7 / 8
7話 1日を終えて
しおりを挟む
『ピピピ……』
電子音の鳴る音でマリアは眠りから覚めると、カバンから次の授業の教科書を取り出した。
用意を済ましたところで何かを感じ目線を机の上から上げると、ジョンが彼女をジッと見ていた。
マリアが首を少し傾げると、ジョンは表情を緩めて、
「マリアさん、眠れませんでしたか?」
マリアは首を横に振った。
「ジョンお兄さまがご覧になっていると思うと緊張して眠れないと思いましたが。
眠りました」
ちょっと恥ずかしい……と思いながらマリアがジョンを見ると、ジョンは不思議そうな顔をしていた。
「じゃあ。
眠っていたんですか?」
「ええ」マリアが頷くと、『ふうん……』と言うようにジョンは頷いた。
「わたくし、眠っている間に何かしたでしょうか?」
マリアが『夢遊病』のことが心配になって聞くと、
「いや何も」ジョンは首を横に振った。
「ずいぶん、静かで……
だから、ただ目を瞑っているだけかと思いました」
マリアはホッとしたが、『夢遊病』以外にも年頃の女性として気になったことを聞いた。
「いびきとか、しませんでしたかしら……」
「ええ」ジョンは即答した。
「寝息すら、聞こえませんでした。
だから目を瞑っているだけなのかと思ったんです」
「良かった」マリアは嬉しそうに微笑んだが、ジョンはそんなマリアを何か考え込んでいるかのように見つめた。
※※※
マリアは数学の問題を解いていた。
(う~ん……)
同じところにずっと留まっていると……
ジョンがマリアの机の上に置いてある問題集を覗き込んだ。
「わからないんですか?」
『あは……』と言うような照れ笑いを浮かべると、マリアはこくりと頷いた。
「教えてあげると言ったのに」
ジョンはニヤリとした。
「数学なら、僕にも『わかる範囲』ですよ」
ジョンはマリアに『僕にもわかる範囲のことなら教えることができるので、質問して下さい』と言ってあったのだ。
『えへ……』とマリアは照れ笑いをすると、ジョンに質問した。
「これが、こうなる理由がわかりませんの」
指で数式を差しながら言うと、
「ああ。それは……」
ジョンは分かりやすく説明してくれた。
「ああ……」マリアは『納得』の声を上げた。
「わかりましたわ」
ジョンはニコリとしてみせるとマリアの机と向かい合わせになるよう設置した自分の机に戻った。
そして自分の勉強に戻る。
(やはりお兄様は頭が良いです)
医者なので当たり前だけど……と思いつつ、マリアは彼の読む難しそうな本をチラリと見た。
それから本を読むジョンに目を移す。
いつもの穏やかな顔とは違う真剣な顔が見えた。
ドキリ、とした自分にマリアは苦笑した。
(これが『ギャップ萌え』と言うものかしら……)
※※※
その後も同じように、タイマーによって正確に授業と休み時間を取っていった。
休み時間中マリアは『見られていると緊張する』と思いながらもやっぱり『すぐ寝た』。
昼休みになると、食事をメイドに運ばせて、マリアの部屋で取った。
「マリアさん。全部の休み時間、眠っていたんですよね?」
ジョンが聞くと、マリアは恥ずかしそうに頷いた。
「うらやましいな……」
ジョンがつぶやくのが聞こえると、『えっ』とマリアはジョンを見た。
マリアの驚く顔にニヤリとすると、
「だって。
すごく、寝付きが良いし。
寝起きも良いですよね」
『う~ん』マリアは自覚がなかったので、よくわからなかった。
「そうでしょうか?」ととりあえず言うと、
「僕なら眠れませんね。10分間なんて……」
「あら。そうですの……」
マリアは人の睡眠事情まではよく知らないので、自分が基準で、自分が普通だと思っていた。
「いいですよね。いつでも眠れるし」
フッと笑い、
「僕もマリアさんみたいな睡眠ができるなら。
マリアさんと同じように休み時間とか寝まくっていたかもしれませんね」
「まあ……」
マリアは微笑んだが、ちょっと新しい発見があった。
どうやら他人は自分のようには睡眠ができない、のかもしれない――ジョン以外の人も――そんな発見だった。
※※※
その後、午後の授業も同じように行うと、ジョンは帰っていった。
「明日も来ますね」ジョンが言うと、
「他の方の診察など、お仕事は大丈夫でしょうか?」マリアは心配そうに言った。
「そうですね。
明日は午前中だけ僕が見て。
午後は看護師に見てもらうとか。
考えています」
「良かった」
マリアはホッとしたが、同時に『少し寂しいかも……』と頭の片隅で思ったことに罪悪感を感じたのだった。
電子音の鳴る音でマリアは眠りから覚めると、カバンから次の授業の教科書を取り出した。
用意を済ましたところで何かを感じ目線を机の上から上げると、ジョンが彼女をジッと見ていた。
マリアが首を少し傾げると、ジョンは表情を緩めて、
「マリアさん、眠れませんでしたか?」
マリアは首を横に振った。
「ジョンお兄さまがご覧になっていると思うと緊張して眠れないと思いましたが。
眠りました」
ちょっと恥ずかしい……と思いながらマリアがジョンを見ると、ジョンは不思議そうな顔をしていた。
「じゃあ。
眠っていたんですか?」
「ええ」マリアが頷くと、『ふうん……』と言うようにジョンは頷いた。
「わたくし、眠っている間に何かしたでしょうか?」
マリアが『夢遊病』のことが心配になって聞くと、
「いや何も」ジョンは首を横に振った。
「ずいぶん、静かで……
だから、ただ目を瞑っているだけかと思いました」
マリアはホッとしたが、『夢遊病』以外にも年頃の女性として気になったことを聞いた。
「いびきとか、しませんでしたかしら……」
「ええ」ジョンは即答した。
「寝息すら、聞こえませんでした。
だから目を瞑っているだけなのかと思ったんです」
「良かった」マリアは嬉しそうに微笑んだが、ジョンはそんなマリアを何か考え込んでいるかのように見つめた。
※※※
マリアは数学の問題を解いていた。
(う~ん……)
同じところにずっと留まっていると……
ジョンがマリアの机の上に置いてある問題集を覗き込んだ。
「わからないんですか?」
『あは……』と言うような照れ笑いを浮かべると、マリアはこくりと頷いた。
「教えてあげると言ったのに」
ジョンはニヤリとした。
「数学なら、僕にも『わかる範囲』ですよ」
ジョンはマリアに『僕にもわかる範囲のことなら教えることができるので、質問して下さい』と言ってあったのだ。
『えへ……』とマリアは照れ笑いをすると、ジョンに質問した。
「これが、こうなる理由がわかりませんの」
指で数式を差しながら言うと、
「ああ。それは……」
ジョンは分かりやすく説明してくれた。
「ああ……」マリアは『納得』の声を上げた。
「わかりましたわ」
ジョンはニコリとしてみせるとマリアの机と向かい合わせになるよう設置した自分の机に戻った。
そして自分の勉強に戻る。
(やはりお兄様は頭が良いです)
医者なので当たり前だけど……と思いつつ、マリアは彼の読む難しそうな本をチラリと見た。
それから本を読むジョンに目を移す。
いつもの穏やかな顔とは違う真剣な顔が見えた。
ドキリ、とした自分にマリアは苦笑した。
(これが『ギャップ萌え』と言うものかしら……)
※※※
その後も同じように、タイマーによって正確に授業と休み時間を取っていった。
休み時間中マリアは『見られていると緊張する』と思いながらもやっぱり『すぐ寝た』。
昼休みになると、食事をメイドに運ばせて、マリアの部屋で取った。
「マリアさん。全部の休み時間、眠っていたんですよね?」
ジョンが聞くと、マリアは恥ずかしそうに頷いた。
「うらやましいな……」
ジョンがつぶやくのが聞こえると、『えっ』とマリアはジョンを見た。
マリアの驚く顔にニヤリとすると、
「だって。
すごく、寝付きが良いし。
寝起きも良いですよね」
『う~ん』マリアは自覚がなかったので、よくわからなかった。
「そうでしょうか?」ととりあえず言うと、
「僕なら眠れませんね。10分間なんて……」
「あら。そうですの……」
マリアは人の睡眠事情まではよく知らないので、自分が基準で、自分が普通だと思っていた。
「いいですよね。いつでも眠れるし」
フッと笑い、
「僕もマリアさんみたいな睡眠ができるなら。
マリアさんと同じように休み時間とか寝まくっていたかもしれませんね」
「まあ……」
マリアは微笑んだが、ちょっと新しい発見があった。
どうやら他人は自分のようには睡眠ができない、のかもしれない――ジョン以外の人も――そんな発見だった。
※※※
その後、午後の授業も同じように行うと、ジョンは帰っていった。
「明日も来ますね」ジョンが言うと、
「他の方の診察など、お仕事は大丈夫でしょうか?」マリアは心配そうに言った。
「そうですね。
明日は午前中だけ僕が見て。
午後は看護師に見てもらうとか。
考えています」
「良かった」
マリアはホッとしたが、同時に『少し寂しいかも……』と頭の片隅で思ったことに罪悪感を感じたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる