ブルームーン-青、君に染まる-

藍沢ルイ

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第十二章

心酔

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ある夜、バーの扉が開く音がした。

「瑠夏ちゃん、久しぶり。いらっしゃい」

「うん、久しぶりだね、洋平さん」

扉を開けたのは、瑠夏だった。
あれ以降瑠夏はバーには来ていなかった。
洋平にカウンターに促され、洋平の前の席に腰掛けた。

「何か飲む?」

「うん、今日はカルーアミルクが飲みたいかも」

洋平は、軽快に手際よくシェイカーを振っていく。

「おまたせ」

「ありがと」

「ちなみに今日は蓮志休みだけど、どうかした?」

「バーに来る前、蓮志が星空くんと歩いてたの見たから、知ってるよ」

「ああ、そうなんだ」

「蓮志と星空ってあんなに仲良かったんだね、だから振られたのかも」

「どういうこと?」

「この前、蓮志に振られたんだよね。私じゃダメだったらしい。だからちょっと話し相手が欲しくて」

(そうか…知らなかったな)

「うん、俺でよかったら話聞くよ」

「ありがとう。でもやっぱり、蓮志って恋愛対象が男の人ってことだよね…それは私じゃ無理なわけだよね」

「でも、蓮志ってああ見えて人と関わるの得意じゃない方だし、その中でも瑠夏ちゃんとプライベートでも会ってたってことは、蓮志にとって大事な存在だったとは思うけどな」

「そう…かな…」

「うん」

瑠夏は、少し寂しそうな声で俯いてグラスを回す。
それを見た洋平は、思わず瑠夏の頭を撫でていた。

「え…?」

「ああ、ごめん。なんか思わず…。泣いてるのかと思って、でも勘違いだったわ」

洋平は慌てて手を下ろして、グラスを片付けようとして誤魔化すように背を向けた。

「もしかして、慰めてくれたの…?」

「え…ああ、まあ…」

「洋平さんも焦ることあるんだ、かわいい」

瑠夏の無邪気な笑顔を見て、少し心臓の音が速くなるのを感じた。

「かわいくないから。大人をからかうんじゃないよ~」

「ねぇねぇ、そういえば洋平さんって彼女いないの?」

少し前のめりになって、瑠夏は洋平に耳打ちをした。

「ああ~…今はいないけど、なんで?」

「じゃぁ私、彼女に立候補してもいい?」

「何言ってんの。そういうのは俺じゃないでしょ」

「え?なんで?」

「俺みたいな危ない大人と付き合わないほうがいいってこと」

「危ない大人は自分で危ない大人って言わないから~」

「てか、まだ学生だろ。年齢も離れてるし、学生とは付き合う趣味ないんだよね。残念ながら」

「そんなの私には関係ない、年齢よりもお互いの気持ちじゃない?私ももう結婚できる年齢だし、お互いの合意があったら私はそれで良いと思ってる」

「瑠夏ちゃんには、敵わないな…」

「だから、洋平さん私と付き合ってみない?」

「またまた~冗談でしょ」

「だって、これまでも蓮志と話してる時私のこと見てたの気づいてたよ?」

「それは…」

瑠夏が洋平の手をとり、自分の胸に当てる。

(鼓動が早くなってるのがわかる…)

「これで少しは本気ってことわかった?」

「わかったから、離して…」

「…?」

重ねてた手がそっと下ろされて、洋平は自分の手で顔を覆うようにした。

「いや、でもそれ本当は俺が言いたかったんだけど」

「え…どういうこと?」

「瑠夏ちゃんが、蓮志のこと好きなのわかってたから、何も言わなかったけど、本当は初めて見た時からずっと好きだった…。だから、付き合ってほしい…」

「うん!嬉しい…!こちらこそよろしくね」

「俺も嬉しすぎて、やばいな…」

洋平と瑠夏はお互い嬉しさを分かち合うように手を繋いだ。



次の日の夜、蓮志と星空はバーの前で待ち合わせをしていた。

「蓮志さん、おまたせしました」

「ああ、行こっか。家でも良い?」

(なんか蓮志さんと目が合わない気がする…疲れてるのかな、それか何かあったのかな…。)

「どうぞ、入って」

「ありがとうござ…」

星空は蓮志の家に入ったその瞬間、壁に押さえつけられて、身動きが取れなくなった。

「…っ?蓮志さん?」

「ねぇ星空くん、昨日女の子と歩いてたよね?」

いつもと違う蓮志の鋭い視線に星空は戸惑った。

「あれは…バイト先の先輩…んぁっ」

星空は、わずかに開いた唇の隙間を舌でこじ開けられ、いつもより激しいキスに惑いながらも、星空はそれに従ってしまう。

「星空くん、前に俺のこと好きって言ったよね?」

「あの…蓮志さん…怒ってますか?」

「ごめん、ちょっと嫉妬した…」

「蓮志さんって俺のこと、好きなんですか?」

その瞬間、首元に少し痛みが走った。
自分の証を残すようなキスをした。

「んんっ…」

星空を見ると、隠していた独占欲が溢れ出していく。

「星空くん、ずっと言いたかったんだけど、好きだよ。星空くんが誰かに取られるかもって思ったら耐えられなかった」

「嬉しい…。ずっとその言葉が聞きたかったです。俺も、蓮志さんのこと好きです。もう誰にも触れさせたくないです。蓮志さん、これからは俺のことだけ見てくれますか?」

「うん、わかった。もう他の人と関係を持たないようにするよ。だから星空くんも俺のことだけ見てほしい。これからすることも、星空くんにだけ覚えててほしい」

そして、深いキスを繰り返し星空の足の間に蓮志の足が入り込み、グリグリと押し込んで刺激されて星空は耐えられそうになかった。

「まって蓮志さん…それ以上されると…我慢できそうにない」

「いいよ、我慢しなくて」

「あの、でもこんなところでしたくないです…」

「じゃぁこっちきて」

「それと、シャワー浴びたいです…」

「ごめん、無理。余裕ないから」

星空は手を引かれながら、ベッドに着くと蓮志に上から覆いかぶさるように抱きしめられた。

何度もお互いの舌で熱を絡めとるような深いキスをして、お互いの服を脱がしながら、段々と肌があらわになっていくたびにキスが落とされる、首から足先まで。
どこにもキスをしていないところがないほどキスで埋め尽くされていく。

「はぁ…はぁ…蓮志さんっ…」

(やばい…勃ってきたかも…)

「もう硬くなってきたね」

「蓮志さんは?俺…一緒に触りたいです…」

「うん」

蓮志と星空はお互いの手で、下から先まで何度も擦り合わせるようにして、段々と熱を帯びていくのがわかった。

「んんっ…はぁ…はぁ…蓮志さん、俺もう…」

「もうちょっと我慢して」

星空が小さく頷くと蓮志さんが俺の上に跨った。

「緊張してる…?」

「俺、こういうの初めてで…」

「そっか、俺が初めてなんだ…。なんか嬉しいかも。星空くんは、俺に身を任せてくれたらいいから」

星空は小さく頷き、蓮志は優しく頭を撫でた。

そして、蓮志はゆっくり腰を下ろし、星空を受け入れていく。

「んあぁっ…蓮志さん…」

(やばい、変な声でた…)

「かわいい。星空くんの入ったね、中で大きくなってる…」

「…!そんなこと言われたら俺…」

「気持ちいい?」

「気持ち…いい…です。蓮志さんは痛くないですか?」

「うん、大丈夫だよ…」

「よかった。蓮志さんの中すごく暖かい…。蓮志さん、俺の形覚えててくださいね」

(何それ…やばい…)

「そんなこと言われたら、余裕なくなるだろ…」

「余裕ない蓮志さん見られて嬉しいな」

「誰のせいで…。星空、動かすけどいい?」

「大丈夫です…」

(蓮志さんが動くたび、中で吸い付く感覚があって、初めてなのにこんなに気持ちいいなんて…)

「んっ…はぁっ…蓮志さん…好きです」

「俺の方が好きだからっ…」

「それやばいです…動かしてもいいですか?」

「まって急に動いたら…それ奥当たるから…だめだって」

「ダメじゃないですよね…?だってこんなに俺の締め付けてるじゃないですか…」

「んんっ…それやばいかも…」

(本当に初めてなのか…)

何度も水音が響き渡る部屋に2人の甘い声も反響する。
蓮志さんの汗で濡れた髪がとても美しいと思った。

「あっ…ん…はぁっはぁ…俺、頭回んないっ…」

「うん、俺も…」

「んんっ…蓮志さん…ぅああっ」

「星空くん…はぁ…んんっ…」

その瞬間暖かい光に包まれ、このまま時が止まればいいのにと思うほどだった。

「蓮志さん…俺、今までで一番幸せかもしれません」

それを聞いて、蓮志は星空のことをぎゅっと強く抱きしめた。

「うん、幸せだね…。星空くんと出会わなかったら幸せだって感じられなかったかも」

蓮志の肩に何かが触れるのを感じて、抱きしめていた腕を少し離した。

「星空くん、泣いてる…?」

「だって幸せすぎて…」

「幸せすぎて泣いてるの?かわいい」

「かわいくないです…」

「そういう拗ねてる顔も好きだよ」

蓮志は、優しく星空の目尻に触れながら、キスをした。

「蓮志さん…?」

「一緒に寝よっか、おいで」

星空は小さく頷いた後、蓮志の腕の中に包まれるように抱きしめられた。
人のぬくもりってこんなに幸せなんだ。
そう思うと、蓮志の瞳から不意に涙が溢れた。
ずっと誰かに愛されたかったのだと思った。
腕の中で幸せそうに眠っている星空の頬を優しく触るとぎゅっと抱きしめ返された。



次の日、海里は凪のバイト先のカフェに来ていた。

「お兄さ~ん、アイスコーヒーください」

あの日以来、凪は何となく海里に会うことが少なくなっていた。だから、凪は海里が来たことに少し驚いた。

「海里、何してんの…」

「だって、会いたかったから」

「君嶋さんどうしました~?」

バックヤードから後輩が凪を呼ぶ声がした。

「ああ~…。アイスコーヒー1つお願いします。450円になります」

会計が終わると同時にアイスコーヒーが運ばれてくる。

「ありがとうございます。こちらアイスコーヒーです」

「ありがとう。バイト終わるの待ってるから」

「うん…わかった」

海里は近くのテーブル席に腰掛けると、近くに座っていると近くに座っていた女性2人組から声をかけられる。

「お兄さんめっちゃかっこいいね」

「1人なの?私達とこの後どこか行かない?」

「恋人待ってるから、ごめんね」

「そうなの?じゃぁそれまで一緒に話そうよ~」

「そうだよ。こんなかっこいいお兄さん1人で待たせるなんて。1人より私たちと話した方が楽しいよ」

「2人は優しいんだね。でもごめんね。話しかけてくれてありがとう」

話していると、スタッフルームから凪が出てくるのが見えた。

「凪、バイト終わった?一緒に帰ろ」

「ああ、ごめん。なんかタイミングよくなかった?」

「そんなことないよ。行こっか」

「ねぇお兄さんがさっき言ってた恋人ってこの人…?」

「それは私たちには敵わないね。でも、2人ともお似合いって感じかも」

「王道イケメンと個性派中性イケメンって感じ!」

「わかる!」

「それはどうもありがとう。じゃぁそろそろ行くね」

2人に手を振り、海里は凪の手を取って、カフェを後にした。

「帰るってどこに?こっち俺の家じゃないんだけど…」

「凪に最近会えなかったし、前に今度泊まりにおいでって行ったじゃん」

「うん」

(表情がいつもと違う。なんかあったのか…)

