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少年期
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レーヴェは『君たよ』の攻略対象の中でも上位の人気を誇っていた。『君たよ』の看板を背負う第一王子の兄ほどではないものの、相当な人気がある。
爽やかな紳士キャラで腹黒というだけでも十分に人気が出る要素だが、たまに見せる可愛らしい一面や、お茶目な手紙など、意外性の塊のような複雑な面を破綻せずキャラクターの魅力として昇華していた。
レーヴェは立っているだけでカッコいいのに言動もカッコいい。腹黒で敵対するような輩は容赦なく排除する。『君たよ』では、ゲーム主人公を手込めにしようと迫ってくる貴族のボンボンを舌戦で圧倒し、社会的にも追い込むことをさらりと笑顔でやってのけていた。
しかし辛い人生を歩んできたせいで他人から容姿以外を称賛されることに弱く、ちょっと褒めただけで動揺してしまう。
なのにゲームの主人公には自然に可愛いねって言えちゃうような人間なのだ。ほめ殺しのような甘いボイスの数々は脳裏に焼き付いている。
前世を常に支えて来たのは推しのレーヴェだった。
仕事で辛い時、悲しいことがあった時、いつも心を素敵な異世界に連れて行ってくれたのが推しであった。まさか本当に異世界に来るとは思いもしなかったが。
何が言いたいかといえば、彼女、いや彼は、レーヴェという存在さえいれば前世からも今世でも変わらず己を支えられるということだ。正に究極の自給自足。耐え難いほどの厳しい訓練だろうが乗り越えられる。
訓練で地に伏せ泥に塗れる推しに、授業で真剣な目をする推し。紛うことなきナルシストだが、第二王子の容姿は皆手放しで褒めていた。そもそも乙女ゲームの攻略対象の時点でイケメンに違いないし、絶世の美女だった王妃とそっくりなのだから、どう足掻いても他人に褒められる容姿な訳である。
やはり推しは魅力的だとレーヴェは自画自賛する。自他ともに認めるならナルシストではなく真実に過ぎないのだ。
ただ一点の曇りがあるとするならば、肝心の父親から愛されていないだけだ。
結局のところ、国王に息子としてではなく、愛する人を奪った忌まわしい子としてしか見られていなかった。
原作のレーヴェは兄よりも優れなくてならないというプレッシャーのもとに育った。ゲームの回想で語られる過去でその理由はすでに分かっていたし、レーヴェ自身も既に体験した出来事だった。
「ちちうえ」
レーヴェが5歳の頃、珍しく国王が姿を見せた。一瞥すると、口の端を歪める。
「お前は兄の代替品なのだから、せめて優秀であれ」
そういってすぐに去ってしまった国王の背中を、子供のレーヴェは素直に見送った。
幼いレーヴェは、この僅かな邂逅のせいで、優秀であれば父親がまっとうに扱ってくれると勘違いするようになってしまった。だから厳しい授業は父親からの愛と勘違いして、真摯に努力し続けていた。
(レーヴェ様は色々可哀想なんだよなぁ~。幼少期があまりにも悲惨だから、前世だろうがなんだろうが精神はむしろ健全になってる気がする)
レーヴェが生まれたことそのものを嫌う国王の真実を知ったレーヴェは、努力家で真面目な性格から一転、闇を抱えるようになってしまう。
原作ではレーヴェと仲を深めるたびに、抱えた闇に触れることになる。
(そうだ。これからレーヴェ様らしくやるなら、腹黒キャラとしても動かなきゃならない)
前世の喪女は善良な一般市民であり、腹黒いことをやったことなどなかった。
(どうやったらよからぬことを企めるんだろう。小さなことから積み上げていかないと、いざというときレーヴェ様らしく動けないかもしれない)
レーヴェは考え事をしながらも指を動かしてピアノを弾く。もちろんのこと、抜かりはない。
「レーヴェ様はピアノがとってもお上手ですね。私も鼻が高いですわ」
「先生の指導のおかげです(なんせ前世でやってたからね!って言っても子供の頃だけど。前世の親に感謝しても仕切れないわ。まぁその結果が今なんだけど)。」
レーヴェは推しならばできて当然という涼しい顔で弾き続けた。
授業が好きなわけではないが、自分がレーヴェであるならばいつだって気合を入れて全力で取り組まねばならない。
そして、努力の結果なし得たことを誇ることもせず、むしろ当たり前だという態度を取るのだ。だって推しなのだから。
もしレーヴェなら難なくやれたはずのことが前世のせいで躓いてしまったのなら、それは明らかな解釈違いになるのだ。案外いつだってハラハラドキドキの綱渡りだった。
そして腹黒の訓練も推しを貫く以上必要不可欠だった。
「ねえ、昨日の昼にさ、給仕室でメイドと何やってたの?」
「レーヴェ王子っ、そっ、それは、もちろん……」
「誤魔化しても全部知ってるんだ。それに一昨日の……ああ、先週もだっけ?君すごいよ!逸材だ!」
「な、なぜそこまでご存知で」
「別に君をいじめたい訳じゃないんだ。ただちょっとだけ欲しいものがあってさ。君ならすぐ用意できるやつだよ。べつに何てことないはずさ」
伊達に前世会社でお局になりかけていない。複数人のメイドと浮気してると思わしき執事長に言うことを聞かせるのは難しくなかった。
今の自分はレーヴェなのだから、冷遇されていながらも城のものに舐められるようなことはさせたくはなかったための行動だった。
