僕の番は規格外の天才で、気づいたら世界を平和にしてしまいました

ニア。

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29 安全な世界をプレゼントされました

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僕が婚約したあと、お父さんがいることを打ち明けようと、タイミングを見計らっていたらしいんだ。

 だけど、親の事情で婚約破棄になったら僕が不憫だからって、どうしても言い出せなかったんだって。

 そんな中で、ロカヒお父さんに陽ちゃんから面会の申し込みが来た。

(陽ちゃんは、新素材の家を売り出すときの法整備のために、平和主義者でビジネスにも成功しているロカヒお父さんの意見を聞きたかったんだって。)

 そんなことを知らないロカヒお父さんと秋穂ママンは、とても戸惑ったらしい。

 まず僕に父親のことを伝えて、それから婚約者にどう打ち明けるのか――あるいは打ち明けないのか――決めるつもりだったんだって。

 なのに。

 僕ったら情緒不安定になって、話し合いもせずに部屋を飛び出してしまったんだよ。

 痛恨の極みです。

 そんな落ち込む僕に、陽ちゃんがぽつりと言った。

「麦穂、この前の発情期に、君から逃げてごめんね」

「一緒に居られない、なんて言ったから情緒不安定になったんだよね?」

「えっ?」

 ……あ。

「あぁー、そうだ。そんなこと言われたかも……」

 あのあと、気分の浮き沈みが激しくなっていたんだった。

 なんだ、僕たち。番不足だったのか。

 オメガとアルファの夫婦のあいだに起きる禁断症状みたいなものだ。

 会えない時や、満たされない時に起こるんだよ。

 不安とか、震えとか、不眠とか、イライラとか、吐き気とか。

 けっこう厄介。

「なんだ、番不足でしたか」

 ロカヒお父さんが笑った。

「それは大変でしたね」

「誠実な陽一郎さんだから、我慢しすぎたのでしょう」

「アルファとオメガは、発情期にはしっかり受け止め合わないといけませんからね」

 ママンも頷いた。

「陽一郎さん、むーちゃんの発情期を一生懸命耐えてくれていたのね」

「真面目なあなたらしいわ」

 そしてさらっと言った。

「でもね、私がロカヒさんと番ったのは、私が十七歳、ロカヒさんが十八歳の時よ」

「そんなに悩まなくても自然に任せても大丈夫」

 なんと。

 飛び級で大学に入ったママンが研究でホロムア島に行ったのは、十七歳の時だったらしい。

 初恋の力、恐るべし。

 ポーリー諸島の島々で観光施設を経営し、ケコア族の族長でもあったお父さんは十八歳の実業家。

 ……情熱的すぎない?

 しかもママン。

 お父さんの成人の儀式の映像で一目惚れしてたらしい。

 目が合っただけでヒートが来たんだって。

 すごい話だよね。

 その時、陽ちゃんが少し困った顔をした。

「そう言っていただけると、少し肩の力が抜けました」

「ですがご安心ください」

 そして、さらっと言った。

「麦穂と発情期を安全に過ごせる部屋を、もう用意しました」

「……え?」

 ママンとロカヒお父さんが同時に固まる。

「瞬間換気機能を強化した小部屋です」

「オメガフェロモンを打ち消す天然木ソレシランの香りをベッドリネンに織り込み」

「さらにβ・グリノースとクロロ・ヘキシン、プリテオ・オーミクスの化合生成物を毎秒147ppm注入します」

 さらっと言う。

「未成年の番対応の部屋です」

 さらっと言う。

「電力は毎分9.25ジゴワット使いますが、新発電所を作ったので問題ありません」

 そして真顔で言った。

「だから、あと二年耐えてみせます」

 ロカヒお父さんとママンが同時に叫んだ。

「家庭で使う電力が9.25ジゴワット!?」

 でも僕たちは気にしない。

 おでことおでこをくっつけて見つめ合う。

「あと二年なの?」

「その後は耐えないの?」

「ああ」

 陽ちゃんは真顔で言った。

「あと二年だけだ」

「麦穂、これで安全に発情期を過ごせる」

「わーい」

「ずっと一緒にいられるの?」

「ああ」

「むしろ二年後が本番だ」

「愛してる、麦穂」

「僕も大好き」

「ずっと一緒にいようね」

 遠慮がちにママンの声が聞こえた。

「二人とも、無理しすぎないでね?」


***


 陽ちゃんが開発した新素材の家――

 『新空間ハウス』

 これはその後、地球から戦争や争いをなくすための装置として使われることになった。

 他者を敬い、争わないこと。

 この条件さえ守れば――

 無料で、広くて、安全な家が手に入る。

 だから世界中の人が使い始めた。

 そして。

 世界から戦争は消えた。

 人類史上、最も長い平和が続いた。

 陽ちゃんが歴史に名を残すのは、もう少し先の話。

 後に自伝でこう書いていたらしい。

 「番に出会ったから、世界が平和であってほしいと思った」

 自分の発明はすべて、番のため。

 僕のため。

 優しいよね。



***


 それから長い長い平和な世界で。

 たまに龍一郎お義父さんとロカヒお父さんが釣りの旅に出たりする。

 僕と陽ちゃんも、蒼を連れてたまに同行する。

 もうリードは付けていない。

 世界が平和になったから。

 法律は「争わないこと」だけ。

 国もなくなった。

 百合子お義母さんは、男の娘用下着ブランドを立ち上げた。

 顧問はママン。

 二人はとても仲が良くて、よくお茶をしている。

 僕と陽ちゃんも、たまに呼ばれる。

 昼から始まったランチ会が、夜まで続くこともある。

 ……そして。

 僕たちが成人するまでの二年間をどう過ごしたのか。

 それから、成人後のヒートのこと。

 それは――

 二人だけの秘密にしておこうかな。

 むふふ。

 陽ちゃんは、出会った日の約束を守った。

 本当に。

 安全な世界を僕にくれたんだ。



 規格外に優秀な番から――

 安全に暮らせる世界をもらいました。








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