「とりあえず、お腹空いてない?なんか作るから俺の家来ない?凪と一緒に食べたい」

「うん、ありがとう」

海里の家に着くと、そっと抱きしめられた。

「海里…?」

少し見上げて不思議そうに凪は海里のことを見つめた。

「最近、凪に会えてなかったから充電したかった。なんかご飯作るから凪は座ってて」

「うん」

凪は、リビングのソファに腰掛けた。
心地のいい料理の音といい匂いでなんだか癒される。
でも、やっぱり気になってキッチンを覗き込む。

「何作ってるの?」

「カルボナーラだよ」

「嬉しい。楽しみだな」

「うん、もうちょっと待ってて」

海里が手際よく料理を進める姿に、少しきゅんとしたことは秘密。

「海里って料理得意なんだね」

「バイトでもレストランのキッチンやってるからね」

「そうだよね、でもすごいな~」

「今度家に来た時、一緒にご飯作って食べようよ」

「うん、それ楽しそう」

「じゃぁ約束で。話してたら料理できたわ。お待たせ」

テーブルにカルボナーラやサラダ、スープが運ばれてきた。

「美味しそう!」

「よかった、笑顔になってくれて」

「え?」

「ううん、何でもない。じゃぁ食べよ!」

「「いただきます」」

「おいしい!」

「よかった、いっぱい食べて」

「うん、やっぱり人の作ったご飯っていいな。特に海里の作ったご飯好きだな」

「そんなん、言ってくれたらいつでも作るよ」

「海里はやっぱり優しいね」

「そうかな、でも優しくしたいって思うのは凪に対してだけだよ」

「そう言われると嬉しいな」

「別にみんなに優しいわけじゃないからな~。俺も優しくしたい人は選ぶよ~。てか、凪なんかあった?無理には聞かないけど…」

「なんかあったというか…俺も海里に話せてなかったことがあって」

「うん?」

「この前のことなんだけど…」

「間違ってたらごめんなんだけど、この前のことって凪に触れようとしたことだったりする…?」

「うん…」

「あれは本当ごめん。1人で焦って凪のこと考えられてなかった」

「ううん、嫌だったわけじゃなくて、昔のことを思い出して怖かったからなんだ」

「その話俺聞いてもいい?」

「……うん。いつかは話そうと思ってたから。俺、中学の時に両親を事故で亡くして、高校の時から親戚の家に預けられるようになって、でもそこでの親戚の集まりで、いとこの男の子に体を触られたり、それ以上のこととかされて…それ以来、女で生きることをやめたんだ。だからこの前も怖くて、ごめん。でも、いまさら女って言われても気持ち悪いよな」

体を震わせて言葉に詰まる凪を、俺は見ていられなかった。
俺は凪のことを力いっぱいに抱きしめた。
これ以上悲しい思いをしないように。

「話してくれてありがとう。でも、気持ち悪いことなんかない。どんな凪でも俺は好きだっていうことは変わらない。それと話してくれたこと、辛かったよな…俺知らなくて、あんなことしてごめん」

「俺も海里のこと好きだし、海里に触れられたくないわけじゃなくて、まだ心の中で過去のことが引っかかってて…」

「うん。それだけ辛いことがあったんだから忘れられないのも無理ないよ。俺、凪にはもう辛い思いしてほしくない。誰かと付き合うって体の関係が必ず必要ってわけじゃないし、凪の気持ちを尊重したいと思ってる。だからゆっくり俺たちのペースでやっていこう」

「ありがとう。海里に話してよかった。引かれると思って怖かった…」

海里は抱きしめながら、俺の頭を優しく撫でた。不安とか怖さが解けていくように感じた。

「引いたりしないよ~。だってこんなに凪のこと好きなんだから。でも凪が勇気出して話してくれたから、凪のこと知れてよかったなって思う。てか、俺こそあんなことして避けられたらどうしようかと思った…」

「そんなわけないじゃん。もうこんなに好きなのに」

凪は、海里を強く抱きしめ返して、小さくキスをした。

「俺も大好き」

海里は、凪からの気持ちに応えるようにさっきよりも深いキスをする。

「なんか照れるね」

「凪の照れてる顔も好き」

「なんかそういうふうに言われたら恥ずかしい」

腕で顔を隠すようにすると、海里は顔を覗き込むような仕草をした。

「凪~?」

いつもより甘えたような海里の声に、凪は腕を下ろし海里の方を振り向いた。

「何…?」

「やっとこっち向いたね」

(凪の顔ちょっと赤い?)

それを見た海里は、いつもより少し強引に凪の顔を引き寄せるようにキスをした。

「んっ…海里…?」

その瞬間、少し隙間の空いた凪の唇に舌を這わせるようにして、舌を絡めとるようにキスをした。

(いつもと違う…)

戸惑いながらも、凪はそれを受け入れてしまう。
でも、過去のトラウマのような暴力的ではなく、すごく深い愛情に包まれるようだった。
海里の熱っぽくも優しい眼差しに愛されていることを思い知る。

「凪っ…」

「はぁ…はぁ…海里…」

「ごめん、止められなくて。息しづらかったよね?」

「大丈夫…」

そう言いつつも、凪の顔を見ると切なそうに今にもとろけそうな顔をしていた。

「やばい。今日も家に送り届けようと思ってたんだけど、帰せそうにないわ」

「え…?」

「そんな顔で外歩かせるの心配だから。泊まってもらっていい?」

「うん…」

「よかった。嬉しい。待って、じゃぁ、今日一日中凪のこと独り占めできるってこと…?」

「付き合った時から海里のものだけど?」

(やばいかわいい…)

「そういうこと言うの、本当に俺だけにしてね??」

「当たり前じゃん」

「凪、大好きだよ。離さないから」

「うん、俺も、海里のこと大好き。これからも一緒にいようね」





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