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28 面会の申し込み
しおりを挟む「麦穂、私が父親だと名乗っても良いでしょうか?」
「え?もちろんだよ」
僕はすぐに答えた。
「当たり前に、いいよ。僕、とても嬉しかったんだ。僕に父親がいるなんて」
「僕とママンを守ってくれてありがとう。ロカヒお父さんは僕の自慢のパパだよ」
ロカヒお父さんは「うぅ……」と嗚咽を漏らし、手で口を押さえて必死に涙をこらえていた。
その肩にママンがそっと手を置く。
ママンの目にも涙が浮かんでいた。
こんなに愛情を注いでくれていたんだもの。
タトゥーなんて気にしないよ。
普通の夫婦の形が取れなかったのは、文化の違いだから仕方ないよね。
腐る病の乙女も言ってたな。
『クール系だと思ってた。解釈違いだわ。見た目のギャップ、死ぬぅ』
見た目で判断すると死ぬんだよ。きっと。
***
「あぁ、嬉しいです。私の天使」
ロカヒお父さんに抱き寄せられて、キスの嵐が降ってきた。
ふふふ。
お髭がチクチクしてくすぐったい。
お父さんって温かくてぽかぽかしてる。
僕だって嬉しいよ。
「……ロカヒお父さん」
「はい、何でしょう?」
「うふふ、お父~さん」
「あぁ、幸せです。麦穂」
照れくさいけど、頬をすり寄せる。
体温が伝わってきて安心する。
そのまま僕を抱っこしたロカヒお父さんが、今度は陽ちゃんに向き直った。
「ところで陽一郎さん」
「私にはタトゥーがありますし、《外人》です」
「そんな私が義理の父親になっても良いですか?」
「貴方が面会を申し込んだ理由は、この確認でしたか?」
「え?面会?」
僕はびっくりして陽ちゃんを見る。
「陽ちゃん、校長先生に面会申し込みしてたの?入れ墨が入ってる僕のお父さんだから?」
陽ちゃんは困った顔で首を振った。
そして僕の頭を撫でる。
ついでにほっぺをカプカプされた。
……なんで今?
それからロカヒお父さんに向き直る。
「いいえ。それは全く関係ありません」
凛とした顔で言った。
「麦穂くんの父親として」
「一人のビジネスの成功者の先輩として」
「そして優秀な教育者として尊敬しています」
「タンガ・ロア・ロカヒさん」
……タン?
名前長い。
覚えられない。
「二十年以上前の、あなたを追ったドキュメンタリー映画を見ました」
「その映画をきっかけに、私もビジネスを始めました」
「大ファンです」
「えぇ~」
ママンが声を上げた。
「陽一郎さん、あの映画見たの?」
「私も見たわよ。あれで熱帯保護の研究者を目指したの」
ママンはさらっと言った。
「成人の儀式のロカヒさんに一目惚れしたのよね」
……なんてこった。
母の研究熱心さ、邪念の塊だった。
「私が面会を申し込んだのは、ビジネスの相談です」
陽ちゃんは続けた。
「畑中学園の経営理念を拝見し、深く感銘を受けました」
「新規事業の法整備の枠組み作りについて、知恵をお借りしたくて」
ふと、陽ちゃんがこちらを見る。
目が合った。
「……麦穂の父親の件は、薄々気づいていました」
え?
「マンションの名義と、畑中学園から推測していました」
「でも、それはご両親の話だと思っていました」
なんと。
気付いてたの?
「それに」
陽ちゃんは静かに言った。
「ロカヒさんは、この国に害を成しに来たわけではないでしょう?」
「みんな歓迎していますよ」
その時の陽ちゃんは、完全にビジネスマンの顔だった。
凛としていて、綺麗で、眩しくて、すごくかっこよかった。
「入れ墨の問題は、この国の歴史の影響でしょうね」
「かつて罪人の証として墨入れをしていた国があった場所ですから」
僕も知ってる。
遠い昔の国の話。
「誇りと名誉の証としての入れ墨を理解する人が少なかったのでしょう」
「恐怖の象徴だった時代があったのですから」
ロカヒお父さんが静かにうなずいた。
「私を見ると悲鳴を上げる方もいます」
……僕も最初ちょっと怖かった。
「やはり、揉め事をなくすには話し合うしかありませんね」
「認め合うことが大切なのです」
「あなたと私は違うけれど、あなたを尊重します」
ロカヒお父さんが言う。
「他人を傷つけた先に幸せはありません」
陽ちゃんが答える。
「それと、ほんの少しの余裕も必要ですね」
「なるほど」
ロカヒお父さんは笑った。
「秋穂さんと麦穂くんを守ってくださり、ありがとうございました」
陽ちゃんは深く頭を下げた。
「これからは私も全力で守ります」
「ありがとう」
ロカヒお父さんは言った。
「私の新しい息子」
「私の両親も、きっと貴方を尊敬します」
陽ちゃんが言う。
「結婚を反対などしません」
綺麗な最敬礼だった。
「こちらこそありがとう」
ロカヒお父さんが言った。
「麦穂と秋穂を大切にしてくれて」
「陽一郎くんが麦穂の番で嬉しいですよ」
しばらく僕は二人の間を行き来していた。
抱っこされたり、引き寄せられたり。
そして気付いたら――
僕を真ん中にして、
ロカヒお父さんと陽ちゃんが
抱き合っていた。
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