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少年期
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しおりを挟むレーヴェは執事長に言って、革手袋を発注した。黒く光沢のある高級品は、欠けていたピースが埋まったかのようにレーヴェによく似合った。レーヴェの立ち絵に描かれていたから発注した、という面もあるが、それよりも大事な理由がある。
レーヴェは自分の、子どもらしい大きさの手を見た。しかし、子どもらしい肉付きはしていない。どこか骨張った手はボロボロで、切り傷や血豆、ペンだこが出来ていた。それを隠すために頼んだのだ。
元々レーヴェの身体は手と顔くらいしか露出していなかった。なぜならば日々の訓練という名の拷問によりボロボロだったからだ。
顔にケガがないのは、王族としての格に傷をつけるのは流石にまずいだろうと向こうが理解できているからだ。しかし、それ以外には容赦がない。
ズキズキと身体が痛まない箇所は無く、正に血の滲む努力を強いられてきた。
レーヴェは訓練の後、わずかな時間ではあるものの休息を取っていた。
「レーヴェ」
「兄上」
やってきたのは、黒髪に赤目、子供ながらに溢れる自信とカリスマ。これこそが第一王子のランベルトだ。レーヴェよりも一歳年上ということもあり、比べると体つきががっしりしている。顔はレーヴェと似ていないわけではないが、父親似なのでレーヴェとはまた違うタイプのイケメンだ。レーヴェが爽やかだとすると、ランベルトは熱いタイプだ。
向こう側から声をかけてきたランベルトは、息を切らして乗馬の格好をしていた。
(ランベルトの幼少期!それも乗馬服……ああ、レーヴェにも着せたい。ランベルトもいいけど、やはり推しのレーヴェが至高だ)
「これから馬に乗って遠乗りに出るんだ!お前もどうだ?」
「口惜しいですが、私にはやらなくてはならないことがありますゆえ、遠慮させていただきます」
「なんだまたか。今度また断ったら無理矢理にでも連れて行くからな」
「その時には喜んで」
微笑みながら兄を見送る。兄弟の仲は良いと言っていいのだろうか。レーヴェにはそれがわからなかった。
原作では、レーヴェとランベルトの関係は拗れに拗れていた。そのため、幼少期から仲が悪くて当然だと思っていたのだ。
そんなレーヴェの考えとは反対に、ランベルトはレーヴェのことをかわいい弟として扱ってくる。
はっきり言うと、距離感をはかりかねていた。
レーヴェが厳しい教育を受けている横で、ランベルトは楽しげに生活を謳歌している。ランベルトが放蕩しているわけではない。原作では、ランベルトは立派な王子として登場していた。
たが、あまりの扱いの差を実感してしまう。
ランベルトは気にしたことがないだろう。レーヴェがずっと授業と訓練通しのことなど。
ランベルトはランベルトの人生があり、レーヴェはその端っこにある。血のつながりがなければ完全に他人だ。
能天気なランベルトが、どこか憎らしい。
ただの8歳の少年に嫉妬するなどおかしいことは分かっていた。それでもこの気持ちを止められないのは、最早前世の人格とレーヴェが切り離せないからだろう。
『兄上は……兄上には分からないでしょう!惨めな私の、この狂いそうなほどの嫉妬など!』
原作でレーヴェがランベルトにぶつけた台詞を思い起こさせる。
その台詞を読んだ時、喪女はレーヴェが惨めだとは感じていなかった。しかし、今は違う。
(キャラクターとしてのランベルトは大好きだ。でも、レーヴェになってからは素直に喜べない。ランベルトが笑う度、私の胸の中がもやもやする)
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