僕の瞳には君がいる

雨季

文字の大きさ
5 / 7
第五話

変わらないもの

しおりを挟む
「今日は仕事定時に終われてよかったっすね~」

「ああ、そうだな」

 職場から出て、源太と二人で飲みにいく予定をしていたのもあって、店を探すことにした。

「梶井さん、前に行った居酒屋行きません?」

「そうしようか」

 そこは、木造りの落ち着いた雰囲気のお店で、俺達はカウンター席に案内された。
 ハイボールを2つと何品か料理を注文した。
 そうすると、源太が口を開いた。

「最近Ritsuさんとは、連絡とってるんですか?」

「まあ、そうだな……。それと源太には言えてなかったけど、実は俺と学生の時の同級生なんだよ」

「Ritsuさんが、梶井さんと同級生だったんですか……!」

 そう言って、源太は隣で驚いた顔をしている。

「そんな驚くことか?」

「驚きますよ!うわぁ~、いいな~。羨ましすぎます」

「そうかな」

「そうですよ~。縁があるんですね~。じゃあ、久しぶりに話して、盛り上がったんじゃないですか?」

「久しぶりすぎて、逆に何話せばいいか難しい感じはあるかな」

「俺ならガンガン話しかけますけどね!笑」

「たしかに、積極的に話してそうな感じするわ笑」

「でしょ?笑」

「源太のそういう、誰とでも打ち解けられるところいいなって思うよ」

「褒めても何も出ませんよ~?でも、俺は梶井さんの頼り甲斐があって落ち着いててクールなところめっちゃかっこいいと思います!」

「そうか、なんか改めて言われると反応に困るな……」

「もしかして、照れてます?照れてる梶井さん、見られることってあまりないから、なんか嬉しいです」

「源太もう酔ってんのか?」

「まだまだですよ!てか、聞いてください。梶井さんに相談があるんですよ~」

「どうした?仕事の話か?」

「最近、付き合ってた人に振られたんですよ~」

「そう、だったのか。それは辛いな」

「はい、2年ぐらい付き合ってたんですけど、俺のどこが良くなかったんですかね~。もうマチアプでもやろうかな」

「ちなみにその彼女とは、どこで出会ったんだ?」

「大学です。でも、彼女じゃなくて付き合ってたの男ですよ」

「そうなのか……」

「びっくりしました?隠してるつもりはなかったんですけど、俺実は恋愛対象男なんですよね」

 その言葉を聞いて、俺は律のことを思い出した。俺ももしかして男が恋愛対象なのか……。でも、俺は律のことしか好きになったことがないからわからなかった。

「梶井さん、なんか急に変なこと言ってすみません。こういう話って周りに話しても理解されないことも多いんですよね~」

「いや、ちょっと昔のことを思い出してたわ。でも、恋愛って男女だけのものじゃないだろ。2年も付き合ってたなら、お互い大事に思ってたってことだろ。あまり自分のことを責めんなよ。相手にも事情があったのかもしれないし」

