや、まだこっちがある!」

そう、今の時代はキャッシュレス!
スマホにもお金は入金できるんだよ!

ポケットからスマホを取り出す。
(顔認証ができません)

いや早くしろ!?
人の顔は、かなりのことがないとそんな一瞬で変わらんぞ!?
二回目の認証は、無事に通った。
すぐに電子マネーアプリを開き、残高を確認する。
(ゼロ円 残高がありません)

「嘘だろぉぉぉぉ!?」

テレビの男が言った通り、俺のお金は廃止されてしまった。
いや、ふざけんなよ?
明日、新発売の小説を買いに行く予定だったんだぞ?
というか、新通貨がダンジョンとかでしかゲットできないなら、もう小説家は愚か、本屋すら消えるじゃん……

「さて、私の言うことが本当だと、もう多くの人々が気づいたかな?」

画面の奥で、再び男が話し始める。

「次にいこうか。先ほど言葉にしたダンジョンについてだ。これは、君たちの世界……ファンタジー小説などでもよくあるだろう? モンスターを倒して次の階層に進むやつだ。まさにそれだよ。すべての人たちには、それぞれ一つずつダンジョンが用意されている。全員共有だと、いろいろと不便だからな。あぁ、心配するな。出現するモンスターや難易度は全員同じだ」

すると、画面が切り替わり、何やら建物の中らしい映像が映し出される。
奥には、ファンタジーの定番モンスターである「スライム」が出てくる。
半透明のぷよぷよした、ゲル状の体を持つモンスターだ。

「ここは一階層だから、雑魚しかいない。しかし、こんな奴らでも倒せば――」

画面外から出てきた男が、剣でスライムを斬る。
するとスライムははじけ飛び、消えてしまった。
しかし、そこには一枚のコインが落ちていた。
先ほど言っていた”ルディ”だ。

「ルディが落ちる。もちろん、階層を進めば進むほど強いモンスターが、そして豪華な報酬が待っている。全員、首を触ってみろ」

言われた通りに触ると、何かが手に触れた。
それはどうやらリング状のようで、首輪のように付けられている。
よく見ると、父さんと母さんにも付けられている。
いつの間に……

「それが、この世界での君たちを管理する装置だ。そして、君たちをルディへと導き、そしてそれを使うために必要な装置でもある」

ブゥン
というバイブ音とともに、目の前に謎の画面が表示される。
よくアニメなどでみる、半透明の画面だ。
首の装置がプロジェクターのような役割をしているのだろうか。
それはどうやらタッチできるようで、自分で操作ができる。

「全員、装置のメニューを開いてみろ」

言われた通りに開くと、バーが開く。
ダンジョン、ランキング、大会参加、買い物など、いろいろな項目がある。

「ダンジョンという項目を開いてくれ。あぁ、右下にある訓練モードをオンにするのを忘れるなよ。ここで死なれたらつまらんからな。開けたら、開始を押すんだ」

訓練モードをオンっと……
ダンジョン開始!

「な、なんだ!?」

開始を押した瞬間、辺りが暗闇に包まれる。
しかし、すぐに再び明るくなった。
完全に辺りが明らかになった時、俺は絶望した。

「ここ……どこ!?」

俺が立っていたのは、天井、壁、床すべてが石でつくられた空間だった。
かなり広く、空間は奥にも続いているようだが、よく見えない。

「キュウ!」
「はっ!」

後ろからの音にびっくりして振り向くと、そこには自分の膝ほどの高さのスライムがいた。
プルプルとした体を揺らしながら、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。

「あぁ、なんて可愛いんだ」

抱き上げようと、腕を伸ばした瞬間……

「ギュウ!!」

突如スライムが腕に巻き付いてきた!
しかもこいつ……重い!
重さに負け、俺の腕は体ごと地面へと倒れる。
そこをチャンス! と思ったのか、スライムが一気に俺の全身を飲み込む!

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

そのまま、俺は意識を失った。


(死亡してしまいました。実力不足です)

次に目を覚ました時、俺はリビングの椅子に座っていた。
母さんと父さんも、揃って椅子に座ったまま動かない。
恐らく二人も、俺と同じように”あそこ”へ行っているのだろう。
それにしても、スライムがあんなに凶暴だとは……俺には可愛いイメージしかなかったぞ!?

しばらくして、二人も目を覚ました。
それと同時に、テレビに再び男が映し出される。

「今見てもらったのが、ルディを稼ぐ方法の一つ、”ダンジョン”だ。モンスターを倒し、次の階層をどんどん目指し、大金を得るもよし。自分に見合った階層にこもり続け、少ないルディを稼ぎ続けるもよしだ」

ピコーン
(能力スキルを入手しました。以下から三つ選んでください)

通知音と共に、再びあの画面が開かれる。
もう面倒くさいから、メニュー画面と呼ぼう。

「全員に、それぞれ能力スキルを一つずつ、ランダムに配布した。強弱は運だが、どれも使い方によって、その能力スキルだけでダンジョン十層まではクリアできることを保証しよう。あぁ、言い忘れていたが、ダンジョンは十階層ごとにボスがいて、そいつを倒すことで再びランダムに能力スキルを一つ入手できる」

ふ~ん、なるほど。

「残りのルディ入手方法である”大会”、”ランキング”については、二日後にまた説明しよう。ではさらばだ。後のことは、案内に従えばいい。疑問があれば、その機械に聞けばいい」

そういって、テレビから男の姿は消えた。
何事もなかったかのように、先ほどまで親が見ていたニュース番組が映し出されている。
だが、向こうもニュースどころではないようで大騒ぎだ。
はぁ、どうしろっていうんだよ?

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