6 / 7
第六話
その瞳の奥に居られたら
しおりを挟む
そして金曜日。
約束していた通り、俺と律と源太で飲みに行くことになり、先に夕方ごろアトリエで合流することになった。
「源太も行くだろ?」
「すぐにでも行きたいんですけど、今やってる作業、もう少し時間かかりそうなんで、すみませんが、梶井さん先に行っててもらってもいいですか?」
「ああ、わかった。じゃあまた後で」
「はい、終わったらすぐ向かいますね!」
「うん」
職場を出て、俺は先に律のアトリエに向かうことにした。
「祐馬、いらっしゃい。中入って」
「うん」
律の態度を見ると、この前のことが何もなかったかのように思えてしまう……。自分だけが律のことばかり考えているのだろうか。
「ここ座って」
俺は律に促された椅子に座ると、隣の椅子に律が座る。手にはiPadを持っている。
「先にアトリエに来てもらったのは、祐馬から頼まれてる仕事の進捗確認させてもらいたくて」
「うん」
律は手に持っていた、タブレットを俺に見せながら説明をする。
「今進捗としては、7割ぐらいなんだけど、このまま進めても大丈夫?」
「そうだな。イメージとすごく合ってると思う。ここの背景の部分の配色が特にいいと思う」
「よかった。そこの配色こだわったんだよね。気づいてくれて嬉しい」
律の声で俺は顔を見上げると、律と視線が混じる。瞳の奥にはお互いだけを映している。このまま律の瞳の奥に居られたらいいのに、そんなふうに思ってしまう。
「……祐馬?」
「ああ、ごめん」
俺は少し視線を逸らすと、律の顔に絵の具のような汚れがついていることに気づいた。
「ここ、汚れてる」
俺は自分の頬を指さして、それを律に伝える。
「ああ、さっきまで個展用のイラスト描いてたから絵の具ついたのかも」
律はそう言って、手で顔についた汚れを取ろうと頬を手で擦る。
「取れた?」
「いや、まだ」
俺はポケットからハンカチを出して、律の頬に手を伸ばすと、律は俺の手を受け入れるように目を閉じた。
「……このままだとキスできちゃうね」
律は、目を閉じながら唇の端だけを少し上げるようにいたずらっぽく笑っている。
律はただからかっただけだろうけど、律の言葉のせいか鼓動がうるさい。自分が自分じゃないみたいだ。
律の言葉一つ一つが俺の心を揺さぶる。こんな自分を律に知られたくはない。もう失望はしたくないからだ。
だから俺は、律に気づかれないように平然を装った。
「……俺達、友達なんだろ?もうそんなことしないから」
俺は、ハンカチで律の頬についている絵の具の汚れを拭き取った。
「ありがとう、とれた?」
「うん」
時計の音だけがする静かな空間の中で、その時、インターホンが鳴る。
タイミングが良かったのか悪かったのか……。
「もしかしたら、源太かも。後で来るって言ってたから……」
「そうなんだ。ちょっと見てくる」
そう言って、律は椅子から立ち上がり、入り口の方へ向かおうとする。
俺は、仕方ないと思いながらも、視線を手元に戻して、きゅっと唇を噛み締める。本当は律からのキスを期待していた自分が恥ずかしいからだ。
律はすぐに戻ってきて、俺が座っている椅子の近くにある、テーブルの引き出しを開けた。
「宅配便だったわ。印鑑忘れたから取りに来た」
「そっか」
「あと、これも忘れてた」
そう言って、律は俺の肩に手を置いて、頬にそっとキスをした。
それがあまりにも自然で、何が起きたのかすらわからないほどだった。
律は、戸惑っている俺を置いて、もう一度宅配便を取りに行くと、戻ってきた律の手には、小さめの段ボールを抱えていて、それをテーブルの上に置いた。
「さっきのって何?」
「え?荷物のこと?」
「話変えんなって。どうせ俺達ただの"友達"なんだろ?期待させることすんなよ」
「俺が祐馬のこと友達だって言ったこと覚えてたんだ」
「……別に覚えてないし、たまたま思い出しただけだから」
「そっか。じゃあさ、前に話あるって言ってたことなんだけど、今話してもいい?」
「いいけど、何?」
「祐馬に、友達だって言ったこと撤回させてほしい」
「なんで……?」
もう友達だったことすら、律は嫌だったのだろうか……。
こういう時に悪い方向に考えてしまうところが俺の悪い癖でもある。
俺は、息が苦しくなるほど、胸が締め付けられる……。
「だって、友達じゃなくて、俺の恋人になってほしいから」
予期していなかった律の言葉に、頭が追いつかない。
「……え?」
「今更かもしれないけど、あの時できなかったこと、してもいい?」
向かい合わせに座っている律との視線が交わり、瞳の奥に光が差して揺れている。俺は、その瞳に捉えられて動けない。
「急に言われても……」
「そうだよな。返事は、いつでもいいから」
「……わかった」
その時、ズボンのポケットに入れていた、スマホが鳴る。
「出た方がいいんじゃない?」
「……ごめん、ちょっと電話してくる」
俺は、アトリエを出て電話を受けると、その声は源太だった。
近くまで来ているとの連絡で、俺達はアトリエの前で源太と合流した。
約束していた通り、俺と律と源太で飲みに行くことになり、先に夕方ごろアトリエで合流することになった。
「源太も行くだろ?」
「すぐにでも行きたいんですけど、今やってる作業、もう少し時間かかりそうなんで、すみませんが、梶井さん先に行っててもらってもいいですか?」
「ああ、わかった。じゃあまた後で」
「はい、終わったらすぐ向かいますね!」
「うん」
職場を出て、俺は先に律のアトリエに向かうことにした。
「祐馬、いらっしゃい。中入って」
「うん」
律の態度を見ると、この前のことが何もなかったかのように思えてしまう……。自分だけが律のことばかり考えているのだろうか。
「ここ座って」
俺は律に促された椅子に座ると、隣の椅子に律が座る。手にはiPadを持っている。
「先にアトリエに来てもらったのは、祐馬から頼まれてる仕事の進捗確認させてもらいたくて」
「うん」
律は手に持っていた、タブレットを俺に見せながら説明をする。
「今進捗としては、7割ぐらいなんだけど、このまま進めても大丈夫?」
「そうだな。イメージとすごく合ってると思う。ここの背景の部分の配色が特にいいと思う」
「よかった。そこの配色こだわったんだよね。気づいてくれて嬉しい」
律の声で俺は顔を見上げると、律と視線が混じる。瞳の奥にはお互いだけを映している。このまま律の瞳の奥に居られたらいいのに、そんなふうに思ってしまう。
「……祐馬?」
「ああ、ごめん」
俺は少し視線を逸らすと、律の顔に絵の具のような汚れがついていることに気づいた。
「ここ、汚れてる」
俺は自分の頬を指さして、それを律に伝える。
「ああ、さっきまで個展用のイラスト描いてたから絵の具ついたのかも」
律はそう言って、手で顔についた汚れを取ろうと頬を手で擦る。
「取れた?」
「いや、まだ」
俺はポケットからハンカチを出して、律の頬に手を伸ばすと、律は俺の手を受け入れるように目を閉じた。
「……このままだとキスできちゃうね」
律は、目を閉じながら唇の端だけを少し上げるようにいたずらっぽく笑っている。
律はただからかっただけだろうけど、律の言葉のせいか鼓動がうるさい。自分が自分じゃないみたいだ。
律の言葉一つ一つが俺の心を揺さぶる。こんな自分を律に知られたくはない。もう失望はしたくないからだ。
だから俺は、律に気づかれないように平然を装った。
「……俺達、友達なんだろ?もうそんなことしないから」
俺は、ハンカチで律の頬についている絵の具の汚れを拭き取った。
「ありがとう、とれた?」
「うん」
時計の音だけがする静かな空間の中で、その時、インターホンが鳴る。
タイミングが良かったのか悪かったのか……。
「もしかしたら、源太かも。後で来るって言ってたから……」
「そうなんだ。ちょっと見てくる」
そう言って、律は椅子から立ち上がり、入り口の方へ向かおうとする。
俺は、仕方ないと思いながらも、視線を手元に戻して、きゅっと唇を噛み締める。本当は律からのキスを期待していた自分が恥ずかしいからだ。
律はすぐに戻ってきて、俺が座っている椅子の近くにある、テーブルの引き出しを開けた。
「宅配便だったわ。印鑑忘れたから取りに来た」
「そっか」
「あと、これも忘れてた」
そう言って、律は俺の肩に手を置いて、頬にそっとキスをした。
それがあまりにも自然で、何が起きたのかすらわからないほどだった。
律は、戸惑っている俺を置いて、もう一度宅配便を取りに行くと、戻ってきた律の手には、小さめの段ボールを抱えていて、それをテーブルの上に置いた。
「さっきのって何?」
「え?荷物のこと?」
「話変えんなって。どうせ俺達ただの"友達"なんだろ?期待させることすんなよ」
「俺が祐馬のこと友達だって言ったこと覚えてたんだ」
「……別に覚えてないし、たまたま思い出しただけだから」
「そっか。じゃあさ、前に話あるって言ってたことなんだけど、今話してもいい?」
「いいけど、何?」
「祐馬に、友達だって言ったこと撤回させてほしい」
「なんで……?」
もう友達だったことすら、律は嫌だったのだろうか……。
こういう時に悪い方向に考えてしまうところが俺の悪い癖でもある。
俺は、息が苦しくなるほど、胸が締め付けられる……。
「だって、友達じゃなくて、俺の恋人になってほしいから」
予期していなかった律の言葉に、頭が追いつかない。
「……え?」
「今更かもしれないけど、あの時できなかったこと、してもいい?」
向かい合わせに座っている律との視線が交わり、瞳の奥に光が差して揺れている。俺は、その瞳に捉えられて動けない。
「急に言われても……」
「そうだよな。返事は、いつでもいいから」
「……わかった」
その時、ズボンのポケットに入れていた、スマホが鳴る。
「出た方がいいんじゃない?」
「……ごめん、ちょっと電話してくる」
俺は、アトリエを出て電話を受けると、その声は源太だった。
近くまで来ているとの連絡で、俺達はアトリエの前で源太と合流した。
1
あなたにおすすめの小説
(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動
相沢蒼依
BL
名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。
一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。
青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。
《届かぬ調べに、心が響き合い》
https://estar.jp/novels/26414089
https://blove.jp/novel/265056/
https://www.neopage.com/book/32111833029792800
(ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
【完結】神童と呼ばれた後輩に懐かれた。それはいいんだけど、ちょっと懐きすぎじゃない!?
チョロケロ
BL
魔法省で働くロレンスの元に、新入社員がやってきた。その名はキーランと言う。十八歳で子供の頃は神童と呼ばれていた少年だ。
だが、幼い頃から周りにちやほやされていたらしく、もの凄く生意気な少年だった。
そんな少年の教育係になってしまったロレンス。
嫌々指導していたのだが、あることをきっかけにもの凄く懐かれてしまった。ロレンスの家で一緒に夕飯を食べるくらい仲良くなり、キーランのことを少し可愛いと思うようになっていた。そんなある日に、二人の間にある出来事が起こったのだった。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
※よろしくお願いします。
どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話
ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話
紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。
理想の彼氏はスパダリよ!
スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。
受:安田陽向
天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。
社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。
社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。
ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。
攻:長船政景
35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。
いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。
妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。
サブキャラ
長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。
抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。
兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。
高田寿也:28歳、美咲の彼氏。
そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。
義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる