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真夏の夜の夢
真夏の夜の夢
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あの一件があって以来、後ろめたいのと申し訳ないのとで、陽子を避けようかとも思った。とは言うものの避け続けることができないし、陽子のことを蔑ろにするのもおかしい。実際に陽子から連絡がきた時には心臓が口から飛び出るほどドキッした。そして会うときは必要以上に陽子に優しくした。
「何か私したかなあ?」陽子も流石に違和感を感じたようで、会ってすぐにこう言ってきた。
「何かって?」
「裕二が私に腫物を触るみたいに接するから」
そう言われて、私はもう罪悪を感じた。もし美由紀が妊娠したら陽子はどう思うだろう? ショックを受けるのは目に見えている。陽子には本当に申し訳なく思った。
陽子とはその日、ランチを食べて別れた。陽子が午後の三時からバイトがある、と言った時には助かった、と思った。
陽子と別れたあと、直ぐに美由起に電話した。美由起は四コールで出た。
「おはよう、裕二」と美由起は言った。
おはようじゃねーよ、こっちはビクビクしてんだよ、と思った。
「おはようっつうか、もう午後だ。それよりあのあとどうした?」
「あのあとって?」
「だから、あのあと大丈夫だったか?」
「何がよ」
「身体は大丈夫なのかって訊いてんだよ」
「何よいきなり」
私は混乱してて少し粗暴な言い方をした。情けないが、これが過ちを犯して避妊せずに彼女を求めた私の本性だった。
「藪から棒に」と美由起は言った。
今思い返すと、陽子には何の非もなかった。当たり前のことだけど、出会った時から今まで、彼女はとても優しかった。私は陽子に嫌な思いをさせられた記憶が一度もない。彼女は私に居心地の良い場所を提供してくれていた。彼女の一つ一つには愛があった。私のことを大事にしてくれていた。気づかなかったけれど、とても温かい子であると今になって気づいた。陽子とのセックスレスなど思い返してみればどうでもよかった。そんなことより陽子はとても柔いところがあって、私を支えてくれていた。それを想うと居た堪れなかった。
「何、どうしたのよ?」私は2秒くらい沈黙していた。
「あ、悪いな。何か変な言い方したな」
「変な感じ」と美由起は言った。あまり話が噛みあっていなかったが、私は思い切って「もしさあ、妊娠してたらどうする?」と美由起に尋ねた。
「妊娠?」
「そう、妊娠」
「何、裕二がその子育ててくれるの?」美由起は終始冷めた感じだった。
「いや、だからこっちにも覚悟がいるから」と言うと今度は美由起が沈黙した。彼女は何を考えているのだろう? 冷静すぎて怖かった。
「まあ、その時はその時じゃない?」
「その時って、ある程度想定して考えておかないと、後で困るだろ」と私が言うと、美由起はまた沈黙した。
妊娠するのはいつでも女の方である。男は自分の手から離れたところで女が自分の子を宿すことに対して俯瞰して眺めているだけだ。状況により社会生活の全てが覆される。このようにうろたえている自分は実に情けないが、これが二十歳前後の自分の現実だった。後で考えてみれば随分自分勝手な思い込みで、美由起の身体の心配をするより自分の保身のことばかり考えていた。
「まあ、よくわからないけど、まだ妊娠してないよ」と長い沈黙のあとに美由起は言った。
「生理はきたの?」
「え、あれからまだきてないけど」
「それじゃあわかんねーな」
「もう切るよ。私もお買い物して晩御飯の支度しないといけないから」と美由起は言った。
「わかった。何かあれば電話してこいよ」と私が言うと「おやすみ、ダーリン」と言って美由起は電話を切った。
私は恐怖で手が震えていた。
「何か私したかなあ?」陽子も流石に違和感を感じたようで、会ってすぐにこう言ってきた。
「何かって?」
「裕二が私に腫物を触るみたいに接するから」
そう言われて、私はもう罪悪を感じた。もし美由紀が妊娠したら陽子はどう思うだろう? ショックを受けるのは目に見えている。陽子には本当に申し訳なく思った。
陽子とはその日、ランチを食べて別れた。陽子が午後の三時からバイトがある、と言った時には助かった、と思った。
陽子と別れたあと、直ぐに美由起に電話した。美由起は四コールで出た。
「おはよう、裕二」と美由起は言った。
おはようじゃねーよ、こっちはビクビクしてんだよ、と思った。
「おはようっつうか、もう午後だ。それよりあのあとどうした?」
「あのあとって?」
「だから、あのあと大丈夫だったか?」
「何がよ」
「身体は大丈夫なのかって訊いてんだよ」
「何よいきなり」
私は混乱してて少し粗暴な言い方をした。情けないが、これが過ちを犯して避妊せずに彼女を求めた私の本性だった。
「藪から棒に」と美由起は言った。
今思い返すと、陽子には何の非もなかった。当たり前のことだけど、出会った時から今まで、彼女はとても優しかった。私は陽子に嫌な思いをさせられた記憶が一度もない。彼女は私に居心地の良い場所を提供してくれていた。彼女の一つ一つには愛があった。私のことを大事にしてくれていた。気づかなかったけれど、とても温かい子であると今になって気づいた。陽子とのセックスレスなど思い返してみればどうでもよかった。そんなことより陽子はとても柔いところがあって、私を支えてくれていた。それを想うと居た堪れなかった。
「何、どうしたのよ?」私は2秒くらい沈黙していた。
「あ、悪いな。何か変な言い方したな」
「変な感じ」と美由起は言った。あまり話が噛みあっていなかったが、私は思い切って「もしさあ、妊娠してたらどうする?」と美由起に尋ねた。
「妊娠?」
「そう、妊娠」
「何、裕二がその子育ててくれるの?」美由起は終始冷めた感じだった。
「いや、だからこっちにも覚悟がいるから」と言うと今度は美由起が沈黙した。彼女は何を考えているのだろう? 冷静すぎて怖かった。
「まあ、その時はその時じゃない?」
「その時って、ある程度想定して考えておかないと、後で困るだろ」と私が言うと、美由起はまた沈黙した。
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「まあ、よくわからないけど、まだ妊娠してないよ」と長い沈黙のあとに美由起は言った。
「生理はきたの?」
「え、あれからまだきてないけど」
「それじゃあわかんねーな」
「もう切るよ。私もお買い物して晩御飯の支度しないといけないから」と美由起は言った。
「わかった。何かあれば電話してこいよ」と私が言うと「おやすみ、ダーリン」と言って美由起は電話を切った。
私は恐怖で手が震えていた。
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