最推しの乙女ゲー攻略対象に転生したら腹黒系人誑かしになり国を掌握した

景義

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ゲーム本編

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サロンとは、学園に代々続く集まりのことである。メンバーはいずれも次代の国を背負うような人間たちに限られる。サロンこそが、乙女ゲームの中心になる場所だ。

 ひょんなことから――というか、偶然出会ったヒロインを「おもしれ―女」と感じたランベルトが、その権力を思いのままに振るいヒロインを平民からの視点として加入させたことが物語の始まりになる。レーヴェがフェニクスと吞気に話していたあの時刻にでも、きっとそのイベントが起きていたに違いないだろう。

(さて、サロンはどうなっていることやら)

 平民がサロンに入ったとの話題はたちまちに学園中に駆け巡った。これから過ごすことになる豪華な一室でくつろぎながら、レーヴェは報告を受ける。

「レーヴェ、どうします?噂に乗じてなにか仕掛けましょうか」

 やけに低い声は、この数年ですっかり声変わりしたハンスのものだ。本来ならば死んでいたハンスの、聞けなかった声。感慨深いものがある。

「ん、今はいい。……というか、俺の前で訛りを直さなくていい。なんだか変な気分だ」

「そうか?そん方が気楽やけん嬉しか」

「どうやらハンスは学園での初動、上手くいったようだな」

「こげなんな仕込みが大事やけん」

 ハンスは今日に備えての苦労を語る。毎回学園に入学することが多い商人ギルドの子息と接触するために貿易商の下で働き、城下町中の有望な子供と接触した。繋がりのある貴族と違い入学式の平民は誰もが不安だ。そこに、以前からの知り合いがいたとする。それも多くの商人の子息と知り合いで、顔が広い。緩くハンスを中心とした平民の一派ができるのは一瞬だった。

「にしたっちゃほんなこつ良かとか?今なら幾らでも兄貴ん悪口ば広めらるー」

「ハンスはただ私の判断を信じていればいい」
 
 基本的にレーヴェは乙女ゲーム『君たよ』の流れを変えるつもりがない。作品のファンということが最大の原因だが、それ以上に本編の流れを変えたくない。

「そうだ、その生徒に関して出来るだけ情報を集めてくれ」

「わかった」

 最初こそランベルトは無理に平民を入れたことを批判されるだろう。しかしヒロインはストーリーを進めるうちに成果を上げて、周囲からの評判も良くなる。その時に批判されるのは困るのだ。

「俺はレーヴェに従うだけやけんな」

 レーヴェは満足そうに微笑み、密談は終わった。



「レーヴェ、よく来たな」

 入学式の翌日、サロンにやってきたレーヴェを安堵した様子で出迎えたランベルト。レーヴェはランベルトのイケボを聞き流しつつ、サロンに入った。

 これまで国を主導してきた者たちが通い詰めたであろう一室は、ベルベットのカーテン一つとっても歴史を感じさせた。

(うわあああ!サロン!本物のサロンだ!ゲームの背景と変わらない……いや、それ以上に凄い!ああああ、カメラ欲しいなぁ!ゲームと変わらない角度で撮ってみたい……ほんと、小物に至るまでゲームで見た記憶があって感動しちゃうな)

「みんな!弟のレーヴェだ。これからよろしく頼む」

 レーヴェがやってきたのが最後だったので、サロンメンバーの全員という錚々たる面々が一斉にレーヴェを見た。そう、攻略対象たちだ。エリーザベトは立場上素知らぬ顔で紅茶を嗜んでいた。

(あっぶね。視界全面イケメンばかりで気絶しそうになった。よかった、世界一美しいレーヴェフェイスで眼を慣らしておいて)

 トイテンベルクの第一王子、ランベルト。隣国の第一王子、フェニクス。ランベルトの婚約者のエリーザベト。その他に、これまで会ったことのない宰相の息子、ジルヴェスターや、大商人の一人息子のヴィリー。

 そして、1人だけ異質な平民の女。名前はデフォルトネーム通りならばナタリーだったはずだ。

「貴方が噂の方ですか。私はレーヴェ。レーヴェ・フリードリヒ・フォン・イェージ=ハウプトマンと申します。この国の第二……おっと、兄上をご存知ですので、これ以上の言葉は不要ですね」

 レーヴェは笑顔を浮かべ、ゲーム本編と一字一句変わらぬ挨拶を言う。

「よろしくお願いします、レーヴェ様。わたしはナタリーと言います。えっと、平民です」

(へぇ、間違いなく正解を選ぶのか……。普通は王子ってつけて呼ばないと不敬になるけど、レーヴェの場合は王子って立場自体がコンプレックスのひとつなんだよね。だから好感度が上がるのはこっち)

「ええ、よろしくお願いします。ナタリー嬢」

 レーヴェは微笑んで手を差し出し、ヒロイン——もといナタリーと握手をした。
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