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27 ロカヒお父さんのお部屋へ
しおりを挟むロカヒお父さんの運転する車の後部座席で、陽ちゃんにくっ付きながら、僕は少しずつ平静を取り戻していった。
陽ちゃんは僕の手を握り、ほっぺに何度も頬をすり寄せてくる。スリスリ、スリスリ。
そのうち、陽ちゃんの表情も少しだけ和らいできた。
良かったぁ。
体と体が当たる腰のあたりがぽかぽかしていて、嬉しい。
僕、生きてるんだ。 陽ちゃんに触れて、触ってもらえて、嬉しい。 ……良かったぁ、生きていて。
ルームミラー越しに後部座席をちらりと窺ったロカヒお父さんが、静かに話し始めた。
「どこから話しましょうか……そうですね。私がこの国に定住を決めた頃の話からにしましょう」
僕たちは黙って聞いていた。
「秋穂の契約していた独身者用マンションに身を寄せていた私は、生まれてくる子供と三人で住める家を探しました」
少し間を置く。
「ですが、賃貸契約はすべて断られてしまいました」
……辛いね。何もしていないのに。
「ですが、ちょうど良いタイミングで桜ヒルズの隣駅の再開発の話がありましてね」
ロカヒお父さんはさらりと言った。
「あの周辺の土地を丸ごと買い、マンション経営を始めることにしました」
「ーーーへ???」
えぇっと……。
スケールが大きすぎない?
ロカヒお父さんも、規格外だよねぇ。
その瞬間、頭の中でシナプスが繋がった。
僕の住んでいるマンション、桜ヒルズマンション。
センターレジデンスと、ツインタワーのフィールドレジデンス。
センター(中央)。 フィールド(畑)。
……畑中。
畑中学園。
え、つまり。
ロカヒお父さん、全部作ったの???
ロカヒお父さんは、どれだけママンが好きなの?
「これで秋穂と麦穂が生活に困ることはない、と思ったのですが」
少し苦笑する。
「次は、保育園の見学を断られました」
理由は、言わなくても分かった。
「私の見た目のせいですね」
「この頃から、ロカヒさんは“夫”と名乗らなくなったの」
ママンが静かに言った。
「はい。家族を守るためです」
ロカヒお父さんは続けた。
「麦穂が起きている間は部屋に近寄りませんでした。眠るのを待って、抱きしめていました」
ルームミラー越しに見えた横顔に、涙が滲んでいた。
「とても、とても苦しかったですよ」
車の中が静かになる。
「入園できないならばと、保育園から大学までの学校を一年で作りました」
おぉ。
「両親がヒート期間でも一人にならないよう、学園に寮も作りました。二十四時間保育もです」
……それ。
僕のため?
「友達がたくさん出来ますようにと」
「人生が豊かになりますようにと」
「多くのカリキュラムを用意しました」
ママンが振り向いた。
「両親からの知識の贈り物のつもりだったんだけど……むーちゃん、お勉強あまり好きじゃなかったみたいなのよね」
「ごめんなさい」
思わず言ってしまった。
「ママンはこんなに優秀なのに」
「でもカルチャー棟のお教室は好きだよ」
ママンはふふっと笑った。
「ロカヒさんが、麦穂が好きそうだからって作った教室よ」
……そうだったの?
「人生ってね、お勉強だけが全てじゃないのよ」
ママンは優しく言った。
「人は一人では生きていけないでしょう?」
「だから、人に助けてもらう力も大切なの」
……あ、それでいいの?
「むーちゃんは、みんなから可愛がられているでしょう?」
「それも立派な力なのよ」
陽ちゃんが、僕の頭をなでた。
なでなで。
ああ、落ち着く。
「長い時間がかかってもいいの」
「自分なりの生き方を見つければいいのよ」
僕はうなずいた。
いつか僕も、この大きな愛に何か返したい。
そう思った。
***
ロカヒお父さんの家は――
なんと。
僕の実家C-1001と、僕と陽ちゃんのC-1003の間。
C-1002号室だった。
しかも。
実家とコネクティングドアで繋がっていたらしい。
え?
あの開かないドア?
開くの???
リビングに入った瞬間、僕は固まった。
壁。
棚。
机。
キャビネット。
全部――
僕とママンの写真。
所狭しと飾られている。
胸がきゅっとなった。
「この部屋で見守ってくれていたんだね」
僕は小さく言った。
「ごめんなさい」
ロカヒお父さんは優しく笑った。
「迷惑などではありません」
「愛しています」
「私たちの宝物、ラゥラ・ウォア・マカマエ・イッラァエマ神の子」
新しい神来たーー!
また、新しい神だ!
長すぎて覚えられない。
検索したい。
でも発音覚えてない。
困った。
その横で。
「かぁわいい」
陽ちゃんがぼそりと言って、壁の写真を撮影していた。
……なんで。
***
「さあ、食事にしましょう」
床に板を置き、大皿料理が並ぶ。
蒸した芋。 肉。 野菜。 果物。 魚のスープ。
いい匂い。
「「「いただきます」」」
ママンがどんどん取り分ける。
「ロカヒさんのお料理は落ち着くわ」
ロカヒお父さんは食事の前に祈りを捧げた。
ポーリー諸島の感謝の儀式。
「僕もする?」
「強制ではありません」
ロカヒお父さんは笑った。
「文化は違っていいのです」
……かっこいい、漢だ。
そして気付いた。
僕、今、陽ちゃんの膝の上で食べている。
……まあいいか。
落ち着くし。
クンクン。
ご飯。
クンクン。
パク。
クンクン。
パク。
陽ちゃんは僕を膝に乗せたまま、僕の頭に顎を乗せて、
何度も、何度も、
頭の形を確かめるみたいにスリスリしていた。
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