執事長がレーヴェを敬えば、自然と執事やメイドたちは地位に相応しい扱いをしてくれる。
一つレーヴェが勘違いをしているとすれば、皆が執事長を見て態度を直していると思っていることだろうか。普段の真面目で努力家な王子の姿を見ていれば、敬う者は自然と出るものだった。
爽やかな紳士キャラで腹黒というだけでも十分に人気が出る要素だが、たまに見せる可愛らしい一面や、お茶目な手紙など、意外性の塊のような複雑な面を破綻せずキャラクターの魅力として昇華していた。
レーヴェは立っているだけでカッコいいのに言動もカッコいい。腹黒で敵対するような輩は容赦なく排除する。『君たよ』では、ゲーム主人公を手込めにしようと迫ってくる貴族のボンボンを舌戦で圧倒し、社会的にも追い込むことをさらりと笑顔でやってのけていた。
しかし辛い人生を歩んできたせいで他人から容姿以外を称賛されることに弱く、ちょっと褒めただけで動揺してしまう。
なのにゲームの主人公には自然に可愛いねって言えちゃうような人間なのだ。ほめ殺しのような甘いボイスの数々は脳裏に焼き付いている。
前世を常に支えて来たのは推しのレーヴェだった。
仕事で辛い時、悲しいことがあった時、いつも心を素敵な異世界に連れて行ってくれたのが推しであった。まさか本当に異世界に来るとは思いもしなかったが。
何が言いたいかといえば、彼女、いや彼は、レーヴェという存在さえいれば前世からも今世でも変わらず己を支えられるということだ。正に究極の自給自足。耐え難いほどの厳しい訓練だろうが乗り越えられる。
訓練で地に伏せ泥に塗れる推しに、授業で真剣な目をする推し。紛うことなきナルシストだが、第二王子の容姿は皆手放しで褒めていた。そもそも乙女ゲームの攻略対象の時点でイケメンに違いないし、絶世の美女だった王妃とそっくりなのだから、どう足掻いても他人に褒められる容姿な訳である。
やはり推しは魅力的だとレーヴェは自画自賛する。自他ともに認めるならナルシストではなく真実に過ぎないのだ。
ただ一点の曇りがあるとするならば、肝心の父親から愛されていないだけだ。
結局のところ、国王に息子としてではなく、愛する人を奪った忌まわしい子としてしか見られていなかった。
原作のレーヴェは兄よりも優れなくてならないというプレッシャーのもとに育った。ゲームの回想で語られる過去でその理由はすでに分かっていたし、レーヴェ自身も既に体験した出来事だった。
「ちちうえ」
レーヴェが5歳の頃、珍しく国王が姿を見せた。一瞥すると、口の端を歪める。
「お前は兄の代替品なのだから、せめて優秀であれ」
そういってすぐに去ってしまった国王の背中を、子供のレーヴェは素直に見送った。
幼いレーヴェは、この僅かな邂逅のせいで、優秀であれば父親がまっとうに扱ってくれると勘違いするようになってしまった。だから厳しい授業は父親からの愛と勘違いして、真摯に努力し続けていた。
(レーヴェ様は色々可哀想なんだよなぁ~。幼少期があまりにも悲惨だから、前世だろうがなんだろうが精神はむしろ健全になってる気がする)
レーヴェが生まれたことそのものを嫌う国王の真実を知ったレーヴェは、努力家で真面目な性格から一転、闇を抱えるようになってしまう。
原作ではレーヴェと仲を深めるたびに、抱えた闇に触れることになる。
(そうだ。これからレーヴェ様らしくやるなら、腹黒キャラとしても動かなきゃならない)
前世の喪女は善良な一般市民であり、腹黒いことをやったことなどなかった。
(どうやったらよからぬことを企めるんだろう。小さなことから積み上げていかないと、いざというときレーヴェ様らしく動けないかもしれない)
レーヴェは考え事をしながらも指を動かしてピアノを弾く。もちろんのこと、抜かりはない。
「レーヴェ様はピアノがとってもお上手ですね。私も鼻が高いですわ」
「先生の指導のおかげです(なんせ前世でやってたからね!って言っても子供の頃だけど。前世の親に感謝しても仕切れないわ。まぁその結果が今なんだけど)。」
レーヴェは推しならばできて当然という涼しい顔で弾き続けた。
授業が好きなわけではないが、自分がレーヴェであるならばいつだって気合を入れて全力で取り組まねばならない。
そして、努力の結果なし得たことを誇ることもせず、むしろ当たり前だという態度を取るのだ。だって推しなのだから。
もしレーヴェなら難なくやれたはずのことが前世のせいで躓いてしまったのなら、それは明らかな解釈違いになるのだ。案外いつだってハラハラドキドキの綱渡りだった。
そして腹黒の訓練も推しを貫く以上必要不可欠だった。
「ねえ、昨日の昼にさ、給仕室でメイドと何やってたの?」
「レーヴェ王子っ、そっ、それは、もちろん……」
「誤魔化しても全部知ってるんだ。それに一昨日の……ああ、先週もだっけ?君すごいよ!逸材だ!」
「な、なぜそこまでご存知で」
「別に君をいじめたい訳じゃないんだ。ただちょっとだけ欲しいものがあってさ。君ならすぐ用意できるやつだよ。べつに何てことないはずさ」
伊達に前世会社でお局になりかけていない。複数人のメイドと浮気してると思わしき執事長に言うことを聞かせるのは難しくなかった。
今の自分はレーヴェなのだから、冷遇されていながらも城のものに舐められるようなことはさせたくはなかったための行動だった。
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