「え~~、梶井さん好きです~~。今日お礼にご馳走させてください~~」

 源太は酔っていたのか、俺の腕に縋り付いてくる。

「はいはい、わかったから。あと、今日飲みに来たのは、前に源太が仕事のフォローしてくれたからだろ?だから払わなくていいって」

 源太の背中をさすりながら、俺は水を飲むように促した。

「梶井さん~、ありがとうございます。俺、梶井さんに話してよかったです」

「そうか、それならよかった」

 数時間後、俺達は食事を済ませて店を出ることにした。

「ごちそうさまです!」

「ああ、いいよ。また行こうな」

「ぜひ、また行きましょうね」

 そう話しながら帰っていると、声をかけられる。

「……祐馬?」

「……律」

「こんなところでRitsuさんに会うなんて、奇遇ですね~」

 驚いて足元の段差に気づかず、一瞬転びそうになるのを、律は抱き止めてくれた。

「悪い……」

 すぐ腕は離されたが、支えられた腕の感触を思い出して、鼓動が早くなる。

「濱辺君だよね。祐馬のこと借りてもいい?話したいことがあって」

「はい、もう帰るところでしたし、大丈夫ですよ。お二人とも気をつけてくださいね。じゃあ、お疲れ様です~」

「ああ、お疲れ。源太も帰り気をつけろよ」

「濱辺君もお疲れ様。今度三人で飲みにでも行こう」

「はい、行きましょう!では、失礼します」

 俺と律は源太を見送ると、なんとなく気まずい空気が流れる。あれ以降二人で会うことはなかったからだ。
 その空気を察してか、先に口を開いたのは、律だった。
 
「金曜に会う予定だったのに、まさかこんなところで会うとは思わなかったな」

「たしかに」

「てか、かなり飲んだんじゃない?さっきも転びそうになってたし心配だな。顔もこんなに赤いし」

 そう言って律は俺の頬に触れた。その瞬間、自分の体じゃないみたいに、激しく鼓動が響いている。それが律に聞こえるんじゃないかと俺は気が気でなかった。

「……やばいわ、俺の方が酔ってるかも」

 一瞬で触れていた手は離れて、律は俺から視線を逸らした。

「律も飲みに行ってたんだ?」

 俺がそう言うと、少し困ったような顔をしていた。

「……うん。さっきまで飲みに行ってて、久しぶりに結構飲んだかも。だから引き止めて悪いけど、話あるって言ってたこと今度でもいい?」

「そんな大事な話?」

「うん、まあ……」

「じゃあそれは今度聞かせてよ。それと、引き止めたかわりに、俺の言うこと一個聞いてくれない?」

「何?」

「今から俺が律にすること、酔ってるせいってことにして許してほしい」

 俺は指先だけを律の指にわずかに絡ませる。それは、もし律に拒否されたとしてもすぐに手が解けるように。
 それと、酔ってるせいだということを言い訳にしたとしても、律への気持ちが指先から少しでも伝わってほしい、そんな気持ちを込めて……。

「祐馬、手冷たくない?暖めた方がいいよ」

 律は俺の願いとは裏腹な言葉を返してきた。そして、わずかに絡めていた指を律は離れないように繋ぎ直した。
 もう俺は、このまま律とずっと一緒にいたいとさえ思ってしまう……。

「それとさっきのことだけど、俺は酔ってるせいにしたくないけど」

 そう言って、一瞬俺の方を見て少し照れて笑う律の笑顔は、昔の律と変わらないままだった。それに俺は思わず見惚れてしまう。

「祐馬、俺のこと見過ぎじゃない?さすがに照れるって」

「それはごめん。もう見ないから」

「そんなこと言ってないじゃん。照れるだけで、嫌じゃないから」

「そっか……」

「あー……やばいわ。なんか今日一人で自分の家に帰りたくないかも」

「さすがにそれは酔いすぎだから」

「やっぱ結構酔ってるかな笑」

「そうだよ」

 そう言って、俺達は歩き出した。その間、お互いに手を離そうとせず、しっかり手は繋がれたままだった。
 どうかこのまま律と会えなかった時間を取り戻せたらいいのに、俺はそんな期待をしてしまう……。
 そして、しばらく歩いていると律は足を止めた。

「ここ俺の家なんだよね」

「そっか、じゃあ俺も帰るわ」

「……うん」

 そう言って、一瞬繋がれた手をきゅっと力が入った気がしたけど、その手は徐々に解かれていく。俺はそれに胸が苦しくなった。心の中で何度も離れたくないという願いは叶わなかった。
 でも、手が離れても律は帰ろうとしない。

「中入ったら?」

 そんな自分の気持ちを抑えて、俺は律にそう言った。

「そうだよな。うん、じゃあまた金曜日に」

「わかった」

 心なしか律の顔は寂しそうに見えたけど、俺は気づかないふりをした。栗の気持ちを確かめることが怖かったからだ。   本当は、俺も律と離れることが寂しかったのに……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動

相沢蒼依
BL
 名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。  一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。  青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。 《届かぬ調べに、心が響き合い》 https://estar.jp/novels/26414089 https://blove.jp/novel/265056/ https://www.neopage.com/book/32111833029792800 (ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

【完結】神童と呼ばれた後輩に懐かれた。それはいいんだけど、ちょっと懐きすぎじゃない!?

チョロケロ
BL
魔法省で働くロレンスの元に、新入社員がやってきた。その名はキーランと言う。十八歳で子供の頃は神童と呼ばれていた少年だ。 だが、幼い頃から周りにちやほやされていたらしく、もの凄く生意気な少年だった。 そんな少年の教育係になってしまったロレンス。 嫌々指導していたのだが、あることをきっかけにもの凄く懐かれてしまった。ロレンスの家で一緒に夕飯を食べるくらい仲良くなり、キーランのことを少し可愛いと思うようになっていた。そんなある日に、二人の間にある出来事が起こったのだった。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。 ※よろしくお願いします。

どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話

ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

処理中です...